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「夜を裂く炎」III:鉄火場の歌劇(オペラ)



III:鉄火場の歌劇オペラ






《距離690…探知波検知、照準警報、》






PACHI…CACHI、CAM、






「走行はそのまま、各車両はモーション6の防護姿勢に移行、被弾警戒!」






《…!》






…――HYUN,KYUN,CYUN!!!






《ワーぁオ、お出迎えだぜ!》






「マリアはこっちにツいてる!! 紛れ当たりも致命傷にはならん、このまま突っ込むぞ!」






《歓迎してやりますよ!》






 程なく、密林の奥から機関砲弾が飛来してきた!




〈結社〉側の、反撃である。




 だが、散発的だ。まばらに飛んできた曳光弾も、森の暗がりに蛍光色の破線を引いてから、あらぬ方向のどこかへと残光を消すだけだった。






 理由がある。




 SA――スタンディング・アーマー――は、マシンのその大きさや、エンジン出力と機体パワーの関係で、巨大で、重くて大量の電力を消費する高性能なレーダーやセンサー等を装備出来ないのだ。だから、索敵性能が…在来の重装甲兵器と比較して、だが…低い。




 そして同様に、装備出来る火器にも限界があったから、搭載火器の効果射程というのも、ミサイル以外の機関砲等は知れた物だった。そしてそもそも、ミサイルだって、システム化された専用車両に比べれば有効には扱えない。






 SAは、あくまでも歩兵や軽車両…装甲車の延長でしか無いのだ。






 だから、高速で走行を続ける兵士達の〈シミター〉らに対して、始まったばかりの攻撃は当たるはずもなかった。運悪く掠めたとしても、装甲板に溶接された整備フックが弾けて取れるか、〈シミター〉の外装のペンキが剥げる程度である。






 01の意図に相手も気づいたらしい。この射撃には、焦りの色があった。






《火器セーフティ解除、ぶちかましてやる…!》






 03は、元戦車兵だ。




 六年前、高校を卒業してからの長休みで、気まぐれにエックスアースへ観光に来たのがきっかけだった。




 自然に、圧倒された。




 どこまでも広がる未開の惑星の大地に、03は一目惚れした。




…この星に、住みたいと思った。




 だから、祖国のエックスアース駐留軍の戦車兵、という道を選んだのも、開拓労働者としての過酷な移住以外の選択肢は限られているこの星に、手っ取り早く定 住するための手段だった。それから自分の親に対して、この星で安定して生活をする…という言い訳の為の、ただの方便でもあった。精々、良い給料と安定した 生活の一石二鳥くらいにしか思っていなかったのが本音であった。






 時間は流れて、03は良質な日常を謳歌していた。




 生活基盤が出来てから、親をこの星に呼び寄せた。地球では絶対に出来ない政府要員の家族としての高い生活水準は、今でも、良い親孝行になれたと思っている。




 恋人にも恵まれて、五年目の誕生日の日の夜、ダイアモンドの指輪と共にプロポーズの言葉を贈られた時には…人生の絶頂を感じた。






 ただ、全てはもう無い。




〈結社〉の最初の蜂起地だった都市の駐留部隊だった03は、利口な公務員として、あの日、命令通りの不本意な撤退を受け入れるしか無かった。




 その時、両親を連れて帰る事は叶わなかった。今でも後悔している。二日寝ずに行進して最寄りの駐屯地にたどり着いた時、最初に休憩に入った食堂のテレビ の報道映像で、運が悪かった他の政府職員とその家族と共に、〈結社〉に同調した暴徒によってグロテスクな肉塊へと変えられた父親の遺骸を見せられた時、怒 りを感じるよりも呆然となった事を、03はまだ思い出せる。




 だからその日の夜、まだ街にいるという母親と恋人から怯えた声で電話があった時、言葉で言い表せない程にどんなに安心したのかも、混乱する頭で、どうやったら政府側の人間の家族と発覚せずに脱出できるか必死に考えた事も、まだ頭に染み着いている。




