プロローグ(2) 『忘れないように』
気分は変わらなかった。
感情に変化はなかった。
ずっとこんな日々を過ごすんだと、あの頃の俺はどこか諦めていたように思える。
きっと復讐を遂げることは出来ない。
あの男が俺の前に姿を現すことはないし、俺は空っぽの自分から目を逸らしてたった一人の妹を守り続ける。
そんな日々を過ごし続けるのだとずっと思っていたし、それでいいとも思っていた。
「お兄ちゃん」
大切な人の声が聞こえる。
姉さんも就職してしまって、俺が守らなければならないと誓った唯一の家族。
「私、せめてお兄ちゃんの一つ下だったら良かったな」
あの頃の記憶が、蘇る。
いつだったか。
確か、俺が14歳の頃だったような気がする。
お互い学生でその放課後に公園のブランコに乗りながら、こんな話をしていたんだった。
「だって二歳も歳が離れてると、お兄ちゃんと一年しか一緒にいられないから」
小~高の学園は希望がなければエスカレーター式だったし、いつも一緒に登下校していたというのに今更何を言ってるんだと思ったっけ。
でも、妹には妹なりの想いがあって。
「それに……二年もお兄ちゃんやお姉ちゃんに迷惑をかけちゃう。早く働かなくちゃいけないのに」
別にそこまで貧乏ではなかった。
確かに当時は姉さんもまだ学生で大量の無駄遣いは控えるべき状況だった。
だが王国の支援もあったし普通に生活する分にはほとんど問題はなかったはずだ。
少なくとも当時12歳の妹がそれを考えなければならなくなるほどの姿は見せてないはずで。
でも妹はいつも何処か焦っていたように思える。
一番年下だから、家族に対する負い目があったのかもしれない。
とにかく、あれからエウスはたくさん努力して成績もトップを取って。
文武両道の最強美少女だった。
俺では勿体ないくらい、完璧な妹だった。
……どうして、今まで忘れていたんだろう。
「早くたくさん働いて」
妹は完璧すぎていたからこそ。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんには、自分の好きなことをしてほしいんだ」
自分のことよりも家族のことを第一に考えてしまう妹の人生が壊れてしまわないように、早く……見つけ出さなければならないというのに。
「――――」
夕日が俺達を照らしている中で、あの日の俺は……なんて答えたんだっけ。
……少なくとも、当時の俺は妹の気持ちなんてきっと考えていなかったんだろう。
妹の言葉を忘れて一年もニート生活を満喫しているようなクズニートだったんだから。
では今の俺は果たして妹にとって、誇れる兄になれているだろうか。
きっとなれていない。
自分が誇れる兄だと思うことは出来そうにない。
それでも妹を守ることこそが、俺の唯一の生き甲斐だったから。
だから人間界に来てからも、この覚悟だけは忘れないようにするために俺は今日もまた夢を見る。
そうだ……夢を、見ていた。
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