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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第一巻 『1クール』
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エピローグ 『教会に住む一人として』

 クーフルの逃亡が発覚したのは、俺が教会に戻ってからすぐのことだった。

 交代しにきた騎士が眠っている仲間を見つけたのだ。


 そして深夜の中、聖神騎士団総出による捜索が始まった。

 しかし当然こんな暗闇の中たった一人の男を見つけるのは困難を極め……実際にクーフルの亡骸を発見したのはそれから一日立った日のことである。


 聞いた話によればどうやら群れを成した狼にクーフルは食べられていたようだった。

 残骸のような物が見つかっただけだったが、服の生地などからクーフルと断定したらしい。


 まあそんな悲惨な姿を晒していても、三番街の信者たちからの評価は厳しいようで。

 曰く、神託から逃げ出した大罪人には相応しい末路。

 神の裁きが下ったのだとかなんとかで清々しているようだ。


 セリシアも、死んだという事実に悲しみを抱いていたようだがもうここまでしたクーフルには擁護のしようがないため聖神ラトナの石像に祈りだけ捧げていた。


 【聖痕】を持つ俺の立場も少々変化したように思える。

 あの時はもう敬語なんて完全に度外視していたが、怒られるかと思いきや何だかんだでフランクに接することを三番街の人達は受け入れてくれた。


 必死に助けてくれたし、何よりこの街の英雄だから、とかなんとか。

 少々大袈裟だがそれで向こうが警戒を解いてくれるのならこちらとしても有難いことだ。


 ……そんなことがありつつも。

 三番街含め、教会は平凡な平和の毎日を過ごすことが出来ていた。


「……」


「…………!」


「ねえ、お兄さん」


「なんだ、ユリア」


「メイト兄、何してるの?」


「……わからん」


「あ……! カイルとリッタもいます!」


 ……出来ていたが、実際のところそうではないのかもしれない。

 メイトと無事和解した後、関係性は確かに少々変化した。


 メイトが俺に悪態を吐くことは無くなったし、俺が子供たちと遊んでも特に何か思うようなことは無くなったと思う。


 まあ少し話題に出ていた仕事云々はさておいて……


 俺もメイトも、お互いに自分から話しかけに行くということはなかった。

 俺としては、やはり向こうがどう思っているかわからない以上距離感を図りかねているのが大きい。


 無理して話すのも少し違うので、お互いに受け入れているが話の起点を作れずにいた。


 ……で、だ。

 セリシアが用事とか何とかで三番街に行っている間庭で大きな布を敷き二人に花冠の作り方を伝授している最中に、何故か教会の陰に隠れながらこっちの様子を伺っている男の子三人衆がいる。


 俺達と目が合うとメイトは慌てて陰に隠れ、追従するようにカイルもリッタも隠れていた。

 ……メイトはともかくあの二人はこの状況を楽しんでるだけっぽいな。


「これ、俺から話しかけた方がいいのか?」


「う~ん。多分行ってもすぐ逃げられちゃうかもね」


「だよな……」


「なら私とお姉ちゃんで囲んじゃう……?」


「それやるならリッタを人質に取った方が早そうじゃない?」


「容赦ないなお前……」


 5歳児を人質に取ろうとかどういう神経してるんだコイツは。

 まあ実際の所その方が確実性があるので他人事だったら俺も倍プッシュする提案ではあるが、それをしたらメイトの友好度がまたマイナスに落ちてしまうので今回は無しだ。


 まさか一緒に遊びたい、という話ではないだろう。

 それならメイトの静止を聞かずにリッタが大声で突撃してくるはずだ。

 メイトの真意がわからない以上こちらとしても動きようがなかった。


 しかしユリアが何も聞いていないというのは珍しい。

 俺にはクソガキみたいな行動を取る彼女だが、子供たちの間では頼れるお姉ちゃんとしてしっかりやっていると俺も知っている。

 だが知らないにしても特に現状をどうにかしようという様子は見られなかった。


「まあそう遠くないうちに向こうから来ると思うけどね」


 元々そんな確信があったのか。


「お、おい! ……白兄」


「……!」


 流し目をしたユリアに引かれ俺もそちらを向くと、意を決したように一歩一歩こちらにやって来ていたメイトがいた。

 ……実のところ向こうからお叱り以外で話しかけられたことがほとんどないため俺も地味に動揺してしまう。


「お、おう……こほん。なんだ?」


 なんかおっさんみたいな貫禄になっちゃったけど、大丈夫だよな?

