転生までのあれこれ―――2
本日二話目です。
転生において考えなければならない項目は以下の通りだった。
・性別(必ず前世とは違うものになる)
・生まれる地域と星(世界感によってルールが異なる)
・才能(魂に沿った能力から逸脱することはできない)
・家柄(生まれる環境によって成長具合が異なる)
・人外の場合はその詳細な種族設定を明記すること
・ヒューマンであっても同じく生まれる場所によって変化があるので必ずまとめるように
※鬼神に出会えるような人物なので必ず争い深い世界へ送ること
「これは・・・」
難しいのぉ、と老人は思った。
性別に関しては何故同じではいけないのか分からないが、その他の内容が非常に難解だった。
「世界は地球以外にもあるのかの?」
「ああ。それは数多ある世界の中の一つだ。非常に遅れてもいなくば、進んでもいない中途半端な世界だな」
「他の世界がどうかは知らんが、そんなに進歩しとる世界があるのかの?」
「うむ。そこでは人工生命と呼ばれる機械仕掛けの存在と交配によって生まれる者たちが共に暮らし、空気の清浄や無限のエネルギー、食物資源の無限化に成功し平和に暮らしているな」
「理想郷じゃの・・・」
「あまりに平和すぎる上に乱暴者の魂は転生先に選べぬ非常に制限の多い世界だ」
「わしには無理じゃな」
「争い深い世界が条件だからな・・・」
それから二人は生まれる世界をどうするか長い時間をかけて話し合った。
結果―――
『機械仕掛けの戦争。主にロボで戦っている世界(その場合ロボットを操縦する才能はない)』
『地球によく似た世界(石器時代~中世まで)』
『剣と魔法の世界(覚える魔法の種類などその世界によって異なる)』
大まかにかけてこの三つの方向性が示された。
「まず上はパスじゃな」
「うむ。機械仕掛けなどまともに暮らせるものか」
脳筋にSFの選択肢はなかった。
続いて地球によく似た世界だが・・・。
「・・・性別がの」
「うむ」
選べる時代において戦場に立つのは常に男だった世の中である。
闘いに身を置かなければならないのに一番上に性別変更の項目が邪魔だった。
「なぜに性別を変えねばならんのじゃ」
「確か魂に刻まれた記憶を一度綺麗にするため、元の体とは出来るだけ似てない方が良いと聞いたことがある」
人外を選ぶのならその限りではなかったと思うが、と鬼神は付け足した。
「ぬぅ~」
しかし、流石にその選択は出来なかった。
出来るなら人型が望ましい。
「例え記憶がなくとも来世でも戦いに身を置ける世界でならねばな」
「でなくば輪廻神どもの許可も下りないだろう」
消去法で転生先は『剣と魔法の世界』に決まった。
「この系統の世界ならば男女の戦時の差は少ない。女子であっても問題なく戦えるだろう」
うんうん、と鬼神は頷いた。
「その中にもいくつか種類はあるようじゃが・・・?」
「問題ない。この系統ならばどれを選んでもそこまでの差はないだろう」
という訳で鬼神はてきとうな世界を書きこんでしまった。
老人もそこまで気にしていなかったので他の世界の資料を漁るようなことはしなかった。
二人にとっては戦えればいいのである。
そして、今度は家柄と才能、種族選びになる。
人族の中でも亜人種に分類されるものが数多存在し、その多さに二人は頭を抱えた。
「無理じゃっ、わしには選べん!」
「玄海殿っ! 気をしっかり! 気持ちは非常に分かるが、これが重要なのだ!」
「何を言うかっ。この獣人という項目を見よっ、ただでさえ数多の動物の人化族がいると言うのに金だの銀だので色分けしおってっ、細かすぎじゃ!」
「うむ。しかもどの程度ヒューマンに近いかで名称も異なるとはな」
「わしにこれを選べと?」
「玄海どの」
「なんじゃ?」
「ヒューマンにしよう」
鬼神は細かい設定を決めることを放棄した。
そして老人もそれに乗った。
「ときに玄海どの」
「なんじゃ、今度は」
「実はこんなものがあってな・・・」
鬼神は石板のようなものを渡した。
そこには『18,900p』なるものが書いてあった。
「・・・これは?」
「転生ポイントとでも呼ぶものでな、このポイント分まで使い切らねばならん」
「ほほう?」
「ちなみに玄海どのの元のポイントは2万。使った分は種族分が100で、性別と世界で500ずつ減っている」
