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帝国派 (6)

 不可解な情報提供から一週間が経った。変化がまるでない中、自警団は帝国派の拠点と疑われている建物の監視を続けている。監視中はただ暇な時間を過ごし、ヘリー修繕店に戻ると溜まる仕事に向き合いつつヨシノの練習に付き合う。ハイドの生活はそんな不安定の上に置かれつつあった。


 「やっと小麦が配給されて良かったですね」


 ある日のヨシノが嬉しそうに白い粉を抱えている。ハイドも笑って頷く。


 「でも、デモ活動の影響で配給が遅れたときはどうなるかと思ったよ。ただでさえ足りてない状況だったからさ」


 「そうですね。食べ物は大切です」


 二人はヘリー修繕店が陥った深刻な食糧不足を笑い話にする。ホウカから分けてもらうことで何とか日々を乗り越えたのだ。今回から二人分の主食が配給されるため、分けてもらった分を返しても足りなくなることはない。


 「……店長、明日からまた監視の方に行くんですよね?」


 「うん、迷惑かけてごめん。ここに来てそんなに経ってないのにこの店を任せるようなことをして」


 「私は大丈夫です。たまにホウカさんが様子を見に来てくれて、色々と助けてもらっていますから。でも、店長は大変なんじゃないですか?ここの仕事もたくさんあるのに、自警団も最近忙しそうですし」


 「まあね、街が物騒だから仕方ないよ。今度はあのデモ以上のことが起きるかもしれないから」


 ハイドにはこの街の未来を見通すことはできない。しかし、何か悪いことを防ぐために自警団は今日も活動している。アルほど明確な理由を持っていなかったが、ハイドも故郷同然であるメンデレーを守りたいと思っていた。


 「自警団が捕まえたっていう人は何も話そうとしてないんですか?」


 「今は完全に黙秘をしてるらしい。どうして最初に話したのか全く分からない」


 「その人が自警団を惑わすために嘘をついてるってことはないんですか?」


 ヨシノが聞いた話から考えて尋ねる。しかし、ハイドはその可能性は低いと思っていた。


 「どうだろう。確かに伝えられたデモの首謀者と思われる人物は実在して、帝国派だったことは分かっている。それに、監視してる建物も一般的な住居や工場とは違った動きを見せてるから」


