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野生の姫様 16

遅くなりまして誠にすみません(汗)

半年っ・・・?!

気に入らなくてアレコレしたり、リアルに追われたりしている間にあっという間に年月が。なんだか社会人になってから時間がキン〇クリムゾンです。社会人って怖ェ・・・。


「わたしね、いっちゃんのことだいすきだよ!」


思いがけないアルティナの突然の告白に、イールギルは驚いて目を瞬いた。アルティナを通して何処か遠くを見ていたイールギルの瞳が、焦点を戻してゆっくりと瞬く。綺麗な金の瞳に自分が写っているのを見て、アルティナは少し安心した。


「いっちゃんの言いたいこと、むずかしいけど少しだけわかるよ。ほんとはね、おしろに帰るのは少しだけこわいの。帰っても、またいらない子だって言われるんじゃないかって…。」


それはアルティナを苛んでいた小さな棘だった。

叔母に逆らうのは得策ではない。

アルティナは勉強は苦手だったが、決して馬鹿ではなかった。だから、衛兵に軟禁状態にされても、侍女達が強張った顔で無視をするのも、仕方のない事だと理解している。しかし、理解と納得は別物である。まして、小さい子供なら尚更である。いないもの、いらない子供として扱われる事に、アルティナは深く傷ついた。

「ならば…!」と声を上げようとするイールギルを制して、アルティナは首を振る。


「それでももどろうなんて、いっちゃんから見たらばかなことをしてるように見えるかもしれないね。…でも、もし、まだわたしをまっていてくれる人がいるなら、わたしのばしょがあるなら、もどりたいの。帰るのをあきらめるのも、一度ちゃんと見てからにしたいの。もどればよかったかもしれないっておもいながらこのあとずっとすごすのは、イヤなの。」


不安に思う事が無いわけではない。寧ろ不安しかない。しかし、ここで進まなければ、アルティナはこの後どうやっても自分として生きていける気がしなかった。


「………そこまで言うのでなら勝手にせい。」


イールギルは顔を顰めてそっぽを向いた。

それでも、混ざった血のせいか、共に過ごした決して短くはない時間から、彼が不器用でとても優しいのをアルティナは知っている。謝罪の言葉はもう何度目か分からない。だから、アルティナは素直な気持ちを伝えることにした。


「わたしといっしょにいてくれてありがとう。わたしひとりぼっちでさみしかったから、とってもうれしかったのよ。」


その言葉にイールギルがピクリと反応し、ついで眉と肩が下がる。お礼を伝えたのに落ち込まれて、アルティナは首を傾げた。


「・・・ワシもお主に謝らねばならん事がある・・・。ワシははじめ、お主を助けようと思って助けたのではない。本当は誰でも良かったのじゃ。同じ人族を助ければ、少しでも友の気が晴れるかと思っての・・・。」


モゴモゴと気まずそうに口の中で呟くイールギル。どうやら友達への贖罪として接していた事を気にしているらしい。

アルティナは寧ろ始めから好意的だったイールギルの行動に納得がいった。騙されているなどとイールギルの優しさを疑った事は欠片もないが、ここまで親切にされる程の事を彼にしていなかったので不思議に思っていたのである。


