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34《公爵side》名簿修正のお願い

特に『貴族名簿』に関わる不正は問題が大きい。


 なにしろ、この名簿の登録内容は貴族の婚姻にとって最も重要視されている情報源なのだ。

 しかも、王家管理であるため、その内容は『絶対的真実である』……と、いうことになっている。


 重要とされる理由は『魔法の素質』が著しく遺伝しやすい為だ。


 もちろん、突然変異型で、平民の両親から高位貴族並の魔力を持つ子が生まれる事はある。

 そんな子供の血は逆に尊重される傾向が強く、『養子』とする場合でも、特別に『魔養』と記されるほどだ。


 これは、貴族家の中で『魔力量』を重視する家が多数存在している事を指し示している。

 実際、有力な公爵家の場合、かなり強い特殊な魔法を使えることが多い。


 私のレンロット家の場合は『時空魔法』だ。

 それを引き継げるか、否か……は、子供の将来に大きな影響を与える。


 ちなみに、ミルティアのリラン伯爵家は今でこそ没落した貴族家ではあるものの、彼女の高祖父の代には宮廷魔導士を何名も輩出し、祖父の代には侯爵家に養子に出した娘が聖女となるような魔導の名家だったことが、名簿に記された名前から判明している。


「あ、あはははは……いやぁ、さすが『護国の大魔導士』様! 引き籠っていたのに名簿の改竄に気づいてくれてたんだ? いや~、まさかあの文官がねぇ」


「? その口ぶりですと、もうアルスの方で改竄の実行犯は捕らえたのですか?」


「うん、まぁ……ね」


 その割に答えの歯切れが悪い。


「……違いますね? アルス……実行犯らしき人間に目星をつけたら、何者かに暗殺された。犯行自体は停止したものの、黒幕不明。おまけに改竄箇所が多すぎて、どこが誤っているのか判別できない……違いますか?」


 おもわずジト目で視線を泳がせる友人を見つめる。


「惜しい! 暗殺じゃなくて、自害されちゃったんだな、これが。でも、犯人が闇教団の幹部だったってトコロまでは分かってるんだけど……君が戻って来てくれて本当に助かったよ」


 何でも、闇教団は、私たちの祖父くらいの時代から、魔導の名家に生まれた子供に対し、一方的に『中途半端な魔法封じ』を施すことで、その貴族家を徐々に没落させていっていたのだとか。


「基幹組織は、前の魔王討伐の際にぶっ潰してると思うけど……闇教団の支部がまだ幾つか残ってるみたいなんだよね。……ほら、生まれた子供を『教会』へ連れて行って『祝福』してもらうって儀式があるだろ?」


「まさか……『教会』にも巣食っていたんですか?! そして『祝福』に便乗して魔法封じを……」


「そ。……ホント、陰湿だよねぇ……特に『中途半端な魔法封じ』ってのが曲者でねぇ」


 完全な『魔法封じ』の場合、他の術師に気づかれてしまう可能性も有るし、逆にかけられた本人の魔力が成長しすぎた場合、自力で封を破ってしまう事もある。


 ところが、『中途半端な』魔法封じだと、高い素質を持つ者同士の間から生まれた子にしては魔力が少ないが、平均には達している、という状態になるのだとか。

 この程度しか才能を引き継げないのは、珍しい事では無い。


 そして、そんな並の魔導士しか輩出できない貴族家はやがて魔導的な重要ポストを他者に明け渡さざるを得なくなる。

 そこにさらに、この『貴族名簿』に改竄を加えることで、彼等は結婚相手に有力な相手を選ぶことも出来ず、やがて、ゆっくりと、緩慢に、しかし確実に没落して行くことになるのだ。


「王家までは手が出せていないみたいだけど、侯爵以下は結構やられてる家が多いかもしれないよ? 祖父くらいから急速に魔力量が落ちた魔導の名家が少なくとも4家、疑わしいのが12家……あ、ミルティアちゃんのところのリラン家もその内の一つだよ」


「そんなに……」


「この名簿ってさ、魔力の籠ったインクで書いているから……改竄自体、相当魔力を消費するし、書き換えられちゃった箇所は後から追えるはずなんだけど……そもそも量が膨大でさ……改竄箇所だけを光らせる為には書類全体に逐一、隅々まで魔力を通さないといけないんだよねぇ」


 ちらり、ちらり、と、私の目を見るアルス。


 どうやらこの名簿改竄案件……リラン家の実家が不正を行っていた、というよりは、更なる巨大な不正組織にリラン家のババンレーヌ夫人が乗っかった、という事なのだろう。

 でなければ、たかが伯爵家の人間が王家の管理する名簿へ干渉出来る訳が無い。


 ……名簿の件が一番罪が重かったのですが……あの毒親……悪運だけは強いようですね……


「あー……つまり、書類整備を私に手伝ってほしい、と?」


「頼むよ、マリクル~! 君くらい精密作業が得意で尚且つ魔法容量が大きい術者ってなかなか居ないんだよー! あ、あと、ボーギルさんにも一緒にお願いしたい分量なんだよね? さすがの君でも一人だと死ねると思うから」


 魔王を共に倒した友人に、ニコニコ笑顔で死ねる量の書類を押し付けるのはどうかと思うのですが?


「…………はぁ……仕方ありません。夜にミルティアを一人にする訳にはいかないので、私は定時で帰りますよ?」


「ありがとう!!」



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