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『泥濘の双聖者』第二話:「天使の悪戯」


(早く合流しなくば、部下ガキどもまで巻き添えになる……!)


土壇場でそのようになってしまった結果として、これから合流した後も、マイクルの部隊には、過大に敵部隊が圧し掛かってくるだろう……というのが、小隊長としての大まかな予想と予期であった。


部隊長のマイクルの判断は即ち、「作戦は既に失敗した物と捉え、こちら側の友軍本隊部隊からの支援援護と連携が得れる地点まで、自隊を後退させる」……


その刹那、閃きと共に爆圧が迸る。マイクル自身の脳内での内言に相槌を打つかのように。

遅れて、けたたましい音が轟く……至近での衝撃に、機が大きく揺さぶられる……コクピット内のマイクルは、呻きのような叫びを食いしばった歯の根の間から漏らすしかない。

それでもマイクル曹長が幸運だ、としていたのは、先ほどの強硬偵察紛いの己の行動の際に、敵部隊の陣容とその規模と構成を、大まかに目撃が出来ていたからである。

機上電子装置のロガーにその時の探知情報は取得保存済みだ……いずれやつらはぶっころがせる。そう舌なめずりをしつつ脳裏で分析と推察を重ねていく。


そして、シミター操縦の手練れたるマイクルは、ダチ公たる愛機の、その機体の制動と制御において都度、確かなものを発露していたのだった。故にして、この時に至るまでも、致命的な損傷弾というのは、受けてもいない!

発奮といういい方もできるだろう。しかし、この酷悪極まりない運用環境の極みたる、爆発の連続の最中を駆けずり回る、というシチュエーションとあっても、ともすれば、ありがち所では無く必然のレベルまで可能性が高まるであろう“操作と判断のミスで機体をすっ転ばせたり……”なんということなどは、まるでなかった。もはや涙ぐましいほどに、その操縦の腕は確かであった……

ともあれそのまま、走行の速度を緩めずに機体を疾駆させて走りゆく(そのことも含めて離れ業めいたテクニックを、このマイクルは有していて、なおかつ存分に発揮していたのだ)。


「ガッ! グゥッ……まあ、いいさ……通常の敵の編成と携行弾薬の規模からするに、このあたりで、ぼちぼち重迫撃砲は使えなくなるはずだが……?」


マイクルは、“じきに”そうなるだろう、と見こして、飛来してくる弾頭への恐怖に対し、そう己を奮い立たせていた。

だが今まさに尚、爆光の連続と炸裂の連打は続いていて……


さて、一連のこの敵の攻撃の正体は? 即ち、SA機力による運用の、大型重迫撃砲による攻撃だった。


……双方の野戦戦力単位での観測ドローンやセンサー弾薬の類は長引く戦闘で現在在庫を切らしてしまっていて(あるところにはあるのだろうが……そう、そういう貴重品というのは、上層部のオエライさんだとかとか、あるいはその連中だとかのどこかのお気に入りだとかというのが、なんかしらのピンチになった段になって、どこかのタンスの引き出しの中からあら偶然! とお出しされる、そのようなものなのだ。そしてマイクルはその現世利益的守護精霊の加護というのはお近づきにもなれてはいなかった……)、その上、シミターにしろ敵の戦力にしろ、近代的な火器管制ネットワークの複合連携による野戦戦闘というのは、使用できうるC4I機器の性能限界により、理想的な効果としては、そう満足に執れたものではないというのをマイクルは承知していた。


それゆえ、敵側が今できているのは、目隠しした状態でぶっ放しているのも同然だろう。


二足歩行型テクニカル車両・スタンディングアーマーという物が実用化された結果として、この星の戦場では戦力と火力の投入可能な規模と単位が、ゼロ数値の状態から1が代入され、それが、まるで倍々ゲームのように肥大していった。


