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野生の姫様 11

春ですね。

春眠暁を覚えず、ですね。

最近は寝ても寝ても眠いです。

精神と時の部屋が切実に欲しい。


幸いイールギルが魔物の言葉を解す事が出来たので、すったもんだあったものの無事に誤解も解け、なんとか落ち着いて話をする事が出来た。

相変わらず淡く光る草花に囲まれて三者は腰を下ろした。


聞いてみると、白蛇はこの間独り立ちしたばかりらしい。

白蛇は見た目通り子供だが、まだ子供の内に独り立ちをさせる事は魔物にとってはあまり珍しくないらしい。弱い者を連れたままでは生存確率も低くなる。最低限の成長を見届けた後は、新たな命を育み、種全体の生存確率を上げる。あと、将来的には子供とも縄張りを争うので早々に離れたい、という理由もあるらしい。

白蛇は餌を上手く獲る事が出来ず、森を彷徨う内に魔物に襲われた。その時近くにあったアルティナの鞄に身を隠し、そのまま気を失っていたとの事だった。


まだ碌々狩りどころか自分の身を守る事さえ出来ない白蛇を森に返すのは、アルティナには躊躇われた。独りぼっちで森にいたという所に共感したのもある。アルティナは白蛇に「シロ」と名付け、独り立ち出来るまで共に生活をする事にした。


『…アルティナよ。』

「わかってる。早く帰りたくはあるけど…「こまってる人は助けてあげなさい」って父様と母様言ってたもの。いっちゃんはしろちゃんをほっとくの?」

『……。』


イールギルは正直、自然淘汰ならば仕方ないと思う。本来、創生の神と自分達真祖以外は全て等しい命である。

しかし、それは干渉していない立場での話である。

魔物とはいえ目の前で泣かれた幼子を見捨てるのは寝覚めが悪い。そして横からの圧が凄い。長く生きて来たが、この圧力を回避する術をイールギルは持たなかった。


『〜〜〜っ!好きにせい!』

「わぁい、ありがとう!もうけっこう長い間ここにいるもの。少しくらいかわらないわ。」


それまでの渋面をコロリと笑顔に変えてアルティナは礼を言った。

風に揺られた草花から花弁が飛んだのか、淡い光の粒がいくつかふわりと舞う。それは暫く空中を漂った後、イールギルにぶつかって消える。それを何とはなしに目で追いながら、アルティナは言葉を続ける。


「それに、いっちゃんはまだケガがなおってないでしょ?いっちゃんのケガがちゃんとなおるまでは出発しないよ。」

『う、うむ。』


アルティナが「だからいっちゃんはちゃんと安静にしてね!」と少し睨むようにして言うと、先程の治療中に謎の迫力で散々怒られた事を思い出したイールギルは一も二もなく頷いた。

何だかアレには逆らわない方が良い気がする。

イールギルは一刻も早く治そうと思った。

シロが忙しなく首を巡らせているので視線を追いかけると、よく見れば先程見た光の粒がいくつも窪地を飛んでいる。さほど風が強いようには感じないので、丁度花びらの取れる時期だったのだろうかとアルティナはぼんやりと思った。


『シュルル…』


シロが大きな欠伸をした。それにつられてアルティナも欠伸をする。

空を見れば日没が近いのか、少し薄暗くなりつつある。

そんな一人と一匹を見て、イールギルは片方の翼をそっと広げた。


「いっちゃん?」

『…話は明日にしても良かろう。子供は疾く休むと良いわ。』


アルティナが翼越しにイールギルを見上げると、少しぶっきらぼうに言葉が返された。

頭上にかざされた影からの穏やかな暗闇にアルティナは急速な眠気を覚え、眠さに鈍った頭でぼんやりと礼を言った。


「ありがとう。いっちゃんは優しいね。」

「…………………ふん、子供が気を使うでないわ。早う寝い。」

「ふふ。」


出会ってまだほんの少しだが、この黒い龍が不器用で優しいのはすぐに分かった。まるで昔からの友人や家族のような安心感を覚えながらアルティナは眠りについた。





『ーーった!止まれというに!』


空が真っ暗で静まり返っているのでおそらく深夜、アルティナはイールギルの焦った声で目を覚ました。と言っても意識だけ少し起きただけで、気を抜くとすぐに寝てしまいそうな半覚醒状態である。

イールギルはアルティナに気付かず、ブツブツと何か聞き慣れない言葉を呟いては慌てている。それでも身じろぎをしないのは彼の優しさなのだろう。

アルティナは「どうしたのだろう」と視線を巡らせて、


「…わぁ。」


感嘆した。

いつもは淡く光るだけの草花や木々が、ひとつ、またひとつと光の粒を生み出している。窪地の草花全てが発光しているのではと思う程の光の粒。無数のそれらがふわふわと窪地を漂っていて、とても幻想的な光景を作り出している。

草木を透過するその光の粒は、イールギルやアルティナは何故か透過せず、当たると弾けるようにして溶け消えた。

当たった場所からホワリと暖かくなる感覚に、眠気が誘発される。


『……はぁ、明日なんと言ったものやらのぅ…』


頭上から途方に暮れたイールギルの声がする。

「どうしたの?」と言ってあげたかったが、再びやって来た眠気に抗えず、アルティナは意識を手放した。







そして翌朝。

ぐっすりと寝たアルティナが目を開けると、そこは草一つない荒地が広がっていた。



一応お伝え。

この話はイールギル×アルティナではありません。一話前に出て来たフェリクス少年がヒーローになります。多分。

イールギルは増える必要のない種の為、恋愛感情はありません。アルティナとシロにはあくまで家族愛です。最終的には爺バカみたいになる予定。

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