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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第四巻 『2クール』
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第15話(9) 『悪党故の信頼』

 空から人型の怪物が降り落ち一斉に襲い掛かって来るも、それら全てを無詠唱の《ライトニング【撃鉄】》で殴り殺していく。

 一撃で沈む怪物の弱さを横目に、俺は心に宿る憎悪のままにクーフルへと距離を詰めた。


「《魔呪召現まじゅしょうげん魂霊媒禍こんれいばいか】》!」


 だが奴は指の間に生成させた五つの泥玉を俺へと投げると、その泥玉は瞬間的に巨大な大針へと変化して俺の身体を突き刺そうと迫って来る。

 それを針を支えに宙返りすることで回避し『ウイングソール』を起動して再度一気に距離を詰めると、そのままクーフルの顔面に強烈な膝蹴りをカマした。


「ふふっ」


「――ッ!?」


 だが俺の膝はクーフルへは届かない。

 俺の膝とクーフルの顔面との間に現れた黒泥が、緩衝材となって衝撃を包み込んだのだ。

 更にそれは形を変えて、無数の針となって俺を包囲し貫こうとする。


「《ライトニング【擲弾グレネードガン】》」


 それを針ごと泥を爆破させることで破壊し勢いを止めることなく再度『ウイングソール』で強化した回し蹴りを放った。

 回避されることは織り込み済みだったためそのまま空中制御をしつつ、既に左手の照準はクーフルの顔面を捉えていた。


「《ライトニング――」


「――!」


「【散弾ショットガン】》ッッ!!」


 そして――雷の弾丸による強烈な散弾が、至近距離で放たれた。

 奴がどれだけ不可解な能力を有していようと、この距離であれば魔法を無効化されない限り黒泥を貫通して攻撃を通すことが出来るはずだ。


 つまりこれが通った時点で奴の顔面はぐちゃぐちゃに破壊され勝利する。

 だがそう思った矢先、既に俺の目の前にクーフルはいなかった。


「――言ったでしょう? 【魂霊媒禍】と」


「――ッ!? ぐぁッッ!?」


 瞬間、何処からか聞こえた奴の声と共に突如として俺の脇腹に強い熱さを感じ思わず小さな悲鳴を上げる。

 追撃が来ることを察したことですぐさま空中回避を行いながら視線を向けると、空にはいつの間にか多くの怪物球が停滞していて口部分から俺に向けオールレンジの熱線を照射した。


 魔法が使えるのか……!?

 あれは間違いなく炎魔法による攻撃であると理解する。


 絶えず放たれる熱線を縦横無尽に回避し同時に無詠唱で使用出来るまでに熟練された完全体の《ライトニング》によって怪物球を破壊しつつ、俺はクーフルの位置を把握するため目を動かした。

 視界に映ったクーフルは先程【散弾】を放った場所とは真逆の方向に立ち不敵な笑みで俺を見上げていて、あのマントの移動能力によって寸前に逃げたのだと理解した。


 だがそれが出来るのならおかしな話だ。

 俺がもしクーフルだったら、近付いてきた瞬間《ディストーション》によって距離を取り続け《魔呪召現【魂霊媒禍】》による多重攻撃で永遠に待ちゲーをする。


 こんな戦法、誰にだってわかることだ。

 けれどクーフルはそれをして来なかった。


 あのマントに宿る《ディストーション》を常時使用したままに出来ないということは、《ディストーション》を発動するまでに僅かな時間が必要……または使用回数に限度がある可能性が高い。


 だがマントの使用限界が来るまで待つという行為はいつクーフルが不殺の考えを変えるかわからない以上、中央広場で行うことは絶対に出来ないことだ。

 であれば発動前に潰すという選択肢しか残されていないことになるが、これもこれで『僅かな時間』というものが《ライトニング【撃鉄】》を詠唱し切る前に完了してしまう程に少ないのだろう。


