14あたたかな日常
果たして……こんなに幸せで良いのだろうか?
マリクル様は見た目よりもずっとお優しい方だし、わたしが小さな怪我をしてからというもの、手足の様子をとても気にかけて下さっている。
頻繁に回復魔法をかけてくださるおかげで、どんなに水仕事をしても、手は荒れないし、重い荷物運びでマメが潰れようとも、あっという間に治療してしまう。
ああ、体の先端が痛まないって快適……!
さらには、怪我をするような仕事はバードラ様率いる魔導人形さん達に任せてしまって構わないとおっしゃっていただいた。
そのため、普段の仕事は、魔導人形さんの手が届きにくい部分の掃除に限られ、得意の料理の事を考える時間が増えた。
それだけではない。
作業用の服に、貴婦人が着用してもおかしくないような普段着まで……わたしにあてがわれた部屋のクローゼットいっぱいに新しいドレスが運び込まれたのだ。
「……貴女は……こういったものが好みかと思いまして……」
マリクル様が、少し目を反らしながら準備してくださったのは、肌触りの良い木綿と絹の衣装。
しかも、わたしの身体にぴったりだ。
動きやすいし、温かい……!
外出用のドレスとは違うのに、上品で洗練されているなんて、恐れ多くて最初は袖を通せなかった。
でも、普段のボロボロの服だと、マリクル様が何だか悲しそうなお顔をなさっているように見えて、たくさん用意していただいた服を着用するようにしている。
『その服の方が似合いますね。ミルティア様……もちろん、あの旦那様のお母上のものも十分似合っていましたが』
バードラ様もそうフォローしていただけたが、あれは恥ずかしかった。
思わず、その場で服を脱ぎ始めてしまって……淑女からあまりにかけ離れた行動過ぎて、自分自身で悶絶したほどである。
そんな騒ぎで、一瞬頭から抜け落ちていたあの手紙だが、あの後、バードラ様の方から、『リラン伯爵家には事情を説明した手紙を送っておきます』と言われて、すごく気が楽になった。
あの義父様と義母様が……?
と思うと、嬉しい感情よりも、どうしていいか分からない感情が渦巻いて、手足が凄く冷えていたから本当に助かった。
わたしは、鼻歌を歌いながらマリクル様から収穫させていただいたエビの殻を剥く。
冬に良く取れる『冷凍石』の敷き詰められた箱の中でコチコチに凍らせてあるエビを流水で解凍する。
このエビという食材……この辺りであまり食べられていない大きな理由が、悪くなってしまう速度が物凄く速いせいなのだ。
ものによっては、〆てから1時間程度で腐敗が始まってしまうし、茹でたものも、すぐに調理して食べてしまわないと危ない。
しかし、『冷凍石』という冷気を蓄え、周りを冷やす性質のある石と一緒に保管すると、このように、かなり長い期間保存することができる。
格上の貴族家や大富豪の自宅であれば『時空保管箱』のようなスゴイ魔道具があるはずだが、それとは違って、冬になれば庶民でも集めることができる『冷凍石』は貧乏人の優しい味方だ。
半解凍されているエビの殻を剥いていると、バードラさんが、赤い瞳をピカピカ点滅させながら問いかけてきた。




