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空中綱引き2

《メール:端末名「昭子」に送信完了》


 その電子音が脳髄に響くとともに、昭子は進む。


 紐を引き、水ドラゴンへ急速に向かう。それに対して水ドラゴンは水球を展開して昭子を迎撃する。


 水球が回転し、昭子の向かう先――ドラゴンを隠すように動く。このままだと昭子はまた水球にぶつかって速度が落ちる。


 その前に昭子は片腕を水球へ向けた。


 (『 《)  (なんか火が出てく)  (れお願いだ頼む、故)  (郷に病気の妹がそこ)  (そこの威力で飛んで)  (いる火を見たいって)  (言っているんだ! )  (本当に頼む!!) (>』)


 気のせいかもしれないが、声が聞こえる。


 瞬間、昭子の手から火矢(ファイアーアロー)が出てくる。それも無数。二桁は越えてると思えるほどに大量にそれが展開。一斉に水球へ飛んでいく。


 火矢(ファイアーアロー)は進む。それらが水球に当たった瞬間、膨張破裂大爆発。 水蒸気がそこらを舞う。


「――!」


 気のせいかもしれないが、驚きを見せる水ドラゴン。その姿は水蒸気によって隠れ始めて、


「――ぎぎゃえたあッ!」


 隠れきる前に、昭子の蹴りによって地面へ落下する。ドラゴンの悲鳴ともとれる咆哮が響く。


 ドラゴンが立て直そうと羽ばたく、の前に昭子が殴る。殴る。殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。


 そのたびに悲鳴が、どんどん大きくなり、地面に落ちる。


 衝撃音。残念ながら地面に近い所は全て作物の茎で覆われている。ドラゴンと昭子がどうなったのかが分からない。


《端末名「昭子」:接続が途切れました》


 同時にそんなお知らせがナノマシンに届く。まぁ障害物の作物が沢山あるからね。


 ⋯⋯どうしようかな。暇だ。


「茎からなんか作るか⋯⋯」


 辺りの作物の茎は、先ほどの戦闘の余波で結構吹き飛ばされている。吹き飛ばされた茎はどれも細くて加工に向いてそうだし、なんか作るか。






 ◇◆◇◆◇






 全然できんわ!


 俺は今まで草花で何か作ったことが無い。なんか草冠でも作れるかなとか甘く考えてたが、そもそも作り方が分からない。ナノマシンに聞いてもインターネット検索された。もちろんエラー。


 その結果、何が出来たかは全てゴミ。ゴミくず。何も価値のない物体のみだ。


 たとえば、かごっぽい物を作ろうとして出来たジャングルジムみたいな物質。鞠っぽい物を作ろうとして出来たジャングルジムみたいな物質。逆にジャングルジムっぽい物を作ってみたらいけると踏んで出来た、ジャングルジムみたいな物質(酷い)。


 唯一まともに出来たのは、箸だ。ただ無駄に硬い茎を切っただけの物。工作って言い切ってはダメな気がする物だけだった。


《端末名「昭子」:接続がアクティブになりました》


「え」


 急に聞こえる音声合成。それと同時に聞こえる足音と、


『翔ちゃん!』


 高級介護アンドロイドの声。その聞こえる方向へ振り向くと『大丈夫?!!』瞬間に頭が彼女の腕によって包囲されていた。


 ぎゅむいっと彼女の肉体の柔らかさを顔面で感じた。


 高級介護アンドロイドには肉体的な柔らかさを持っている。なんか良く分からないが昭子の皮膚は、任意で柔らかくしたり硬くしたりと出来る。


 状況によって使い分けることが出来るようになっているのだ。硬くするときは、救難保護などに使える。がれきやガラス破片などを庇ったり、危険な人物からの戦闘時に守りになり、武器となる。


 柔らかさは、うん、まあ、安心感?


 その無駄に高性能な皮膚と温かさを感じながら昭子の鳴き声を聞いた。


 そうなんだよ。なんか泣いてるんだよな昭子。


 うわんうわんと泣いている。目から涙を流してる。⋯⋯そんな機能、このアンドロイドにあったっけ?


 良く分からないけど、なんか俺も気分的に泣きたくなったので、一緒に泣いた。


 流石に涙は出なかったけど、うわんうわんと声をあげた。


 そういえば荷台はどうしたんだろうな? あの縄って荷台に入れてたはずだし。

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