 「じゃあ、解決にはまだまだ時間がかかりそうですね」


 ヨシノは椅子に座って本を手に持つ。熱心なヨシノはハイドの言ったことを忠実に履行している。そんなヨシノに感心したハイドも同じように仕事を始めようと意気込んだ。


 そうして作業に取りかかろうとしたとき、ヨシノが唐突に本から顔を上げた。その目はハイドを見つめている。


 「……でも店長」


 「ん?」


 「危なくないんですか?夜間警戒の時みたいに誰かと戦うことになったりする気がして」


 過去を思い出してヨシノが心配する。しかし、その優しさはハイドの頭にすんなりと入ってこなかった。


 「気にしなくても僕が戦うことはないよ。知っての通り弱いから、自警団も僕みたいなのに危ないことをさせようとしない」


 「……そうだったら良いんですけど」


 ヨシノは話を聞いて外面的に納得する。しかし、まだ何か言いたそうにしていた。


 ヨシノは一体何を気にしているのか。考え始めたハイドは落ち着かなくなる。従業員の心配事は把握しなければならない。そんな建前を使って聞いてみようかとも考える。


 唐突な来客が訪れたのはハイドが決心した時だった。


 「ハイドさんは……いますか!?」


 店に走り込んできたのはアインだった。走って来たのか息を切らしている。ハイドは慌てて駆け寄った。


 「どうしたの?」


 「あの男……僕を脅してお金を持っていった男の人を見つけた!」


 「本当に!?」


 「今、カップとバルトが後を追ってる。早く来て!」


 アインが伝えてきたことは、三人とハイドで交わした約束を果たす内容だった。外出の準備に取り掛かるハイドの横でヨシノは黙って様子を見ている。


 「どうして他の自警団員に伝えなかったの?ここまで来るのに時間かかるでしょ?」


 アインの様子から男はここからかなり離れた場所にいると予想できる。しかし、アインは即座に言い返した。


 「だって信頼できる人はハイドさんしかいないから」


 理由は単純だった。ただ、それを聞いたハイドは少し嬉しく感じる。


 「ヨシノさん、今日も店を閉めておいてください。また迷惑かけます」


 「大丈夫です。……気をつけてくださいね」


 ヨシノが心配そうに手を振り、それを見てハイドは心を熱くする。見送られることに慣れていないからかもしれなかった。


 「じゃあ、その場所まで案内してくれる?」


 準備を整えてアインに道案内を指示する。すると、アインは東地区に向かって誘導し始めた。


 「ずっとその男を探してたの?」


 「見つけたときは探してなかった。たまたま三人で遊んでて、通りかかった喫茶店の中で見つけたんだ」


 「よく見つけられたね。……でも本当にその人だって断言できる?」


 男の確保を考えてアインに信憑性を確認する。ハイドは問いかけに頷いてくれるものと思っていたが、実際のアインは唸っただけだった。


 「今はカップたちがその男の人を見張ってるんだけど、二人はしっかり顔を見ていたわけじゃないし分からないって言ってた。だけど、あれは間違いなくあの時の男の人だと思う」


 ハイドはアイン以外に男を特定できる人物がいないことを知り、途端に対処方法に困った。子供の記憶だけが頼りでは、仮にその男が犯人だったとしても捕まえられない。客観的な証拠が不足しているのだ。


 ただ、今のハイドは他の二人との合流を優先しなければならない。二人の怪しい行動を男に気付かれると危害を加えられる可能性があるのだ。


 走ること十分ほど、アインは東地区内のある店の前で立ち止まった。しかし、その周囲にバルトとカップの姿はない。アインが途端に不安そうな表情を見せ始めたため、ハイドはすぐに声をかけた。


 「男が移動してそれを追いかけたのかもしれない。……店の中にその男はいる?」


 「……いない。だけど」


 店内を覗き込んだアインが首を振る。心配の種は尽きないらしい。ハイドはアインの良くない想像を否定した。


 「もしどこかに連れて行かれたとすれば、きっと騒ぎになってるはず。ここは人通りが多いから大人が子供に乱暴していたら目立つ」


 「……じゃあどこに行ったんだろう」


 「歩いて探してみるしかない」


 ハイドは街の中に視線を這わせる。混雑はしているが、子供が歩いていればすぐに気が付ける。アインと分かれるわけにはいかず、ハイドは兄であるかのように振る舞って周辺を歩いた。


 カップを発見したのはそれから数分後のことだった。


 「……やっと来た。男は向こうの酒屋に入ったよ」


 別れた場所から移動していたため、カップはアインを探していた。男にはバルトがついているという。


 「とにかく合流しよう」


 東地区はハイドにとって馴染みのある場所ではない。昼間であっても警戒は必要だった。


 バルトはとある酒屋の前でハイドらを待っていた。合流を果たすと、ハイドはそのまま全員を連れてその場から離れた。


 「集まりすぎると気付かれるかもしれない。出入り口が見えるできるだけ離れた場所にいよう」


 ハイドは小声で指示して三人を歩かせる。そして、一つの建物の陰で立ち止まった。


 「ハイドさん、これからどうするの?捕まえる?」


 「そうしたいけどまだできない」


 確保できない理由の一つは、現状ではその男がアインらを脅迫した犯人だと断定できないことである。しかし一番の理由は、ハイド一人では問題が複雑化する可能性があるからだった。


