鍛練
古瀬川学園の選手5人。
由真は、だいぶ蓄えてきた逆算が、限界域に達していた。
「わりぃが、もう蓄積できねぇっぽいわ、柑崎。リミットが来た。これ以上は逆算できねぇ…が、だいぶ様々な自然現象を使うことが出来るようになって良かったわ。サンキュー」
「どうってこと無ぇよ。どういたしまして」
由真は少しだけ悔いて、香宇は何気ない感じで返事した。
同時に、奈那と優。
「だんだん“嵐炎氷雷”っぽくなってきたよ、優! すごいよ!」
3種同時並行、威力増大。2つを同時に成し遂げた様子。
それを間近で見ていた奈那は、褒め称えた。
「奈那のおかげだね。ありがとね! これで団体戦に向けての不安は無いね!」
教えが良かったと言わんばかりの感謝感激を、奈那へ向けた。
少し時間が経ってから、千紗は、香宇のもとへ。
「ありがとうございました。私の課題でもあるパワー強化、克服しました! ちょっとだけ手合わせしてもらえませんか? 確認で…」
パワーが上がった事を実感したいがために、香宇と対闘する提案を試みた。
すると、香宇は快諾。
「いいだろ。見せてほしかったしな」
いきなり構える千紗。
しかし、いつの間にか香宇も構えていた。
「いきますよ。柑崎さん…」
すると、踏み込んだ瞬間、香宇の背後に既に移動していた。
そして拳を作り、背中ど真ん中を正拳突き。
その拳に込められたパワーは、尋常では無かった。
一般人の拳が150~200kg 、鍛えている人で400kg ほど。これが通常。
一撃に込めた術力は、数値にして1480kg 相当の“激重拳”。
術力と拳速を兼ね備えていないと出ない数値だった。
さすがに重かったのか、香宇でさえも、
「っ、ぐぁっ!?」
と、耐えきれずに壁まで一直線に飛び、ドッゴォォン!と身体がめり込んだ。
「す、すっげぇ破壊力だな…。そこまで鍛えられたのか…!」
あまりの強度に驚愕するも、痛みよりも喜びと嬉しさが勝り、香宇は、スッと立ち上がる。
「100%を拳に乗せてみたんですけど、まさかこんな破壊力だとは…私も思いませんでしたよ…!」
千紗は、自分でも驚いていた様子だった。
由真は、非常に驚いていた。
(スピードだけだった結原が、パワーも兼ね備えたか。こりゃあ相当の手練れじゃねぇと苦戦するだろうな…。ほぼ弱点がなくなった、と考えてもいいだろうな…)
部長としてか、いち個人としてかは分からないが、千紗に対して羨望し始める。
その時、香宇は考えていた。
(今ダストの話を持ち出すか…?)
ダストについて暴露するか考え込んでいたのだ。
(アタシが強いのはダストのおかげ…とか言っても信じがたいだろうし、かといってダストについて語っても伝説程度にしか思われないだろうし…。言うべきなのか、言わずにいるべきなのか…すっげぇ迷うわ…どうしよ…?)