 完全な魔法を放つためには必ず魔力を凝縮させるという工程が必要だ。

 恐らくそれでは間に合わない。


 あの超至近距離でさえマントによる移動が間に合ったことを考えると、奴を殺すためには素のフィジカルだけで一撃を与え、確実な隙を作る必要がある。


 であれば、と。

 俺は本来腰にあるべきものを見立てて手を触れた。


 ……くそ。

 こういう時こそ聖剣を使いたいのに、焦り過ぎていたことに加え【断罪】するという考えしか無かったから、不殺の剣はいらないと思って教会に置いて行ってしまった。


「――――」


 ならやっぱり、常に発動したままの【撃鉄】による連撃を当てるしかない。

 無詠唱であるため威力は当然劣ってしまうが、出てくる怪物の耐久力の低さを考えればインファイターとしての動きでも充分に戦えるはずだ。


 ……せめて『ウインググローブ』さえあったら。

 これも聖剣同様置いて行ってしまったから、現状の火力不足には嘆くばかりだ。


 ――とにかく距離を詰めないと。


「《ライトニング――【狙撃】》ッッ!!」


 方針を決め、着地したと同時に足元に落ちていた細かな瓦礫を軽く上に蹴り、足に魔力を溜めて蹴り飛ばしによる【狙撃】を放つ。

 同時に『ウイングソール』と《ライトニング【噴出】》による超加速でクーフルへと接近し、作戦通りに拳に【撃鉄】の魔力を籠めた。


 【狙撃】の弾丸で俺を止めに来る攻撃を破壊し、確実に【撃鉄】を通す!


 俺の思惑通り、クーフルは超高速で迫る瓦礫を黒泥で受け止めほんの僅かな隙が生まれた。


 行ける――!

 もう《ディストーション》じゃ間に合わない!


 だがそう思った刹那、クーフルの足元には既に大口を開けた顔だけの怪物が鎮座していて、迫る俺の姿を狂いなく捉えていた。


 ――瞬間、その大口から巨大な岩柱弾が放たれる。


「――ッ!? ぐうっ!?」


 咄嗟に両手を前に突き出し岩柱弾を抑え込もうと地を踏み締めるが、途切れなく伸び切る岩柱弾を人一人の力だけで抑え込むなど到底出来るものではなかった。


 止めることは出来ない。

 ならばと、俺は勢いを殺すことすら諦めて両足を重ね岩柱弾へと足を付ける。


「――――ッ!!」


 そして《ライトニング【跳弾】》により跳ね返る力を付与させることで、雷閃の如く岩柱弾の上部をバク転した。

 そのまま『ウイングソール』を起動し暴風を巻き起こすことで空を飛び、岩柱弾を俺の足元で通過させることに成功する。


 そして岩柱弾は俺を通過した後進み続け、進行方向にある森を薙ぎ倒していた。


「……くっそ」


 ……また距離を離されてしまった。

 俺の出来ること全てに対し、あまりにもクーフルの手数が多過ぎる。


 これが魔法であったなら、どんな属性であろうと大体の目星は付くため今のようなことにはなっていなかっただろう。

 けれど幾ら近付こうとしてもその度に多種多様な怪物や魔法が繰り出されるため、予測が出来ず回避するので精一杯だ。


 怪物はともかく、せめて放たれる魔法が一種類だったらマシだったのに。

 やはり一度様子を見て、奴が何をして来るのかを把握するしかない。


「――うぅらッ!」


 そう思いクーフルから放たれた巨大なワーム状の怪物による物量攻撃を空中で回避しながら、俺は避けた怪物に随時魔力を籠めた拳をぶつけた。

 やはり耐久性は皆無のようで、巨大化した怪物は無詠唱の【撃鉄】にも関わらず跡形もなく消し飛んでいく。


 先程まで戦っていた怪物たちと耐久面に大きな違いはない。

 だがそもそも、どういう原理でこの怪物を創り出しているのだろうか。


 出現させる度に魔力を消費してるのか?