その理屈の成り立ちというのも、この一連の今起きている状況を傍証とすることができる。

例えば、今こうして向こうが景気よくぶっ放していて、後ほどそのヤッコサンどもにも我らの味方側から気持ちよ~くぶちかまされるのであろう重迫撃砲のそれというのも、大昔の地球本星にあった対潜ロケット弾や対潜迫撃砲の類を、スタンディングアーマーのスケール規模が扱えるものとしてリバースエンジニアリングをしたというのが大雑把な由来である。


……この戦争に投入されている兵器群のほとんどが、そのような由来で、数世紀ぶりに再生復刻とデチューンが為された、因果な代物であったのだ……


されどこの重迫撃砲としての運用の絵図の理想形を目指した時、それのみでは陸戦での運用には柔軟性を欠いていた。

その為、その位の当時の歩兵用迫撃砲を縮尺拡大した形態として用意した構造物のドンガラに機構と機能をあてはめ込め、それらの設計と要素をまぜこぜにしたものとさせたうえで、23世紀の現代科学にしてみれば原始的ローグレードともいえる技術レベルでの、復刻兼キメラ改造品として作りあげたのだ。


それこそが結社が武装叛乱勢力としてその武力を為し得させた最大のトリックなのでもあり……

かつてに数十年落ちとはいえ曲がりなりにもホンモノの軍事兵器を扱えていたわれらがエグゼグト軍というのも、むこうもこっちも、どっちもあっちも、その戦力の大半は、今ではそうなっている。


SAというのは、単機のみの携行火器だけにとどまらず、元が作業用汎用重機であるがため、多彩な汎用性というのを発揮し、そのような芸当というのを、縦横無尽に、とかく見せてくれる。

そうしてその上で実際の使用時には歩兵が扱うような要領でSA……スタンディングアーマー……により用いさせるモノとして、現在機械化部隊支援火器として運用がなされているものであったのだ。


……かつての21世紀半ばから定石の物として続いていた通来の現代戦術というのは、この星へと持ち込まれる物品の厳格な制限規制と、この星自体で兵器の類を作りえれる事を惑星法と星間条約で禁止としたことで、この星での禁じ手となっていた。


その上で……治安維持を名目に、独占占有的に公権力の側のみに在来型の兵器類を保持しえるのを確実・絶対なものとして限定させることにより、大宇宙という絶海の最中の孤島たるこのエックスアースでは、対称戦だろうが非対称戦だろうが、既存にはまず脅威たる規模としては、そもそも成立し得れないものとされていた。


だが、そんなこの星にて、スタンディングアーマーは出現した。


武力衝突に至るまでのプロセスには七転八倒と二転三転の経緯があったとすれ、この植民惑星で開拓の為に実用化されていたスタンディング・ユンボという二足歩行型汎用重機を改造して武装装甲機型化させたという事自体は、そう大した理屈ではなかったのだ。


しかしそうして、結果としては非対称戦のその非対称の相違性が、天地がひっくり返るかのように逆転した。


民間機として超・多数が惑星全土規模で出回っていた種機を多少の改造として架装するだけで用意でき、数で圧倒できる動員力、本業の戦車なり航空攻撃機には正面からは敵わないとしても、それでも対抗の手段とやりようはあったし、装甲車や歩兵程度には十分以上に必要な狼藉を奮ええるその戦闘能力。


戦力の均衡は大きく傾いた。


一方の体制側……国連軍が、遠く離れた地球から細々と少ない数を持ち込んだのみの在来型兵器とあっては、それらの圧倒に太刀打ちが為せえなかったのである。


物品的都合がつかない故に、かつての地球本星で十全かつ圧倒的な性能を発揮し得ていた個々の兵器群がその戦術が再現できなかったことで、この星の統治政体を守護していた駐留国連軍というのは、開戦序盤にて大損害を被った。


されど、その国連軍も植民地自治正当政府と非常時立法的に組織統合が為されてエグゼグト軍となり、自勢力側のスタンディングアーマーを実用化することで、反撃の打つ手を布陣させた。


