スラムでの日常1
ここからは転生後の話です。
今話は最強要素なし。ただしとんでもない少女であるという印象はありな話です。
どっちかっていうとコメディーよりです。
次話の投稿は未定です。リアルで余裕があったら書くつもりです。
そこはスラムと呼ばれる荒廃地帯。
職にあぶれ、当たり前の生活を送れなくなった者が最後に行きつく人生の墓場と呼ばれる場所。
そこは犯罪にあふれていた。
「へへへ、捕まえたぜ」
「このガキ、汚ぇが上玉だ。売れば多少の金になんだろ」
いや、本人達には自分たちが罪を犯しているという自覚すらなく、全てが欲、そして生き延びるために帰結しているのだ。
まさしく人間の本能を具現化したような場所。それがスラムだった。
今、その場所でまた一人の少女が人さらいに遭っていた。
「おじちゃん、お腹空いたの?」
そして、たった今攫われようとしているこの少女自身もスラムという常識外の世界に適応仕切ってしまっていた。
自身を攫おうとしている相手の思惑の先にある願望を見抜ける程に。
それにボロボロの格好ですすけた男は少女を持ち上げながら顔をゆがませた。
「ああそうだよ。だから売られてくれ」
人情。
法外の世界であるスラムにも、小さな子供に対し同情する程度の人の心は残っていた。
男の手の中にいる少女は4~5歳くらいの見た目だ。顔は埃をかぶっていてあまり良くは見えないがパーツから普通の子どもより整っていることは間違いない。
きっと常識ある場所であればもっと上等な生活を送っていたことだろう。しかし、スラムにいる者たちにはそんな生活をさせることなど出来るはずがない。ゆえに。
「お前もいっそ奴隷として売られた方が今よりマシな生活が出来るだろう」
「見た目もスラム(ここ)ん中じゃいい方だ。きっと良い主人に巡り合える。今よりは幸せになれんだろう」
男は一人語りをするように少女を抱きしめ、歩きながら話しかける。
男は家畜の方がマシ、と言っているのだ。
しかし少女は―――
「ミーは幸せだよ」
と首を傾げる。
「ああ。だから世界を見てくるんだ。ここじゃない、常識ある世界を見てこい」
―――そして奴隷商で
モグモグ
少女は上等な飯にありついていた。
「またお前かぁーっ!!」
少女を男から引き取った奴隷商の長は頭を抱えて叫びあがっていた。
実はこの少女、ここの常連である。
少女はソファーに座り、美味しいパンを食べていた。
「どうしてお前はいつもいつもうちに売られてくるんだ!?」
「おいしっ(モグモグ)」
「聞けよ!?」
ちなみにこの少女、ミーと呼ばれるこの子が売られてくるのはこれが初めてではなかった。
最初、売ったはずの少女がいつの間にかまた売りに来られた時は「せっかく逃げ出せたのに残念だったなぁ」など言ったものだが、回数が3回、4回と増えていくと流石に「あれ?」と思うようになっていった。
また、一度売った相手に同じ奴隷を売ることもできず、少女を売れる相手はどんどん少なくなっていた。
結果、少女を隠すため、少女はここに来ると必ず長の執務室へと通されることとなっていた。
そこにある昼食や夕食などもついでに頂戴する始末である。
もはや半ば執務室の住人と化していた。
訳が分からない。
「・・・お前何者なの?」
「ミーはミーだよ?」
ゴクンとパンを飲みながら少女が答える。
また、少女がワインの入ったグラスに手を伸ばすとそれをスッと取り上げ代わりに果実水の入ったコップを置いた。
少女はそれを両手で持ってちびちびと飲みだす。
「毎回思うんだがお前のその『ミー』って名前だよな? なんか使い方が私つってるようにも聞こえるんだよな」
「?」
少女は理解出来なかったのか首を傾げている。
可愛い仕草だが長は崩れ落ちた。
コイツどうしよう―――と。
スラム育ちなので教養もなく、おまけに幼いせいでまともに仕事出来るとも思えない。
しかももはや売る相手すら事欠く始末だ。
「おまけに売れても絶対帰って来るしな」
「(モグモグ)」
「・・・本当にどうやって帰って来るんだ?」
「大儲け?」
「ああ、そうだなっ。お前のおかげで俺は大儲けだよ! ありがとな、ちきしょうっ」
長は言って少女を持ち上げ、膝に乗せると歯を食いしばりながらガシガシと頭を撫で回した。
