危機
ぶ、ぶぶぶブックマークが増えとる!
ありがたやありがたや。
リアルが忙しいのと文章の推敲に手間取って遅くなりました。せっかく来て頂いたのに申し訳ありません(汗)
※2018.8/14 話数が増えてきたので整頓、副タイトルをつけました。元5話と6話を統合。
目覚めると日は既に高く昇っていた。
夢の中だけではなく泣いていたようで、起きると涙の流れたと思われる頰がヒリヒリとした。目は腫れていたし、声も枯れていて、鏡が無くても酷い顔だと分かる。
変な夢を見た。
「ふるいりゅう」と名乗る失礼な黒い魔物とおしゃべりして大泣きするなんて突拍子もない夢。いくら1人で淋しいからといって魔物と話をするなんて、思った以上に自分は参っていたのかもしれない。改めて1人だと自覚して、アルティナは少し落ち込んだ。
しかし、限界まで泣いたおかげか、意外にも頭はスッキリしていた。熱も下がっていて、体調も少しだるいくらいでほぼ回復している。特に体の不調を感じないので、やはり果物に毒はなく、疲れが出たのだろうと思った。果物は生命線なので、食べられると分かってほっとした。
そうとなれば、まずは体力回復からである。アルティナは昨日摘んだ果実の残りを食べて立ち上がった。相変わらず微妙な味だが仕方ない。
不思議と諦める気は無くなっていた。
翌日からアルティナは、どうにか窪地の外に出る為試行錯誤を繰り返した。
そのまま斜面を駆け上がろうとしてずり落ちたり、洋服を裂いて投げ縄を作ってみようとしたりした。前者は全身擦り傷だらけになり、後者はまず布地を裂く事が出来ずに断念した。
結局、拾った小枝で窪地の斜面に足と手をかける為の穴を作って何とかよじ登る事になった。本当は階段が良かったのだが、万が一魔物達が入りやすくなっても困るので諦めた。帰りは飛び降りる予定なので、崖下には忘れずに草をたくさん積んでおく。この草を山盛り集めるのが意外と大変で、丸一日かかってしまった。疲れてそのまま草の山で寝てしまったのだが、思った以上に寝心地が良かったので、今後のベッド作りに役立ったのは余談である。
あまり意味は無いかもしれないが、魔物が嫌う窪地の草花を摘んでポケットに入れておいた。もしこの草花が嫌いなのであれば、遭遇する確率が減るかもしれない。
「ーーよっ、いしょっと!……ふぅ。」
何度かずり落ちながらも、よじ登る事に成功した。
窪地は常に光る草に覆われているので明るかった。
薄暗いというだけでも怖いのに、命の危険があるとなれば尚更怖い。疑心暗鬼で、木々を抜ける風が魔物の遠吠え、揺れた梢が唸り声に聞こえてきて、足が竦みそうになる。
(父様と母様、みんなのところに帰らなきゃ!)
いざとなれば窪地に戻れば良い。
汗ばむ手を握りしめ、震える足を叱咤して、アルティナはゆっくりと歩き出した。
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一ヶ月程が経った。
初めは何らかの音が聞こえる度に驚いて逃げ帰っていたのだが、アルティナは帰りたい一心で歯を食いしばってそれらを堪えた。
そうして日が経つ毎に、少しずつ森での探索に慣れていった。
落ち着いてみて、初めて分かった事がいくつかある。
一つ、窪地には魔物どころか虫さえいない。森で小虫を追い払うのに苦戦していて気付いた。窪地では虫を見かけた事も羽音を聞いた事もない。あんなに花があるのに不思議な話である。
一つ、窪地を避けるように周辺は魔物が少ない。全くいない訳ではないが、魔物達も周辺にはなるべく近寄らないようである。この間はアルティナを追いかけて深入りしてしまったのだろう。
一つ、窪地の植物は摘み取った後3日くらいは発光する。原理は分からないが、万が一暗くなった時の道しるべになるかもしれない。遠出や初めての場所を探索する時には地面に置くようにした。
起きたら朝食の後にストレッチ。昼食用の林檎を持って出かける。
一日かけて探索。窪地の果物だけではいつか無くなる不安があるので、道中口に出来そうなものは持って帰る。
暗くなる前に帰って成果を検証。
とは言うものの、警戒しながらの探索なのであまり進まない。窪地は森の奥深くというのが再認識出来たくらいである。とりあえずアルティナが窪地に来た方向を重点的に探すつもりである。
体の汚れを簡単に落としたら、夕食をして就寝。
一日中気を張っているせいか、疲れ果てて泥のように眠る。
夢さえ見ない程深く眠った。
そうして一月経つ頃には、アルティナもこの生活に慣れてきた。
初めは色々なものを口に入れ、時には戻したりお腹を壊していたが、最近では胃腸も丈夫になったような気がする。流石に毒がありそうな物は避けているが、初めは難儀していた窪地外にあるえぐみや酸味の強い草や果物も「まあ、食べられなくはない」くらいには慣れた。
木登りも上手くなったし、窪地の出入りも前より簡単に出来るようになった。元々運動神経は良い方だが、ここしばらくでずいぶん鍛えられたようである。
そして、今日はここ一ヶ月で一番嬉しい発見があった。
