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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第二巻 『1クール』
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第4話(1) 『守れた日常を過ごして』

 セリシアにサプライズプレゼントを貰った俺だったが、結局その服は部屋に大切に飾り一切日の目を浴びることはなかった。


 ……いや、着れるわけないだろ。

 ていうか汚せるわけがない。


 この世界に来て初めて貰ったプレゼントなんだ。

 ここにいてもいいと思える証拠であり、それが汚れでもしたら発狂してしまう自信がある。


 だからしばらくの間着ることなくいつも通りの日々を過ごしていたわけだが、ある日セリシアに悲しそうな顔をされ、同時に子供たちに強襲されることとなった。


 曰く、本当はいらないと思っていたんじゃないかとかなんとか。


 さすがにそんな勘違いをされては困る。

 だから事情を説明すると、大切にしていたことを知り何とか笑顔を取り戻すことが出来た。

 だが着て欲しいと、そう言われてしまった以上着ないわけにはいかず……


 色々考えた末この服を量産してしまえば良いという結論に至り、俺は10着に及ぶ複製を手に入れ、現在は嬉々として着用している。


 そんなことがありつつも、セリシア教会はいつも通り平穏な日々を過ごしていた。


「はあ、はあっ」


「どうした。まさかもうへばったとか言わないよな」


「い、言いません……!」


「じゃああと5周。行ってこい!」


「……はいっ!」


 平穏と言っても、教会の庭は活気に満ちていた。

 俺がメイトに剣術諸々の稽古をしているのが一番の原因だろう。

 現在、メイトは必死に肩で息をしながらも気を取り直してもう一度教会内を走り出した。


 メイトは言っていた。

 剣術を教えてくれないかと。


 しかし戦闘において重要となるのは決して技術だけではない。

 体力、筋力。

 それら諸々があって初めて土俵に立つのではなく、土俵を作る段階にまで進めるのだ。


 メイトは、やはり毎日継続して素振りをしていたことでブレは確かに少ないように見える。

 しかし足腰や体幹が強くなかった。

 あれでは打ち合った際にすぐに弾き飛ばされるし、何より年齢的にも力でゴリ押すより小回りを重視した方がいいはずだ。


 となると少なくとも持久力は必須。

 そのため現在は剣術よりも体力作りを中心に行っていた。


 最初はそのプランに文句を垂れていたメイトだったが、一度正面から模擬戦をして叩き潰しつつ問題のある箇所を指摘し続けるとそれからは素直に俺の発言を受け入れてくれた。


 ……まあその弊害としてメイトの敬語が固定化されてしまったんだが、それは置いておこう。


 兎にも角にも、あれだけ啖呵を切ったものの現状では俺が必要な場面はほとんどない。

 精々発破をかけてやる気を出させるぐらいだが、何だかんだメイトは俺にはない継続力をきちんと持っている。


 面倒くさいとすら思わないだろう。

 当時の俺は学校の授業とかサボる方法ばかり考えていたクソガキだったから何だか恥ずかしくなってくるな。


 俺が必要となる機会はもうしばらく先か。

 弟子が頑張ってる最中に別のことをするのは誠意に欠けるのであまりやりたくないのだが、俺としても時間は有効活用したいところだ。


 ……よし、寝るか!


 最近俺も頑張ってるし、毎日のルーティンである12時間睡眠もここ最近達成出来ていなくて困っていたところだ。


 時間は有効活用しなければならない。

 俺は12時間起きたら12時間寝る男。


「メビウスく~ん!」


 というわけでいっちょお昼寝タイムに洒落込もうとした時、教会の入口から出て来て駆け寄ってくる純白色の服を着た女の子がいた。


 三番街の聖女、セリシアである。


「お疲れ様です。メイト君の分もありますので、これ良かったら食べて下さい。お茶もありますよ」


 そう言ってセリシアが見せてくれたのは皿に盛られたクッキーだった。

 子供たちの世話をしているからか相変わらず家事力が高い。

 というかこの世界の重要人物の一人だというのに庶民的だ。


 が、俺としても貰える物は貰うことを信条にしているため有難く頂いておく。


「さんきゅ、セリシア。メイト! 一旦休憩にしよう!」


「……っ。わ、わかりました!」


 遠くで走っているメイトに向け声を飛ばす。

 俺の声に気付いたメイトはそこで足を止めてよろよろと歩くのはなくそのまま走って来るのだから、その真面目さには脱帽だ。

 少しぐらい気を緩めるのは悪いことではないと思うのだが、それを俺が口にしてメイトにやらせるのはよろしくないので口を瞑んでおく。


 セリシアの持ってきたタオルで汗を拭きながら、メイトは俺たちと同じように木の下に腰を下ろした。

 クッキーをついばみお茶で乾く口を潤しつつ、軽い世間話に花を咲かせる。


「森の中を見てみたい?」


「はいっ」


 その世間話の流れで、セリシアからそんなことを言われた。


「森の中っていうと、多分三番街の森の話だよな?」


「はい、そうです」


「どうして急に」


 俺やメイトは森の中に入ったことがあるが、別に特段珍しいものがあるという場所でもない。

 むしろ足場は悪いわ迷いやすいわで散々な記憶しかないのだが、一体何を見たいと言うのだろうか。


「三番街の聖女として暮らしていますが、実の所私は教会と街だけの、狭い世界でしか生きていないことに気付いたんです。メイト君が出て行ってしまった時も、私は街の何処かにいると思っていました」