その仕草はどこか親子を連想させるようだった。
実際、この少女と長との付き合いはそれくらい長い。
コンコン「店長お客様です」
「おー、今行くわ。ついでにこいつのこと見ててくれ」
「またですか。可愛いのは分かりますけど、仕事場に愛娘を連れてきて自慢するのはほどほどにしてくださいね」
ただでさえ子供に見せられない仕事なんですから、と入って来た女性は言う。
ちなみに奴隷商の職員は少女を長の子供だと思っていた。
執務室への入室頻度が高すぎることから生まれた誤解である。
「だから俺の子じゃねぇって!!」
「はいはい。確かに店長の子とは思えないくらい可愛いですね」
「そういう意味じゃねぇーっ」
「ほら、お客様待たせてるんですから早く言ってください」
「くそっ」
長が出ていったのを見送り、女性はふー、と息をついた。
それからくるりと振り返り少女に満面の笑みを浮かべる。
「ミーちゃぁんっ、会いたかったぁ!」
ガシッと少女をホールドし、頬ずりをする。
「ああ。可愛いっ、可愛いわミーちゃん!」
「ユーねえ、こんちゃ」
「こんにちわ、ミーちゃん! ミーちゃんはちゃんとあいさつ出来てえらいわねぇ!」
この女性、名をユーフィリアと言う。
奴隷商で働く従業員の一人でロリショタ性癖を持つ変態である。
ここで働いている理由も、奴隷として売られてくる子供の面倒を見られるからという理由で、そこだけ聞くとただの子供好きだがその夢は金を溜め将来子供の奴隷を買って自分の自由にするという一歩踏み外してしまった危険人物だった。
一応、節度はあるのか自分の買った奴隷でなければ(今のところは)そこまで酷いことはしていない。
「今日もパパに会いに来たの?」
「うん。パパご飯くれる」
ちなみに少女は長のことをパパという名前なのだと思っている。(本人に言ったことはないが)
これがまた、長の子ども説を助長させる要因となっていた。
「そっかそっか。でもまたどろんこねぇ。ここまでの道は汚いから仕方ないけど、綺麗にしましょうか」
「うん」
「(しゃあああああああああっ!)」←心の声
尚、少女は整った見た目に加えどこかぽあぽあした雰囲気で、他職員は見ているとだんだん気が抜けてくるという謎オーラを纏っている。
それが張りつめた商売をしている職員たちの癒しとなっていたりするのだが、それはまた別の話。
その後ユーフィリアの持ってきたバケツの水によって少女は汚れを綺麗に洗い流される。
それによりすすけていた髪は艶を取り戻し薄栗色の髪と幼さをもってしてもあまりある美貌が露わになる。
ユーフィリアは思わずぽーっと見とれてしまった。
「(やっぱりこの子が店長の娘なんてありえないわっ!)」
事実娘ではない。
「ミーちゃんっ、やっぱりうちの子にならない!? 私一杯お世話するわっ。ご飯だって出来るだけ美味しいものを用意してあげるし今より幸せになれるわよ!」
その雰囲気は完全に危険人物だった。
しかし少女は訳が分からないという風に首を傾げる。
「? ミー幸せだよ」
「――あー、だめかぁ~」
少女の言葉をユーフィリアは否定と受け取った。
実際には理解できていないだけなのだが、それには気付かない。
「も~、ミーちゃんはつれないんだから。・・・クッキー食べる?」
「食べるっ」
しかし最後にお菓子で釣ることは忘れなかった。
――――――――そして。
「気をつけて帰れよぉ」
「途中で悪い人に捕まったりしないでねぇ?」
「まあ、捕まっても連れてこられんのはここだろうけどな。ガッハッハ」
「ミーちゃぁんっ、また来てねぇー!!」
少女は何事もなかったかのようにスラムへと帰って行った。
その後。
「あんっ? あいつどこ行った!?」
「あ、ミーちゃんなら先に帰ったっすよ? パパの仕事長くて待ちきれなかったんじゃないすか?」
「はぁーっ!?」
「おいしっ♪」
その頃少女はお土産にもらったクッキーを美味しそうに頬張っていた。
以降。件の少女が奴隷商の長の子どもだという噂はスラム中に広がり、捕まえる意味のない相手として見かけても放置されるようになっていった。
図らずも少女はスラムでの安全な身分を手に入れたのだった。
↑これ現地主人公って扱いで良いですかね?