魅了の魔法
アイク様のサロンでスイーツを食べていたら、側近のシルベスター様が怒りの表情でやってきた。
「殿下、エリザベス姫様に失礼な態度はどうかと思います。あんな素晴らしい方になぜあんな態度を取るのですか! シュラット公爵令嬢よりずっと魅力的です」
こいつ、いきなりエリザベス姫様ってまだあったばかりだし、ただの伯爵令息なのに不敬だな。
まぁ、男はああいう女が好きなんだろう。仕方ない。そう思って見ていたらアイク様が動いた。
「馬鹿なやつ。魅了の魔法か」
そう言いながら何やら呪文を唱え出した。“ぱりん”と音が鳴り空気が変わった。
「シルベスター、正気に戻ったか? お前は清楚な女が好きだと思っていたが、あんなけばい女が好きだったとは知らなかった」
シルベスター様はいきなり殿下の足元にひざまづいた。
「殿下、申し訳ありません。何がなんだかわからないうちにあの女が素晴らしく見えてきました。あんな女好みでもなんでもないのに……」
「それが魅了の魔法だ。怖いだろう。昔、魅了の魔法に操られ国を滅ぼした王太子までいたらしい」
それ、ライトノベルの世界だわ。そんな話読んだことある。あとで魅了の魔法が解けて、王太子は自分がしたことを知り絶望する話だったな。じゃあ、今の“パリッ”は魔法が解けた音か?
「この城全体に魅了の魔法を無効にしたので、みんな元に戻るだろう。しかし、フィルの予想どおり禁忌である魅了の魔法を使うとは驚いたな」
「魅了の魔法を使ったことがわかったらどうなるのですか?」
何か処罰されるのだろうか? 私は気になった。
「死罪だな。証拠はあるし、あの女は死罪は免れんな」
証拠?
「証拠なんてどこにあるんですか?」
私が聞くとアイク様は悪い顔をして笑う。
「この城のあちこちに悪意魔法が発動されると自動的に動き、画像を記録する魔道具が備え付けてある。例えばこれだ」
アイク様は指をパチンと鳴らすと、水晶玉の平べったいやつが出てきた。そこにはシルベスター様が部屋に入ってきた時からの画像が録画されている。しかも、アイク様が魅了の魔法を解く前のシルベスター様はピンク色のもやに包まれている。
「このピンク色が魅了の魔法だ。謁見の間の記録画像を見れば誰からこの魔法が出されているかわかるはずだ」
アイク様の説明にまるで防犯カメラやんと思ってしまった。
15年も引きこもってぐーたらしていたので、この国にこんなものがあるとは知らなかった。
私の他にも転生者がいて、色んなものを作っているのかもしれない。
私も前世の知識はあるのに、この国には何も貢献してないなぁ。シュラット家にはちょこっと貢献して小銭稼ぎしてるけど。
「殿下! ナムーリ国の第3王女と使節団を捕らえました」
フィル兄様が走り込んできた。
「フィル、お前も引っかかったか?」
アイク様はまた悪い顔で笑っている。
「引っかかりませんよ。私はちゃんと無効付与の魔道具を身につけてます」
無効付与の魔道具? そんなものがあるんだな。
「魔導士のロバートからあの王女から魅了の魔法が出ていると報告を受け、すぐに控えていた騎士達に捕獲を命じたのですが、拒否されました。魅了の魔法って凄い威力ですね」
そんなに凄いのか。
フィル兄様はシルベスター様に気がついたようだ。
「シルベスター、なぜここに?」
「私に意見しにきたんだ。王女の方がヴィーより魅力的だとね」
「面目ない。シュラット公爵令嬢殿本当にすみません。これも全て魔法のせいです」
シルベスター様は申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえいえ、本当にあの王女様の方が魅力的ですわ。私などまだまだ子供ですもの」
面白いのでそう言っておいた。
「殿下が魔道具が作動していることに気がついて魅了の魔法を解かれたんです。それにしても魅了の魔法を使ってでも殿下に近づきたかったのですね」
そんなにアイク様が好きだったのか? いや、そうじゃないな。
もっとやばい感じだろうな。ラノベ風に考えると陛下やアイク様を傀儡にして国を乗っ取るとかそんな感じだろうか?
やっぱり、王太子妃なんてめんどくさいなぁ。
これからもこんなことに巻き込まれるんでしょう?結婚、やめようかな。
「ヴィー、まさか怖くなって結婚やめようかなんて思ってるのじゃないか? 私は絶対ヴィーを守るから結婚はやめないで欲しい」
アイク様が私を抱きしめる。
いや、結婚はやめたいけど、理由が違う。
アイク様はやっぱり私を美化しすぎだわ。私はただただ面倒なだけなんだけどなぁ〜。