「うっ!」


「ああっ! もちろん責めているわけではないんですよ!? ……でも、きっと私だけでは見つけられませんでした」


「……なるほどな」


 そういうことなら確かにそんな未来もあったかも知れない。

 俺だってテーラがいなければ今頃メイトは熊によって大変なことになっていたはずだ。


 ていうかそんなことを言ったらメイトを助けられたのも大熊を雷魔法で倒すことが出来たのも教会でメイトを助けられたのも全部テーラのおかげなんだよな……


 そうなると俺もいらなかった説まである。

 ただの自称だと思ってたけど、マジで天才魔法使いなのかもしれん。


「森の中にあると言っていた魔導具も、見つけられなかったと思います。そうしたら今頃、こんな毎日を送ることも出来ませんでした」


 うーん、それもテーラのおかげだな。

 さすがテーラ様。

 一生ついて行きます。


「三番街の聖女として、もうそんなことにはなりたくないんです。だから……」


「まさか一人で行くつもりなのか?」


「い、いえその……」


 さすがに一人で行くのであれば止めなければならない。

 【聖神の奇跡】があるとはいえ、彼女の体力では何処で疲れ果ててしまうかわからないし、きっと帰り道が把握出来なくなってしまうだろう。


 であれば聖神騎士団と一緒に向かうのだろうか? 喜んで協力してくれるだろうが、それこそテーラに頼んだ方が確実だと思うのだが。

 そう思っていた俺だったが、小さく俯いてしまったセリシアが縋るようにこちらに目を向けているのに気付く。


 ……あ、そういうことか。

 気にせず言ってくれればいいのに。


「あいわかった。なら俺がついてってやるよ。君一人じゃ何が起きるかわからないしな」


「ほ、ほんとですか?」


「ああ」


 白々しい話だが、やっぱりまだセリシアは俺に対して頼るという行動をしにくいようだ。

 俺としては全然むしろバッチ来いって感じなのだが……まあいい。


「ありがとうございますっ!」


 ……そんな笑顔を向けてくれるのなら、全然頼ってくれていいのに。


「メイトも行くか?」


「いや、ボクが行っても足手まといになるだけですから今回は遠慮しておきます」


「そっか」


 足手まといとは決して言わないが、メイトがそういうのなら無理にとは言わない。

 メイトはメイトなりに思うことがあるのだろう。


「じゃあいつ行くんだ? あんまり遅くなるのはちとキツいけど」


「出来れば早めにお願いしたいのですが、稽古が終わってからで構いませんよ」


「ボクのことは大丈夫ですよ。一人でも出来ますから!」


 お互いにお互いを気遣っているようだが、今回に限ってはメイトの主張を有難く受け入れてしまおう。

 どうせ俺がいなくても現状は回る。

 メイトがサボるとは到底思えないし、ここはもう出てしまおう。

 暇だし。


「じゃあお言葉に甘えようかな。セリシア、俺はいつでも大丈夫だから準備出来たら言ってくれ」


「ではこちらは片付けちゃいますね。いつ帰って来れるかわからないので一応お昼ご飯は用意しておきました。私達は森の中で食べますので、好きな時間に食べてしまって下さい」


