参ったなぁ
フィル兄様は紅茶をひと口飲んでからゆっくり話し出した。
「7年前、ヴィヴィと手紙のやりとりしたいから届けてくれないかと殿下から頼まれたんだ。それは陛下も知っている。
陛下の出した条件は手紙の内容は結婚に関してのことは一切書かない。
色恋話は書かない。
王太子の身分を明かさない。
それをのむなら手紙のやりとりは良いと言われたらしい」
陛下も公認だった?
フィル兄様は話を続ける。
「ちょうど殿下もヴィヴィも読書が好きだから、ヴィヴィに読書好きの友達がいるけど、訳あってあまり外に出られないので、淋しくしてるから手紙の交換をしてやってくれないかと頼んだんだ」
「そうでしたわね。私はお身体が悪いのかと勝手に思ってましたわ。でも手紙の中に剣の稽古の話もあったので、お元気になられてるんだなと思ってましたの」
私は最初はジェフ様はご病気であまり動けない人だと思っていた。
でも文面からそうでもないようだし、ひょっとして軟禁されていて、監視付きで剣の稽古などもしているのかと想像していた。
届く手紙はいつも面白く、やりとりを重ねるうちにジェフ様のバックグラウンドなどどうでもよくなっていた。
「では、殿下はジェフとしてヴィヴィと手紙のやりとりをしていたわけか」
父が呆れたような顔をした。
「手紙だけではなく、誕生日などには贈り物も届けさせられましたよ」
フィル兄様は面倒臭そうに言う。
「確かにジェフ様からだとフィル兄様からいただいてましたわ。
最初はただのお手紙だけのお知り合いなので贈り物などいただけないからお返ししてほしいとお願いしたのですが、受け取っていただけず、仕方がないのでいただきました」
私がそう言うとフィル兄様はニコニコしている。
「ヴィヴィもお返しに刺繍をしたハンカチなんかを贈っていたよね。渡すたびに殿下は大喜びだったよ」
確かにもらいっぱなしでは悪いので、刺繍をしたハンカチやブックカバー、剣帯など贈った。
ジェフ様が王太子殿下だったなんて信じられない。
「だから、殿下のことはヴィヴィが一番良く知っているんじゃないかな?
手紙には殿下ではなく、ただのアイザック・ジェフ・ラックノーランとして楽しく書いていると言っておられたので、好きな子宛なんでいいカッコもしてるだろうけど、素顔の殿下で書いてると思うよ」
確かにそうかもしれない。
会った事はなくても私はジェフ様の事が好きだった。真面目で、真摯で、とても優しい。そして文面からジェフ様も私の事を好きだと思ってくれているんじゃないかと思っていた。
でも私は、ジェフ様はきっと人質として我が国に囚われている他国の王族か何かだと勝手に思っていたので、いつかは国に帰る人、いくらほのかに恋愛感情があるとはいえ、好きだなんて言い、帰る時に他国について行くなど無理無理。
自国の王太子妃がめんどくさくて嫌な私が他国になんて行くわけもない。
まぁ、めんどくさがりでぐうたらな私にはこれくらいのほのかな恋がちょうどよかった。前世でいうなら『推し』ってとこだろうか。
それに見た目がどうしても好みでなかったら悲しいので見ないまま妄想のジェフ様で十分楽しめた。
「殿下から、ヴィヴィのことをいつも聞かれたし、ちょこちょこ姿を見るためにうちに来てたから、ヴィヴィが美しく成長してるのを見て、早くデビュタントの日が来ないか楽しみにしてたんだ」
ストーカーか? うちに来ていたなんて全然知らなかったわ。
とにかく嫌だ。
ジェフ様……いや、アイク様が嫌いとかではないが、王太子妃は嫌だ。
「お父様、お母様、フィル兄様、私は絶対嫌です。殿下とは結婚致しません」
声高らかに宣言した。
「フィル兄様、もう手紙も届けないで下さいませ」
王命なら絶対断れないが、まだそこまでではないだろう。
私はサロンから出て自室に戻った。