 街の空港にさえ逃げ込めば、エックスアース自治政府のチャーター機で脱出出来るという噂話を聞いて、迷うことなく自分が飛びついた事も…






 だから、朝、その空港が戦場になったというニュースを聞いた時には気が狂いそうになった。




〈結社〉の、本格的な侵攻だった。




 結局、守備隊の治安部隊と政府軍は敗北し、空港は失陥した。




 恋人と母親がどうなったのか、




 その後、戦車を扱える貴重な人材として転戦に次ぐ転戦をする事になった03は、仔細を掴むことが出来ていない。だから、その事はまだ希望でもある。






 焦りと苛立ちを募らせるのとは逆に順調に戦歴を重ねていった03は、いつしか優秀な戦車兵として才能を開花させていた。




 日々増え続ける各国連合軍…後の国連軍の被害に、人材の供給が追いつかなかったというのもあった。




 開戦から二週間半で射撃手から車長になり、二ヶ月が経つ頃には、小隊を率いるコマンダーになっていた。






 だから、五ヶ月前のあの日も忘れる事が出来ない。




〈結社〉の小拠点に対して、最新の〈Mk38シミター〉一個中隊と共同で攻撃を仕掛ける、という事だった。






 部隊は壊滅した。




 この戦闘で初確認がされた……SS-11bを用いた〈結社〉の新戦術によって、肝心の〈シミター〉部隊が何も出来ないまま駆逐されてしまったのがその原因だった。




…待ち伏せだった。




 道もない未開の砂漠地帯。そのど真ん中にある目的地から十七キロも離れた地点で、秘匿のため、五日前から単独で行軍していた自分達が待ち伏せを受けたのだ。




 後で知った事だが、軍内部に公然と内通者がいる事は国連軍の上層部も認知していた事らしい。






 03の率いる戦車隊も全滅した。




 随伴のシミター部隊をSS-11bによって撃破され、護衛を引き剥がされた丸腰の戦車隊に、敵SAがクロス・コンバットを仕掛けてきたのだ!




 必死に抵抗をしたが、戦車とSA、という兵器の強弱の関係以上に、たった四両の、青田狩りの促成栽培で徴用した間に合わせの戦車兵と、何倍にも数で勝り、なによりも鉄の実戦経験で鍛え抜かれた歴戦の精鋭SA部隊、という取り合わせがその敗因になった。




 ミサイルの飽和攻撃…現代戦車に標準装備されるファランクス自動迎撃榴弾装置によって、それは対応できた。




 03も、自分の車両単独で少なくとも二ダースはSAを破壊したのもおぼろげながら記憶している。一体あの戦場に何機いたのだろう…きっと、地獄に巣喰う悪魔の数よりも多かったに違いない。




 それでも突然の奇襲に訳も分からないまま混乱するしかなかったこちらに対して、その隙に高速で肉薄した敵部隊は冷静に、格闘戦で狩っていった。




 SA如きの携行武装では、大型戦車を撃破する事は困難な筈だった。だが相手達は新兵器を装備していた。




 対戦車大型地雷を転用した、SA用の刺突爆雷。これも後で知った事だが、別戦線では既に確認がされていた物だった。そんな情報は聞かされていなかった。




 それによって03達が乗っていたヘラクレスMBTは、撃破されたのだ!






 戦闘が終わり、ただ一人生還した03は、強制的な療養が終わった直後、SA乗りに転向した。




 理由は、再び戦場に戻る為だった。今では戦車の数は欠乏していて、もう戦力の再生が出来る様な余剰車両は無い。だから復帰してからの自分は、後方での司令部指揮官として安穏な仕事を就く……その事を告げられたからだ。


 いくら憎かろうと、SAなら、数があった。






〈シミター03〉の車内には、十二人の内、集める事の出来た八人の部下達の認識票が釣り下げられている。






 左手の薬指にはめられている指輪からも、ダイアモンドは消えていた。




 それどころか左腕全体が大きく焼けただれていて、グローブの下の左手首はケロイドになっている。




 あの日、被弾して炎上した乗車の中に閉じこめられた彼女は、じっくり三分間蒸し焼きにされた。だから、03の全身は、火傷の跡で覆われ尽くされている。






 復讐…というのが、今の03の原動力だ。






《…02、機影目視。エンゲージ!》




《3号車、我も敵捕捉セリ。攻撃許可を》






「01了解、いよいよだな…」






 やがて、密林の奥向こうに、敵SA…〈フリッター〉の、グレー色――ロービジ・カラー――のボディがうっすらと見えた。






 機体の望遠で確認している兵士達なら、より具体的に分かるだろう。




…炎上する草木に照らされて、全部で九機が確認できる。




 恐らくは警邏部隊の駐留であったのだろう、敵SAの後方で、詰め所らしき施設が炎上しているのがわかる。こちらのミサイルの一発が直撃したのだろう。


 部隊も、その内の一機は完全に破壊されていて、残骸となっているらしい。もう一機は左腕が取れていて、もう二機は右腕が、そして煤まみれのと、さらに一 機は半擱座の状態で地面に倒れていた。そして無傷なのが三機………ファイアトーチは、露払いとしてならばそこそこの成果は出せた様だった。