 色々な怪物を融合させたような模様をしているが、クーフルは黒い泥のようなものでこれらを作っていたことを考えると物質としての本質はただの泥でしかないのかもしれない。


 それに、今出てる怪物たちはどうしてか魔法を使って来ない。

 《魔呪召現》の派生として【魂霊媒禍】があるのであれば、魔法の使えない怪物を生成するよりも一生【魂霊媒禍】で出した怪物を使って攻めた方がよっぽど脅威であるはずだ。


 【魂霊媒禍】も《ディストーション》を持つマントと同じように何かしらの制限があるのだろうか……?

 でもマントとは違って発動までにラグがあるようには思えない。


 であれば他に何か――


「……はぁ。本当につまらないですね、貴方は」


 攻撃を避けながら分析を進める俺を見上げていたクーフルがふと大きなため息を吐き、冷たい目で俺を射抜いた。

 その目の威圧に呑まれそうになりながらも、俺はやがて来る勝利のために能力の分析を辞めることはしない。


「ですが【原罪の悪魔】の思想に呑まれ一度死に、蘇ったことで私は理解しました。どうして、悪意を持った殺すべき敵の思想を貴方は信用することが出来るのかを。……悪党である貴方にはわからないのですね。悪党が何のために人を……殺すのかを。貴方は咎人であると同時に悪党を【断罪】するとのたまいながら、その実本物の悪意の思考回路を理解出来ていないのです。それは偏に……貴方自身が自分を一番の悪党であると思い込み、他者をわかった気でいるからでございます」


「あ……?」


 なんだ、急に。

 まるで俺の心情をわかっているかのような物言いに思わず注意を逸らされてしまうが、イカレてる男の言葉に耳を貸す必要などないだろう。


 ただの戯言だ。

 そう思い奴の言葉を切り捨てる俺に対し、クーフルは初めから俺の反応など気にも留めていないかのように自分自身に酔ったうっすらとした笑みを浮かべた。


「ならば私を一度殺してくれたお礼に、この舞台の中で貴方の心に深く刻み込ませて差し上げましょう」


 その言葉と同時にクーフルが腕を軽く上げると、手の平の上に黒泥の球体が浮いて現れ、やがてそれは質量を持ち巨大化した二本のツルが俺に向けて射出される。


「――っ」


 何がしたいんだ……コイツ。

 こんなの、当たるわけないだろ。


 あまりにも直線的な軌道だ。

 巨大化されているとはいえ先程の猛攻のものと比べたらそのツルには太さが無く更には後続の攻撃も無かったから、俺は天使として培っていた飛行術を駆使し少ない動きで回避した。


「……本物の欲望というものが、どのようなものなのかを」



 刹那――――俺の後ろで、血の噴き出る……音がした。



「……え?」


 振り返らなくても、わかる。

 もう何度も聞いてきた……水とは違う、粘度のある液体が地面を擦る音と、錆びた鉄のような、不快感を覚える死臭。


 それを起こした原因が、俺の何も考えずに行った安易な行動によるものなんだということは既に頭では理解していた。

 でも認められるわけがないから、そんなはずがないという僅かな希望的観測に沿ってゆっくりと後ろを振り返る。


 ……先程とは非にならない程の騎士たちが、虚ろな目のまま二つのツルに貫かれ……宙を、浮いていた。


 心臓部から血を滝のように流れさせ、ゆらゆらと揺れるツル状の物体によってまるで人形劇のようにだらりと垂らした両腕を揺らしている。


 楽しそうに、愉しそうに、血の涙を……流しながら。


「あ、あ、ぁっ……」


 だがそれがあまりにも人としての尊厳を踏み躙った、ドス黒い悪意によってさせられているものなのだということはきっと誰が見てもわかることだ。

 そしてそうさせないように守ることが出来なかった俺という存在が、この場において如何に無価値であるのかを思い知らされる。


「く、ぁ、あぅ……」


 開いた口が塞がらず、中心を位置するべき目の焦点は絶えず纏まらず動き続けていた。


 また……人が死んだ。

 目の前で人がたくさん、死んだんだ。


「実は私も【原罪の悪魔】によって創られた世界を、見ていたのでございます。貴方の絶望は素晴らしかった。けれど同時に、その瞳が、その魂が私ではなく【原罪の悪魔】にしか向けられていなかったことに気が狂う程羨ましく思ったのです。ですから、蘇ってからずっと……この時を待ち望んでおりました」


