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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第二巻 『1クール』
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第4話(11) 『仲良し大作戦!』

 傷付きたくなかった。

 自分が蔑ろにされている気分になるのが嫌だった。

 プライドがズタズタに引き裂かれてる気分だった。


 子供に気を遣われていると感じるのも嫌だった。

 頼れる兄代わりだったはずなのに、しょうがないような顔で見られるのが嫌だった。


 守ろうって思わせてくれた少女に、守られているような情けない自分を見るのが堪らなく屈辱だった。


 だから逃げた。

 子供一人に謝れもしない、無様でカッコ悪い自分を見るのが嫌だったから。


 でも、今またこうして正面から向き合わなければならない時が来ている。


「……っ」


 本来なら、ここで「ただいま」と大きな声で言うべきだ。

 偶に面倒くさいからという理由で入口前で子供たちと遊ぶことを俺が強要することはあるが、信者たちにあまり遊んでいる姿を見せないよう気を遣って、子供たちは裏庭側でよく遊ぶ。


 だからセリシアの許可が無いと入れない結界の兼ね合いもあって、俺が帰ってきたことに気付かないことが多い。

 それもあって同じく結界を通り抜けられるセリシアは透き通る声で「ただいま」と言うし、それを子供たちも真似してこの教会では習慣となっていた。


 だから、教会の人間なら言うべきだ。

 否、言わなければならない。


「大丈夫やで」


「――っ!」


 それでも挫けそうだった俺の耳に、優しい音色の声が届いた。

 グッと、唾を呑み込む。

 肺が膨張するかの如く空気を吸い上げ、俺は一気に口を開けた。


「た、ただいま!」


 きっと顔が真っ赤になってる。

 天界ではこんなこと考えられない。


 エウスはいつも俺のためにと言って頑張ってくれて、幼馴染みたちも喧嘩こそしても次の日にはいつも通り。

 16歳にもなって今更人間関係で一喜一憂する羽目になるとは思わなかった。


 ――芝生を駆ける音が聞こえる。

 やはり裏庭に何人か、はたまた全員いたらしい。


 身体が引きそうになる。

 逃げ出したくなる。

 また、否定されそうで心臓が小刻みに脈打った。


「――っ! メビウス君っ!」


 教会の裏から出てきたのはセリシアだった。

 歓喜と不安が入り混じったような表情をしながらこちらへ彼女なりの全力で近付いてくる。


 まるで家出から帰ってきた子供の気分だ。

 いたたまれない気持ちになっていた。


「お帰りなさい! 何も言わずに出て行ってしまったのでびっくりしました!」


「……ごめん」


 セリシアは安心したような笑顔を見せてくれる。

 でもやっぱりその顔は何処か歪で、口に出さないように誤魔化しているように見えた。


 きっとバレてる。

 俺が居づらいと思ってることが。


 それがわかっていても、俺は取り繕い続けるしかない。


「実は今テーラも来てるんだ。教会に入れてあげてくれないか?」


「テーラさんも? ……! テーラさん、おはようございます! すみません気が付かなくて……!」


「ん、おはよう聖女様。すまんなぁ自分のこと借りてしまって」


「あ、テーラさんと一緒だったんですね! 森の方に行ったのかと思っていました!」


 おい、なんか教会での家出先は森みたいになってないか?

 子供たちにその流れが来て森の中に逃げられたら非常に困るんだが。


 そう思いつつも、セリシアはテーラを視界に収めると慌てて結界を解除して教会内へ招き入れる。

 テーラも何処か緊張しているのか固い笑みを浮かべていた。


「聖神騎士団の方に護衛を依頼しようか迷っていましたけど、早とちりしなくてよかったですっ」


「……うん、ごめん」


 昨日セリシアと森に出掛けたばかりだ。

 その思い出をこんなことに塗り潰されなくて本当に良かった。

 それにこんなのでセリシアに迷惑をかけたらそれこそ信者たちに殺されてしまうだろう。


「それで、テーラさんは礼拝をしにここへ? そうでしたらすぐに準備しますよ」


「あ、いや! 教会に用があるわけじゃないねん」


「……? では、私に用事でしょうか?」


「えーっとなぁ。あのー……っ! っ!」


「うぐっ」


 さすがのテーラも俺と会って泊まるという話になったことは言いづらいらしい。

 腕を背に隠しつつ、俺の脇腹をつつき急かしてきた。


 どうやら俺から言えということらしい。


 セリシアも首を傾げながらテーラの言葉を待っていた。

 これは俺から言うしかないだろう。


「実は……テーラもしばらく教会に泊まらせてやってほしいんだ」


「……? 何故ですか?」


「「えっ」」


 ……何故ですか、だと!?