そして、今がある。……


「ん?」《たいちょー!! 待ってたよー!!》


誰に向けたわけでもない黄昏のように感慨か自嘲めいた思索に己の思考を逃避させていたマイクルであったが……

モニター越しに目撃したそれの機影により、中身として乗る人物の存在との認識を脳裏で一致させた後、しばらく目をシパシパと瞬きさせ、それから最終的に己とそいつの正気と自我の在り処をいよいよもって疑うしかなかった。


《たいちょー!》「!? コーラルか?!」


通信から聞こえてきたその気の抜けたような柔らかい声の主に、マイクルは面食らった。

部下のひとりの声である。

だが、この現地点は、待機場所・万が一の合流ポイントとして事前に指示しておいた場所からは、マイクル機の進出した方向へ寄るかたちで、だいぶ前進した位置であった。


「コーラル! おまえ、何考えてんだ!!」


《隊長が心配で、わたし一人で来たんです! 分隊の他の二人は、元のポイントで待機してもらってますっ》


「……~~おまえな~~……」


《あは、たいちょーのいつも通りの悪運の強さじゃないですか、おおよそ、わたしが心配した通りになりましたね!》


はぁ、とため息を吐くマイクル。

……結社の側もそうらしいが、国連軍の人材周りの状況も、壊滅的だ。

もともとの駐留国連軍としての駐在する正規の人材数は不足はしていなかったがさほどではなかったというのもあるし、

そうして激戦の内に欠員していった分や不足した人員を、最初の頃は惑星治安部隊や政府の公務員級から徴発していたのが、

数度の制度改正と段階的徴発範囲の規模拡大を泥縄的に重ねていった結果、

今となっては民間人の青少年……下限に至っては中学生までも動員するに至っていた。


そして、身体能力の発育程度やその体力的に成人のように一般兵士としての過酷な任務に耐えられず、

一方で、現代的な装備品の数々……特にスタンディングアーマーへの適正は、飲み込みと学習のスピードが速いこともあり、

そうした若年層からの動員人員は、

学徒兵として、優先されてスタンディングアーマーの搭乗員として、教育及び実部隊への配置が図られていくこととなっていったのが今までだった。


そして、……その後方に待機させている二人というのもそうであるし、

何といえばもあろうが、このコーラルという人物も、そうして戦時動員徴発されてマイクルの部下として指揮下の編成に入れられた、少女兵士のひとりであった。


外見は、肌は白く、髪はミルクティーを思わせるブロンド色で、声色とその通りは鈴の音を思わせる可憐さ。ついでに顔立ちにおいては黙っていれば間違いなく別嬪の類だろうし、ではあるが、年齢と身長に対して体躯が華奢で、まるでもやしかフェレットのよう。

その性格は利発にして利口。ただしすぐ拗ねる癖はある。

好物は南洋マグロモドキのフリットステーキ(パン粉揚げ焼き)。

……自慢ではないが、シミターへの適正は、己以上にあるものだとマイクルは感じている。なので、己の機体よりも新しいバージョンの、Mk44型シミターを、部隊長としての裁量として、乗機として宛がっている。


一方で欠点がないわけでもなく、

どうも利発すぎるのか、戦闘におけるマイクルの安否を気にしがちで、この度のように、“命令の自己解釈”……と本人は都度抗弁しているが、まあ軽度の命令違反をしてまで、マイクルの手助けや援護を取り図ろうとしてくる……ありがたいが、本人の長生きの為にも、自重してほしくはある……とマイクルは感じている。

そんな大それた真似を常習犯として平然とやるくらい、やや、過剰に、なつかれている……気配がある。


(なんだかなぁ)