葛藤は数十秒ほど続いた。が、
(…いっか。余計な心配させたくねぇしな。言わねぇでおくか…)
結局、言いそうになった言葉を飲み込んだ。
「全員もう準備万端だな? あとは当日まで慣らしだな!」
部長の由真…かと思いきや、香宇が偉そうに言い放つ。
「お前が言うんかよ!」
思わずツッコんでいた由真だった。
…そして鍛練が終わり、全員が帰路に着く。
「みんなお疲れさん。また明日な!」
まず部長の由真が学校を出て、帰路に着いた。
「私と奈那も帰るね。またね♪」
香宇と千紗に手を振りながら、優は、奈那と帰路に着く。
しかし、香宇と千紗は帰らなかった。
歩いている途中で違和感を感じたからだ。
「…柑崎さんも、同じモノを感じたみたいですね?」
「あぁ…ちょっとした悪寒だ…」
そこに、ある男が現れた。
「…ん? 雰囲気的に、古瀬川学園の代表選手かな? キミ達」
冷静な声で話しかけてきた。
「そうだけど…アンタ誰だ?」
香宇が誰だか知らなかった男の正体は、銀髪で毛先の方を赤紫色に染めていて、Yシャツをインナーに赤紫色のブレザーを着ていて、赤紫色の制服ズボンを履いた男…そう、
「俺は“宮井 拓海”。未垂咲高校3年、そして大将を努める者だ。以後よろしくな」
宮井 拓海 だ。
「…曽江川さんの…ライバル…」
その単語が、千紗の頭に、ふとよぎる。
「そうそう。よく知ってるねぇ? 結原さん♪」
少し不気味な笑みをニヤリと浮かべながら、拓海は言った。
「…そういえば、中学の時、貴方に苦戦を強いられたこと、覚えていますよ。たしか個人戦全国大会の準決勝…貴方と対闘して、烈風で近寄れずに圧倒された…」
鮮明に覚えていて、その全てを語り始める千紗だったが、
「そんな細かく言わなくても覚えているよ。スピードに特化したキミに勝つために必死だったんだからさ♪」
と、彼は話を途切る。
「それはさておき、俺が本当に用があるのは、柑崎さん…キミなんだよ」
本題を話そうと切り出す。
「アタシか? なんだよ」
ちょっと喧嘩腰でズイッと近寄り、拓海を睨む。
「おいおい、そんな威圧すんなよ…別に悪いことじゃねぇからさ」
優しく返し、そして本題を話す。
「実は、俺は“比長樫 万理”を探してる。見たことあるか?」
彼も裏世界の住人なのだろうか…?
「いや、アタシは知らねぇ。千紗、知ってっか?」
千紗の方向に顔を向ける。
「いえ、知りませんね。どういう人ですか?」
2人とも知らなかった。
「あ、でも…」
すると香宇は、口を滑らせてしまう。
「その名前、ダスト所有者の1人だっていうのは聞いたよ。アタシもダスト保有者だからな。でも姿を見たことは…」
そこまで言ったとき、時が止まったかのように、千紗も拓海も、香宇を見ながら唖然としていた。
「…?」
最初は何も分からなかった香宇。だが、考えてようやく察した。
「…あっ。」
そう。うっかりダストの名前を出してしまったのだ…!
「ダスト…って、まさか、あの伝説の…?」
どうやら千紗は、聞いたことは有るみたいだった。
「ダストなんて、初めて聞く単語だが…ほこり?」
直訳して思考に至る拓海。
しかし、それを否定し、正しく教えようと、香宇は語り始める。
「…言っちまった以上は話しておくが、ダストってのは、フレアの塊だ。フレアってのは、大気に残留する能力使用の痕…“大気残留型能力痕”のこと。んで、フレアを故意にかき集めたのがダスト。なんでも“塵も積もれば山となる”という言葉をモチーフにして名前をつけたんだとさ…」
最後の方は少しだけ呆れ顔で話した。
そこまで暴露すると、千紗も拓海も納得した。が、
「そのダストってのは、いくつあるんだ? 今の話からすると、キミと比長樫は持っているんだろう?」
拓海は、1単語すらも聞き逃さず、気になって質問した。
「全部で6つ、確認してるよ。そのうちの1つはアタシ…!」
ダストの名前や所有者の名前を出さずに言い放つ香宇。
「それぞれ名前は付いてんのか?」
痛いところを突いてくる拓海。
「付いてるが、それについて話すと長くなるぞ?」
あまり話したくない、という感じを醸し出す香宇。
それを察してか、拓海も退いた。
「…いつか話せるときに、そのことのついて教えてくれ。また来る…!」
ーーー……拓海が帰ってから数分後。
「…」
少しだけ、拓海の事が気になってしまった香宇。自身で気付かなかったようだが、ずっとボーッと立ち尽くしていた。
「…柑崎さん? 宮井さんに惚れちゃってますか?」
少しふざけ気味に、千紗がからかう。
「べっ、別に惚れてなんかいねぇよ…!」
頬を赤らめながら、目線を逸らし、
「帰んぞ。同じ方向だしよ、一緒に帰るとするか…!」
あたかも何もなかったかのように頑張って振る舞った。
千紗「やっぱり惚れてますねぇ? ふふっ」
香宇「だから惚れてねぇっての!!」
恋愛について弄られながら、香宇は帰宅した。




