幼馴染みと…
古瀬川学園高等部
先鋒:曽江川 由真
次鋒:石垣 優
中堅:刺神 奈那
副将:結原 千紗
大将:柑崎 香宇
団体戦まで、あと29日。
「…紗原さんも、羽狩森さんも、尋常じゃなく強かったな。昨日の戦闘が頭から離れない…。でも、それに勝ちたいと思ってるアタシが居る…」
昨日の戦闘の余韻に浸りながら、闘争心メラメラになる柑崎。
古瀬川学園高等部は、今日は平和に授業が進められた。
「…」
頬杖をついて窓の外を眺めていたとき、ふと思い出す。
「そういや、アイツ元気にしてっかな…」
放課後になる。
そして校庭に移動し、鍛練しようとした時だった。
「まさかの古瀬川だったんだ、香宇ちゃん」
柑崎を呼んだその声は、肩の少し下まで伸びた黒髪ウェーブ、少しだけつり目、黒いVネックの上に白く細い長袖、藍色のジーパン、明るい茶色の革靴を履いた女だった。
「…脳内で噂をすれば、本人が来るとは…驚いた」
クスッと微笑み、その姿を再確認した。
「そういうオマエは、ドコなんだよ? 真里」
どうやら“真里”という名前のようだ。
「私は“未垂咲高校”だよ!」
その校名を発言した途端、反応したのは、
「…“宮井 拓海”のいる未垂咲、だと!?」
由真だった。
「…そうだよ。曽江川さん、こんにちは♪」
なんと真里は、由真のことを知っていた。
「…なんで知ってるんだ?」
ちょっと不満げに、由真は問う。
「惜しくもラッキーセブン入りを逃すところだった。ギリギリ入れた…って、宮井先輩が言ってたんです。その時に出てきた名前は、あなたの名前だった。だから知っています♪」
と、ありのままを話す真里。
「なるほどな…ん? 待てよ?」
何かを閃いたように、由真は切り出す。
「未垂咲ってことは、相当な実力者だな? ちょっと手合わせ願いたい…」
手合わせを申請した直後、香宇が横槍を挟む。
「曽江川さん。手合わせして絶対にビックリするぞ? アタシ、真里だけは闘いたくない人の1人だからなぁ…」
「お前が闘いたくない…だと?」
その言葉に心底驚きを隠せなくなる由真だが、
「だが、手合わせをすると言った以上、引く気は…無い!」
と、闘争心を真里に向ける。
そして、戦闘開始。
前回の模擬戦と同じように、あらゆる数値設定は無し。
「いくぞ…!」
すると、逆算して残っていた氷の攻撃。
広範囲攻撃しながら手にもまとい、接近を試みる。
しかし…
「…ふふっ」
意味ありげに笑う真里。
笑顔で、その氷の攻撃を防いだ上に、手にまとった氷をも砕いた。
「…!? なんっ…!!」
その現象に、思わず立ち止まる由真。
「だから言ったんだよ。闘いたくないって…」
そう彼女に向かって言う香宇。
「…何が起きたのか理解できねぇ。なんだ、これ…?」
理解できず、再び攻撃を仕掛ける。
……何度も何度も仕掛けるも、全て真里には効かなかった。
「…まさか、これって…」
何かを感じ、由真は察してきた。
「属性攻撃の全てを消し去る能力、か…!」
そう。真里は、超能力者とは少し異質な存在だった。
「私は、香宇ちゃんや曽江川さんのように“超能力者”じゃない。その逆で、“超能力を無効化する”…いわば異種と呼ばれる人種ですよ…!」
「異種…聞いたことある。超能力者とは別枠で、逆の能力を身に付けた者達。その代償として、超能力を扱うことは出来ない…」
「よく知ってますね。その通りですよ♪」
聞いたことがある噂を得意気に真剣に話す由真に、真里は明るく笑顔で返事した。
すると、また羽狩森が現れた。
「ちょ、どっから…!」
いきなり現れた輝夜に、香宇は驚いた。
しかし、それを軽く流し、真里に話し掛ける。
「真里…。いや、“須藤 真里”…。直視するのは初めてだが、以前から知っていた。そちらも、そうだろう?」
どうやら注視しているようだ。
「ふっ。羽狩森さんの事は誰でも知っていると思ってたけど? 世界最強で、能力が解析不明。去年も一昨年も、第2位“瀬宮 舞”に圧勝。そんな有名人、知らない方がおかしいと思いますけどね?」
そこまで語ったとき、香宇はギクッとツバを飲み込んだ。
「…え? まさか、香宇ちゃん知らなかった…の?」
その固唾を飲む様子を見た真里は、率直に質問。そして香宇は答える。
「…昨日まで知らなかった…すまん…」
珍しく、しおらしくなった。
「…須藤。お前は属性だけを消す。なら、武道を極めるがいい。属性だけで全ては成り立っていない。そこには不思議なモノも存在する。私がそうであるように…消せない能力もあるということだ。覚えておけ…」
その言葉にカチンと来て、真里は輝夜に攻撃をしかけた。
「本当に消せないのか…試してみる?」
怒りに身を任せたからか、言葉遣いが荒くなる。
闘争心を剥き出しにすると、輝夜は少し呆れ気味に、
「消せない闘いすることになる。後悔してもいいならば…」
と、仕掛けられた攻撃を受け止め、
「…証明しよう。消せない技があるということを…」
異常な密度の術力を、真里めがけて振りかざす。
「こんなもの…」
いつものように消そうとした真里だったが…、
「っ!?」
消えず、そして大ダメージを負い、さらに、
「な、んっ…だってぇ!?」
地面に叩きつけられた。
同時に、校庭が再び地割れ状態になっていた。
「あぐっ!! な、んだ…このパワー…」
倒れる真里。その彼女に向けて、輝夜は語る。
「須藤。そちらの“属性無効”は、あらゆる属性を消すため、実質最強と言えるだろう。だが、私の
“総合攻防”
の前では働かない。なぜなら、総合攻防は、全ての能力を具現化できるし、全てを無効にする事まで可能だからな。私に勝てる者などいない。可能性があるとしても、瀬宮しかいないだろう。今のところ瀬宮にも無敗だが、あちらは“自然に出来上がった最強”…それとは少し違う私だが、無敗の最強たる私の前に、立ち塞がれる者は居ない。例外なく、な…」
熱心に語る輝夜。聞き入る真里、香宇、由真。
すると、香宇が質問する。
「今、間違いなく“自然に出来上がった最強”が瀬宮さんだと言ったよな。ってことは、羽狩森さん…アンタは、
自然発現じゃない
最強…つまり、何かしらの開発をした能力者…ってことか?」
その言葉を聞いた直後、羽狩森は少し動揺したが、表情では隠し、
「そうだ。自然の能力じゃない…。それは、いずれ知ることになるだろう…。だが、今は教えないでおこう。嗅ぎ回られているからな…」
何者かに警戒した様子で、会話は突然、遮断された。
「邪魔したな、古瀬川学園…。次は、団体戦で会おう…」
そう言い残し、輝夜は姿を消した。
団体戦まで、あと28日……ーーーー