火矢《ファイアーアロー》
最悪だ、最悪だ、最悪だ!
俺はパンツ一丁で顔を覆うように蹲っている。昭子から言われた『パンツも脱いでね翔ちゃん』という言葉。それがあまりに恥ずかしい台詞ゆえ、顔を上げることが出来ない。ただ、恥ずかしさと屈辱的な未来に、恐怖を感じている。
パンツ一丁なら大丈夫だ。恥ずかしくもなんともない。
だが、全裸はダメだ。絶対にダメだ。
全裸とは生まれたままの姿でいる事。つまり陳子を出しちゃうってことだ。
陳子というのは男の魂そのものだ。ゆえに陳子をおっぽろげにするのは弱点を出してしまう。そんなことは許されない。男して⋯⋯いや、人間の本能的な考えとして許してはいけない!
『大丈夫です翔ちゃん。陳子さんがどんな形でも気にしませんよ』
た、探勝じゃねぇし!?!?
むしろ平均より高いくらいだし?!?! 確か平均って7センチくらいだよね、俺はそれより大きいし? 余裕だし? 俺別に陳子にコンプレックスとかねぇし? だから別に珍トレとかしてねぇし??
『形って言っただけで、別に陳子さんが小さい方とはいってないですよ』
⋯⋯嵌めやがったか昭子!!
『別にそんな意図はナイナイですよ翔ちゃん。さぁパンツ下ろしますよー』
「やだぁ!」
俺は逃げようとするが昭子に瞬時に羽交い絞めにされた。俺は暴れて抵抗しようとするが、昭子の体はビクともしないので言撃で拘束を解こうとする。
「お前! 介護用アンドロイドだろ! 介護対象に危害を加えてどうするんだよ!」
『危害ではなく、介護対象の運動補助トレーニングなので問題ないですよー』
「何処がトレーニングだ! 本人が嫌がっていたら意味ないだろ!」
『リストカットを好む人間を止めるように本人の為になる事ならば、ある程度は意思を無視できるんです。なにせ介護レベル5ですから!』
インターネット認証をして介護レベルを下げられないため、俺は拘束をほどくことが出来なかった。
そのまま昭子の思うがままアレコレされる。抵抗は無意味。介護アンドロイドはロボット三原則を例外的に無視できる。そのアンドロイドである昭子には敵わなかった。
⋯⋯この後の記憶は無い。無いったらない。小さくて可愛いとか言われた記憶とかもない。無いのだ
◇◆◇◆◇
手のひらを城の壁に向ける。そして、魔法の発動キーである――詠唱を始めた。
内容は、火矢だ。
「《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》」
そう叫ぶと俺の手のひらから火が出て、飛んでいく。そして着弾。爆発なんてせずに、ただ火が散った。
まぁ、ただの火の塊なので派手な事にならないよな。
『おめでとう翔ちゃん。夢が叶いましたね!』
「え、うん。そうなんだけどさ」
俺は一度深呼吸をして、叫ぶ。
「何この詠唱! 致命的にダサいし、カッコよくない!」
最初の文から色々とおかしいんだけど! なんだよ《なんか火が出てくれお願いだ頼む》って。全体的にふわふわしているんだけど!
その後もなんだよコレ? 俺に病気の妹とかいないわ!
『そう言っても⋯⋯本にはコレしか詠唱がありませんし⋯⋯』
「なんでこれしかないのさ⋯⋯」
『書いてある場所を適当に抜粋すると――
世にも奇妙な火矢の詠唱を教えてくれた。こんなんでも一応は火矢を発生させてくれるらしい。マジ受ける』
「作者にも笑われてるじゃないか! マジ受けされてるよ!」
俺は悲しみの感情を叫んだ。
いやさ、俺は本当に魔法に対してあこがれていたんだよ。カッコ良い詠唱で敵を燃やし尽くす的な魔法使いにあこがれていたんだ。
そしてそれは部分的に出来た。出来たが⋯⋯こんな詠唱は無いだろ! あまりにもアレ過ぎる。
「これ、どうにか詠唱内容は変えられないのか?」
『分かりませんが⋯⋯出来ない事は無いと思います。本には奇妙な火矢の詠唱だと書かれていますので他の詠唱があることは分かりますし』
「じゃあ。それっぽい詠唱で火矢を打てる可能性があるってことだな! 《炎よ! わが敵を燃やし尽くせ!!》」
何も出ない。
「糞が! さっきの詠唱よりもそれっぽいだろ!」
『何らかの条件が有りそうですね』
「⋯⋯もし条件が有るとしたら、なんだ? 本には何か書かれていないのか?」
『本にはその辺は書かれていませんでしたが⋯⋯幾つか心当たりがあります』
心当たり?
『そもそも、なぜ翔ちゃんが魔法を使えるようになったと思います?』