 クーフルの声が聞こえてくるも、奴の言葉は俺の頭に入って来ない。


 いや……聞こえてるんだ。

 聞こえているにも関わらず、現実から目を逸らそうとしているが故に聞こえないフリをしているだけなのだと冷静な自分が教えてくれていた。


「初めて知ったのです。見ることが出来たのです。貴方の、剥き出しの本性を。貴方の力は、狂気は、そんなものじゃないでしょう。私はそれが見たい。その欲望の果てにある『何か』を、私にだけ向けて欲しいっ!」


 それでも……奴の見せるあの選択した結果を嗤い見下す姿だけはこれまでの人生で何度も見てきた。


 美形と言って相応しいクーフルの冷静さを取り繕った瞳の奥には、確固たる欲望が見え隠れしている。

 全身の力が抜けたことによる『ウイングソール』の魔力が途切れたことで地面へと落ちながら呆然と瞳を揺らす俺を前に、クーフルは噛み締めさせるかのようにたった一つの事実を告げた。


「貴方のせいですよ」


「――――」


「貴方のせいでまた数十人……尊い命が、失われたなぁぁ!?」


「――――――――」


 その言葉に、その事実に、俺は反論も否定もすることも出来ずにただただ荒れた息を吐くことしか出来ずにいた。


 口は開いているのに、言葉が出ない。

 喉は鳴っているのに、その実たった一つの単語の声すらも軽く吹く風の音に掻き消されてしまっている。


「はっ、ぅ、あっ……!」


 夢ではない『本物の死』が脳裏から離れてくれなくて、地面に肘と膝を付きながら、胸が痛くなるぐらいに心臓が鼓動し続けている。

 そして更に、まるで自分のやっていることが愉快なものであると言いたいかのようにクーフルは二つのツルを操作し頭上へと上げると、巨大化したツルを一気に引き抜き突き刺された騎士たちの亡骸を俺の周りへと潰れ落とした。


 ……ぐちゃりと、肉が潰れる音と骨が砕ける音が俺の頭を揺らし続ける。


「――――」


 …………俺は。

 悪党だろうと、命を奪うことに大層な理由があるのだと思っていた。


 何でもいい。

 俺みたいに悪党を根絶やしにするためだとか、金のためだとか、自分の都合の良い場面を作るためだとか……とにかく、何らかの信念があるから殺す必要があるのだと、ずっとそう思ってたんだ。


 この世界に来て、最初に邂逅した非教徒もそうだ。

 奴らは自分のちっぽけな金銭的欲望を満たすためにセリシアを狙い、教会のみんなを危険に晒した。


 クーフルだってそうだ。

 奴はメイトを殺そうとしたが、それはメイトが奴の創り上げた劇場とやらを邪魔した異分子だったからという理由があった。


 ベルゼビュートでさえ、俺が『変わった』という事実を無かったことにするという理由で、夢の世界でみんなを殺した。


 全部……理解出来るものだった。

 俺は今までの人生の中でずっと……人を殺す奴にはそいつなりのポリシーがあって、そのポリシーに反しない限り不必要に命に手を掛けることは無いんだって、そう思い込んでいたんだ。


 英雄が活躍するおとぎ話じゃ、大抵そうであるものだから。


 だから俺は奴を……クーフルを、信用していたんだと思う。

 目的は俺だから、必要以上の殺しはしないだろうって。


 『異常者』である俺以外の『普通の人』は人を殺すことに大あれ小あれ抵抗が必ず出るものだから、無駄な殺傷は好まないだろうって。


 ……でも違った。

 俺は悪意というものを知った気になって、本物の悪意について何一つわかっちゃいなかったんだ。


 本物の悪党にとって人の命など自分の欲望を満たすための単なる道具でしか無くて、その命の重さや個々の人生など配慮する必要すらない、他者を嗤うための手段の一つに過ぎないのだと思い知った。


