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野生の姫様 7

訪れて下さった方々、ありがとうございます。

これからも頑張ります。

そういえば書いてませんが、アルティナさんを連れてきた御者の方ですが、脅されてこの役を受けました。生還の可能性を上げる為に馬に乗って帰りましたが、魔物のお腹の中に入りました。


アルティナはゆらゆらと揺れながら落ちる不思議な感覚に目を開けた。

その場所は以前と変わりなく、頭上から一筋だけ暖かな光が差し込んでいる以外は真っ暗だった。

以前と違うのは、底にいるのが「ふるいりゅう」と名乗る失礼な黒い魔物だと知っている事。アルティナが底に降りるのを待って、魔物ーー黒い龍が話し出す。


『人族の子よ…』

「アルティナ。」

『……アルティナよ。』


アルティナにジロリと見上げられて、慌てて言い直す黒い龍。咳払いで場を誤魔化してから先を続ける。


『覚えておるか?お主は命に関わる怪我をした。』

「…………しってるわ。」


食い千切らんばかりに込められた牙の恐怖と痛みは鮮明に覚えている。

一瞬でも気が触れるかと思う程の痛みと感覚の無くなった手足。ドレスが染め変えられそうな程の血の量の意味するところは、子供でも分かる。

皮肉にも現状アルティナの体には傷どころか汚れ一つない。その事に、ただただ、悔しさと虚しさだけがこみ上げる。


「…わたし、しんじゃうのね…」


国を取り戻す事も、両親を弔う事も、友と再会する事も、ただ生きる事さえも出来ずに。

自分は何もしていないのにと誰に訴えたら良かったのだろう。

否、訴える先は無かったのだ。

8歳の子供に出来る事は少なかった。

入念に作り変えられた敵の牙城で、1人ぼっちになった時に、アルティナの運命は決まったのだ。

ぽつりと零した言葉に黒い龍が首を傾げる。


『覚えておらぬのか?今際の際に生を望んだのを。お主はまだ死んでおらん。』

「え?」


出血と痛みで朦朧としていた為、正直良く覚えていない。言われて何となく、そんな事を言ったような気もしてきたくらいである。

そんなアルティナの様子を見て、黒い龍は少し考え込んだ。


『人…アルティナよ。あれが生命の反射行動によるもので、お主がこの世界に留まる事を少しでも望まないのであれば、このまま安らかに眠る事も出来る。人族の世の事はよく解らぬが、子供の身一つでこの様な所に置かれているなど碌な事ではなかろう。無理に戻り、むざむざ己を苦しめる事もあるまい。』


ここ1ヶ月、アルティナを見ていた黒い龍は、彼女が置かれた状況を何となく悟った。「両親を返せ」と言っていたから、両親は捕らわれたか殺されたかしたのだろう。アルティナに利用価値があれば監禁と少々の拷問くらいだろう。しかし、身一つでこの森に捨て置かれた事を考えると、アルティナの利用価値は無い。寧ろ邪魔であったのだろう。両親は既に死んでいる可能性が高い。彼女は身なりか良いので誘拐かとも思ったが、それでは両親を殺す意味が無い。だとすれば、両親共々身内から切り捨てられたのだろう。幼子には酷な話である。

と推測した黒い龍は、戻ってもまた捨てられるか殺されるだけ、あるいはもっと酷いのではないかと考えたのである。

アルティナは難しい顔で黙って話を聞いていた。

しばらくの後、アルティナは口を開いた。


「あなたのお話は、むずかしくてよくわからないわ。」


…アルティナには今ひとつ伝わっていなかったが。

思わず脱力する黒い龍に、アルティナは腰に手を当てて向き直った。


「前にもいったけど、わたしまだ8歳なのよ?こどもにもわかるようにおしえてほしいわ。」

『あー…、つまりの、このまま死ぬのか、死ぬほど大変かもしれぬが生きるのかという事じゃ。』


それを聞いてアルティナは即答した。


「そんなの決まってるわ。わたしにはまだやりたいことがあるもの。わたしは生きたい!」

『…その道が生きた事を後悔する程の困難があっても、か?』

「そんなのやってみなくちゃわからないじゃない!」


間近に感じた死は確かに恐ろしいものだった。しかし、ただ死が恐ろしかったのではなく、何も為さずに死ぬ事が恐ろしかったのだとアルティナは知った。

両親と友のいる国を取り戻せるかは分からない。だが、このまま死ぬ事は出来なかった。


『そうか…そうかそうか。決めたのならば良い。お主が此処に来たのも何かの縁であろう。ワシの力を貸してやろう。』


真っ直ぐアルティナを見た金の瞳は、少しだけ寂しげに笑ったようだった。

アルティナがそれを問いかけようとした時、鈴の音が一度、大きく響いた。


その余韻が終わらない内に、あちこちから軋む様な音が聞こえて来た。アルティナが慌てて周りを見回すと、あちこちで闇に亀裂が入っていた。闇は漆喰が剥がれるようにひび割れてポロポロと落ちて、その隙間から眩いばかりの光が差し込んでくる。


『…彼奴らめ。感謝なぞワシはせぬぞ…。』


それを黒い龍も驚きの目で見ていたが、何かを吹っ切ったように、ふっと笑うとアルティナに向き直った。


『さて、アルティナよ。状況が変わった。ワシはこれよりお主の盾となり、剣となろう。お主はお主の望むように生きるのじゃ。』


闇が砕け落ちて光が増す。

眩し過ぎて思わず目を閉じたアルティナは、強い力で何処かに引っ張られた。

一瞬の浮遊感。

そしてそのまま意識が急速に覚醒していくのを感じた。




アルティナが目を開けると、いつもの窪地が見えた。

端から転がり落ちた筈なのに、いつの間にか草を敷き詰めた寝床にそっと寝かされている。

自分の体を見てみると、左肩の部分がズタズタに破れて赤黒いものがべったりと染み込んでいるが、その下の肩には傷一つ残っていなかった。左足も同様である。


『目覚めたか。』


しげしげと体を眺めていると、声が掛かった。

声のした方を振り向くと、傍に寝そべる黒い龍がいた。

それを見てアルティナは微笑んだ。


「…夢じゃない。やっぱり助けてくれたのはあなただったのね。ふるいりゅうさん。」

『ワシの名前は「ふるいりゅう」ではないわ。』


黒い龍は憮然としたようだった。


爺様言葉を書くのが楽しい。

色々な言葉づかいが混ざって間違っているかもしれませんが、長く生きて混ざってるって事で、ご愛嬌。

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