第四話
異世界に連れてこられ、しかもそこに居たのは俺一人。人を見つけたと思ったらオオカミで、しかも追いかけ回される。 ずいぶんと散々なもんだと思っていたが、今、この瞬間に必要なことだったとしたら、この出会いに必要なことだったとしたら、その程度のこと何でも無いように思えてしまう。
今、俺の目の前には、おそらく妖精と思われるものすごい美少女が居た。綺麗、というよりかは、可愛いの言葉が似合うタイプの美少女だ。テレビや雑誌を含めても、俺は彼女より美しい人を見たことが無かった。
ーーーそれを差し置いても、これはさすがにおかしいかもしれないが。
なぜだろう、その容姿が、仕草一つ一つが、愛しくて仕方ない。たった今出会ったばかりだというのに、以前にどこかで出会っている気さえしてしまう。
つまり、何がいいたいのかと言うと、俺は彼女に一目惚れしていた。
しばらく彼女に見ほれぼーっとしていたが、空気と化していたゴブリンが彼女に襲いかかったことにより、すぐに思考を切り替える。
即座に妖精を後ろにかばう。幸いにも、何故か異常なほどまでに上がっている身体能力と、ゴブリンと妖精の距離が10mは離れていたことにより、間に回り込むことには成功した。
それでも勢いを止めず、ゴブリンのくせに結構な速さで間合いをつめ、棍棒を俺に向かってふるってきたことに一瞬ひるむ。襲いかかってくる敵は、俺に隠そうともせず、まっすぐと殺気を向けてきていた。
俺は、数時間前までは平和な国に住む、ただの学生だった。もちろん殺気を向けられた経験など無いため、たとえ相手がゴブリンであろうと怯んでしまった。
しかし、その迷いも、後ろに彼女が居るというだけで一瞬で消滅する。手に武器などは持っていなかったので、棍棒を手のひらで受け止める。結構な速さで振り下ろされた割には、不思議とあまり痛く無かった。
一瞬直接殴ろうかとも思ったが、ゴブリンからする悪臭が酷いので却下。 受け止めた棍棒をひったくり、腹にむかっておもいっきり突く。側面で殴るよりもダメージが多いはずだ。
案の定腹に決まったこと+強化された身体能力により、ゴブリンは5mほど吹っ飛んだ。その後猛スピードでゴブリンの着地点に行き、着地する前にゴブリンを思いっきり蹴り上げる。 空高く舞い上がったゴブリンは、地面とキスした後、一切動かなくなった。
ゴブリンが動かなくなったことを確認した俺は、後ろを振り返・・・ろうとして、そのまま意識を失った。