「はい、わかりました」


 どうやら準備はほぼ完了していたようだ。

 恐らくこの休憩もそういった話をするための下準備だったのだろう。

 かなり回りくどいがそうしなければ頼みづらいというのなら甘んじて受け入れる所存だ。


 セリシアが空の皿とお茶のポット、コップを持って教会へと戻って行く。

 その後ろ姿を眺めつつ、隣に腰掛けるメイトに向けてぽつりと言葉を口にした。


「……俺、もしかしてそこまで信用されてないんかな?」


「あー……まああれだけダラダラしてたら頼みづらいんじゃないですか? 断られそうだし」


「……俺セリシアの前では結構ちゃんとしてたつもりなんだけど」


「さすがにずっと教会で暮らしてたら何をしてるかぐらい知ってますよ。ちょくちょく見に来てましたし。師匠が庭で寝てる時とか」


「……まじ?」


「はい」


 まさかの衝撃の事実が発覚してしまった。

 もちろん何かの拍子に見られる可能性も考慮して窓からも見えないよう最近は木の裏を昼寝スポットにしていたのだが、見に来られたらどうしようもない。


 ただそんなことで頼みづらく思うような性格では無さそうだが、もしや俺は女心というものがわかっていないだけなのだろうか? 関係ないと思うけど。


 何はともあれそう言った誤解は解かなければならない。

 ていうか単純に他の子供たちには頼み事をするのに俺にだけ気を遣ってくるのが何とも居心地が悪い。


 教会に戻る後ろ姿を眺めながら、俺はそんな女々しいことを思ってしまったのだった。



――



 教会から庭へと戻って来たセリシアの背中には小さめのリュックがあった。

 恐らくその中に今日の昼食や水等が入っているのだろう。


「お待たせしましたメビウス君」


「おう。……そのリュック持つぞ?」


「気を遣って頂いてありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。ちゃんと重くないよう調整しましたのでっ!」


「……そ、そっか」


 そう言って、セリシアはリュックを背負い直す仕草をして俺にアピールする。

 その少女らしい姿にほっこりとした気持ちになるがどうやらセリシア的には俺が気を遣っていることになっているらしい。


 もしかしたらこれはしつこいと思われているのだろうか?

 実際重くないと思っている荷物を持つ持つ言われたら嫌な気分になるのかもしれない。


 そもそもセリシアは聖女だから、人に頼るということが少ないのかもしれないな。

 だから頼ることに躊躇しているのかも。

 あんまり無理して持とうとするのもおかしな話か。


「それじゃあ行くか。そういやユリアたちは?」


「リビングで勉強中です。挨拶していきますか?」


「いや、どうせ帰ってくるからいいや。ていうか勉強してるのか……」


「メイト君とユリアちゃんは既に課題を終わらせています。ユリアちゃんは私の代わりに教師役です」


「偉いなあいつ……」


 前に一度勉強している姿を見た時は巻き込まれるのが嫌でそそくさと逃げたが、詳しく聞いているわけではないが週一ぐらいで勉強をしている気がする。

 いつもはセリシアが教師役で、用事や家事が被った時はメイトが代わりの教師になっていたはずだ。


 しかしここ最近のメイトは稽古で暇があまりない状態。

 そのツケがユリアに回って来たのだろう。

 ただのクソガキでは終わらない所がユリアの良い所だと思う。


 教会にいる子供たちはともかくメイトには出かける旨を伝えた方がいいだろう。


「メイト~! じゃあ行ってくるな~! あんま無理すんなよ!」


「……っ。は、はいっ……! い、いってら、しゃいっ……!!」


 教会を走っているメイトに少し大きめの声をかける。

 息を荒く吐きながら返事するメイトに苦笑しつつ、俺は正門の鉄門を開いた。


「じゃあ行こうかセリシア」


「はいっ。よろしくお願いします、メビウス君」


「おう」


 レディーファーストということで門を開けたまま横で待機すると、セリシアは小さく頭を下げてから外へと出た。

 セリシアが出るのを確認してから門を閉じて施錠する。


 毎回思うんだが【聖神の奇跡】による結界があるんだったらこの門いらなくないか?

 いや、結界だと境界線が分からないから恐らく視覚情報を得るためにあるのだろう。


 自問自答しつつ二人で隣を歩き、三番街に続く一本道を歩く。

 すぐに横の森に入ってもいいのだが、若干下り坂になっているため足場に不安がある。

 セリシアにそのことを伝え平面に近い場所まで進むことにした。


 距離的には目と鼻の先なので大した時間もかからず辿り着くと、森の前で俺は立ち止まった。

 ここからで大丈夫だろう。

 躓く可能性もあるので手摺的な役割を担うべくエスコートするために手を軽く添えてみる。


「足元気を付けろよ」


「はいっ。お気遣いありがとうございます」


 ……が、意図がわからなかったのか普通にスルーされた。

 思わず肩を落としそうになる。

 そういえばセリシアは聖女という関係上人に触れるという機会がそこまで無かったことを思い出した。


 完全に空回りしてしまっている自覚を持ちつつも、森に入り首を傾げながら俺を待っているセリシアを見ると気の抜けた顔をしてしまいそうになる。


 ここ最近の俺はセリシアだけじゃなく教会のメンツみんなに対してこういったことをしてしまいがちだった。

 どうにもキャラじゃないから上手く行くことは少ないのだが……

 着込んだ純白の上着を指で摘みつつ、俺は待ってくれていたセリシアの隣へと立った。


「とりあえず自信はないがメイトがいた所にまずは向かうか」


「わかりました!」


 そう言って俺達は共に歩き出す。

 多分……頼ってくれと過剰に思っているのは俺だけだ。

 そもそも頼られ過ぎたらそれはそれで面倒くさいと思う性根だろうに。


 それでも何かしたいと思い始めている自分自身が馬鹿らしくなるけれど。


 俺は……めげないっ。

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