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野生の姫様 17

思ったより長くなってしまいました。キリの良いところって難しいですね;;

ようやく他の人の出番。

痛いの回なので、流血苦手な人は今回と次回注意。


※文章をちょこっと直しました。


翌日は晴天。

この辺りは植生が違うのか、頭上付近に絡む蔦が減って空がよく見えるようになった。木に登らなくても方角を確認できるのはとても助かった。

もしかしたら表層に近いのかもしれない。

木々の隙間から漏れる木漏れ日の明るさに足取りも軽くなる。

そうして午前中いっぱい歩いた頃、アルティナが弾んだ声をあげた。


「いっちゃん、しろちゃん!みて!」


アルティナの声に顔を向ければ、前方の木々の隙間から草原が見えた。

ようやく森の端に出られたらしい。

アルティナは嬉しさのあまり駆け出した。シロも外が珍しいのかアルティナに続いて走り出す。


「これ、アルティナ、シロ。転ぶでないぞ。」


はしゃぐアルティナ達に苦笑し、イールギルも足を早めて追いかける。

その時風向きが変わり、前方から来た嗅ぎ慣れぬ臭いにイールギルは眉根を寄せた。


「アルティナ!シロ!待つのじゃ!!」

「やったー!いっちばーん!!」


イールギルの制止よりも早く、アルティナが森の淵から飛び出る。


「―――何奴っ?!!」

「う、わわっ!!」


アルティナを出迎えたのは、誰何の声と突きつけられた白刃だった。驚いて硬直するアルティナを庇うようにイールギルが前に出る。シロは隙を見て素早くイールギルの裾に隠れた。


イールギルたちの目の前には、銀の甲冑に身を包んだ騎士と赤黒いローブを着た旅人装束の集団がいた。その数およそ30。双方しばらく硬直していたが、不意にアルティナがぽつりと呟いた。


「アルバディアのもんしょう・・・おしろのひとだよ、いっちゃん!」


アルティナの言葉に一団がどよめいた。

未だ剣や槍を構えたままの彼らを制し、1人の騎士が進み出る。一団の中でも1人だけ金縁で美しい装飾を施してある事から、この人物が隊長格である事が伺える。その人物が兜を取ると、その下からはご婦人方にモテそうな甘いマスクの若者が現れた。その顔を見てアルティナが顔を輝かせる。


「ラルフ!」

「・・・アルティナ姫?」

「うん!」

「・・・知り合いかの?」

「うん!おしろのきしのひとだよ。」


ラルフと呼ばれた騎士の顔が驚きに声も無く固まる。


「まさ、か・・・御無事でいらっしゃるとは・・・」

「・・・ふん、なんぞ無事では悪いような驚き方じゃの?確かアルティナの身内はアルティナが邪魔だったのであろう?」

「そっ、そのような事はございません!トーナティア様はアルティナ様が行方不明になられた事にたいそう御心を痛めておいででした。」


イールギルの言葉にラルフは慌てて背を正して言い募った。トーナティアとはアルティナの叔母の名前だという。

ラルフによると捜索隊はすぐに編成されたのだが、はじめは賊かはぐれの魔物に襲われたのかと通った道を順に捜索して行ったらしい。しばらくして目撃情報から森に入ってしまった事がわかったが、既に1ヶ月以上が経過していた。直ぐに森に捜索の手が入ったが、森は魔物の巣とも呼ばれる程魔物の多い森。城勤めの騎士では森に慣れた者も少なく、捜索は遅々として進まなかったという。負傷者や兵糧の問題もあり、何度も出入りを繰り返す内に半年が過ぎてしまった。もはや生存は絶望的と判断されたが、ならばせめて弔いをとアルティナの痕跡を探していたという。


「トーナティア様は心配で夜も眠れないようでいらっしゃいました。そして御自身で冒険者ギルドへ連絡をとって下さり、森の探索に慣れた者を雇う事が出来ました。ローブを纏った彼らがそうです。」

「そう、だったの・・・。心配を掛けてごめんなさい。ありがとう、ラルフ。」


叔母の事は今一つ納得しきれないが、こうして助けを呼んでくれた事も事実である。アルティナは複雑な気持ちで礼を言った。


「いえ、ご無事で何よりでした。ところで姫、こちらの御仁は…?」

「森でたすけてもらったの。いっちゃ「イールギル、じゃ。」


イールギルがアルティナの声に被せて答える。


「子供の一人歩きは危ないのでな。付き添いじゃよ。」

「・・・左様ですか。アルティナ様を助けて頂き、真にありがとうございました。私は先程姫様よりご紹介に預かりました、ラルフ=ラザルと申します。この度は姫の捜索を任されております。魔物の巣を抜けて来れるとは、とても腕の立つ方のようですね。アルバディアへはどういった御用件で?」

「まあ、見聞の旅といった所じゃ。なあに、魔物を避ける術を心得ておるだけじゃよ。」

「・・・魔物を避ける術、ですか。確かに護身具の類はお持ちでないようですね。」


イールギルの目的を図りかねて警戒を強めるラルフに、イールギルは肩を竦めて見せた。

嘘は言っていない。龍の気を出せば魔物が寄ってこないという、人には真似出来ない術だという事を伝えていないだけで。

ラルフは強張っていた体を解す為か、細く息を吐いた。


「ラルフ殿。そちラはアルティナ姫で間違いないのでスか?良く似たお嬢サンとかではなク?」

「ダーィルゥ殿。えぇ、アルティナ様ご本人です。」


訛りのある声と共にやって来たのは、赤いローブを纏った集団の内の一人。年は30前後くらいだろうか。褐色の肌に、黒髪。この辺りでは見ない肌の色をアルティナが興味津々で見つめていると、明るいヘーゼルの瞳が向けられた。