 「もう一回、あの時アインを脅迫した男の特徴を教えて?どういう言葉を使っていたとか、どこかに入れ墨があるとか」


 「俺らは後ろ姿しか見てなかったから、髪が長かったことと服が茶色だったことくらいしか」


 「あの店にいる男の髪は長いの?」


 バルトの説明を聞いて、その特徴が一致しているのか尋ねる。すると、バルトは頷いた。


 「今日は髪をくくってた。あの時は背中までの長さだったけど」


 バルトは今日の男の風貌を説明する。その点に関しては一致していた。


 「アインは何か……覚えてなかったんだったよね?」


 ハイドはアインに質問しようとしてすぐにやめる。男に胸ぐらを掴まれたアインは、その時の恐怖から男の顔しか覚えていなかったのだ。


 話を聞いて男に罪を認めさせる手もある。しかし、男は暴力的と考えられ、激高して攻撃される恐れがある。そうなってはハイドにはどうすることもできない。


 「ヨシノさんにも確認してもらうことはできないんですか?」


 ハイドが悩んでいると、バルトが提案してくる。それを聞いてヨシノも男と接触していたことを今になって思い出した。


 建前上、自警団は男の確保に努めていたものの、そのための活動をしていたわけではない。ハイドも三人とこのような関係になっていなければ、男の確保に尽力してはいなかったのだ。そんなことから、ヨシノにその男の情報を聞いてすらいなかった。


 「そうだね……その案は使えそうだ」


 確認してもらうためにはこの場に来てもらわなければならない。しかし、東地区にヨシノを一人で来させるわけにはいかない。そこで、ハイドは子供にお願いすることにした。


 「僕とアインがこの場所で見張ってるから、バルトとカップはまず自警団本部に向かって」


 「どうして?」


 「人が足りないから。僕だけじゃその男を逃がしてしまうかもしれなくて、もう少し自警団の人を連れてこないといけない」


 ハイドは正直に一人ではどうすることもできないと伝える。バルトは小さく頷いて理解を示す。


 「それで、誰か自警団の人を捕まえたら僕の店に行ってヨシノさんと合流して連れてきて欲しい。自警団本部でもヨシノさんに対しても、僕が呼んでるってことを伝えたらきっと話を聞いてくれると思う」


 「誰が信用できる自警団の人か判断できない」


 バルトが一つの懸念を持つ。東地区の住民は自警団に良い印象を持っておらず、これもそれが原因だった。


 「大体の人は信用できる良い人だよ。……でもそうだな、もし見つけられたらアルって自警団員を連れてきて。彼は僕が一番信頼してる自警団の人だから」


 「分かった。アルさんを呼んでくる」


 「いなかったら違う人で納得して。それと、行き帰りで怪しまれる行動はしちゃダメだよ」


 「うん」


 ハイドが注意事項を伝えると、バルトとカップが小走りで西地区に向かう。アインと二人きりになり、適当な雑談で時間を潰していく。店から離れているため、中の様子は確認できない。男が店から移動していないことを確認するだけで他の行動は控えていた。


