終焉の刻
「少しだけ話をしないか」
黒衣の男は言った、その正面には銀髪の男が立っている。
その問いへの答えは無かったが、男は一人で語り始めた。
「俺は一体どこで道を踏み外してしまったんだろうな。本来進むべきだった道を踏み外して、この道こそが真実と信じて進んだ道すらも外れちまった。もはや自分がどこに向かっているのかも良くわからない有様だ。ただひたすらに進んで進んで進み続けて、邪魔する奴らは皆殺しにしてきた。先生すら手にかけた」
黒衣の男は僅かに目を細めた。過去を思い出しているのだろうか、口元は自嘲するように歪んでいた。
「まあ時代が時代だけに致し方ない部分もあったとは思うがな。戦場では必死に戦ったさ、幸い俺には人並み以上には才能があったようで、死ぬこともなく戦いに慣れていった。周りの奴らは俺のことを英雄だ何だと賞賛していたが、俺からすりゃあくだらねえ話だ。生き残る度に、次こそ自分の番だろうと気が気じゃなかったよ。そんな中で出会ったのがお前だ」
黒衣の男は銀髪の男を睨みつける。
「初めて会って軽く手合わせした時、お前こそが真の天才だということがすぐにわかったよ。天才と呼ばれる奴らには何人も会ったが、まさに次元が違う。試合という場では俺が勝つこともあったが、俺は絶対的な差を感じずにはいられなかった。まあそれでも、目標となる存在を見つけたことは嬉しいと思ったよ。お前がどう考えてたかはわからないがな」
数歩距離が詰まる。
「繰り返しになるが、お前はあまりにも他者とかけ離れている。あまりにも他者と違いすぎる。なあ、お前は今まで生きていて人を妬んだり、逆に優越感を得たことってあるか?恐らくないだろうよ。お前にとって他者より優れているということは当然のことで疑念を挟む余地すらない、水が高きから低きへ流れる如くだ。しかし、俺はそんなお前が嫌いでは無かったよ、むしろ好ましく思っていたと言っていい」
黒衣の男は更に歩を進める。
「しかし、今のお前は駄目だ。なぜそれだけの才を、力を持ちながら全てを手放した。誰一人としてお前に並び立つことすら敵わないことに絶望したか。お前程の男が静かに朽ちることなど許されない。」
「お前は俺が殺す」