「アルティナ様、お目にかかれて光栄でス。ワタクシはダーィルゥ=ジャジャと申しマス。少し調べてみましタが、実に魔物が多イ。よくこの森で御無事でイらっしゃいまシたね。」

「まものにたちが近づかないばしょがあったの。しろ・・・いっちゃんにたすけてもらって、そこでほとんどすごしていたわ。」

「食事はドウしていたのでスか?」

「いっちゃんがお肉をとってくれたの。わたしはくだものや食べれそうなはっぱをあつめたの。ごはんは、すききらいがなくなったわ!」

「それは素晴らシい。なるホど、あちらの御仁は確かにワタクシより頼りになりそうですネ。」


茶目っ気たっぷりにダーィルゥがウインクをする。釣られてアルティナも微笑む事が出来た。やはり少し緊張していたらしい。


「失礼しまシた。どうも仕事柄、気になってしまっテ。」

「おしごと?」

「ええ、ワタクシたちは『魔物の巣』の探索の為に雇わレたレンジャーなのです。」

「レンジャー・・・ってなにかしら?」

「レンジャーとハ、主に探索を生業とスる冒険者のことです。パーティを組む者もいれば、単独で活動する者もいます。この度ハ『魔物の巣』の捜索ということで、大々的に隊を編成してやってきまシた。僭越なガら、ワタクシがリーダーを務めさセて頂いてまス。」


ダーィルゥは優雅に一礼をし、ラルフはアルティナとイールギルを見た。穏やかな声と話し方の彼はレンジャー達のリーダーと名乗ったが、体を動かす仕事より文官をしていると言われた方が納得できそうだ。


「では、お姫様も見つかった事でスし、ラルフ殿。」

「そうだな。おい!」


ラルフは遠巻きに見ていた一団から人を呼んで指示を出して撤収を命じる。ダーィルゥも近くに控えていた赤いローブの者に指示を出す。

周囲がバタバタと動き出す中で、アルティナはラルフとダーィルゥに促されて歩き出した。護衛の為か騎士とレンジャーの一団が数名ずつ後ろに続く。


「イールギル殿ハどうされまス?共に来られルのであレば、ワタクシ共の馬車へ乗りまス?」

「いや、アルティナと同じものに乗るので構わんよ。」

「エエっと、王族と一緒には乗レないのでハ?」

「ワシにはそのような事は関係ない。」

「うーん、ソうですか・・・。」

「私も乗るので構いませんよ。何よりアルティナ様の恩人ならば、御礼もせねばなりませんし。」


4人で森の淵に沿ってしばらく歩く。まだ街道が見えてこない事を不思議に思ったが、その微細な焦りを誤魔化すようにラルフに声をかけた。


「ねぇ、ラルフ。わたし、どれくらい森にいたのかしら?」

「姫が行方不明になって、今日で5ヶ月と10日です。」

「そんなに経っていたのね・・・。町のみんなは?びょうきはちゃんと治まったのかしら?」

「・・・ええ、。ただ、とても感染力の強い病で、国中の半分以上が罹患し、1割を超える死者が出ました。」

「そんな・・・。」

「ご安心を。現在は落ち着いています。鎮魂の祈りを今年の冬至にあわせて行う予定です。」

「じゃあ、わたしもそれに参加したいわ。できること何かあるかしら?」


アルティナの問いにラルフが何処か困ったように笑う。


「ところで、姫とイールギル殿は、こちらに来るまで他の者と会われましたか?」

「いいや、ワシらだけじゃよ。」

「ほかの人は見なかったわ。」

「そうですか。それは、よかった。」


ラルフの静かな声が響いた。


「ーーっ?!」


ドンッと何かがぶつかる鈍い音がいくつも聞こえる。次いで、何かが地面に落ちるドサリという音。音の方に目をやって、アルティナは息を飲んだ。


イールギルが地面に倒れ伏していて、その周囲に赤いローブの一団が立っている。それはまだ良い。先程まで彼らは後ろを歩いていたのだから、側に立っていても不思議ではない。それよりもイールギルの背からいく筋もの銀の光が生えているのはなんだ?イールギルの伏せている地面からジワリと滲み出す赤色は?


それが何かを頭が理解する前に体に激しい衝撃。

今度は自分の胸から銀の輝きが生えている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


ゆっくり後ろを振り向くと、銀の鎧を着た騎士の1人が震えながら後ずさる所だった。もう一度自分の胸の輝きを見下ろす。

急に喉を迫り上がる吐き気を堪えきれず、アルティナは膝をついた。


「え・・・な、なん・・・?!」

「・・・まさか生きていらっしゃるとは驚きです。魔物の巣に放り出されて戻ってくるとは、予定が狂いました。万が一と思い警戒しておいて正解でしたね。小さな頃より見てきた姫を手にかけなければいけないのは非常に心苦しいのですが、さる御方が姫に戻って来られると困ると仰られるもので。」


なんでと零した言葉は熱い血の塊によって遮られた。

それを明日の天気が雨で憂鬱とでも言うような口調で話すラルフに、アルティナは思わず後退った。しかし、その距離は一瞬で詰められる。


「皆には姫様はやはり森でお亡くなりになったとお伝えしておきます。魔物に食べられたのなら、体の一部を持って帰る必要はありませんよね。後で服の切れ端でも頂きますね。」


「遺体の一部では道中腐るのも困るので、丁度良かったです。」と笑うラルフの刃が、無情にもアルティナに向かって振り下ろされた。

痛い痛い。

なんだか怪我してばっかりですね。

もうしばらく苦難回続きます。

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