 バルトらがアルとヨシノ、それに加えてホウカを連れてきたときも男はまだ移動していなかった。ハイドはやって来た三人と話を始める。


 「どうしてホウカも来たの?」


 「なに?私が来たら都合が悪いの?」


 「いや、そういうわけじゃないけど」


 ホウカがこの場にいても何の意味もない。しかし、ホウカが不満気な顔をしたため、それを口にすることはしなかった。


 「それで、俺たちはどうして呼ばれたんだ?この二人がハイドの名前を出したから信用したけど、理由は教えてくれなかった」


 アルはハイドに尋ねつつバルトらを見つめる。バルトが事情を説明しなかった理由は難しくない。ハイドは三人に説明を行った。


 「なるほどな、ハイドだけじゃ頼りないわ」


 「それで問題なのが、ヨシノさんが男の顔を覚えているのかってこと。覚えてなかったら手の施しようがない」


 ハイドはヨシノだけが頼りだと伝える。すると、ヨシノはすぐにハイドの質問に肯定した。


 「もちろん覚えてます。私の大切な物を渡したも同然なんです。覚えていないわけがありません」


 ヨシノが胸を張って答え、ハイドは一安心する。三人もそれを聞いて喜んだ。ただ、その時になってホウカが口を挟んできた。


 「じゃあ私は何も関係ないのね」


 「いや、どうして来たのかこっちが知りたいくらいだ」


 ホウカの冷たい言葉にハイドは言い返す。ホウカはそれを聞いて鼻を鳴らした。


 「どうせヨシノさんがハイドに呼ばれたって聞いて気になったんだろ?」


 「何が?」


 「違うのか?」


 「違うけど?」


 アルとホウカがいがみ合ってハイドらを置き去りにする。ハイドはそんな二人を放ってヨシノに話を続けた。


 「男はまだあの店の中にいる。だから今から店に入って確認をしてほしい」


 「一人でですか?」


 「そんなわけない。僕が一緒に行くよ」


 「それなら分かりました」


 ヨシノが頷いて了承する。その時にようやくアルとホウカが会話に戻ってきた。


 「俺たちはどうしていたら良い?」


 「僕とヨシノさんが店に行って確認してくるから、それまで三人と一緒にいて。もし僕たちが襲われるようなことになれば助けてほしい。次の行動については上手く確認が取れたときにまた話し合おう。……ホウカはどうする?」