「ーーわたしのかばん!!」
そう、魔物に襲われた時に破れた鞄を見つけたのである。
鞄を見つけることが出来たのは僥倖だった。
中には底に詰めたタオル数枚がそのまま入っているくらいで、残りは溢れでてしまったようだった。しかし、近くに持って来た物が落ちている可能性はある。ここは既に窪地からはだいぶ離れている為、急いで戻らねばならないが、せっかくの機会なので荷物を持って帰りたい。焦る気持ちを抑えて周囲を探す。
魔物に持って行かれてしまったのか中身はほぼ無くなっていたが、数点は見つける事が出来た。
「えっと、タオルがと…おようふくがあってよかった。あと、ナイフ!」
何は無くともナイフは欲しかったので助かった。立場上、あまり触らせてはもらえなかったが使えない事はない。小ぶりのペティナイフだが、草を切ったり食べ物を採ったりするのが楽になる。
鞄に回収した物を詰めて抱え込む。持ち方が不安定なせいか思ったより重く感じるが、仕方ない。
アルティナがまだ周囲を探索したい気持ちを振り切って鞄を抱え直して…
ガチ…
「ん?」
大きな蜥蜴の様な魔物と目が合った。ただし、本来の蜥蜴にはない歯が生えているので鰐に近いかもしれない。
「っ、キャーー!!!!!」
先程鳴った不思議な音は、獲物を見つけて喜んだのか威嚇したのか、魔物が歯を打ち合わせた音である。大きな瞳がぎょろりとアルティナを見据え、更に激しく歯が打ち鳴らされる。
以前に魔物に襲われた恐怖が呼び起こされ、喉が引き攣る。次の瞬間飛び掛かってきた魔物を転がるように避けると、アルティナは悲鳴をあげながら一目散に逃げ出した。
来た道を無我夢中で走り抜ける。
魔物は大柄なので、なるべく低木が密集している所や狭い間隔で木々が生えている所を走り抜けた。
障害物の多い森の中、走りに特化していない魔物とはいえ、並走出来ている異常さにこの時のアルティナは気づかなかった。
おかげで魔物も飛び掛かりあぐねて苛立っているようであった。
アルティナ自身の足も早くなっていた事も幸いして、何とか窪地がまで帰って来る事が出来た。
そのままの勢いで飛び降りようとした時、気が緩んだのだろう。手元からナイフが転がり出た。
慌てて踏み止まってから、激しく後悔する。
あっ、と思った時には目の前に牙の並んだ口が迫って、左肩に衝撃と熱が走り抜けた。
一瞬遅れて、地面に引き倒される衝撃と共に脳まで痛みが走り抜ける。
「ーーあああああああっ!!」
肩だけでなく全身が焼けるような錯覚に襲われ、脂汗が吹き出てくる。視界が白と赤に明滅し、吐き気がこみ上げる。腕に力が入らない。血管を噛み切られたのか、みるみる服が赤く染まっていく。
痛みが限界を超えたのだろう。耳鳴りがして、頭の中は霞がかかったようにぼんやりしてきた。
アルティナが動かなくなった事に満足したのか、魔物は一度口を外し改めて嚙みつこうと再度口を開けた。
その牙はアルティナの血で赤く染まっている。
痛みに鈍った頭の中の奥底で、本能が叫ぶ。
「・・・いやだ。」
声に出したつもりは無かったが、それはアルティナの口から溢れていた。
「いやだ・・・いやだいやだ!・・・しにたくない!!」
いきなり音を出した獲物を見て、魔物の動きが止まる。
声に出した事によって、痛みと共に体の感覚が戻ってくる。左腕は動かせないが、残る手足を使ってアルティナは窪地に向かって這いずった。
側だった事もあって、すぐに窪地の淵に手がかかる。
しかし、獲物を落とすまいと魔物が左足に噛み付いて引き剥がそうとしてくる。
「ああああっ!!」
再び激痛。ゾブリと肉に牙が刺さる感覚。
しかし、足が千切れるのではないかという恐怖よりも、死に対する恐怖が勝った。
「いやだいやだいやだ!ーーしにたくない!しにたくないっ!!!!」
アルティナは残る右足で魔物を思い切り蹴りつけた。偶然にもその蹴りは魔物の剥き出しの眼球に当たり、堪らず魔物は口を離した。
その隙にアルティナは窪地に転がり落ちる。
何とか窪地に入る事は出来たが、体が千切れそうな程の噛み跡が二箇所とそこからの大量出血。アルティナの命はもはや尽きかけていた。
仰向けになったアルティナの目に、木々の隙間から晴れた空が見える。
しかし、徐々に気が遠くなり、視界が端から暗く塗り潰されていく。
アルティナの目から涙が溢れて来た。
「・・・こわいよぅ・・・だれか・・・しにたくないよ…っ!!」
アルティナの叫び声に応える者はいない筈だった。
「ーー生を望むか哀れな人の子や。なれば、ワシが力になろう。」
何処かで聞いた声がしたが、アルティナの目はかすんでよく見えなかった。
口に流し込まれた熱い液体が、何処かで食べた味のような気がしたが、アルティナの意識はそこで途切れた。
リアルの時間があと24時間増えて、その時間を自由に使えれば良いのにっ!そしたらあと10時間は寝れる!
…なんて思いながら日々過ごす社畜の哀愁。
まあ、日常にメリハリないと駄目人間になる予感しかないから、これで良いのか?と思ったりもする複雑さ。
要は、もっと出来る人間になりたいという無い物ねだりです。