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【第四章完結!】堕落天使はおとされる  作者: 真白はやて
第三巻 『1クール』
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第8話(7) 『幻想的な世界』

 セリシアと、ついでに子供達の親と別れ、俺はそそくさと出来る限り影を薄くすることに徹しつつテーラのもとへと戻ることに成功した。

 良い感じに注目を浴びずに済んだので、恐らくサボったことはバレてないはずだ。


 念のためテーラの顔色を伺おうと隣を一瞥してみると、テーラは小首を傾げながら微笑を浮かべた。


「そんな不安そうな目でこっち見んといてよ。うち、怒るつもりなんてないで?」


「うぐっ!? い、いやそんな目してねーよ」


 慌てて目を逸らす俺にテーラは再度クスリと笑うと、切り替えるように俺から視線を外してくれる。


 ……図星を突かれて思わず動揺してしまった。

 最早完全に俺の意図は読まれてしまっていたみたいだ。


 気付かれていたのならそれはそれでバツが悪い。

 少しぐらい怒ってもいいのにとは思うが、サボった本人が思うことでもないため、有難くテーラの優しさに感謝し俺も素早く気持ちを変える。


「さて、見た感じみんな魔導具を作れたみたいやね」


「お、おーみんな良い感じに作れてるな、うん! こう、そこはかとなく熟練の魔導具職人の才能がある可能性も無きにしも非ずって感じだ! うん!」


「自分、無理しなくていいんよ?」


「し、してないっつの!」


 駄目だ。

 どうしても今更見てましたよ風を醸し出そうとすると挙動不審になってしまう。


 少なくとも教会のメンバーがやってた魔導具作成の工程は見ていたのだが、それも結局途中までだからどうにも俺の言葉に信憑性が生まれていない気がする。


 俺の動きを知ってるであろう教会の子供たちには慌ててる俺が滑稽に見えてるだろうし、もう散々だ。


 まあ自業自得なんだけど。


「こほんっ。と、とにかくテーラ先生。この後は一体どうする予定なんでしょうか?」


「そうやね。みんな魔導具を作ることが出来たから、実際に魔導具を起動させてみようと思うんやけど」


「――その前に、少し質問良いですかテーラさん」


 そう言ってテーラが言葉を続けようとした時、不意にその言葉を遮ったのは躊躇なく手を上げたメイトだった。

 当然全員の注目がメイトへと行くが、メイト自身も特に気にすることなく真剣な顔をしている。


「ん、メイトはん。ええよ」


「はい。ここにいる人達の総意だとは思いますが、今回作成した魔導具の使用用途が作成しても分かりませんでした。どうにもグループ毎に作成する魔導具が分けられているように感じます。何か意図があるのでしょうか」


 学習意欲に満ちていることもあって、メイトの質問は非常に良い点を突いている。

 もちろん俺はその意図を知っているためテーラと共に何らかの回答をしなければならないのだが、果たして答えを言っていいものか悩んでしまう。


 せっかくだからメイト含め、みんなには驚いてほしい。

 そういう意図が元々俺達にもあったため、テーラと頷き合い、視線だけで軽い意思疎通を図った。


「――それはだなぁメイト君。魔導人造犬……魔導王犬? ケルベロスを作るための部品なのだよ」


「……何言ってるんですか師匠」


「あーほら! ケルベロスっちゅーのは、魔界への門を守護するための番犬なんやって! だから全てのパーツを合体させることで、今この場所に魔界の扉を開くことが出来るんや! どどん!」


「……はあ」


 ……んーやらかした。

 クソみたいな空気になってしまっている。


 すぐさま言葉を吐き出したため先程印象的だったカイルとの会話を思い出して話してみたものの、子供たち全員をドン引きさせることに関してなら現状俺達が天下を取れるかもしれないと変な自信が付く程に誰も笑みすら浮かべてくれなかった。