 「一応最後まで見ておく」


 ホウカはその場にとどまることを決める。関係ないことに首を突っ込むホウカは不可解だったが、事実としてホウカがいた方が頼もしい。ハイドは了承してヨシノと向かい合う。


 「じゃあ行こうか」


 「ヨシノさん、お願いします」


 アインが駆け寄ってきて頭を下げる。ヨシノはそれに笑って応えた。


 「男はヨシノさんを覚えてるかも知れないから、店内に入ってからはなるべく顔を隠すようにして。自然にね」


 店まで歩きながら最後の確認を行う。その後すぐに二人は店内に入った。


 「……ここに座ろう」


 ハイドは店内を見渡せる席にヨシノを誘導する。ヨシノは店内の一人一人を観察していく。


 「ご注文は?」


 「このブドウ酒を二つ」


 店員が話しかけてきたため、ハイドはすぐに追い払う。店員が離れていった後すぐ、ヨシノは小声でハイドに話しかけてきた。


 「可能性があるのはあのカウンターに座ってる人だけ。でも、顔がちゃんと見えなくてはっきり分かりません」


 ヨシノが示した男はカウンターに体重をかけていて、それなりに酔っているように見える。この位置からでは男の顔は確認できない。


 「……分かった。じゃあ、ヨシノさんはここに座ってて。僕がなんとかして男の顔をヨシノさんの方に向けるから」


 立ち上がったハイドは作戦を考えてカウンターに近づく。持っていた手ぬぐいを男の近くで落とし、すぐに男の肩を叩いた。


 「あの、すみません」


 「……何?」


 ハイドの方を振り返った男は、人を脅すのに最適な声で反応する。ハイドはヨシノが男を確認しやすいように微妙に動いて、そのまま会話を続けた。


 「この手ぬぐい、あなたのじゃないですか?」


 ハイドは白々しく床を指差し、男はそんなハイドの指に合わせて顔を動かす。ヨシノが色々な角度で男の顔を確認できるようにしていた。


 「違う」


 男は一言だけ発すると再びカウンターに寄りかかる。予想より早く会話を終えてしまったハイドは、手ぬぐいをカウンターに置いてヨシノのもとへ戻った。


 「……どうだった?」


 「間違いないです。あの人です」


 ヨシノは嬉しそうに何度も頭を上下させる。しかし、ハイドにとってそれは喜ぶべきことではない。問題はこの後の対応なのだ。


 「じゃあ早いところ店を出よう。注文したのが来たらさっさと飲んじゃって」


 「分かりました」


 酔ったハイドが店を出たのはそれから数分後だった。


 「あら、どうしてフラフラなの?」


 「何でも、ない。とにかくあの男で間違いないみたいだった」


 ハイドは言うことを聞かない自分の体に溜息をつく。ハイドが飲んだのはたった一杯だけである。それでも急いで飲み干したからか、軽く酔ってしまったようだった。


 「ヨシノさんはなんともないのに情けない」


 アルが顔を赤くしたハイドを馬鹿にする。ハイドはそれを無視して話を進めた。


 「とにかく次の段階に移ろう」


 「どうするんだ?」


 「まず、子供たちを家に帰そう」


 「えっ!?」


 ハイドは三人を帰すことを提案する。すると、バルトが驚きつつ反発した。


 「三人には感謝してるよ。自警団だけじゃ見つけられなかった人を探し出すことができた。それに、僕との約束も果たしてくれたし」


 「でも」


 「こいつの言う通りだ。今からは大人が解決する時間。危ないことが起きるかもしれない」


 「………」


 アルが少しきつめの口調で話すと三人は口を閉じる。ハイドはすぐに言葉を付け加えた。


 「最終的にどうなったかは、また会ったときに伝えるよ。ホウカに送らせるから今日は解散しよう」


 バルトは悔しさを感じているのかもしれない。ハイドはバルトがそう思う理由を分かっていた。しかし、危ないことに子供を巻き込むことはできない。ハイドはホウカに目配せしてお願いした。


 「じゃあ、私と一緒に帰ろっか。……みんなの家がどこか教えてくれる?」


 ハイドの頼みを聞き入れたホウカが三人を連れていく。またホウカに借りを作ってしまっていた。


 「……それでどうするんだ?子供はホウカがついてるから安心だけど、男の件はまだ解決してない」


 「分かってる。……あの男が三人を脅迫した男だってことは分かった。後はいつ男に話しかけるか。もう決断するのか、それとも時間をおくか」


 「どうして時間を置くんだ?」


 ハイドが悩んでいるとアルが疑問を呈する。ハイドはそれに簡単に答えた。


 「あの男はかなり酔ってた。今こんな話を持ちかけたら暴れるかもしれない。強引に制圧できるだろうけど、あまりそういう方法は取りたくない」


 「じゃあ、店を出るのを待って後をつけるのか?」


 「それが良い」


 ハイドとアルは話し合って方針を決定する。ハイドの酔いも次第にさめつつあった。


 「私はどうしたら?邪魔なら帰りましょうか?」


 「ダメだ。一人で帰るのは危なすぎる。ここらは治安が悪いんだ」


 「でもそんなことを言えば、ホウカさんも子供を帰らせた後は一人ですよ?」


 ハイドの忠告にヨシノは反論する。ヨシノの言い分は間違っていない。しかし、ヨシノはホウカと違ってまだメンデレーに慣れていない。ハイドはそのことを心配していた。


 ただ、その説明を面倒に思ったハイドは適当な理由を伝えた。


 「ホウカはいいんだ。大体の奴はあいつに勝てないから」


 「……そうなんですか」


 ヨシノは腑に落ちない様子である。しかし、疑問に思っているだけなら問題ないとハイドは話を戻した。


 「それじゃ、しばらく待機だ。いつ出てくるか分からないけど」


 ハイドは落ち着いてきた体を近くの建物の壁に預ける。そうして、三人は男が店から出てくる時を待った。


 男が千鳥足で店から出てきたのは、それから小一時間後のことだった。


 「……追いかけよう」


 ハイドらは距離を保って追跡を始める。夕暮れが近づいていて、人通りは少なくなっている。尾行などしたことがないハイドは神経をすり減らした。


 男はフラフラと、それでも道を間違えることなく進んでいく。その後、男は見覚えのある建物の敷地に消えていった。


 「……ここって」


 衝撃を受けたハイドはそれ以上の言葉を出せない。


 「ああ、なんというか、厄介なところに入っていったな」


 アルも信じられないといった顔をしている。ハイドの目の前には、壁の汚れの形さえ覚えてしまった建物があった。


 「ここ、知ってる場所なんですか?」


 「知ってるも何も、自警団が一日中監視してる場所だ」


 ハイドが説明してもヨシノは大した反応を見せない。よくある建物の一つだと思っているようだった。


 「……とりあえず拠点に行って事情を説明しよう」


 近くには自警団の監視拠点がある。三人はひとまずそこへ向かうことにした。

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