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41芸は身を助く

「はぁ~、なんだっぺ!? この汁、んめぇなぁ!」


「お口に合うみたいでよかったです」


 ソンチョさんにお出ししたのは、稚貝ホタテのオーミソ風スープ。


 シーラ様から、ウニ・ドンのお礼として、いくつか珍しい調味料や食材をいただいて来たのだ。

 このオーミソと言う食材もその一つ。


 東洋豆の発酵ダレ(オショーユ)とよく似た作り方をする調味料で、オーミソの方が甘みが強く、複雑な味に仕上がる気がする。


 コンブで出汁をとったスープに大量の稚貝ホタテを入れ、沸騰させ、貝の口が開いたらオーミソをおたまで溶き入れて、完成! というかなり簡単な薄茶色のスープだ。


「特にこの……ホタネ? だっぺ?」


「ホタテ、です」


「初めて食ったけンども、これも、噛めば、噛むほど(あめ)ぇ汁出て来で、最高だ~」


 ソンチョさんは、大鍋にたっぷり作ったスープをもりもりと召し上がってくれた。

 最初は、牡蠣を捌いてみたんだけど、あのグラマラスな見た目に若干顔を曇らせていたので、一見可愛くもみえるホタテの稚貝に変更したのだ。


「ぷっはぁ~! こんなに、んめぇんなら、さっきのカキとやらも食ってみればよかったっぺなぁ~」


「まだまだ、どんどん召し上がって下さい。石灰を作るのに必要な材料はこの貝殻なので……」


「へぇ? これがあの石灰の材料になるっぺか……?」


 ソンチョさんが、ホタテの身を剥がした貝殻をつまみ上げてまじまじと見つめている。


 実家に居た頃、わたしはよく、庭の隅で食べられる雑草を育てていたのだが、その時に庭師さん達が話をしていたのを聞いたのだ。


 リラン家は海の側だったので、漁師のおじちゃんたちの家にはいつでも大量の貝殻がある。

 庭師さん達は、それを貰って来ては、炭焼きの要領で真っ白になるまで焼き、それを「有機石灰」と呼んでいたのだ。

 わたしも真似をして、雑草畑の土壌の改良に使っていたものである。


 ……まさか、こんな……伯爵令嬢にあるまじき技能が、ここで役に立つなんて……


「はい、これを焼いて、粉にするんです」


「へ~、嬢ちゃん、物知りだっぺなぁ~」


 だけど、流石に二人だけでは食べられる量に限りがある。

 

「本当は、もっと大勢に召し上がって貰えれば効率が良いんですが……」


「んだば、オラの村から他の連中も呼んで来てもええっぺか?」


 そうか! 大勢での貝料理パーティにすれば、あっという間に貝殻が集まる。

 マリクル様から、この養殖池の扱いについては、完全にわたしに任せるというお墨付きを貰っているし……

 外部コンロも竈も好きに使って良いと言われている。


 ソンチョさんの口ぶりからしてもバードラ様とは懇意みたいだし……


 その時、ふと、マリクル様が領地を見ながら話してくれた内容が蘇った。



『ミルティア、見てください。……見えますか? あの田畑が』


 マリクル様のお部屋から見下ろすと、その指差す方向に、整備された奇麗な緑が広がっている。

 

『我が公爵家の真の宝は民ですよ……私があんなおぞましい姿になって……1年以上も引き籠っていたのに……ああしてこの地に留まり、日々、新鮮な食材をここに届け、税を納め、レンロット家を慕い続けてくれたのですから』


 あの優しい、愛おしそうな眼差しを思い出すと、マリクル様が村の皆さんに新鮮な貝を召し上がっていただく事に反対するはずがない。


「はい、もちろんです! その間にわたしは他の貝料理も準備しておきますね?」



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