 二人して顔を猛烈に赤くさせてしまう。

 てかこれをセリシアも見てるという事実に既に心が折れそうになるんだが。


 最早それを確認しようとすることすら出来ない。

 というかテーラに至っては適当なバトンをパスした俺の被害者になってるまであった。


「ご、ごほんっ!」


 どうしてもサボっていた事実が尾を引いて行動すればするほど墓穴を掘ってしまう気がする。

 なのでもう一度大きく咳払いをして強引に場を切り替えると、パパっと答えを見せるために話を進めることにした。


「つまりメイトの質問の答えは実際に見てみるまでのお楽しみってことだ。さ、さあテーラ先生。早速魔導具の準備を!」


「う、うんっ! そうやね!」


 この際自業自得による羞恥心は甘んじて受け入れることにし、テーラに指示を出して早速子供たちの持つ魔導具を一瞥する。

 そして床に置かれた木の土台の前に子供達を呼び寄せた。


「それじゃあ今から言った通りのグループ毎に魔導具を接続させていこう。今回は保護者の意向もあって単体で発動出来ないような魔導具にしたんやけど、ずっと使えると思ってた子がいたらごめんね。でもだからこそこの合体魔導具を見せることが出来るから、きっとみんな驚くと思うで」


「合体魔導具……?」


「……? なにそれ?」


 テーラの言葉に、メイトたちはともかくユリアですら疑問を抱いたようで眉を潜めて首を傾げていた。


 ……そうか、ユリアもそれは知らないのか。

 であれば唯一の懸念だったユリアの楽しみも失わずに済むことになる。


 ユリアの態度からして若干諦め気味だった俺だが、ここに来て先程の羞恥などどうでもいいぐらいのやる気が出てくるようになった。


 やっぱりみんなに楽しんでほしいからな。

 教会のみんなにはいつまでも笑ってほしいとずっと思い続けてる。


「ユリアも楽しめると思うぞ」


「え~? お兄さんの空回りより面白いとは到底思えないたっ!」


 生意気なガキのおでこにデコピンをお見舞いしつつも、その間子供たちはテーラの指示に従い順々に魔導具を組み立て始めていた。


 グループ毎に魔導具を接続し徐々にその本来の姿が露わになり始めると、全長がせり上がってくるにつれ子供たちの首が少しずつ上がり始める。


「――よしっ、完成や!」


 そうして最後のパーツをメイトが嵌め込むと、土台によって支えられつつ空に大きく伸びる一本の筒がその威光を表していた。


 まるで大砲のような魔導具には子供たち全員分の魔石をセットするための盤が取り付けられており、その盤から筒へと続くようにラインのようなものが走っている。


 ……だがこの姿を見せたとて、子供たちがその意図を知っているはずがない。


「「「「……?」」」」


「シロ兄、これなにー?」


「すごい大きいです……」


 この場にいる全員が筒のてっぺんを見上げながら眉を潜めている。

 カイルとパオラも呆けた息を吐きながら俺へと疑問を向けているが、俺はそれに不敵な笑みで返すだけにし、テーラと共に所定の位置に着いた。


「全員が持ってる魔石をこの魔石盤の溝にセットして、そこに片手を当ててみて。もう片方の手は隣の子の肩に手を置いてな」


 要するに魔石を持つ子達全員が接触出来るようになっていればいい。

 テーラの指示に困惑しつつも子供達は素直に言うことを聞いてくれて、魔石をセットした子から順に互いの肩に触れるようにした。


 そんなことをしている間に、俺は少し遠くで不思議そうに俺達の様子を見てるセリシアに手招きする。

 きっとセリシアも見たことないだろうから、保護者目線で楽しもうとするのは勿体ない。


 とことことセリシアなりの駆け足でこちらへと近付いて来るセリシアを見ながら、俺は近くまで来た彼女の手を引いて魔導具の近くへと引き寄せた。


「ほらセリシア。近くで見てみろよ。きっと君も驚くと思うぜ」


「わわっ……! これから何をするんですか?」


