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どうして俺らがこんな目に

作者: ソーダ灰

いつもと同じはずだった。調子に乗っている新米冒険者を仲間で囲って叩くだけ、自分もやられているしもはや通過儀礼のようなものだ。


「なのに、どうしてこんなことになるんだよ!」


一人、また一人と仲間がやられていく。そばにいる仲間たちも相手のあまりの強さに動けず、俺自身も知らないうちに腰に手を伸ばしていた。


「おい、モッド。こいつはヤバすぎる、さっさと逃げようぜ」


「ああ、そうしたいな。でもそれができれば苦労しないんだがな」


なんとか腰から手を離したが状況は悪くなっている一方だった。


「ごめんなさい、許してください」


「もうしませんから」


あいつらの許しの言葉を聞くが


「嫌だ、どうして襲われた俺がやめなきゃいけないんだ?」


「それよりあんたらⅭランクの冒険者なんだろ?もっと抵抗してくれよ。これじゃこっちでの基準がわからないだろ?」


今日の獲物だった〝ショウマ・イハラ″ には通じず、ついに俺の番を迎えた。


「あんたら二人が仕組んだんだろ?だったらそれ相応の覚悟はできてるはずだよなぁ?」


 汗がたらり、と顔を伝っていく。


「お前みたいなやつ誰が想像できるか。それにこれは昔から続く通過儀礼なんだよ。俺たちだってやられてる」


この世界の常識を語りながら俺は今朝からのことを思い出していた。







「ようモッド、あのガキ、またスフィラさん達と一緒にいたぜ。Eランクのくせして生意気すぎんだろうが。」


確かにニックのいう通りEランクの新米が俺たちでさえ話したことのないスフィラさん達と話しているのは苛立つ。


「そうだな、そろそろ生意気な新米には〝手ほどき″してやんねぇとな」


 生意気な新人に対するリンチ、金とプライドを奪う儀式、冒険者になったなら必ず通る道だ。例外がいるとすれば最初からBランクの奴らだけ。


 「昼過ぎにでも仕掛けるか……、10人ぐらいいれば余裕だな。ニック、ヒューズやロキニー達にも声をかけておけよ。参加できないと知ったら後が怖いからな」


 あのくそ生意気なガキをやりたい奴らは俺の知り合いにも大勢いる。高嶺の花のスフィラさん達はそれだけ尊いということだ。


 「ああ、わかったぜ。声をかけておく。それと飯を食わせてからのほうがいいんじゃねぇか?せっかく食べたものを吐かせるのも楽しそうじゃねぇか」


 「お前もいいこと考えるな。でもそれお前がやられたんじゃねぇのか?」


 「おいおい、昔のことは言いっこなしだぜ。お前も似たようなことやられたんだろ」


 あの頃の思い出は確かにあまり思い出したくはない。Aランクの冒険者になって女を侍らせ、悠々自適な生活を夢見ていた恥ずかしい自分。そんな鼻をCランクの冒険者にへし折られた苦い思い出。現実を見ろと言われた時のあの冒険者達の嘲笑ったような目は今でも覚えている。


 「すまんすまん、今のは忘れてくれ。さて、そろそろ声をかけてくるかな。ちょうどスフィラさん達も席を外していることだしな」


 あいつは今一人で座っている。声をかけるなら今しかねぇ。


 「おい、ルーキーさんよぉ、いまちょっといいか?」


 やつは鬱陶しいそうな目を向けてきた。俺に対してこんな態度がとれるのもスフィラさんという後ろ盾があるからだと思うと許せねぇ。


 「なんだぁその目は!ケンカ売ってんのか!黙ってねぇで何か言ったらどうだ!」


 「急に突っかかってきたのはそっちだろうに何言ってんだ。それにしゃべらせなかったのもお前だろ」


 生意気な口を利くのは腹立たしいがそれもリンチが始まればいいスパイスになってくれるだろう。こいつの泣き叫ぶ声が今からでも聞こえてくるぜ。


 「どうでもいいんだよ、そんなことはよぉ。お前昼過ぎにギャロッティ酒場の裏に来い。一人でだぞ、スフィラさん達にしゃべったら承知しねぇぞ」


 「なんで俺がそんなとこに行かないといけないんだよ。行く理由が見当たらないね」


 「お前これから冒険者として生活していくんだろう。先輩からの忠告は聞いといたほうが後々のためだぜ」


 「わかったよ、酒場の裏だな。何を教えてくれるのか楽しみにしてますよ、先輩」


 腹立たしい言い回しをしたくそ野郎を無視しテーブルに戻った俺にニックが話しかけてくる。


 「今の間に話しつけてきたぜ。総勢で13人くる。あのガキの嫌われようも半端ねぇな、このままいってたらこの仕事続けられなくなってたぜこりゃ」


 「そこんとこ俺らが救ってやるってことか。いやぁ、いいことするな俺たちも」


 「ははっ、そうだな」


 俺たちは笑いあっていた。これから行うリンチの結末を予想し、来るべき未来をおもいながら。だがそれが訪れることはなく、俺たちは狙う相手を間違えたのだと思い知ることになった。