 というか地味に白兄って呼ばれたの初めてなんだが。


「おじさんくさ――あいたっ」


 とりあえずクソガキの余計な一言はおでこにデコピンで黙らせておく。


「……えっと」


 楽しそうにおでこを押さえるユリアを横目にメイトの次なる行動を待つが、やはり言いづらいことでもあるのかその場でもごもごと立ち尽くしてしまっていた。


 メイトの背後からはカイルとリッタの応援の声が聞こえてくる。

 ……ていうかあいつら声デカすぎるけど隠れてるつもりなんじゃないのか?


「……っ!」


 だがその声援が功を成したのか、メイトはぎゅっと強く拳を握ると、勢いよく顔を上げ真剣な瞳で俺を捉える。


「オレに、剣術を教えて下さい」


 そう言って、メイトは頭を下げている。

 その様子には羞恥心や屈辱感など一切感じることは出来ない。

 本心から強くなりたいと願う戦士の覚悟が垣間見えていた。


「逃げて良いのはそいつが生きている時だけ……本当の意味で痛感したから、オレはあの時飛び出せたけど……結局、何も出来なかった。白兄は頼ればいいって言うだろうけど……でも、ずっとそのままじゃ駄目なんだと思う」


 きっとクーフルの時の話をしているのだろう。

 むしろ飛び出して時間を稼いだのは非常に大きな功績だと思うのだが、結局それは頼る前提の話の功績。

 メイトが言いたいのはきっとそういうことのはずだ。


「だから強くなりたい。でも一人じゃ限界があるから……だからっ」


 だから、守れるようになりたいと。

 のんびりと生きているだけじゃ駄目なのだと自分を律して。


「教えて下さい。お願いします」


 そう思えるメイトは子供ではなく、立派な漢だった。


 後ろにいるカイルはハラハラしながら見守っている。

 リッタは多分年齢的にあまり理解してはいなさそうだ。


 メイトの言葉を聞いたユリアとパオラも、口を開く俺を待っているように見える。


 みんな不安に思っているようだ。

 ……ふっ。

 答えなんて、決まってるだろ?


