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帝国派 (5)

 ハイドは確保したデモ参加者の取り調べ結果を自警団本部で待っていた。街で発生した大きなデモ活動は解散した。しかし、それで問題の解決とはならない。このような違法な活動を先導したのは誰なのか、自警団は首謀者を特定する必要があるのだ。


 自警団は活動者の一部を確保し、彼らから首謀者に繋がる情報を得ようと試みた。しかし、状況はそれほど簡単には進展しなかった。


 「……お疲れ、どうだった?」


 取り調べ室から出てきたアルに声をかける。表情を見る限り良い結果は得られていないようだった。


 「あいつもただの参加者だった。デモを知って参加しただけで、誰が中心人物なのかは知らないらしい。結局解放されると思う」


 「そっか。でも他の奴が何かを話すかも知れない」


 ハイドは楽観的に指摘する。しかし、アルはハイドの言葉に否定的だった。


 「そんな簡単にはいかないだろう。今回のデモ参加者にはメンデレーの人間もいるが、街の外から来た奴らの参加が目立っていた。チタルノらが取り調べしてる奴もわざわざ十日もかけてメンデレーに来たという」


 「……扇動するために?」


 「おそらくな。メンデレーでデモをするって情報だけを受け取って、ただ馬鹿みたいにやって来ているだけなんだろう。その資金を誰が出しているのかは知らないが、そのことに関しては頑なに話そうとしない。真実を知ることはできそうにないな」


 アルが大きくため息をつく。ハイドも今の状況は厄介だと思った。


 メンデレーではあらゆる思想が入り交じって人々の支持を集めようとしている。帝国派もその中の一つで、彼らはメンデレーの住民から帝国に反抗する考え方を取り除こうとしている。ただ、メンデレーだけでは必要な人数を確保できないため、他の都市や街から人を集める。典型的な思想活動の形態だった。


 最も戦争と隣り合っているからこそ、帝国派にとって重要な場所となっている。メンデレーの住民の抵抗意識を削ぐことができれば、帝国は血を流すことなくメンデレーを手に入れることができるのだ。


 「早く首謀者を見つけ出さないと」


 「ああ、放置しているとメンデレーの住民に浸透していくかもしれないからな」


 メンデレーが帝国はを受け入れれば、あっという間に帝国の支配が始まる。それはすでにアボガリアが通った道である。


 確保者の取り調べには丸一日が費やされた。大抵の自警団員は成果があるとは思っていない。しかし、そんな予想とは裏腹に一人の参加者から有力な情報が飛び出した。


 「……信憑性はあるだろうか?」


 自警団長のニッケスが困ったように言葉を漏らす。会議室に集まる他の自警団員は黙って成り行きを見守っている。


 与えられた情報とは、デモの主導者の名前と帝国派の拠点場所だった。喉から手が出るほど求めていた情報であるが、いざ本当に手に入ると対応に苦慮してしまう。


 「伝えられた場所は自警団員に見張りをさせています。その結果を待ってから判断する方がいいでしょう」


 バナードが発言する。ニッケスはそれを聞いて唸った。


 「首謀者とされる人物ですが、役所に問い合わせたところメンデレーの住民でした。犯罪歴等はありませんが、たびたび帝国派として活動していたようです」


 「そうか……まだ判断のしようがないな。本当に首謀者なのか、それとも身代わりとして名前が挙がっただけなのか分からない」


 「ですが、我々に時間はあまり残されていないようです」


 「どういうことだ?」


 情報提供を行ったデモ参加者を取り調べた団員が素早い決断を提案する。ニッケスは眉をひそめた。


 「彼は帝国派が街に対する新たな活動を計画していると言っていました。それはただのデモ活動ではないようです」


 「というと?」


 「具体的なことは話していません。ですが、メンデレーに恐ろしいことが起きると言って笑っていました。取り調べを続けようとは思いますが、吐くかどうかは分かりません」


 結局、正確なことは何も分からない。この話し合いを聞いていたハイドは、情報の取り扱い方が重要になると感じた。取り調べの対象が話さないのであれば、その時は自警団が行動しなければならない。自警団の負担増加は避けられそうになかった。


 話し合いの結果、継続的な帝国派の監視と得られた情報の精査が決定した。帝国派に深く関わっていた数人を除いて、大半のデモ参加者は解放される。


 ハイドの新たな仕事は、帝国派の拠点と示唆された場所をアルと監視することだった。ヨシノの一件以来、取り調べからは外されている。また、戦闘において使い物にならないことは周知の事実である。そんなことから外れの仕事が回ってきたのだ。