 「想像できなかったあんたらが悪いんだよ。Eランク冒険者が弱いやつしかいないなんてのはあんたらの勝手な思い込みだろ」


 「お前みたいなやつはみんなBランクから始めるんだよ!なんでEから始めてんだよ!」


 俺たち全員の心の声を叫びながら必死にどこかに逃げ道がないか探すニックだったが見つからなかったのか足を震わせている。


 「いやなに、Eランクから始める苦労を体験してみたいと思ってな。そしたら初めからこんなのにあたるなんて……、よくほかの冒険者は辞めないな?それが疑問だぜ」


 「一度制裁を食らわせればそれで終わりだからだよ。そのあとはやられた仲間同士でつるんだり、やったやつらの悪態をついたりで仲を築いていく」


 ニックの言葉にかぶせるように俺も答える。


 「やったほうも自分たちが通ってきた道だからそのあとはおとがめなし。そうやって回ってんだよこの業界はよ」


 暗にお前が悪いと含ませたのがまずかったのか


「なら今日から新しいルールも追加だな。目には目を歯には歯を、Eランクが調子に乗っているCランクを倒してもおとがめなしってことで、よろしくな」


 耐えられなくなったのかニックが声を上げて突撃していく。


 「ふざけんじゃねーぞ!クソガキがー!」


 ショウマ・イハラはニックの振り下ろした剣を余裕でかわすと、鞘付きの剣で横顔を殴り飛ばした。


 「いっちょ上がり。これで残るはあんた一人か……、これが一人前っていうんだからスフィラ達がどれだけ強いかがわかるな。それに比べてあんたたちは徒党を組まないとEランクすら襲えないなんて……、腰抜けにもほどがあるな」


 これまで一緒に仕事を受けてきた仲間が侮辱され俺ももう我慢の限界だった。確かに悪いことかもしれないがこれまではこうだったのだ。そこまで言われる筋合いはない。


 「ルールも知らねぇ田舎もんが何言ってやがる!急に現れてかって言いやがって、ふざけんじゃねーぞ!俺たちだってこれまで命かけて依頼を達成してきたんだよ!そう簡単に引き下がれるかっ!」


 腰の剣を抜く。この前買い替えたばかりの上物だ。貯めていた金はニックやヒューズ、ロキニー達といくつもの依頼を超えて手にしたもの。簡単には折れはしない。


 「突っ込んでくるかと思ったけど意外に冷静だな。さっきのやつの負け方を見て俺から攻めさせようってはらかな?」


 こちらの思考を読んでいるような的確な読みで作戦は当てられてしまったが構わない。待ちの姿勢だ。


 「だんまりか、ならこっちから行ってやるよ」


 風切り音が聞こえたと思ったら


 「うぐっ」


 俺は倒れていた。何が起きたのかまるで分らなかった。いやわかってきた。横顔の痛みがそれを教えてくれた。俺は、やつの動きを目で追うこともできずに殴られたのだと。


 「終わりかな。これに懲りたら弱い者いじめなんてやめて自分を磨くことに専念するんだな。ま、聞こえてないだろうがな」


 自分を磨くことに専念しろ?……しているにきまってるだろ。このランクに上がってから討伐クエストを受けなかった週なんてない。Bに上がるために必死にやってんだよ。


 「なめるなよクソガキが!」


 素早く立ち上がり油断して背中を見せているところを横なぎにした。入ったと思った。それなのに


 「うおっと、まだ意識があったのか。案外頑丈だなおっさん、でも一撃で沈められなかったのはちょっとショックだな」


 そんな言葉を言って躱された。気づいてから躱すまでが早すぎるっ。圧倒的な身体能力の差を見せつけられた瞬間だった。


 「そんじゃ、ほんとにバイバイ、おじさん。それとあんたらが俺にしようとしていたことさせてもらう」


 「なんのことだ」


 とぼけて見せるが


 「あんたら俺を殴った後は金とか奪う気だったんだろ。ギルドで話していたの全部聞いてるから。まー俺は優しいからあんたの剣だけで我慢してやるよ」


 この言葉を聞くと今日一番の集中力が発揮され、自分が一つ強くなったと感じることができたが


 「がはっ」


 俺にできたのはやつの動きを追うことだけだった、それが限界。


 「ふうっ、そろそろ約束の時間だから帰るか。それとこれは貰っていく」


 そういってやつは去っていった。俺の愛剣を腰に差して。


 「ちくしょう、どうして俺らがこんな目に」


 そんなことしか言えなかった。



 


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