いよいよか
ナムーリ国の第3王女は22歳でかなりの美人らしい。
我が国とは違って結婚する年齢が遅いそうで、決して売れ残っているわけではないそうだ。
我が国はみんな18くらいまでには結婚するので22歳まで独身はいない。
しかも魔の10年があるので、女の子が産まれ出した、私より2歳上の令嬢はほとんどみんな婚約したり結婚したりしている。
私は幻の令嬢と言われるくらい表に出なかったので奇跡的に残っている。
結婚相手が不足している貴族の令息たちは取り合い状態で年齢差カップルもやたら多い。
「ナムーリ国の第3王女と殿下が結婚してもいいのか?」
フィル兄様が私に聞く。
「王家同士だし、よろしいのではないですか。年齢も近いし、私より似合っていると思いますわ」
本当にそう思う。
私はまだまだ、ぐうたらしたい。
そりゃいつかは家の決めた相手と政略結婚しなきゃならないだろうけど、まだ15歳になったばかり、せめてあと5年はぐうたらさせてほしい。
20歳になったら諦めて誰かと結婚して、女主人の仕事をちゃんとするつもりでいる。
「ヴィヴィ! いるか!」
父の声だ。大声を出してどうしたのだろう?
「お父様、どうされたのですか? 私なら ここにおりますわ」
私は部屋から顔を出した。
「ヴィヴィ、大変だ。王命が……王命が出た」
「王命? 何の王命ですの?」
王命なんてしょっちゅう出ている。そんなに慌てふためく王命?
まさか……。
隣に座っていたフィル兄様が父の方に向き直った。
「兄上、まさかヴィヴィの婚約ですか?」
「そうだ。殿下はヴィヴィの気持ちが変わるまでいつまでも待つと言っていたが、ナムーリ国の第3王女の件があったからだろう。陛下がさっき王命を出した」
「ナムーリ国の王女よりヴィヴィの方がいいのか?」
いやいや、王女に勝ちたくはない。
私より王女の方がいいに決まっている。
「お父様、王命であれば断る事は無理ですよね?」
私は返事はわかっているが、一応聞いてみた。
「ああ、無理だな。ヴィヴィには腹を括ってもらうしかない」
「せめて、あと5年待ってもらう事はできないでしょうか……できないですね」
無理だな。
フィル兄様はふっと鼻で笑う。
「そりゃ無理だ。殿下は25だぞ。5年待ったら30になる」
父も被せ気味に言う。
「5年どころか、婚約期間も3ヶ月だと言われた。殿下の年を考えると1日でも早い方がいいらしい」
え〜! 普通だと準備に半年から1年かかる。それを3ヶ月でやるつもりか。
「しかし、私は王妃教育もしておりませんし、3ヶ月で王家に嫁ぐなんて無理です」
本当に無理だ。王妃教育は大変でみんな幼い頃から取り組む。
前世で読んだ小説や漫画の王太子の婚約者はみんなそうだった。
何も知らない私をいきなり王太子妃にするのは無謀だと思う。
父はバツの悪そうな顔をした。
「それなんだがなぁ。実は殿下から結婚の打診があった7年前から、うちに王家より先生を派遣してもらい王妃教育をしていたのだ。7年間みっちりしているし、先生方からも王太子妃になってもなんの問題もないと太鼓判をもらっている」
嘘! あれはただの公爵令嬢としての勉強じゃなかったの?
騙された。
私はなんだか力が抜けてしまった。
「わかりました。どれだけ私が抗ったところで、陛下やお父様たちはあの頃から私を王太子妃にすると決めておられたのですね。知らないのは私だけですか?」
父は額に汗が滲んでいる。あせっているのだろうか。
「いや、私とクラウディア、陛下と王妃様、あとは王妃教育をしていた先生方しか知らない。殿下もフィルも知らないはずだ」
本当か? 殿下もフィル兄様も知っているんじゃないのか?
私は半目でフィル兄様を見た。
「確かに私も殿下も知らない。今初めて聞いた」
「本当ですの?」
「本当だ」
まぁ、今となってはどうでもいい。
父はクロエが淹れてくれた紅茶をひと口飲んで私の方を見た。
「実はな、陛下が殿下にナムーリ国の王女との結婚話をしたら、予想どおり断ったそうだ。しかも、弟殿下を王太子にし、王女と結婚させて、跡継ぎにしてはどうか、自分は分家してもらいヴィヴィと結婚して、領地でのんびり暮らすとか言い出したらしいのだ。殿下はヴィヴィ以外とは結婚しない。ヴィヴィと結婚できなければ一生ひとりでいると言いきったそうだ」
勝手にそんなこと言われてもなぁ。
父はまだ話を続ける。
「ヴィヴィは王太子妃、王妃になるのが嫌で、殿下の事は別に嫌いじゃないと言ったそうじゃないか」
「確かに言いました」
「だから殿下は廃嫡を申し出たそうだ」
廃嫡? 私のために王太子を辞めるのか。それはダメだろう。
生まれた時から帝王学を学んでいるし、すでに王太子として公務も担っている殿下がそんな事を言っても無理だ。
「だが、それは無理だ。まだ公になっていないが、弟殿下はタギザット公爵の令嬢に婿入りする方向で婚約の手筈をととのえている」
父の言葉にフィル兄様はふふっと笑いながら私を見た。
「ヴィヴィ、もう諦めろ。筆頭公爵令嬢のお前は、殿下の妃になるために生まれてきたと言っても過言ではないんだぞ。ただ年が離れていたので候補に上がらなかっただけなんだ」
はい、諦めます。
これも何かの因果だろう。
王太子妃になってやろうじゃないの!
私はいよいよ腹を括らねばならなくなった。