「めんどくさいっ!」


「「「ええっ!?」」」


「な、なぁっ!?」


「……まっ、けどお前の気持ちはよくわかったから、俺の知ってること全部教えてやるよ」


「……!!」


 みんなの反応が見たくて一回だけ断ってはみたが、さすがの俺もメイトの決意を聞いてまで断る程落ちぶれちゃいない。

 それに、この子がどれぐらいまで強くなるのか楽しみだと思ってしまっている自分がいる。

 俺とは違う道にきっと進んでくれるこの子の人生を、見てみたいと思った。


「あ、ありがとう!」


「その代わり、俺がお前の『師匠』だ。これからは尊敬の念を込めて師匠と呼べ!」


「そ、そんなの何の関係も――」


「そうしなきゃ教えてやんない」


「ぐ、ぬぅ」


「意外と子供っぽいよね、お兄さんって……」


 良いだろうが別に。

 男は時に童心に返りたい時があるんだよ。


「……師匠」


 ……うんうん、良い響きだ。

 特に今まで散々塩対応をされて来た手前なんだか感慨深いものがある。

 これがもしかしたら親孝行をしてくれた子に対する親の気持ちなんだろうか……? 知らんけど。


「よおし、この師匠が直々に稽古してやる。俺の指導は超厳しいって定評だから覚悟しておけ!」


「他の奴にもしたことあるの?」


「師匠には敬語!」


「……あるんですか」


「いや、ない!」


「……ないのかよ」


「シロ兄テンション高ぇ~」


 確かに俺にしては若干テンションが高くなっていることは否めない。

 自分ではイマイチ把握出来ないが案外メイトに頼られたことで気分が高揚しているのかもしれない。


 まあそれはいいんだ。

 作り途中だった花冠をパパっと完成させてパオラのベレー帽の上にそれを乗せる。


 そのまま立ち上がり脱いでいた靴を履きなおすと、得意げに胸を張ってメイトを見下ろした。


「よし、じゃあ早速始め――」


「ただいま帰りました~!」


 そのまま夕日に向かってダッシュ的なことをしようかとトチ狂ったことを考えていた俺を聞き覚えのある声が遮った。


 全員が声の聞こえた方へと顔を向けると、丁度用事で出かけていたセリシアが帰って来たらしい。

 何やらそこそこの荷物が入った手提げ袋を両手首に掛け、急いできたのか少しだけ汗をかきながら正門を開けてこちらへと近付いて来る。


 用事のついでに生活用品を買って来たのだろうか。

 そうするなら言ってくれれば手伝ったというのに、まだセリシアは気軽に頼ってはくれないらしい。


「「「「「お帰りなさい聖女様!」」」」」


 セリシアに聞こえるよう若干大きめで子供たちは声をあげた。

 さすがに持たせたままというのも心苦しいので一旦メイトとの会話を中断し駆け足でセリシアのもとへ向かう。


「お帰りセリシア。荷物持つぞ」


「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。これくらいへっちゃらですから!」


 仮にへっちゃらだとしても女の子が重い物を持って歩いてる中それをガン無視するというのは中々厳しいものがあるんだが……


 だが大した理由も思いつかないので論破出来そうにない。


「それより、作成をお願いしたものがようやく出来上がったんですよ」


「作成? 何かオーダーメイドで作ったのか?」


「はいっ!」


 どうやらそれが今日出かけた一番の目的だったようだ。

 セリシアは露骨に嬉しそうに顔を綻ばせ、手提げ袋の中を漁り始めた。


 もしやここで見せてくれるのだろうか?

 確かにセリシアがそこまで嬉しそうにするものだ。

 俺としても見てもいいなら是非見せて欲しい気持ちはある。

 どうやら子供たちもそのことは知らされていなかったようで、ぞろぞろと興味深そうにこちらへ近付いて来た。


「これです!」


 そして総勢6人の観客を前にセリシアが勢いよく手提げ袋から白色の布のような物を取り出した。


「お~! ……お~?」


「なんですかこれは?」


「「「「??」」」」


 場の雰囲気を盛り上げようとサクラになろうとした俺だったが、イマイチ反応に困り思わず首を傾げてしまった。

 メイト含め子供たちもそれは同じようで頭の上で疑問符が飛び交っている。


 しかしそんな反応を受けたセリシアがめげるようなことはなく、そのまま嬉々として白色の布を広げた。


 ――それは、服だった。

 というより、上着と言った方がいいかもしれない。


 純白を基調とし羽織るタイプの前面開きでノースリーブ。

 境界線の部分には十字架を思わせるような凹凸があり、黄色のラインが入っている。


 どう考えても男物だ。

 セリシアが着るには若干丈が長いだろう。

 しかし子供たちに着せるとしても年長のメイトではやはり若干大きいサイズ。


 ……ということは。


「メビウス君に、プレゼントですっ」


 セリシアのその言葉を聞いた瞬間、何故か胸の奥がきゅっと締まる想いに駆られてしまった。

 思わず声が震え、勝手に目が泳いでしまう。


「え、あっいや……なんで、こんなん」


「ずっと考えていたんです。メビウス君と【聖痕】を共有して、でもメビウス君が神に仕えることは難しくて。ならどうやって教会の人だって思ってもらえるんだろうって、ずっと……ですから信者さんたちに相談したんですよ」