 だが、この七機、もしかしたら八機残っているのだ。




 向こうもこちらを目撃したらしく、残存機が隊形を切り替えて散開を開始した。




 そして、先ほどよりも距離が詰まった事で、彼らから発せられる機関砲弾の火線も、弾幕と言えるほどに濃密に…狙いが正確になってきていた。






《02は右端のイキの良いのを頂く。どっかの人は横取りすんなよ~?》


              ・・・


《こちら三号車! 取りこぼしの七機共は全部自分が面倒見ますよ》




《だとっ?!》




「はぁはいはい、《こぉのー! だいたいオレより後からたいちょーの隊に入ってきたからってのに、オレよりももっとたいちょーと仲良いみたいになりやがってにー!》わぁーったわーった、《たいちょーからジキジキに誘われた、へっどはんてぃんぐされたキタイのルーキーのオレよりもあとから、じぶんからはいってきたのに…》01りょーかい。どーぞ愛ある者同士、《ちょっとくらいシミターに乗ってる時間がながいからって、わたしよりもベテランづらしてぇー!! だいたい!トシウエだからってコドモあつかいまでしてくれやがっ》おふたりさんでイチャつきなすって……《チックショーたいちょーもバカにしやがってぇ!? んだったらーぁ!》え?」




「《あっ!!》」






〈シミター02〉が先走った。




 右肩のマウザー砲と、胸部側の二十ミリバルカンによる同時掃射!




 これを、敵部隊の中で唯一無傷だった、隊列右端の〈フリッター〉に照準して発砲したのである。




 射撃を開始した事によるマズル・フラッシュが、走行中の〈シミター02〉の機体を炎の色に点滅させる!




 ミニドラムを叩くようなリズミカルな破裂音の二重奏と共に、橙白色の発砲炎の光が、夜の密林を明滅させた。




 発射された曳光弾の雨が光を明滅させながら、まるで時期外れの流星群の様に、夜の密林をキャンバスにして…流れていった。




 とても勇ましい姿だった。


 無機物である筈の〈シミター02〉に、まるで、獰猛に獲物を追う黒豹のような生物感が確かに宿っていた程に。


 これは戦闘機のドッグ・ファイトならば正解だった。エースの勇敢さだ。02は敢闘勲章が貰える事は間違いなしだ。


だが…






《そらそらぁーー!!! …あ?》






 問題があった。勇ましく〈シミター02〉から飛んでいった機関砲の弾丸が、標的の〈フリッター〉に直撃しなかったのである。




 正しくは当たりもしていたのだが、一秒に百発撃てるバルカンの、十発撃って一発当たるか当たらないか、という割合だった。しかも、02の狙い通りの… 〈フリッター〉のコクピットには直撃せず、その周辺の装甲板を不規則にバシバシと叩くだけで、有効弾という奴になっていなかった。






 理由は、簡単だった。




 このような不整地では、例え二足歩行でも、走行時のSAの機体の揺動が激しくなる。そして、特に機体各部のマウント……銃架に懸架された機関砲などは、上下左右に、揺れる。そして、その分だけ発砲した火線は狙い通りには飛ばなくなる。




 一応、火器管制装置などと名前の付いた物もSAには搭載されているが、元々がちょっと高級なテクニカルでしかない〈シミター〉に、高度な照準補正能力を持った火器システムは実装されていなかった。




 つまり…スタンディング・アーマーは、特に完成度のワンランク程度下がる〈シミター〉は、動きながらの攻撃の命中率が極端に落ちるのだ。






 そして、途端に敵からの弾雨が〈シミター02〉へ集中し始めた。




 最初は02からの勢いに仰け反っていた相手達の〈フリッター〉は、冷静に反撃の応射を返す様になったのだ。




 それだけではなく、他の小隊機にもより正確に弾が飛ぶようになってきた。




〈シミター02〉の発火点からその位置を特定した敵部隊が、02に隣接しているだろう01、03にも、相対位置を予測して攻撃を加える対応に回ったのだ!