「随分と減りが少ないんじゃな?」
「……普通は3000くらいらしい」
「何故にそんなにわしのは多いのじゃ?」
「輪廻神曰く、玄海殿のような存在は魂の格が違うらしい。長く戦いに身を置き精神を研ぎすますことで磨かれるそうだ」
「で」
「―――全部使い切らねばならん」
「「あああああああああああああああああああああああああ!!」」
脳筋二人は頭を抱えた。
普通は喜ばしいはずなのだが、種族の恩恵とかの項目をみるのも面倒くさがった二人だ。
それが大量にあり過ぎるポイントの采配なんて繊細な作業をちまちま行わなければならないなど耐えられそうになかった。
「そうじゃ! とにかく高い買い物をすればいいんじゃ! 鬼神殿、大きくポイントを使う項目を見せてみい」
「おお、玄海殿。ならば王族の家柄なんてどうだ、これは高いぞ。なんと5000pだ」
「いいのぅ。しかしそれでは戦いに身を置けんではないかっ」
「た・・・確かに。では―――ん? この家柄はやけに基礎の才能が高いな」
「ほう?」
鬼神の見た項目では1万pと先の王族よりも必要数が大きかったが、その分効果も絶大だった。
「だが・・・王族と書いてあるな」
「くっ。才能が惜しい・・・・・・いや待てっ! ここを見ろ玄海殿っ」
「む」
→《孤児化》マイナス3000p
「「これなら戦えるっ」」
二人はどうしようもなく脳筋だった。
そして早く采配を終わらせたい、ついでに闘いに深い関わりを持たせたい二人は狂気ともいえる割り振りをしていく。
最後に。
―――鬼神の加護―――2000pを入れて二人は満足した。
「これでよし」
「うむ」
資料は書き上げた途端にどこかに持って行かれた。
そして。
老人の体から白い光が漏れだした。
「ぬ?」
「おおっ、まさか一度で通るとは!」
「ということは・・・」
「うむ。転生が始まったのだ」
「そうか・・・鬼神殿とはもう少し話したかったのだがな」
「仕方ない。それに転生すればここでの記憶もなくなるのだ。気にすることではない」
「それもそうなのじゃがのぅ・・・」
「私のことなら気にするな。それに玄海どのの魂には私の加護も与えた。転生後、覚えてはいないだろうがまた会うこともあるだろう」
「そうか・・・」
それならば、鬼神殿も寂しくなかろうのぅ、と老人は小さく言った。
それに鬼神はむっ、と声を上げる。
「気付いていたのか?」
「鬼神殿は会える資格を持つ者でなければ会えんと言われた時、なんとなく気づいたわい」
「なるほど。―――では玄海殿。達者でな」
「うむ。また輪廻の先でまみえおうぞ鬼神殿」
「「あっはっはっは」」
こうして二人は、寂しくも美しい友情でもって別れたのだった。
――――――やらかしたことに気付かずに。
転生神side:
「なにこれぇー!?」
送った後で転生神が叫びあがっていた。
「どうしました? 鬼神にしては珍しく不備がなかったと思いますが」
「はぁ!? 嘘でしょ、これで不備がないとか! だってこれじゃあ世界的なバランスが!」
「すみません。そちらは管轄ではないので・・・」
「輪廻神の仕事って確か・・・」
「書き漏れや補足内容で存在化可能かの確認作業ですね」
「そうだったぁー! バランス云々は他の神の仕事だった! てか普通に転生する分にはこんなむちゃくちゃ性能にはならないはずなのに!」
「まぁ、担当が鬼神ですからね。彼は他の神に比べて経験が不足してますし」
「大量ポイント持ちには例え無駄でも、能力値は上限考えて色んなのに振り分けるように言うの忘れてたぁー!!」
「どうしましょうか。すでに送ってしまっていますし」
「・・・もいっかい殺す?」
「それはルール違反ですよ」
「じゃあっ、じゃあどうすればいいの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見守りましょう」
世界が正常に機能し続けることを祈って。
そう言った輪廻神に対して、転生神は膝をついた。
「お気に入りの世界だったのに・・・」
「スイーツ美味しいですもんね、あの世界」
ちなみに転生神はその力を利用して、自分の管轄の世界へ足を運ぶことが時々あった。
主に休暇の観光によって。
「どうか・・・どうかあの国だけは、あの町のあの店だけは無事でいてぇーっ!」
「あのが多いですね」