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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第一巻 『1クール』
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第1話(3) 『三番街の教会孤児院』

 城塞都市【イクルス】

 それは円状の都市の外周を巨大な外壁で囲んだ、外敵から人々を守るための城塞である。


 そしてここ【イクルス】では大きくY状に区別され、上から時計回りに一番街・二番街・三番街に分かれている。

 そしてそれぞれ『行政・工業』『狩猟・商業』『林業・農業』を中心に区別化が行われているらしい。


 そんな【イクルス】の三番街にある教会孤児院に住んでいるという『聖女』セリシアの元へ意識を取り戻した俺はあの後軽い説明を聞き、その続きとして一階へと降りていた。


 ……先程の説明でわかったことだが、どうやらやはりここは天界でも魔界でもないらしい。

 魔界はどうかは知らないが天界に城塞都市があるなんて聞いたことがないし、そもそも今までの歴史で戦争なんて起きていなかったのだから城塞都市を作る理由も一切ない。


 未だ魔界という線は多少残ってはいるが、最早その可能性もかなり薄いだろう。


「――そしてここが教会の礼拝堂です。ここでは聖神ラトナ様に感謝をお伝えしています。あなたと出会った日も、祈りを捧げている時だったんですよ」


「ほーん」


 とまあこんな感じに、魔族が聖神とかいう奴を信仰するわけがないんだから。

 ……じゃあここは何処なんだという話なんだが。


「そしてここが――」


「あのさセリシア」


「……?」


 説明してくれている所申し訳ないが、教会なんていうものが一体どういう所なのかは天界にもあるため大体わかる。

 いもしない神サマとやらに祈りを捧げるだけのしょーもない施設だということくらい知っているのだ。


 だから聞きたいのはそんなことじゃない。


 セリシアは可愛らしく小首を傾げている。

 俺は俺の中で確信に迫るように真剣な瞳を彼女へ向けた。


「君は……一体何の種族なんだ? 俺のいた国では白髪の天……奴しかいなかったし、知っている別の種族は黒髪しかいなかった。ここが何処かわからない以上、俺にとっては結構重要なことなんだが……」


「種族……?」


 変な質問だっただろうか。

 俺の問いかけの真意を読み取ろうとしていたセリシアだったが、やがて自分の中である結論に思い至ったのか微笑を浮かべる。


「そうですね。辺境の地ではそういったこともあるかもしれません。私はエルフでも獣人でもないですよ。一般的な人間族です!」


「にん、げん……人間!?」


 セリシアから発せられた言葉に、俺は驚愕のあまり大声を上げてしまった。

 礼拝堂ということもあって意外に声が響いてしまい若干羞恥心を持ってしまうが、それよりも『人間』という単語に驚きを隠すことが出来ない。


「えっ、人間なのか!?」


「はいっ! 聞いたことはありませんか?」


「いや、そりゃああるが……」


 『人間』。

 それは魔法のある摩訶不思議な世界に住む人種だと天界ではよく授業や書物で聞かされていた。

 何でもドラゴンとかいう怪物と戦ったり、ダンジョンという迷宮があったり冒険者という野蛮な職業もあるのだとか。


 そしてその『人間』は天使よりも劣等種であり、神に仕える天使と違い、何もせずに偉大な神様に無償で幸せを縋り続けているのだとかなんとか。


 そんなザ・ファンタジーのおとぎ話にいるような人種が今俺の目の前にいる。

 それは俺に疑問を抱かせると同時に、期待に胸が高鳴っている自分の感情をひしひしと感じていた。


「えっ!? てことは魔法って奴も使えるのか!?」


 俄然テンションが上がる。

 もしも使えるのなら是非見せてもらいたいもんだ。

 しかしセリシアは苦笑しながら首を横に振った。


「ご期待に沿えなくてすみません、私は聖女なので魔法は扱えないんです」


「そ、そうなのか?」


 いや聖女というのが何なのかは知らんが。とにかく魔法は使えないらしい。


 しかしとてもいい収穫だったのは間違いない。

 つまりだ。

 ここは天界でも魔界でも何でもなく、第三の世界。


「剣と魔法のファンタジー世界。人間界ってわけね」


 と、言うことらしい。

 そう思うとやけにストンと頭の中で受け入れる準備が整っていることに気付いた。

 やっぱり武勇伝とかガキの頃漁っていたからだろうか。

 何はともあれ何でもかんでもすげーすげーとガキみたいにはしゃがなくて済んだのは有難い。


「くすっ。そんなこと言う人、初めて見ました」


「まあそうだろうな……俺も自分でまさかこんなこと言う日が来るとは思わなかったよ」


 天界では剣があると言っても結局は銃器等の兵器しか存在しなかった。


 ……いや待てよ?

 そう言われると魔族が使っていたのは魔法だったんじゃないか説が浮上している。

 そういう認識が天使たちには無かったから単純に特殊能力か何かだと思っていたが、仮にそうなら魔法という存在を見たことはある。


 なんだ、大したことないじゃん、人間界。


「……ん?」


 ようやく知りたかったことが知れたので改めて話半分に聞いていた説明を理解するべく礼拝堂を見回していると、たくさんある窓の内、その数か所が目に止まった。


 ――そこには、警戒した様子でこちらを見続けている数人の子供が窓に張り付いていた。


「うおっ」


 あまりに何の反応もせずにガン見して来るもんだから変な声が出てしまったじゃないか。

 セシリアも俺の驚きっぷりを見て視線を移し、子供たちの姿を見つけるとビクッとだけ肩を震わせる。


「や、やっぱりずっと気になっていたようですね」


「あいつらは? ……そういえば教会()()()って言ってたか」


「はいっ。大事な子供たちなんです。せっかくなので呼んで来ますね! ――わっ」


「――っ!」


 思い立ったがすぐ行動でも言うかのように駆け足で教会の外にある庭に出ようとしたセリシアだったが、何もない床に躓き勢いよく前へと体勢を崩した。


 すぐに手を差し伸ばそうとする俺だったが、急に動いたせいで横腹と右肩に電流が走り硬直して身体を動かせずにいた。


 ――ぶつかる。

 鈍い音が響くのを覚悟していた。

 だがその刹那――聖女に淡い閃光が照らされたかと思うと、先程まで前のめりになっていたセリシアの身体が何故か数秒停止した。


「あはは……危なかったです」


「……は!?」


 見間違いだろうか。

 いや、見間違いなんかじゃない。

 確かに摩訶不思議な現象が起きて転倒を防ぎ、セリシアは今まさに照れた様子を見せている。


 魔法は使えないんじゃなかったか。

 驚きのあまり固まる俺を気にせずに、彼女は庭へと向かって行ってしまった。


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