《02、教えた筈だぞ!》




《チクショー、こんなのかったるくてダメダメだぜっ》






 「ああー、なんてこった…」






 ともかくも、〈シミター〉小隊は困難に陥った。




 飛んでくる弾丸が、各機の装甲を叩き始めていた!




 ランダムな、跳弾と鋼の板が喰い破られる音とが連続していく。しかし、依然、各機は走行を続けていた。




 敵からの銃火は苛烈だ、しかし立ち止まれば、なおのこと蜂の巣だ。




 そんな中〈シミター02〉は、アクロバティックな高速走行を始めた事で、なんと飛来する全弾の回避に成功している。しかし、同じく走行を続けている筈の 01や03には、到底真似できるマニューバ…機動では無かった。第一、そもそもどうやったらああ動くのかが理解出来なかった……のはともかくとして、






「うっ、くっ、あぁっ…とと」






 被弾が散発するシミター01の機内で、小隊長である01は……竦んでいた。




 あの日の悪夢が怯えを増大させる。寒くて長かった闇獄の時間の記憶が、この身体から力を奪う……


 真綿でゆっくりと首を絞められる感覚だ。だがまだ自分は正気を保っていられる。あの時の恐怖と絶望に比べれば!




 必死に堪える01は、だから冷静に、訓練不足の新兵のように喚きながら機体を停止させる事はしなかった。この時間を終わらせるため…敵を殲滅するために、一刻も早く敵の元にたどり着くべく機体の増速もさせていた。だが、しかし飛来する機関砲弾によって乗機である〈シミター01〉の装甲が悪戯のように ノックされる音に、01は己でも情けなく思いながらも慄きの苦悶を上げていた。






 一応、Mk42の“殻”…コクピットの最終防護殻は、三十五ミリ程度の機関砲弾までなら防げる様に改善がされている。しかし、例えば機体の四肢までもが 同じレベルに防弾化されている訳ではない。馬力のキャパシティ・オーバーと資材不足という名の不本意な軽量化の為、シミターの防御力は最低限の物だ。この 程度の攻撃でも、他の部位ならば余裕で貫通する。




 そして、装甲の下のシャシー・フレームに張られた人工筋肉を破壊されるということは、即ちSAの搭乗員にとって“死”を意味していた。




 機体の自走が不可能になり擱座をすれば、モンド映画の首狩り族同然と聞く〈結社〉の狂信的な戦闘員によって、引きずり出され、辱められ……最後に、とどめを刺されるのを待つだけになるからである。






「ぬぅ、ぐ…」






 兵種転換にあたり入念な勉強をしたからこそ、兵士01はこのSAという兵器を過度な信用はしていない。




 この〈シミター〉がロールアウトした当初、機体全身のカウルとフレームと同様に、鉄ではなくアルミ系の軽合金によってこの“殻”は構成されていた。製造 に当たったメーカーの軍事兵器に対するノウハウの欠如が原因だったが、だが、しかし元々が土木重機の設計の原型機である。戦闘用の兵器としては余りにも基礎的な防御性能が欠落していたが為に、〈Mk30・シミター〉の初陣となった《エンガノ海岸での戦い》に於いては、敵上陸部隊の第一陣を殲滅撃破という華々しい成果と功績とは真逆に、機体の機械的な信頼性能としては…散々な実戦証明となったという。




 まあ結果、SAは“比較的”有用だったということでMk30はMk42となり、アルミ製だった《箱》も成型材型複合装甲の塊に強化がされて、立派な重装甲スペシャルという訳だった。




 今、兵士が乗っている〈45ー8141〉なんかも、七ヶ月前に〈Mk30〉の状態でキャンプに納品されてから予備機として一回も実戦を経ずに、この小隊に引き渡される時にそのまま改造がされて〈Mk42〉になった個体だ。






 しかし兵士は、この“殻”の事を《蛹の皮》と呼んでいた。何故かって?






「踏まれりゃ潰れるよこんなの、って…きゃ!?」






 まさにたった今、兵士の頭の上くらいの位置で大きな打撃音が響いた!




 おそらく、〈フリッター〉の固定武装の最大火力、ボフォース四十ミリ機関砲の着弾…直撃を受けた音だろう。






「ひぃ」






 四十ミリのAPDS(高速徹甲弾)に対してなら、まだギリギリ抗甚する!




