その男、生まれつきのコメディにつき
私はMr.ビーンが好きです。
イラスト 雨音AKIRA様
──PPPP……
モーニングを告げる目覚ましが今日もせっせと持ち主を起こそうとする。
──PPPPP……
スルリとベッドから手を伸ばし、バシバシと辺りを探るも仕事熱心な目覚ましにはギリギリ手が届かない。
──PPPPP……!!
……ベッドへと腕を戻し、ゴソゴソ、ゴソゴソ。
ヌッとマジックハンドを取り出しバシィッと目覚ましをキャッチング!!
そのまま金魚が泳ぐ水槽へポチャァァァン!!
水没した時計は八時を指したまま止まり、金魚は新しい玩具に喜んでいる。
眠い目を擦り顔を洗うと歯ブラシを取り出す。
歯磨き粉を搾り歯ブラシにON……の筈が出て来ない。残り少ない歯磨き粉を無理矢理搾り取るが一向に出て来ない。
「…………!」
男はテコテコとキッチンからミキサーとミントガムを大量に取り出した。
──ガラガラガラ……ウィィィィィン!!!!
粉々になったミントガム。蓋を開け歯ブラシをベチョッと着けた。そのまま歯磨きをし口の中はミントでスッキリ。
「♪」
鼻唄を歌いながらキッチンへと立ち朝食の支度へと取り掛かる。
しかし冷蔵庫を開けるが何も入ってはおらずため息一つ。
パンにハンバーグ、それとポテトサラダ。男は脳内で食べたい物をイメージし着替えて車で出掛けることにした。
──ブルン! ブルルルル……!!
お気に入りのミニバンに乗り、先ずはハンバーガーのドライブスルーへ。
ハンバーガーを一つ、フライドポテトを一つ注文。それらを速やかに受け取ると再び車を走らせた。
車を運転しながらハンバーガーの包みを開ける。
上のバンズを外し、パティを持参したお皿へ載せる。付け合わせのブロッコリーを忘れずに。
フライドポテトも持参したボウルに入れてポテトマッシャーで念入りに潰す。左手にボウル、右手にマッシャー……ハンドルは二の次。ハンバーガーのレタスとピクルスも入れて完成だ!
最後に余ったバンズにバターをたっぷりと塗れば念願のパンとハンバーグとポテトサラダの出来上がり♪
紙ナプキンも忘れずに装着して『いただきます!』で両手を合わせ深いお辞儀。お辞儀をしている間に誰か轢いた気がするけど気にしない気にしない♪
食事を終えてホームセンターへ。爪楊枝でシーハーしながら最近ハマった庭手入れのコーナーへ。手頃な剪定用の枝切りハサミを手にし、他に何か無いかと辺りをグルグル…………
「あ″~~~~~っ」
扇風機の前で声を出す子ども。扇風機に付いたヒラヒラの金色の紙を枝切りハサミでチョン!
「あ″~~―――ゴホッ!!ゴホッ!!」
紙が風で子どもの口の中へと入り、子どもは大きくむせ込んだ。男は御満悦でその場を去るも子どもは口から紙を取り出し不思議そうな顔をしていた。
植木鉢が立ち並ぶ一角で、綺麗な薔薇の花が目に留まる。ちょんと優しく花に触れ、フローラルな香りを楽しんだ。
──ポロ……
「!?」
男が匂いを堪能していると花が一つ地面に落ちてしまう。慌てふためく男は必死でくっつけようとするも、手を離すとポロリと落ちてしまう……
「!」
──ズブッ!
男は薔薇を左手で固定すると、口に咥えていた爪楊枝を手にし、真正面から花へと突き刺した!
爪楊枝は花を突き抜け茎に刺さり、釘付けならぬ爪楊枝付けになった花を見て男は御満悦でその場を後にした……。
──チョン!
──チョン!
──チョチョチョン!
ハサミでリズムを刻み遊ぶ男。ニヤニヤと憎たらしい笑顔を浮かべてはやたらと上機嫌である。事務服を着たオフィスレディが事務用品コーナーで何やら捜し物をしている。
──ユラユラ
オフィスレディのポニーテールがゆらゆらと揺れている。
──ユラユラ
──チョン チョン
──ユラ
──チョン チョン
男はポニーテールの揺れに合わせハサミでリズムを取っている。
──ユラユラ
──チョン チョン
──ユラ
──チョン ザクッ!!
「!?」
──ボトッ……
無残にも床に落ちたポニーテール。男はお姉さんの頭と地面のポニーテールを交互に見つめ唖然としている。なお、お姉さんは気付いてはいない模様。
とりあえずポニーテールを拾い、こっそりとお姉さんの髪に着けようとする。しかし無残にもポニーテールは再び地面へ落ちてしまった……。
「…………!」
男は何を思ったか、素早く園芸品コーナーへ戻り先程の花から爪楊枝を引き抜いた。そしてウインナーを試食するかの様にポニーテールを爪楊枝に刺し、お姉さんの頭へと思い切り差し込んだ!
──ズブッ!!
「イデェェェェ!!!!」
お姉さんが後頭部の激痛を訴え後ろを振り向く。しかし男は光速を超え脱兎の如く店から逃げ出していた…………。
男は気を取り直し行きつけのジムへと来ていた。ジムでは老人が歳にも負けず重いバーベルを持ち上げていた。
──ガチャン
男は負けていられないと、老人の隣へ位置取り老人より重いバーベルを準備した。が、いざ持ち上げようとしてもバーベルはビクともしない。
「…………!!」
しかしどんなに力を込めようがバーベルはビクともせず、仕方なく男は老人に助けを求める。
「1、2の、3……!」
老人の掛け声で二人掛かりでバーベルを持ち上げ、男は満足げな顔をした。そして満足して手を離した。
「!?」
1人残された老人はピクピクとしながら何とか踏ん張っている……が潰れるのも時間の問題だろう。
──ガシャーン!!
老人は耐えきれず潰れた。
男は次にランニングマシンへ……。しかしただ歩いているのもなんか退屈。走ると疲れる。男は直ぐにランニングマシンを飽きてしまった。
サイクリングマシンに跨がり気ままにペダルを漕ぐ男。動かない自転車とは些か不思議な気分であったが、悪い気分はしなかった。
「…………!」
男は何を閃いたのかサイクリングマシンから降り、バーベルで潰れた老人の脇を通り抜け何処かへと…………そして何処かから拝借したマウンテンバイクをランニングマシンの上に乗せ、勢い良く走り出した!!
「♪」
何の意味があるのかは謎だが、男はとても満足げだ。
「お客様困ります!!」
当然店員に止められ、男はマウンテンバイクを諦めジムを後にした。ジムの外では老人を載せた救急車がサイレンを鳴らし走り出したところである。
──ガチャ
家へ戻ると出迎えてくれるのは水槽の金魚だけ。エサをあげ沈んだ時計を見ると時刻は8:00。もうこんな時間と男は手短にシャワーを浴び、冷蔵庫の物を適当にガツガツと漁り食べ、水槽の時計をざばっと取り出しタオルで拭く。
──カチ……カチ
時計は再び時を刻みだし、男は『明日も頼むぞ』とベッドへ潜り込んだ。