野生の姫様 18
つい先日Bluetoothのキーボードを買ってのですが、驚くほど快適ですねっ!!
ですが文才は売っていないようでした・・・orz
また随分と開いてしまってすみません。
お楽しみ頂けると幸いです。
痛い回注意。
ギィン!!と鈍く金属のたわむ響きが辺りに響き渡る。
「ぐっ!!」
ラルフは痺れた手を庇って後退った。
遅れて、離れた地面に剣が突き刺さる。
まさか邪魔が入るとは思わず、ラルフは驚きと苛立ちの混じった瞳で前を睨みつけた。
目の前でゆらりと立ち上がる黒い人影。
まさにアルティナを貫かんとする剣の腹を拳で弾いたその人物は、先程までダーィルゥ達に剣と槍で地面に縫い付けられていた筈の男だった。その証拠に男の身体には幾本もの輝きが刺さったままで、無理矢理身を起こした為に新たに裂かれた部分は内部が見えそうになっている。激しい怒りが男を突き動かしているのだろう。王女を背後に庇いながらも、今現在も止めどなく流れている血は足元に血溜まりを作り続けている。
とどめはさせなかったが、王女は心臓を貫いた。
誰が見ても王女はもう助からない。
もうじき全て終わる。
ラルフは待つだけで良い筈だった。
金属音の残滓が微かな耳鳴りを残して消えた。
「・・・何の、真似じゃ?」
地を這うような声が静まり返った場に響く。
ラルフの頬をヒヤリとした風が撫で、ラルフは自分が汗をかいている事を知った。満身創痍の男の瞳に射すくめられ、ラルフは本能的な恐怖を覚えて後退った。
男はラルフに詰め寄ろうとして、刺さったままの剣や槍に動きを阻害されて舌打ちをした。そしてなんの躊躇いもなく、身を邪魔していた物を引き抜いた。当然、傷が抉られて血が吹き出す。それを無造作に片手で拭うと、再びラルフたちに向き直った。
「ば、馬鹿な・・・。」
思わず声が漏れたのは誰の口からだったのか。周囲を囲む部下や側にいるダーィルゥ達も驚き、騒ついている。
その視線の先には血で汚れてはいるものの、破れた衣服の隙間から傷一つない白い肌。あり得ない事に、今の短時間で傷が塞がっているのだ。それは伝承にある聖者か、それ以外の何かが起こす人外の奇跡。
驚きに呆然と佇む頬を小枝が掠めて裂いた。痛みと滲む血に、ラルフは我に返った。
いつの間にか周囲は嵐のような風が吹いている。風は見る間に強さを増し、荒れ狂う暴風が砂塵を巻き上げたのか、所々で紫電が走る。
ダーィルゥの部下が何かを叫んでいるが聞き取れない。それでも嵐のような風の中そちらに視線をやって、驚いた。
目の端に見える少し離れた草原は、静かなそよ風に揺れている。日差しも穏やかで嵐の気配など微塵も無い。暴風は、ある一定の距離で不自然にその猛威が途切れていた。ラルフ達を取り巻く一帯だけ風が渦巻いている。風は意思あるものかのようにラルフ達にその身を、巻き上げた砂や枝を打ち付けてくる。
男の周囲の大気が不自然に揺らめく度に風は激しさを増していく。信じられないことにこの風の発生源は目の前の男だった。
即死レベルの傷からの再生。在るだけで自然現象に影響を与える存在。
目の前の男が人でない可能性に、ラルフは思い当たった。
「お、お前は…っ!」
「ワシは、何の真似かと、聞いておる!!!」
「ぐっっ!!?」
気付くとラルフは地面に引き倒されていた。
地面にめり込む程の勢いで行われたそれに、息が詰まる。咄嗟に受け身を取ってダメージを殺したが、身が軋む程の圧力をかけられては、それもあまり意味を成さなかった。
「がっ…っぁ!!」
「お前達は何度も選択を誤る。そのように愚かな命などこの世界に必要あるまいて!!」
部下達はラルフと同じように男に人外の気配を感じているのだろう。誰もがその場に縫い止められたように動けない。体の中からミシミシと嫌な音がして、口の中に鉄錆た味が広がる。見上げた先にある瞳にどす黒い怒り以外何の躊躇いも見えず、ラルフは慄いた。
「ーー其は我の怒り、其は我の声!天の光を以ってして我に仇なす者を討ち滅ぼさん!!《ライトニング》!!」
意識が闇に落ちようかというその時、ラルフの上から男が飛び退いた。その後を轟音と共に雷光が走る。