 だが、それも一回限りの事までだ。




 もし――奇跡的に――同じ箇所にもう一回当たったなら、間違いなく貫通して………――






「02!」






《オバサンの悲鳴なんて聞きたくないよ、たいちょー!》






「むぐっ」






 オネーチャンでしょうが! まだギリギリ!


 その言い様はないだろう、とか、少しむっ、ときた、とか、やっぱりもうちょっと言い様が、だなんて、…まあともかく、




 女神様は好きだが、兵士01は無信教だ。別に今の時代では珍しくもない。




 だが死ぬときはふわふわでふかふかの白いベッドの上で死にたかったし、あの世に行くなら天国に行きたかった。普通でしょ?




 ブッダイズムで言うところの善行は積んできたつもりだったが、しかし計算違いというのがあったかもしれない。第一……まだ死ねない! 私も、敵を討つまでは!






《バカヤロー!》






 同じ災難に逢っていた女がもう一人いた。




 口では悪態を吐きつつも、しかし03は冷静だ。




 目を動かし、機体のモニターに表示されている各数値を、まず認識する。




 そして走行を進めながら、標的である〈フリッター〉との距離、その位置を確認。同時に〈シミター03〉の機体を減速、“停車”。…《シミター03》は、弾雨が飛び交う戦場の只中で、停止したのだ。






(03!?)






 驚いた。同時に02は03の正気を疑った。敵の目前で立ち止まったのだから!




