すれちがい
団体戦まで、あと28日…。
何事もなく無事に終わる。
あと27日……
26日……
25日………
あと24日。
この日、問題は起きた。
「いいよ、優。少しずつ同時並行できるようになってきたよ?」
3種同時並行が出来るようになってきた優を褒める奈那。
「それもこれも、奈那のおかげだね!」
純粋に喜ぶ優。
「そのうち“風火水電”が“嵐炎氷雷”に進化しそうなくらい、それぞれの強度が鍛えられてきてるから…ステップアップしてみるよ?」
優にレベルアップを提案してみると、
「んー…強度が上がるなら、試してみたい…」
それに挑戦を図る優。
「じゃあ、1つずつ試すよ? まずは風から…」
奈那は、風を嵐に進化させることを試みる。
優は集中していた。
風にチカラを込めて、嵐にするために…。
……その時だった。
優が集中しすぎたからか、異常な強度に変貌した。
それは、彼女の100%を軽々と越えた強度に。
その風…いや、嵐は、奈那を宙へ舞わせ……
「っ!? ヤバイ!!!」
香宇が気付いて奈那を助けに行こうとするも、間に合わず…
嵐は不規則に狂い乱れ、何度も奈那を地面に叩きつけた。
奈那は重傷を負ったが、不幸中の幸いか、地面に叩きつけられる瞬間、無意識に嵐を起こしてダメージの緩和をしていたみたいだ。
「奈那! 奈那!!」
とても心配そうな目で奈那を見つめ、少し涙ぐむ。
「…」
すると、黙って見ていた香宇が口を開く。
「奈那なら大丈夫だ。意識は、ある。心配すんな、優…」
その言葉に、安堵しつつも涙目な優。
千紗も、由真も、同時に安心した。
「…保健室に運ぼう。今日は練習できないしな」
由真がそう言うと、4人で協力して保健室へと奈那を運んだ。
ーーー……そして、保健室。
奈那は痛そうな面持ちのまま、眠っているように見えた。
「んま、明日か明後日には治ってるだろ」
傷の具合を見て、香宇は他3人に言い放った。
すると、由真は、
「今は少しの時間も惜しい。千紗の治癒で治さねぇか?」
と提案する。が、しかし千紗は、
「それで治してもいいんですけど、実は…」
治癒の弱点について話す。
「自分に使うときは支障ないんです。でも、他人に使うとき、その人の術力を使っちゃうんですよね。…言いたいこと分かりますか?」
語りつつ、メンバーに聞く千紗に、由真が答えた。
「それでもいい、治せ」
強い口調で治癒を強制する。
すると、千紗も強い口調になり、
「…続きを聞いてもらえませんか?」
と清聴を願う。が、しかし、
「語るのはいいから治せって言ってんだよ!!」
と、ついに怒鳴り始めてしまう。
千紗は静かな口調で、
「…しません。続きを…」
『聞いてください』と言おうとするが、その瞬間…
由真は、千紗の胸ぐらをつかみ、
「治癒しろっつってんだよ!」
と威圧してしまう。
「……」
すると、ついに千紗もキレてしまい、
「ゆっくり休ませてあげるのも治癒だっていうのが分かりませんか!?」
と正論を由真に向けて言い放つ。
…それを見かねたのか、
《ゴッガァァァァン!!!!》
と超騒大な音を立て、香宇が校舎の壁を吹き飛ばす。
さすがにビックリした由真と千紗は、香宇に視線を直す。
そして、香宇は、
「こんなとこでケンカすんじゃねぇ。曽江川さん、最後まで話を聞け。千紗も、今から話させてやっから落ち着け。まとめてブッとばすぞ?」
と、互いに向けて、凄まじい見幕で睨みながら言い放つ。
「…ごめんなさい」
「…わりぃ」
さすがに落ち着き、千紗は話し始める。
「…私の治癒は、他人に使うとき、その人の術力を多少消費して回復させます。すると、その人の体力は全快しても、術力の絶対値が半減または減少します。それが治るのには長い期間を必要としますから、団体戦には間に合いません。弱体化したまま団体戦に挑むワケにもいきませんし、今は寝かせるのが最善です。…いいですね?」