男が退いた隙に、ダーィルゥがラルフを助け起こす。新鮮な空気を求めてラルフは激しく咳き込んだ。
「大丈夫ですカ?」
「ゲホっ・・・あ、いつ、はっ・・・」
「ええ、人型をとった魔物、でスかね。しかし、あれほどの再生力・・・日光は平気のようですが、吸血鬼の類でしょうカね?ワタシも遭っタ事がないので文献でシか知りませンが・・・。」
硬い声でダーィルゥは応える。
吸血鬼は数百年前に大規模な吸血鬼狩りが行われてからは、公には姿が確認されていない。ほぼ伝承上の生き物なのである。
その伝承によれば、日光と銀という明確な弱点はあるものの、身体能力が非常に高く、魅了を中心に魔法にも秀でている。再生力も以上に高く、生半可な武器と技量では致命傷を与えられない。また、血を得ることで力を増し、血を吸った対象を眷属として従える事もできるとされる。文献の通りであれば、装備も人員も圧倒的に足りない。
「シかし・・・」
(アレは吸血鬼などでくくれる程生易しいものではない気がしまスね・・・。)
ダーィルゥは呟きを舌の上だけで飲み込んだ。
この化け物を目にして無事に帰れる確率は、無いに等しい。しかし、彼にも仕えるべき主人と主人から命ぜられた任務がある。ここで死ぬ訳にはいかない。
(いザとなれバ、より恨みを買っテいソうな彼らにお願いシまスかね。万が一にハ法王様へ伝令を走らセなけれバ。)
ダーィルゥがラルフ達を囮にした撤退か自らを足止めとして部下に主人への伝言を頼むかを検討し出した時、静まり返った戦場にか細い咳が響いた。
「・・・けほっ・・・」
音の主は倒れ伏す小さな少女。
その声を聞くや男はラルフ達を放り出して駆け寄った。
「アルティナ!!ワシが分かるか?!」
壊れ物を扱うように触れる指先は震えていた。
それを見てダーィルゥは警戒は解かないままに、少し息を吐いた。自分達を確実に殺す力を持つあの化け物は、少女が酷く大切なようである。命を賭ける事になるし、もしかするとより怒らせるだけかもしれないが、ダーィルゥは活路を見出した。動かぬまま体に掛かる重みで自身の装備品の残数を確認し、部下達に素早く目配せをした。
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「アルティナ!待っておれ、今…っ!!」
アルティナは意識を取り戻したものの、呼吸と鼓動はいつ止まるか分からない程弱々しい。意識があるのが不思議なくらいであった。
イールギルは血を与える為に腕を掲げようとしたが、突然アルティナを抱えて横に飛んだ。一瞬遅れてその場所にナイフが突き刺さる。
イールギルが来た方角を睨むと、赤黒いローブの集団が各々剣や暗器を取り出す所だった。いつの間にかローブと同じ赤黒い染料で模様が描かれた揃いの面をつけていた。
「時間が無いという、にっ!!」
再びアルティナを抱えたままその場を飛びのく。
イールギルの脇を抜けるように幾つも投げつけられる攻撃は、明らかにアルティナを狙っていた。幾本目かのナイフを手の甲で払って、その陰から伸びた雷撃からアルティナを守るために腕を差し出す。
ブスブスと煙を上げる爛れた腕は見る間に治っていくが、アルティナはそうではない。
抱えた体にじわじわと広がる赤い染みに焦燥が募る。
このままではアルティナの傷を治す事が出来ない。
「つべこべ言っている場合ではない、のぅ!!」
イールギルは魔素を腕に集めて練り上げる。イメージは業火の雨。この弱った体では目の前の集団の幾人かを短時間燃やす事しか出来ない。それであの集団を振り切れるか分からないがやるしかない。
イールギルが魔力を込めた腕を振るうと、辺りに炎が降り注いだ。瞬く間に一帯が火の海になる。
「ぎゃああああっ!!」
「な!無詠唱だと?!」
「早く火を消せ!!」
力を放った腕に亀裂が入り、袖からボタボタと血が滴る。右腕が暫く使い物にならないという代償は取られたが、気を逸らす事は出来たようだ。
反対の腕でアルティナを抱え直すと、イールギルは森へと身を翻した。
適当なプロットで走り出したので脱線が酷いです。
もしかしたら大規模変更を行うかもしれません。