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20呪いを解くには

 わたしは、おそるおそる、そのスープをよそった皿をマリクル様にお出しした。


 マリクル様は完璧に優美なテーブルマナーで、スープを一匙掬い、お口に運ぶ。

 こくり、と喉が何かを呑み込むように動いて……深い緑色の瞳が見開かれた。


「…………これが……あの、呪いの……?」


「え? は、はい」


「……信じ、られません……実に、上品で……美味しいです」


 その言葉に、わたしもスープを一匙口に入れた。

 うん。まだまだ良い出汁がたっぷりと出ている!! 実に良いお味だ。


「こちらもいかがですか?」


 わたしは、塩ゆでにして、奇麗に皮を剥いたシャコを薦めてみる。

 やっぱり、出汁も良いけど、身のうま味はまた一味違う。


 しばらく葛藤されていたようだが、それでも、パクリ、とその白い身を優美にフォークで突き刺して口に運ぶ。


 ぱくっ……もぐもぐ、ごくり。


「……!!!」


 その瞬間、ピシリ、とマリクル様の青黒い素肌に輝くヒビが入った。


「!?」



 ぱぁんッ!!!



「きゃっ!?」


 輝く光が収まった後、そこに座っていたのは……見た事も無いようなイケメン青年だった。


 いや、イケメンなどというレベルではない。

 絶世の美青年だ。

 女性顔負けの美しい顔立ちに青みがかった銀髪。

 深い緑の瞳に、どこか知的な印象の線の細いメガネ。

 

 貴公子? 王子様? 


「これは……! なるほど、そうだったんですね……!」


 この声は、マリクル様だ。

 ぽかんと口を開けたまま、その美しい青年を凝視してしまった。

 

「ありがとうございます!! ミルティア、貴女のおかげで分かりましたよ!!」


「え!? ええっ!?」


 聞けば、マリクル様は、この海産物を口にした事で、解呪の魔力と同時に、その方法が流れ込んで来たようだ。


「私の呪いを解く方法です!! それは『呪いによって生み出された海産物を愛する者同士で、一緒に食べる』ことだったようです!」


 どうりで、色々試した結果、無駄だったわけです、と朗らかに微笑むマリクル様。


 呪いの厄介な所は、画一化された解呪というものが存在せず、それ毎に『鍵』となることが異なっている点なのだとか。

 有名どころだと『乙女からのキス』だそうだが、これもすべてに通じる話ではない。


「呪いって、そんな方法で解けるんですね…………おめでとうございます!」


 そうか……でも、これで、この幸せな生活も終わりか……

 新鮮な海産物はもう、皮膚から湧き出さない。


 マリクル様は、呪いさえ解けてしまえば、もっと身分の高い姫君達から引く手数多だ。

 そう思うと、ちょっと残念な気持ちがよぎってしまう。


 ……いやいや、せっかく呪いが解けたのだから、そんな心のさもしい事を考えてはいけない!

 海産物は海に獲りに行けば良いではないか。


 しかし、その卑しい気持ちが表情に出てしまったのだろう。

 マリクル様が美しい眉を少し歪ませて、小さくため息をついた。


「……ミルティア、貴女……直球で言われないと分からないんですか?」


「?」


「きょとん、としないでください。……分かりました」


 マリクル様がその整った顔をわずかに紅潮させ、わたしに向き直った。


「私の愛しい人……ミルティア・リラン。正式に、貴女に結婚を申し込みます」


「あ、愛!? わたし、が??」


 まさか、マリクル様の女の趣味はオカシイ?

 ……この呪いで皮膚は腐らなかったけど、趣味嗜好が腐ってしまわれたのだろうか?


 だ、だけど……く、首から上が熱い。

 耳だけ火事になったみたいだ。


「受け入れて、くださいますね?」


 微笑みを浮かべるマリクル様はまるで天使のよう。


 だけど、色んな感情が脳内でぐるんぐるんしてしまって、わたしの眼球からは怒涛のごとく涙があふれてしまった。


「……う、で、でも……わたし、わだじ……全然、淑女らしくないんでず……!」


「それが愛おしいと言っているんです」


「ま、魔法だって、ぜんぜん、使(づが)え、なぐで……っ!!」


 興奮と混乱で涙と鼻水の大洪水。

 こんなの、箱舟が有ったとしても、溺れてしまう!


「そんなもの、私がこれからいくらでも教えます……良いですね?」


「……っ、ぶ、ぶわいっ……!」


 おそらく、わたしの声は大洪水のために、「はい」がきちんと発音できていない。

 それなのに、マリクル様と来たら、今まで見たことも無いような笑顔でずっと微笑んでいらっしゃるんだもの……!


 いろいろと眩しすぎて、わたしの脳みそが目と鼻から流れ出るんじゃないかと不安になるくらい、涙と鼻水が止まらなかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] たまたま、検索で見つけて、こんな夜中に20話まで読んでみたのですが。もう眠れないw 世の中に、こんなおもしろい、物語があったとは。
[良い点] 可愛いof可愛い
[気になる点] 今思えば海鮮ってあの呪いの垢とかから出てたのだろうか?それとも皮膚から出現したのだろうか?
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