「それは見てのお楽しみ」


 子供達を見守る聖女として何も楽しむことを許されないなんて、そんなの俺は御免だ。

 セリシアのことはたった一人の女の子として扱いたいから、たとえ他の信者がどう言おうが俺は自分の意見を曲げるつもりはない。


 だがチラッとその真意を確認するために奥にいる親たちへ視線を向けてみると、予想とは違い信者たちも微笑ましく手を引かれるセリシアを眺めていた。


「……」


 案外、俺が警戒しすぎなだけなのかもしれない。

 熱心な信者なら、聖女が楽しもうとすることにすら怒りを露わにするのではないかと。

 聖女は聖女らしくしなければならないという脅迫概念を押し付けてくるのではないかと。


 そんな思い込みに近い想像に捕らわれ、対等な目で信者たちのことを俺は見ていないことに気付く。


「俺も、変わらなきゃな」


 昔までだったら、勘違いや思い込みをしたままでも構わないと思ってただろう。

 でもここは人間界で、イクルスの街の三番街。


 セリシアが大切にしたいと思うただ一つの街だ。

 それを俺も尊重したい。


 少なくとも自分の価値観だけで善人の良し悪しを決めることは良くないと、街の人々と接してきてそう思うようになった。


 それに俺自身がセリシアのことを『聖女』ではなく『一人の女の子』として扱いたいと思っているのに、当の本人が他の信者のことを『街の住民』としてではなく『熱狂な信者』だと思い続けるのは矛盾してるだろう。


「保護者のみんなも遠目で見てちゃつまんないんじゃないですかー? 子供達と一緒に、みんなもこっち来て下さい!」


 だから俺は少しだけ勇気を出して傍観者となっていた親たちを呼んだ。

 向かうのはセリシアだけだと思っていたからか、俺の呼びかけに目を丸くし親たちは互いに顔を見回せている。


「……!」


 セリシアも俺がそんな行動を取るとは思っていなかったのか、一瞬だけ呆けた後嬉しそうに破顔していた。


「メビウス君の言う通り、是非良ければ皆さんもこちらへ来て下さいっ!」


 そんなセリシアも俺に追従して親たちに声を掛ける。

 俺の言葉には困惑してた親たちも聖女であるセリシアの言葉には必ず従う心持ちのため、慌ててこちらへと駆け足でやって来てくれた。


 ――この場にいる全員が揃った。

 子供たちも所定の位置に無事置くことに成功したテーラと共に頷き合い、テーラは魔導具の中心に位置するメイトとユリアの背後に立ち、俺は逆に二人の前……魔石盤の下にしゃがみ込む。


 そしてテーラはメイトとユリアの背中に手を当て、俺は魔石盤の下にある二つの筒状の溝へ両手を突っ込んだ。


「それじゃあみんな、しっかり魔石に触れといてな! みんなに魔法を使う体験も一緒にさせたるから!」


「気張ってその目に焼き付けとけよ!」


 俺とテーラがそう高らかに声を上げ、子供たちはそんなことが出来るのかと驚きの声を上げている。


 そんな反応に口角を上げつつ、テーラの宣言と共に魔力のオーラが子供たちを伝って魔石へと流れ始めていた。


「お……? おおっ!?」


「すごいすごいっ!」


「わぁ……!」


「……っ!」


「ふわふわとした感覚が、身体に流れ込んで来る……」


 魔力が流れるにつれその感覚を理解し始めたのか子供達は驚きや歓喜など様々な反応を見せていた。

 教会の子らに限らず、身体に魔力のオーラが纏われ始めた姿に三番街の子供たちもその親たちも驚きの声を上げている。


「これが君らがいつか使えるようになるかもしれない魔法の感覚や。よく覚えておいてね」


 テーラの魔力を、子供たちを経由させることで多数の魔石に流し込む。

 本来こういった大きめの魔導具を起動させる際は、それに見合った大きさの魔石を使用するのだが、今回は子供たちみんなに魔導具を起動させようという話し合いのもと、少ない魔力を一度にたくさん送り込む方式へと変更したのだ。


