「夜を裂く炎」 ─“見切り品の天使達”─
─“見切り品の天使達”─
夜空には、二つの三日月が昇っている。
開放されたコクピット・ハッチの向こうに浮かぶその光景は、平和だった頃、このエックスアースに訪れた人間ならば誰しもが感動すると称えられていた通りに、壮大な気分を01にもたらしている。
彼女がさらけ出された密林の外気温も、夜であるために冷却がされていて、そして風が出ている事から…不快ではなかった。
戦闘服の、右のポケットから目当ての物を取り出す。
銀色のジッポー・ライターと煙草のケースだ。
だが、それをくわえる事はせず、利き手の上で弄び始めた。
乗艇が撃沈されて、一週間、虚空の宇宙をさまよった。
その時一緒に漂い続けた部下の、とうに死体になっていた彼の持っていた物がこれだった。…ー宇宙艦では持ち込みは禁止されているのに。使うことなく、それを彼女は、お守りの代わりとしている。
次に夜空へと顔を向けた時、その空が、まるで天の川の様に星で覆われ尽くされていた事に01は気付いた。
…ーいや、正確には星ではない。宇宙艦船、もしくは宇宙艇が撃沈されたことによる爆発光だった。
その瞬きが無数に、夜空の上を埋め尽くしていた。
嗚呼、汚い花火だ。
残存国連軍の保有する宇宙船の30%が、今回の作戦に投入されたと聞く。
〈結社〉は、処刑リストを発布している。百科事典十冊で足りない厚さの、
だから、焦燥と恐怖が特権階級だった彼らを駆り立てたのだ。しかし、それが残される者達を見捨てた事には変わりがない。そして、その結果がこれであるのならば……
…結局、今日の“反攻作戦”に於いて戦果を挙げたのは、無事に生き残れたのは…彼女らの小隊のみであったという。
彼女らが去っていった後の密林には鉄と複合材のオブジェが残されていた。
機能を停止した〈シミター01〉だ。
コクピットのハッチは開放された状態で残されており、その中に、共に戦場を生き抜いた…主だった兵士の姿は無い。〈シミター02〉も〈シミター03〉も居なかった。彼女らは勝利者として帰って行き、皆で祝杯を上げて、飲んで騒いだ後に、そして寝て……それから、また新たな戦いに赴くのだろう。新しい〈シミター〉と共に。
雨が、その残骸を叩きはじめた。
熱帯であるパンゲア南西部では珍しくないスコールだった。
それは、ひとりだけ置いてけぼりにされた〈シミター01〉の涙のようでもあった。
他に残されたのは、敵だったモノ達の残骸だ。
撃破されたSAの死骸が、この場所で死んでいった者達の墓標でもあった。
年月を経ればやがて森の一部となり、腐ることのない複合素材の遺骸は、遠い未来にやがて訪れるだろう平和な時代で、新しい世代の人々に歴史を教える記念碑にもなるのかも知れない。
或いは、癒しの雨だったのだろう。
止むことのない雨は、いつまでも降り続いた。
火薬の匂いを洗い流す様に、血の色を落とす様に…――
※つづきます……