 そして停止した〈シミター03〉へ、すぐさま相手からねらい打つような弾丸が飛んできたが、花火大会のような曳光弾の雨の中でも、03は動じなかった。






《ぁ~の胸でかバカってばぁ!》《バカってェなんだこのォ!! テメェが小さいだけだッ》「どっちも落ち着けぇっ!?


 ~~~~~狙いは分かった、防護するっ。


 本機はスモークを展開、02は散開後静止射撃。敵火点へ牽制!」《わあったよお、っもう!》《01、感謝するっ!! 02は知るかっ》《だとっこのー!!?》「ぁあぁもぅはいはい………」






 女どもと少女の三人である。三人よらんばなんとやらであった。




 それはさておき、後方の03と側方へと射点確保へ向かった02を背景に、01の〈シミター〉がその前方へと進出する。


 妙齢の女性(26)であるとともに武骨なメカニカルの搭乗者である01は、上半身部の旋回による独特の揺動と腰部旋回装置のやかましいモーター音を噛みこらえながらガタ、っと旋回を停止させ、即座にランダムな目標に対してガンスティックのトリガーを引き絞って一斉射を放った後、一歩前進して機体コンソール・コンポーネントパネルの点火スイッチを跳ね上げる。すると肩部装甲両突端に取りつけられた三連スモークチャージャーが作動――投げられるように射出された発煙弾が前方空中で弾け、煙幕スクリーンを形成、停止射撃に移った02の機体も併せ、三機の〈シミター〉による小隊はその中へと包まれた。




 こちらの動きは止まった。やんわりと沈殿しているが流体状に流出しつつある暗褐色の煙幕を境界に、しかし互いに無数の橙色の光点をその向こうへ飛ばしあいながら、スタンディングアーマーの二つの部隊は密林の最中で銃撃戦を開始したのだ。ところで03は?






(…………―――――――――――――――ー……………)






 呼吸の音が聞こえる……己の脈搏が息づいている。




 刻々と処理演算がなされて変化する数値と情報。そしてレティクル、


 それが投影されるバイザーグラスの奥の瞳を、03ははっきりと前へ向けている。


 集約されたゴーグルの情報はとっくに射抜かれ、その向こうの、モニター上の視界映像の、銃火の閃光が迸るその奥の…あるいはさらに、コクピット外殻をも突き抜けた、その先。


 煙幕が沈滞し光る火線の飛び交う、火と炎の匂いが充満する密林の戦場のその果てに確かに存在する敵SAのシルエットへと、突き刺すようなその眼差しは、照準のように向けられている。


 そしてその眼光には……






――はっきりとした、意志がある。




 この挙動は、機体を安定させて、機体右腕の“最終兵器”の命中率を高める為に必要な動作なのだ。




 余りにも、リスクが高い武装だ。通常の車両ではないこのスタンディングアーマーだからこその装備ではあるが、されど、迂闊に使えば、逆に自分が撃破される恐れもある。…だから、それを己の腕一つでクリアーさせる。




 詰まるところ、隙を見せた分だけ、相手を必殺する。




 Mk42の持つこの“主砲”に対する自信と、どうしようもない経験則に基づいた確信があった。だからどんなに飛んできた弾雨に機体を掠められようとも、 または現実に被弾をしたとしても、実際、まさに今、装甲に穴が開いていっているとしても、それを中断する事はしなかった。






(見てな)






 ガンスティックを操作して、レティクルを動かす。




 戦車にはない、動作肢を作動させた際の重量モーメントの顕著な移動という違和感をやはり感じつつ、〈シミター03〉のコクピットの中で、正面モニター上の赤色の十字が、映像上の〈フリッター〉のシルエットに重ねられた。




 この際、横方向の移動には〈シミター〉の胴体旋回部を使い、縦方向の移動は右動作肢付け根の回転で対処した。




 他の関節は固定を掛けている。戦車と勝手が違うのはやはり慣れないが…




 ともかくこれで、〈シミター03〉の機械としての余計な動き…ノイズは最小限に留められた筈だ。






 この一連は、停止したその瞬間には済まされたことだ。






 そして…






《……―――!》






――閃光が迸った!




 一際甲高い轟音、張られた煙幕のスクリーンがばっ、と突き打ち破られて、鳴らされた教会の鐘のような、その残響が森の奥にまで吸い込まれていく――




〈シミター03〉の右マニュピレータに装備された、コッカリル・90ミリ速射砲が発砲された瞬間だ。消耗した戦車戦力の代わりに、残存国連軍が肝煎りでMk42から装備させた兵装だった。




 ざわりと掻き消えた煙幕の奥にその姿――スタンディングアーマー・シミターのシルエット――はあった。




 反動で〈シミター03〉は三歩、後ろに下がり、砲のマズルからは駐煙装置で留められていた白煙が吹き出される。“小銃”後端の露出した砲尾から空になっ た薬莢が排出されるとともに、そして、人工筋肉の展張力が瞬間的に限界に達した事で、速射砲を握る右のマニュピレータはだらり、と力なく垂れ下がった。こ れが弱点だ。砲自体は速射砲なのに、SAでは連続しての発射が出来ないのだ。




 密林は砲の発砲光によって真っ白に塗りつぶされて、しかし次の瞬間には夜に戻っていた。






 見開かれていた03の瞳が、瞬かれた瞬間でもあった。






 静寂が、訪れた。敵も味方も、ただSAは立ち止まっていた。ヒーロー・コミックのキャラクターに、ストップウォッチで時間を止められたようだった。






 だが、一つ変化していた事がある。






《…あ、》






 02に対して特に執心して射撃をしていた、そして的確に03が狙いを定めた〈フリッター〉が、一撃で大破していたのだ。






 ぽっかりと、SAの右半分が消え失せている。よく見ると、だいぶ離れた地面へとSAの右動作肢だけが飛んでいく瞬間だった。






 右半身が吹き飛んだ〈フリッター〉は、直後に破損したエンジンが炸裂!そして、大音響と共にバラバラに吹き飛んだ。






 砲の威力は絶大だった。