 理由が必要だということに驚きだ。

 一度は泊まらせた仲じゃないか。


 いや、冷静に考えてみれば理由もなく「今日泊まるわ~」は教会に限らずどこの家庭でも「なんで?」ってなるか。


 単純に理由が知りたいだけだろう。

 しかもここは一般家庭なんかではなく神聖な教会だ。

 ルナですら俺との件が無ければ昨日泊まらせようとはしなかっただろうし、子供たちもいるので案外そういったことには厳しいのかもしれない。


 しかしどうしようか。

 てっきり快諾してくれると思っていたから理由などすぐには思いつかないぞ。


 テーラは『仲良し大作戦』における軍師ポジションだと言っても、私では力不足でしたかとセリシアに思われてしまう可能性も否定できまい。


 う~ん……理由理由……あっ。


「じ、実はテーラの住んでる家の扉の金具が砕けちゃってさ。閉まらなくなっちゃったんだと。熱狂な信者が多いとはいえ女の子がそのまま過ごすっていうのは危ないだろ? だからせっかくだし善行の一つでもしようと思ってさ! あはは……」


「自分が壊したくせに……」


「……うるせぇ」


 黙らっしゃい。

 そんなこと馬鹿正直に言ったらセリシアのことだから弁償するとか言い始めちゃうだろうが。


 衣食住まで完備してもらってるのに俺の馬鹿な行いによる補填までされたら本当に頭が上がらなくなってしまう。

 もう既にあんま上げられてないけど。


 だが、これで正当な理由になっただろうか?

 別にやましいことなどないのにセリシアに視線を合わせづらい。


「素晴らしい心がけですっ!!」


 だがそんな思いとは裏腹にセリシアは感激したように詰め寄って来た。


「そういうことでしたら私も協力します! 扉の修繕費用の方も任せて下さい!」


「えっ!? いやそこまでしてもらうわけにはいかんよ!」


「そうだぞセリシア! こんな奴のために使う金などない!」


「自分が言うなや!」


「いてっ」


 思わず口走ってテーラに肩を軽く叩かれる。

 だがまさか他人にすら資金を明け渡すとは思わなかったのだ。

 恐らく神嫌いと公言している俺がそんなことをしたというのが聖女であるセリシアにとって非常に嬉しいことだったのだろう。


 弁償させないようにするために嘘を付いたのにこれでは全く意味がなくなってしまう。


「ホンマに大丈夫やから! 最悪自分に手伝わせるから聖女様は気にせんでええで!?」


「そう、ですか? でもせっかくメビウス君が……」


「い、いやー俺最近誰かのために働くことに生き甲斐を持っててさ! それもその一環って奴だよ! なんら珍しくもないって! むしろそこまでしてもらっちゃったら俺の立つ瀬がないだろ?」


「……! そうですね。何でも手伝うのはよくないです」


 ホッと二人で安堵の息を吐く。

 どうもセリシアの中で俺が庇護対象になっている気がする。


 セリシアの前でだけはあまり頼りない所を見せないようにしてきたつもりだが、やっぱりだらだらとした態度が尾を引いているのだろうか。


「でしたらテーラさんも泊まって行って下さい。ルナちゃんっていう私のお友達も泊まりに来ているので、もしかしたら過ごしにくくなってしまうかもしれないのですが……」


「自分もおるから大丈夫や。それにうちはそもそも初対面の人とマトモに話せる自信はない!」


「そ、そうなんですか?」


 自信満々に何を言ってるんだコイツは。

 セリシアが困惑してしまっている。

 それに俺の時は特に何もなく話せていたような気が……いや、そういや開幕殺されそうになったんだったわ。


 とにかくセリシアにも許可を貰い、何とかテーラは教会の敷地内に入ることに成功した。

 今は第一関門を突破しただけで仲良し大作戦はまだ決行すらしていない。


 けれどここからは違う。

 明確にルナと接触し、交友を深める必要がある。


「私はお昼ご飯の準備をしていますから、ゆっくり寛いでいて下さい。……子供たちもメビウス君が突然いなくなってしまって心配してましたから、顔を見せてあげて下さいね」


「……っ。ああ」


 セリシアも願っている。

 一歩引いた場所で見守っていてくれている。


 ……よし。

 やるか。


「行こうテーラ」


「ん」


 芝生を踏み締め裏庭へと回る。

 俺の帰宅の声に反応したのはセリシアだけで、いつも笑顔で出迎えてくれる子供たちの姿はない。


 嫌われたんじゃないかって不安になる。

 でも、もう自分だけのために逃げられないから。


 純白の上着をぎゅっと握って勇気を振り絞り前を見て、遮る教会の壁を越えた。

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