「・・・えっと、それはいけないの?」

「いや、いけないと言うか・・・身代わりにされるのは不快ではないかの?」


言わないという選択もあったのに、良くも悪くも不器用なイールギルであった。

そして、アルティナにとって誰かの身代わりだとかそれを気に病むだとかは問題ではなかった。


「いっちゃんがいなければ、わたしきっとなにもできずにしんでいたわ。」


重要なのは、自分がどうして今この場にいられるか、という事である。

イールギルがいなければ、あの時魔物に襲われずとも、遅かれ早かれ同じ目に遭っていただろう。魔物に襲われなかったとしても、淋しさに耐えかねていたかもしれない。


「わたしをたすけてくれたのは、わたしに生きていいって言ってくれたのはいっちゃんだよ。たすけてくれて、ありがとう。」


アルティナにとってそれが全ての答えであった。


「わたしはいっちゃんといっしょにいたいよ。いっちゃんはどうしたいの?」


その真っ直ぐな瞳と言葉に射抜かれて、イールギルはたじろいだ。



**********



初めは友と同じ髪色に興味を惹かれた。


少女は友ではない事は、誰よりも分かっている。

しかし、友と同じ色を目で追わずにはいられなかった。


少女――アルティナは近くの国の王女だと言った。

王女がサバイバルの真似事をするなどなんの冗談かと思ったが、共に過ごす内に納得した。元よりかなりのお転婆だったようだ。しかしそれが森で生き延びる事につながるとは、世の中分からないものである。


アルティナは儚げな見た目に反して、好奇心が旺盛で色んな事を試したがる。木に登っては落ちそうになり、見知らぬ草を腹に入れて寝込んだり、狩りを手伝えないので料理すると言っては怪我をしそうになるので、全く目が離せない。

かと思えば、イールギルが体の傷に頓着しない事に本気で怒ったりもする。そんな時のアルティナには何故か逆らい難く、そんな心配をされた事がないので同時に少しだけむず痒い。吹けば飛ぶような小さな人族なのに不思議だと思った。


イールギルとシロという話し相手が出来たのも良かったのだろう。窪地に来た時は張り詰めて今にも泣きそうだった表情が、随分と明るくなった。

アルティナとシロが一つずつ物を覚えて成果を誇らしげに見せに来るのを見る時、3人でのんびりと日向ぼっこをする時、何とも言えない温かさを覚えた。

そんな日々を繰り返していたある日、ふと胸の痛みが鈍く小さくなっている事に気付いて驚いた。


友の事を忘れたわけではない。

「何故だ」とイールギルに怒る顔、生き残った自分を責める苦悩の顔、途方に暮れたような悲しそうな顔が浮かんでは消える。今だって鮮明に覚えている。けれど、ふとした時に思い出すその中に、友の笑顔はなかった。深い霧の向こうのように霞んで、友の顔が上手く見えなかった。

ここ千年、上手く思い出せなかった友の笑顔を、思い出を、自然と思い出せるようになった。

そして、同じくらいアルティナにも笑顔でいて欲しいと考えるようになった。


いつしかアルティナは『守れなかった友の代わり』ではなくなっていた。



**********



己の内に問いかけてみれば、もう答えは決まっていた。

自分が言ったではないか。

この子供の剣となり盾となると。


「・・・そう、そうじゃったの。」


子供に気を使わせてしまうとは、とイールギルは苦笑した。

本来の姿に戻り、アルティナと向き合う。

龍の姿で見るアルティナは、驚く程に小さい。焚火は燻ぶるばかりとなり、辺りはとても暗く、アルティナは夜の闇に溶け消えるかと思われた。けれどアルティナの瞳と長い髪は月光を反射して淡く輝いていた。


『ワシは真祖の龍がひとり、イールギルグラズス。アルティナ=エル=アルバディアよ。お主が望む限り、ワシはお主を見届ける事を此処に改めて誓おうぞ。』


その輝きは真っすぐ進もうとするアルティナの意思を表しているようで、イールギルは眩しさを覚えて目を細めた。


『シャルルルル!』

「しろちゃん!」


その幻想的な雰囲気に割り込む高い声は、白色の鱗が同じように月光を反射しているシロ。勇ましく胸を張っているのが微笑ましくて、イールギルとアルティナはどちらからともなく笑みが溢れた。


『シロも一緒にいると言うておるよ。』

「ふふ、ありがとう。ふたりがいてくれるなら、とってもこころづよいね!」


楽しそうに笑い合うアルティナたちの笑い声が静かな夜の森に響く。イールギルが焚火の煙を追いかけて視線を上げると、そこには満点の星空が広がっていた。

魔物が闊歩する森の中とは思えない程穏やかに夜は過ぎていった。

なんかまるでアルティナとイールギルのフラグが立っているように見えますが、あくまで爺様と孫です。

まだ序章・・・はたして本編はいつになるのか。世の作家様は凄いですね!

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