 これはよっぽど魔力の原理に詳しく、魔力操作に強い天才魔法使いにしか出来ないものだ。

 そのテーラと俺の思案が功を成し、子供たちも大人たちも、みんなが摩訶不思議な現象に呆けた息を吐いていた。


 ……みんなが魔導具に意識を集中させてる。

 魔導具に複雑な想いを抱えてるようだったユリアですら、魔力が通ったことにより光が灯る魔導具に瞳を輝かせていた。


 ――俄然やる気が上がるもんだ。

 全員の表情を見て小さく笑った俺は、筒の中に手を入れていた手をめいいっぱいに開き、中に内蔵されている巨大な『魔石砲弾』に手の平を向けた。


 全ての魔力が一斉に、ここからでは見えない『魔石砲弾』に凝縮されていくの肌で感じる。


 だがまだ足りない。

 まだ、砲弾に埋め込まれた魔石の貯蔵限界まで達してはいない。


 ……まだだ。

 ……まだ、いける。


「――自分っ!」


 ――その刹那テーラによる高らかな合図が俺の耳に届き、同時に俺は不敵な笑みを浮かべて。


「《ライトニング【爆弾グレネード】》!!」


 内臓された砲弾に向けて、全出力を籠めた雷魔法を放った。


 強大な爆発音が轟き、空へ向けられた筒から魔石の埋め込まれた砲弾が爆発の圧力によって勢いよく発射される。

 この場にいる全員が自身の焦点を空に飛んだ砲弾へと向け、これから何が起こるのか固唾を呑んで見守っていた。





 そして――――砲弾が、弾けた。

 その瞬間、砲弾に埋め込まれていた魔石に吸収された魔力が一斉に飛び散り空を描く。


 無数の氷が風で切られ、岩は形を作り、火が纏う。

 水は飛沫を上げて、僅かに籠められた雷が光を放つ。


 それは……まるで幻想の世界を空に創り出していた。


「すごいすごーい!!」


「ねぇ見てよ兄ちゃん! すげー!!」


「す、凄い……こんなことが出来るなんて」


 隣同士の男の子組は既に隣の子に触れていた手を放しメイトに引っ付きながら空を眺め。


「わぁ……!!」


「魔導具のこんな使い方、初めて見た……」


 女の子組も驚きを隠せないように目を見開きずっと魔力の描いた軌跡を見続けていた。


 三番街の子供たちも、そしてその親たちも同様だ。

 みんなそれぞれ反応は微妙に異なるものの、この場にいる全ての人が初めて見る光景に気分を昂らせている。


 名前を借りるなら魔法花火だ。

 もしも今が日の出ていない夜だったら、きっともっと素晴らしい光景を目に焼き付けることが出来ただろう。


 ……それでも。

 俺は一人だけ空から目線を外して、隣のセリシアへと視線を移す。


「……綺麗」


 下から顔を見てみると、セリシアもまたぼんやりと魔法花火を眺め続けていた。


 ……テーラと協力はしたけど、結果的にセリシアのことを楽しませることが出来て良かった。

 もしもこれがずっと頑張っているセリシアの息抜きになれているのなら、それだけで今回の仕事を引き受けた甲斐があったというものだ。


 平和で平穏な日々はとても尊いもので、当たり前に思ってしまうことはあっても、掛けがえのないものなんだ。

 それを俺は守り続けたいって今でも……いや、今だからこそ強く思う。


 だって少なくとも今は、一人じゃない。


 今度は子供たちの背後にいたテーラに視線を移した。

 テーラも丁度魔法花火ではなく俺の方に視線を向けていたようで、お互いに目が合うとテーラは満面な笑みで指をV字にしてこちらへ突き付けてきた。


「ミッションコンプリートやね! ぶいっ!」


 テーラもみんなが目を奪われている魔法花火を成功させることが出来て嬉しかったんだろう。

 セリシアだけじゃなく、テーラも笑顔になってくれているのが俺もまた嬉しくて。


「……ぶいっ! だな」


 柄にもなく子供じみたことを一緒にしてしまった。

 一通り喜びと達成感を分かち合い、俺達は一緒になって籠められた魔力が尽きるまで幻想の世界に想いを馳せる。


 ……願わくばここにはいないルナも一緒に見れたら良かったなと、そんなことを思いながら、全員の意識は空へと向けられていた。

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