 敵SA部隊が、電流が走ったように硬直した。




 その瞬間、一瞬だけども銃火は止んだのである。






《陸戦兵器ってのはこう使うんだよ、空戦じゃないんだ飛行機ヤロウ!》




《せ、戦車乗りは棺桶の中でオネンネしてやがれっ!!》




《…もう一度言ってみろ。味方でも撃ってやる!!!》






「みんな、洒落にならんのはやめてくれ!」






 言葉とは裏腹に、女達と少女は喜んでいた。






 互いには分からないが、皆、顔が笑っている。宝物を見つけた悪童の気分とも言おうか…






 自分達がこうして集まれたのを、幸運だとも、それぞれが静かに噛みしめてもいたのだ。






「――――脚部再始動、突撃!」






 満を持して、兵士…01は叫んでいた。




 同時に、フット・ペダルと機体の操縦桿を一気に踏み込ませる。がくりとコクピットが揺れた。そして突き動く……前進を再開した〈シミター01〉の歩行は次の瞬間には突進に代わり、それは隊列両翼に戻った02、03も同様だ。




 三匹の〈子鬼〉は獲物に食らいつく為…――小隊は強襲を開始したのだ!






「《うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!!!!!!!!!!!》」






 今度は01も03も――機関砲とバルカンの斉射を放っていた!




 林の木々を掻き切って、三機分の、蛍光オレンジの色に輝く曳光弾の航跡が、無数に、猛烈に〈フリッター〉隊へと浴びせられていく! 弾丸が装甲へ切り結んでいく!






――これに相手達はたじろいだ。




 彼女らの動きに対応して機動を開始していたフリッター隊だったが時間経過とともに目に見えて動きが鈍っていき、休む間もなく、自機を掠めたり装甲で弾けたりする弾雨に、打ち返す事も忘れたのか、あたふたするようにその場で慌て始めた。




 マウザー砲とバルカンの威力だって、この距離であれば有効射になれたから、撃つ甲斐もある。現に、機関砲弾が全身にまんべんなく命中した〈フリッター〉の一機は、その動作がぎこちなくなったのが確認できた。装甲の下に張り巡らされていた、駆動装置である人工筋肉が損傷・破断したのだ。






 既に、我彼の距離は三百メートルにまで迫っていた。




 互いに、はっきりと目で見る事が出来る! 苛烈な銃弾の応射によって、密林には盛大な花火大会の臭いが充満している事だろう…






 そして今、〈シミター〉各機の時速は六五キロを突破した。機体の構造限界が出せる理想的最高速度だった。






 互いの戦闘が、次のフェーズに入ろうとしていたのだ。






《おおっと!》






 負けじと、ようやく協調を取り戻しかけた〈フリッター〉隊も応射を仕掛けてきた。




 突然、滝のような弾雨が02に降りかかった! ――タイミングと目標標的を協調しての斉射、つまりは統制射撃だ。一機だけ動きが鋭敏で高速な02を、これから開始される肉薄戦での優先脅威と判断しての行動だった。




 だが、それが当たる事はついに無かった。




 たった一週間で基本の操縦を覚えたとは思えないような腕前を02は持っていた。機体の、各サスペンション/機動時姿勢等の動作モードを自在に変換……切 り替えをして、ただの前進の加速度にランダムに変化を付ける。だまし絵のようなその動きにはガンサイトのロックオンによる火器管制側照準補正オート・フォーカスが追い付かず、手動で当てようにも、たちまち敵は最適な照準を見失うのだ。単純なようで、遊びではなく効果的なマニューバとするにはセンスを要する。




 そしてその最低限の動きも的確に直撃弾を避ける物だったから、〈シミター02〉には弾丸が掠める事も無かったのだ。






 そして次の瞬間、特に執心して02をねらい打っていた〈フリッター〉の一機が火だるまに変わった。




 03が、再びコッカリル砲で射撃をした瞬間だ。的確な援護だった。






《ひゃあ、たまんねぇぜ!》






 その03へ、再び火線の矛先が変わろうとした。




 しかしその間に割ってはいる様に、〈シミター02〉が躍り出た!






《イヤッホ――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!》






 跳躍した02も、よく見ればコッカリル砲を両手のマニュピレータで構えていた。何をするのか…






《バキューン!》






 撃った!




 反動で、着地していたシミターの左脚部を軸に〈シミター02〉は横方向に一回転をした。この砲撃が命中する事は無かったが、しかし〈フリッター〉隊は目に見えて動揺をした。




 もう一度撃った。また回転をした。強力な反動のせいで、マニュピレータの保持能力は限界だった! 照準なんて、出来るはずも無い状態だった。それを02 は、砲の発射時に〈シミター〉の機体自体の動作方向を反動の逆ベクトルにねじ込む事で乱暴な解決をしていたのを03は目撃した。




 最後にひらり、と機体が舞って着地した時、一時的に筋力を喪失したその両腕は慣性のまま、ターンを舞ったバレリーナの様に捩れていた。




 この攻撃も、当然、直撃弾にはならなかった。




 だがこの時の一撃は、大きな意味をこの小隊にもたらした。




 こちらに向かい、斉射を続けていた三機の〈フリッター〉の間に着弾したのだ。




 大爆発によって、この敵SA達は失敗したテーブルクロス引きの様にひっくり返され、派手に転倒をした!






 そして、向こうからの機関砲火が途切れた。02と03は、もう、どうやって相手達を虐め抜いてやるかを思案している筈だ。






 この時、対峙距離は100を切っていた。






 いよいよ、スタンディング・アーマーがその真価を発揮する瞬間がやってきた。






 即ち、白兵戦…“殴り合い”の開始である。





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