ここまで話したとき、由真も納得し、
「…分かった。急かして悪かった、千紗」
と、怒鳴ったことを反省していた。
千紗は、言えて気が済んだからか、快諾。
「いいですよ。気にしてませんから」
微笑みながら由真に言った。
「それはそうと」
香宇は切り出す。
「優。オマエの風、嵐んなってたな? まだ不規則な風向きだけど」
成長を褒め称えた。
…しかし、何やら優の様子がおかしかった。
「…優?」
香宇が優しく声を掛けるが、
「…」
無言で居る。
すると優は、黙り込みながら、静かに保健室を立ち去る。
「…? どうしたんだ?」
人の動向に鈍感な香宇は、優の気持ちに気づかなかった。
「…柑崎さん」
千紗は香宇に、優しく声を掛けた。
「そっとしておきましょう。中学の時、刺神さんとも石垣さんとも同じクラスでしたけど、石垣さんは、少し落ち込みやすいんです。自分が原因で何かあった場合は、特に。…だから、逆に声を掛けないでください。落ち込みやすく、傷つきやすいので…」
「なるほどな。…確かに」と、香宇は素直に把握した。
が、心の中では、
(…奈那だって、優の成長を喜ぶだろうよ。あんなに強い嵐を吹かせてたんだからな。怒ったりすることは絶対に無ぇだろ…)
と、余計かもしれない心配をしていた。
…その頃、石垣は…
(…師匠の奈那に重傷を追わせちゃったね…。まさか自分でもあんな強風を吹かせちゃうとは思わなかった。しかも乱気流だったし。…怒ったりしないかな? 奈那…)
と、学校の近所にある公園で、かなり落ち込んでいた。
それをたまたま見た女子高生が寄り添う。
「…ねぇ。キミは、そこの古瀬川学園の子か?」
その子は問う。
「そうだね。そういうキミは?」
今度は優が問う。
「自分は、沖城学園2年、
尾上 沙希
だ。以後よろしくね?」
尾上 沙希。
前髪を大きく3つに分けていて、後頭部にパイナップルヘアーを作ったクリーム色の髪、白いワイシャツを第3ボタンまで着けずに開けていて、胸元の黒いブラジャーが少し見えてしまっている。比較的平らな波目の、短めのスカートを履いていて、ルーズソックスに革靴を履いている。
一見すると不良っぽいが、根は優しい、背丈は高めの子。
「私は、石垣 優。よろしくね?」
優は、とりあえず丁寧に自己紹介をする。
「…もしかして、キミも誰かとケンカした?」
唐突に沙希がそう言うと、優はギクッと動揺し、
「う、うん。…実は、ね?」
と、認めた上に話し始める。
「私、師匠がいるんだけどね。その師匠と鍛練してる最中に、怪我させちゃったんだよね…。今は保健室で寝かせてるんだけど、怪我させちゃったからね…気がかりでしょうがなくてね。…で、それを巡ってか、チーム内でみんながケンカしちゃってね…。…どうしたらいいんだろう?」
とっても暗い口調で話す優は、自己嫌悪に陥っていた。
それを聞いた沙希は、優しく声をかける。
「自分も似たようなモンだよ。先輩が強制を貫いてきて、ガマン出来ずにケンカして飛び出してきちゃったんだ。…見てよ、この傷…」
そうして見せた傷は、手の付け根から肘までを火傷したような痕になっていた。
「うわ。ひっどいね…」
「弱点となる属性に耐える訓練だとか言って、強制してきたの。最初は耐えようとしたんだけど、途中から……“克服してないのに”強度を増してきたから、耐えられずに負傷した…。それが、この火傷…」
怒りで手が震え、能力が垣間見えた。
「…尾上さん…」
ーーー…そう話し込んでいる2人のもとに、意外な人物が現れ…ーーーーー