マイクルは、そんなコーラルの事を、ありがたいが、半ば、有難迷惑だと思っている……

いや、嬉しくはある……のだが、

思えば、この妙なやつが指揮下として入ってきてから、二ヶ月半。

……様々な体験を共にしてきた……

酸いも甘いも、良い思いも悪い思いも。

まず、自身がこのヤツに助けられてきたことはたしかだし、

なにより、己の指揮下でこのコーラルという少女を生き延びらせてきたことが、元国連軍兵士としての己の自負における、その核心部位ということではある。

腐れ縁と言うには乱暴だろうが、かといって面倒を見きれてこなかったわけでは無いとも感じている。


(まあ、俺が生き残れたら、ステキなヤロウを誰か見繕って、そいつとの結婚式の仲人くらいは、やってやれるさ……)


《たいちょー?》


「ま、いいさ。……全速力で離脱するぞ、突っ走れるな?」


《当然です! たいちょーのいる場所では、わたしは無敵ですからね?》


「よく言うぜ」……とマイクルは揶揄の言葉は口に出しかけつつ、


「後方で待機中の二人を拾ったら、そのまま最快速で、味方勢力域まで脱出。

後は我が軍の砲兵屋に、ヤツラをなんとかしてもらうぞ……」


《りょうかい~! ……ん?》


「なんだぁ? どうし……」


(!ッ)


モニターの端に、ノイズめいた光線の走査が走った。

敵機のレーザーサーチャー装置、その捜索用レーザー光波による検知光が、こちらのシミター機のカメラ視界に飛び込んできて、自機の映像スクリーン内にて、それの兆候が感知できたのである。


(となると、向こうの機体は、もうこちらと接触間近……と)


……先ほど、ようやく重迫撃砲の弾丸のスコールが終わったその後に、だ。


このルポナ山脈に走る縦貫山道の、その周辺というのが、今日のこの戦場である。


そして……その山道の傾斜路の、稜線沿いのその向こうに、“それ”のシルエットが、見え隠れする。


「へっ、」


今負った負傷というわけではないが、先ほどまでの爆発の連続による衝撃で、マイクルは口の中を己の歯で噛んでしまっていた……軽く血の混じったその唾液をコクピットキャビンの床に吐き捨てる。


成程、つゆ払いを兼ねた火力支援による制圧射撃の後に、こうして前衛をよこしてくるわけだ。……毎度のことながら、ルーチン通りにこうときた。


されど、搦め手も奥の手も無しにその相手をさせられているのが自分たちなのだ。


揚句に自機体の機体不調。

試練とはこのことか!

まったくもって、涙が出るほどありがたい。


(来たな)


さも名機と名高いMk36型であってもシミター機種である所のその誹りというのからは逃れられなかったのだという、貧弱なパッシブ・センサーが、

その斜路の……舗装から露出した稜線が化した泥濘の、ぬかるんだ泥水の向こう越しから立ち上がる複数の熱源を捉える。


そのシルエットから、発砲炎の明滅が打ち出されたのが今だった。


「コーラル伍長! 右からだ、こっちの足元・・を狙ってきてやがるッ!」 《りょ、了かぃ……あうっ!?》


マイクルの警告とほぼ同時。稜線の泥水が弾け、斜路の向こうから、曳光弾の火線と共に……オレンジ色の円盤状の胴体が、一機で一つのそれが三機分の3つ、同時に浮上した。


……いや、まさか未確認飛行物体のように、宙に浮いて飛行をしているのではない。


があるのだ。


正格には、片側につき三対と一本の多足と腕が両側に生えた、計六足と二腕がある下半身部位に、頭部というべきか胴体というべきか……カーリング競技のストーンを思わせるような、分厚い円盤状の上部構造物体が、乗っかるように取り付けられている。


そんなカニの脚じみた6本の脚が甲高い駆動音を立て、泥の表面をリズムよく走破する。


これが、“結社”が諸般の事情により不足した自勢力スタンディングアーマーの戦力的な穴埋めに実用化した、陸上型多足戦闘歩行機、〈バロットスパイダー〉型ランナバウトだ。


機体の規模の割に、重心というべきか……機高の低いその機体が、やがてこちら、エグゼグト軍(ExECGT)のシミター達を目標にして、迫ってくる。


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