 「……ハイドのせいでこんな汚いところに長居しないといけなくなったんだ」


 「そんなこと言われても」


 文句を言うアルにハイドは弱く言い返す。二人はただの宿泊者に扮して、一点を眺めている。監視活動中は目立つ行動は厳禁だった。


 二人が拠点としているのは東地区のとある宿屋だった。帝国派の拠点と疑われる建物を一望でき、経営者である高齢男性は街の事情に詳しくない。それらのことが自警団に有利に働いたのだ。


 ただ、ほとんど利用者はいないようで、部屋の中は立ち入った時からゴミ屋敷のようだった。ホウカの宿屋とは比べ物にならない。


 「しかし、あんな建物が本当に帝国派の拠点なのか?」


 「確かにあんな大きな建物は不向きだと思う。あれだけ大きいと役所の定期検査も入るだろうし」


 ハイドらが監視する建物は、小さな工場ほどの大きさがある。そのため、有事の際の避難場所に指定されている可能性が高い。そういった建物は定期的な役所の検査が義務付けられている。


 しかし、それさえ解決できれば場所や規模は最適だった。人や物資を大量に保管できるのだ。


 「人の出入りも今のところは見当たらない。裏口に構えてる奴らもまだ誰も見ていないらしい」


 「まあ、自警団が本腰を入れてることは分かってるだろうからね。今は大人しくしているのかもしれない」


 人の出入りを確認できていないとはいえ、監視が始まってからまだ時間はそれほど経っていない。実態を把握するには、長期的な監視が必要かもしれなかった。とはいえ、自警団に残された時間がどれほどなのかは分からない。


 「理想は取り調べを受けている奴が具体的なことを信憑性高く話すことだ。あの建物に違法な活動の証拠があると分かれば、今すぐにでも飛び込んで終わり。こんなところで時間を無駄にする必要はない」


 「それは難しいだろ」


 ハイドはアルの理想があくまでも理想だと指摘する。自警団が敷地内を捜索するとなれば、強力な証拠が必要となるのだ。供述だけでは証拠として不十分である。


 「……ところで、ヨシノさんは大丈夫なのか?働き始めて一ヶ月も経ってないのに店を任せるようなことをして」


 「それは大丈夫だ。店は閉めておいていいと言っておいたから」


 違法デモ活動のために呼び出されて以来、ハイドは一度ヘリー修繕店に戻っていない。それでも、その時にヨシノに指示を残すことはできていた。


 「僕のことよりアルの方が心配だ。アルはこの間、店を開けられないだろ?」


 ハイドはアルの収入を心配する。ハイドの場合、本職の仕事に手が回らなくとも、軍から一定の収入を得ることができる。しかし、アルは店を開けなかった分だけ収入が減る。自警団から多少の手当があるとはいえ、雀の涙でしかないことはハイドもよく知っていた。


 「気にすんな。俺は自分が生まれたこの街と国が好きなんだ。自警団として活動している時の方がやりがいがあって良い」


 「……そうは言っても大変だろ?」


 「それは俺だけじゃない。それに、あいつらのような人間を野放しにしておくことの方が、長期的に俺の生活を悪化させるような気がするからな。そんなに気にするんだったら、この前泥酔したときの分を払ってくれ」


 アルは笑って話を締めようとする。しかし、ハイドにとっては笑いごとではなかった。


 「払ってなかった?」


 「死にかけてて払える状況じゃなかっただろ?」


 アルがさも当たり前のように話す。ハイドはそれを聞いて申し訳なく感じた。


 「僕が悪いんだけど、そういうことはもっと早く言ってくれ。これが終わったらすぐに払うから」


 「良いって。あれは俺が誘ったんだし」


 「馬鹿言うな。ヘリーとホウカが怒る」


 生前、ヘリーはハイドに誠実に生きるよう言っていた。ヘリーがいない今でもその信念を曲げようと思ったことはなかった。それに、ホウカも正義感の強い人間の一人である。ハイドが金を払っていないと知れば怒るに違いなかった。


 「でもなあ、ハイドから代金を貰うと俺もホウカから怒られそうだから」


 「何でだよ」


 ハイドは意味不明な言葉に突っ込む。しかし、アルが笑うだけで返答しなかったため、ハイドも仕事に集中することにした。


 丸一日の監視によって、数人ではあるものの建物には人の出入りがあることが判明した。ただ、成果はそれだけでなく、建物の中でも動きがあった。窓からしきりに外を気にする姿が幾度となく見られたのである。


 それは上手く行われており、継続的な監視がなければ見つけ出せないような動きだった。二人の中でこの建物に対する疑念は深まっていった。


 しかし、二人がどう感じようと建物に手を出すことはできない。そのため、ハイドらと交代した団員も見つめるだけの仕事を続けるしかなかった。

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