「……っ」


「そうしたら、立場は服によって決まるって言ってくれた方がいたんです。それからは早くて、服屋の店主さんといっぱい相談して、メビウス君はたくさん動くだろうから動きやすい方がいい、メビウス君は手間のかからない服をよく好む、シンプルな服を好むっていうことを言って。そうして、ようやく出来ました!」


 笑顔を、向けられた。

 陽だまりのような、暖かな笑みを。


 ――心が、強く打たれてしまった。


 なんで、そんなことがわかるというのか。

 確かにセリシアの言う通りだ。

 けど、どうせすぐにいなくなる奴で、神を信仰しないこの世界にとって忌み嫌われる非教徒という奴で。

 クーフルの一件は結果的に助けることが出来たけど、それは一時的な感謝で構わないはずで。


 それなのに、そんな……

 俺は、教会の人間ではないのに。


「いやっ、そんなの……」


 言葉に詰まる。

 思わず目を逸らすと、ユリアたちの柔らかな笑みが俺へと向けられていた。

 メイトも頬を掻きつつ特に否定などしようとはしていなかった。


 クーフルの言葉で、セリシアは俺が天使だということは何となく気付いているはずだ。

 『天使』だからそんな待遇をしようとしているのだろうか。

 そんな疑問を思ってしまう俺が嫌になる。

 セリシアは今の今までそのことを一切言及せず、いつも通り俺へと接してくれていたというのに。


 こんな感情、久し振りすぎて忘れていた。

 嬉しくて、嬉しくて。

 自分らしくもなく気持ちが溢れてしまいそうだった。


「……着て、いいか?」


「……! はいっ!」


 声が震えてなかったか不安になる。

 カッコ悪い姿を見せていないか、逃げ出したい気分になる。

 急にこんなサプライズをされるなんて思わなかったけど、それでもセリシアから受け取った服を黒シャツの上から羽織って袖を通した。


 サイズもほぼピッタリだ。

 採寸をさせた記憶はないのだが、もしや服屋の店主と何処かで会ったことでもあっただろうか? 店主なら見ただけである程度のサイズはわかるのか?


「似合ってます、メビウス君!」


 でも、そんな細かいことがどうでもよくなるくらいに俺の心は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 セリシアも顔を綻ばせ、そのまま軽い足取りで子供たちを手招きし教会の入口へと固まった。


「改めまして、ようこそ【セリシア教会】へ!」


「「「「「ようこそ!!」」」」」


 各自様々な感情や表情を乗せて、そんなことを言ってくれる。

 どうしてかわからないけど涙が零れそうになってしまった。


 ……きっと、不安だったんだ。

 特に大きな障害なく今まで過ごして来たとはいえ、つい先日まで俺は天界でいつも通りの変わらない日々を過ごしていた。


 けどいきなりこんな世界に飛ばされて、色々な問題が出て来て。


 教会にずっといるのはよくない。

 でも知らない世界は怖い。

 頼れる場所がここしかない。

 そうやって言い訳がましい理由を付けながらずっと教会にへばりついていた。


 疎ましく思っていたはずなのだ。

 でも……きっとクーフルとの一戦が無くともセリシアはどうしてか俺を気にして留まらせようとしてくれていた。


 それに甘えていた。

 いつかは愛想をつかされるだろうと。

 それで出て行かされたら仕方ないと、自分の心に勝手な保険をかけて。


 そんなクズみたいな俺でも、こんな本心から迎えてくれるような暖かな場所で生きさせてくれるのだと、今初めて理解することが出来た。


「……ああ、よろしくっ!」


 涙ではなく笑みが零れる。

 俺の心も、暖かな光に溶けてしまったみたいだ。


 天界への戻り方はわからない。

 エウスも、幼馴染みのみんなも今どうしているのかすらわからない。

 不安なのは変わりないし、早く帰らなくてはならないとも思う。


 けど、それでも。


 落ちた先がここでよかった。

 俺もこの世界に来て初めて、本心からの笑みを見せることが出来たから。




 第一章(完)

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