1 異世界転生はもう当たり前
平成後期、あるジャンルのライトノベルが爆発的に流行した。
――異世界転生ものである。
簡単に説明すると、ある日突然異世界に転生した主人公が最強イケメンになり、モテモテになりながら世界を救ったりするお話だ。
中高生を中心に絶大的な人気を誇るようになり、数々の人気作品がアニメ化され、その勢いは一切衰える様子がなかった。
異世界転生ものが売れに売れているのを見て、ある有名なライトノベル作家がドヤ顔でこう言った。
「こんなジャンルすぐに終わりますよ。ライトノベルの人気ジャンルはすぐに変わりますからね」
確かにその通りだった。異世界転生ものが流行る前は、学園異能力バトルや一風変わった部活ものが大流行していたのだ。その前は硬派なファンタジー作品が多かったが、ジャンルは多岐に渡り、一般小説に近い作品も出ていた。
そう。誰もがすぐ終わるブームだと思っていた。
しかし、その発言の後も異世界転生ものの売れ行きが伸び悩むことはなく、むしろ時間が過ぎるほど人気が上昇していった。やがて有名作品が数々翻訳されて海外でも大ヒット。さらにハリウッドでも映画化され、これまた大ヒット。全米が泣いた。
それから長い月日が経ち、ライトノベルが本屋の一番目立つ場所に置かれるようになり、小説といえばライトノベルという時代が訪れた。当然異世界転生ものの人気は健在だった。
「いやあ、これほど人気だと、もう馬鹿にも出来ないですよ。もうこれは文学です。ライトノベルはライトノベルではなくなったんです」
ライトノベルは小説じゃない!とよく口にしていた有名な書籍評論家がついにそう言った。
やがて世界中の教科書にライトノベルの文章がのり始め、音楽の授業ではアニソンが流れるようになった。
日本の国歌も、「異世界に行って最強になってからハーレムを作った俺は人差し指いっぽんで楽々世界を救っちゃうんだぜ~もてる男の辛さが分かっちゃういました~」というライトノベルの主題歌に変更された。日本のこの取り組みを見習い、世界中の国が国歌を変え、国旗をアニメ絵にする気にも表れた。当然この間も全米は泣いていた。
そして異世界転生ものが世界中を支配した頃、一人の科学者がとある装置を作った。
それこそが、異世界転生装置である。誰もが待望していた夢の装置。退屈な現実からおさらばし、新たな人生を歩むことが出来る奇跡の産物。この世界以外の様々な世界、すなわち異世界を観測し、そこへ行くことを可能とした夢の装置。
そして、異世界転生はもはや夢物語ではない時代が到来した。