13《バードラside》ミルティアという少女2
彼女はこの手紙を読んで、喜んでいいのか、嫌がって良いのか分からないような混乱した表情を浮かべている。
『この手紙に従う必要はありません』
「え? で、でも、良いのでしょうか……?」
『ええ。従わなくとも、サプライズは十分、演出可能です!……そうですね、ついて来なさい』
要はドレスだ。
ドレスさえあれば、彼女を丸め込むことなど容易。
わざわざ実家に戻らずとも、ドレスくらい、公爵家に腐るほどある。
俺は、彼女を連れて、今は亡き坊ちゃんのお母様のクローゼットへと案内した。
『さ、この中から好きな色を選びなさい』
「えっ!? こ、このドレスは……」
『大丈夫です。全て公爵家の……旦那様のお母上の物ですから』
「むむむむむ、っむりです!! わたし、絶対、似合いません!!! そ、その、色々と、サイズが……合わないと思います……!」
『安心なさい。これらの服は魔貴糸で紡がれたものです。着用者に合わせてサイズは自動調整されますよ』
どうせ、今は使う者も居ないのだ。
箪笥の肥やしになる位なら、ここで可愛く着飾って、ウチの坊ちゃんを悩殺して欲しいものである。
確かに、今は貧相な体つきだし、髪も短く少年のようだが……顔立ちはかなり整っている。
この手の女は、磨けば絶対に光る。
『まずは、これを着てみなさい』
俺が引っ張り出したのは桜色の割と質素なドレスだ。
胸や尻を強調するタイプの服よりも、この普段着に近い服の方が彼女には似合う気がする。
「え!? こ、こんなに奇麗な服……」
髪も瞳も緑で肌の色も比較的青白い彼女が青系統の服を着てしまったら、冷たい印象になってしまう気がする。
ここは、差し色的にもピンク系だろう。明度の高い桜色なので、より明るい印象になるはずだ。
……俺がおっさんだから「おんなのこは かわいい ぴんくいろ が せいぎ(はーと)」とか考えている訳ではない。
『さ、早く着替えて』
「は、はい……」
俺は、魔導人形を操作して、彼女を有無を言わせぬようにフィッティングルームへ押し込んだ。
彼女が着替えている、その間に、寝室に籠っているであろう坊ちゃんを呼びに行く。
「一体、何なんですか? バードラ」
『気分転換とサプライズですよ、坊ちゃん』
「だから『坊ちゃん』はお止めなさいと何度も……」
『(しっ!! 坊ちゃんは黙ってそこに立つ!!)』
「っ……」
俺の声を殺した圧に負けて大人しくその場に佇む坊ちゃんを後目に、俺はミルティアに猫なで声で呼びかけた。
『ミルティア様、準備は整いましたか?』
「あの……バードラ様、こ、この服は……こういうものなのでしょうか?」
ふわり、とカーテンの向こう側から現れた少女の姿に息をのむ。
磨けば、光る……なんてものじゃない。
たぬきが月に化けた、とでも言えばいいのだろうか……
確かに魔貴糸は、魔力を持つ相手に合わせて変化する性質がある。
だが、ここまで変わるものだったのか……!
桜色のドレスからは5枚のはなびらをもつ桜色の花が咲き誇り、その花弁は短くなってしまっている彼女の髪にも伸びている。
さらに、淡い光を放ち舞い散る桜吹雪は、この服のせいなのか……彼女の魔力が反応しているのか。
首につけられた武骨なアクセサリーだけが妙に浮いている。
だが、それを除いても、まるで、桜の精霊のようになってしまった少女を思わず見つめて固まってしまった。
「……美しい……」
ぽつり、と、坊ちゃんの唇から零れ落ちた音で、ようやく我に返る。
「えっ!? ま、マリクル様!? も、申し訳ありません!!」
「い……いえ、構いません。よく、似合っています……」
「その、す、すぐに脱ぎますッ……!!」
かなり、パニックを起こしているのか、その場で裸になろうとする少女を俺に残ったわずかな理性が制止した。
『ミルティア様……着替えるなら、あちらで……』
つーか、坊ちゃん?
目を反らして照れていないで止めてくださいよ?
え? 何? それとも、彼女が服を脱ぐのを見ていたかったの? ん??
あの呪われた姿であっても、照れると皮膚の色がきちんとピンクに変わるんですね……坊ちゃん……
俺は、おもわず全力で茶化しそうになるのを、必死に止めた。
……これは、しばらく坊ちゃんのからかいのネタにしない方が良い。
折角、女性に興味が無かった坊ちゃんが、こんなに素直に反応したのだ。
この繊細な感情の芽がすくすく育って、花が咲き、何かが実るまでは、触れるべきではない。
俺は、全身全霊で平常心を装い、己の主に声をかけた。
『彼女の服装があまりに貧相だったので、魔貴糸ならば縫い直しの手間も無いと考えたのですが、やはり普段着については、当家で新しい服を購入した方がよさそうですね』
「あ、あ……ええ」
『その分の予算を取らせていただいても構いませんね? ……ね! 坊ちゃん!』
「あ、ああ……え、あ、はい、ええ……ぜ、全然、構いませんよ?」
ようやく、通常モードに戻った坊ちゃんの声に、俺は何食わぬ調子で日常業務に戻ったのだった。
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