 俺の考えで言うなら、多分俺ですら……『普通の人』だったんだ。


 それを今、突き付けられた。

 ああそうだ……俺の盛大な勘違いを、奴が身を持って教えてくれた。


 守りたいと思った人は簡単に死ぬ。

 自分を守りながら戦っても人は死ぬ。

 長期的な戦闘になると見越して体力を温存しても人は死ぬし、だからといって最初から全力を出した疲労故の一瞬のミスでも人は死ぬのだ。


 この世界はおとぎ話のような都合の良いものじゃない。

 戦いには常に人の死が天秤に乗っている。


 俺はこれまで一人で戦っていて……その実一方的な勝利やお膳立てしてもらったが故の勝利ばかりを得てきたから、そのことを何一つわかっちゃいなかった。


「…………」


 金色の瞳が、更に色濃く輝きを放つ。


 ならば、どうするべきなのか。

 その答えも奴の言葉が、行動が教えてくれた。


 ……わかったよ。

 俺が死んでも――お前を殺せさえすればいいんだって。


「――――ッッ!!」


 ――刹那の一閃。

 俺は《ライトニング【噴出】》によって溜めた雷の魔力を一気に解放し、直線的軌道でクーフルへと急接近した。


 だが同時にクーフルから放たれたツル状の細い物量攻撃が一斉に同じく直線的軌道で迫って来ているのが見えた。


 誘導も何も無い、一度接近するための軌道を変えさえすれば避けることなど造作もない拙い攻撃。

 もう一度接近し直すだけで済む、牽制の役割ですらない露骨なジャブだ。


「――ぐ、ああああああああああああああッッ!!」


 だが俺は――避けない。

 一切速度を落とすことなく突っ込み、伸びたツルによる刺突が俺の全身を貫き血を吹き出しつつも歯を食い縛りながら絶えずクーフルへと距離を近付けていた。


「ふふっ! そうです、それこそがメビウス・デルラルトという男の本質!! 誰もが羨む欲望にまみれた狂気の、正体ですっ!」


 咆哮で痛みを掻き消しながら拳に雷の魔力を凝縮させる俺を見て、クーフルは恍惚な表情で口角を吊り上げ迫る俺を見続けている。


 ――その気色悪い笑みを二度と浮かばせることが出来ないように殴り殺す……!


 一切動かないクーフルを前に俺は強烈な殺意を瞳に宿し、凝縮させた魔力を一気に解放させたことによる無詠唱の雷拳を放った。


「ですがッッ!!」


「ッッ――――」


 だが瞬間――俺の視界が一気に揺らぐ。

 腕から拳にかけてだけ有り得ない程に発達した半身だけの怪物がクーフルの真下の影から生成され、巨大な剛腕によるカウンターによって俺の頬が殴打されたのだということに気付いた。


 チカチカと視界が点滅し、意識を失いかけている。

 薄れゆく視界には酷く勝ち誇った笑みを浮かべる……【断罪】するべき悪党が見えた。


「貴方では……私に勝てない。そうです。私はようやく! 私の創り上げた劇場の――!」


「――――」


「主役、に……」


 ――倒れる直前、俺の両足は既にクーフルの首へと取り付いている。

 どんな追撃が来ようと絶対に剥がされないよう全身全霊の力を籠めて首を絞め『ウイングソール』によって空中に浮いたままの俺を見てクーフルは目を見開いている。


「なっ――」


 今更気付いても、もう遅い。


「あああああああああああああああッッ!!」


 両足と腰の力、そして天使として生まれてからずっと持ち続けてきた空中化における飛行能力だけで俺とクーフルの位置はいとも容易く逆転された。


 武術:天道――《天空落とし》。


 翼の代わりとして用いた『ウイングソール』が強烈な突風を巻き起こした瞬間――クーフルは既に、顔面から地面へと叩き付けられていた。

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