第三話
さて、謎の森を探索していると、運悪くめちゃくちゃ強そうなオオカミと遭遇してしまった訳ですが・・・
戦う訳無いよね! と、いうことで、俺は今全速力で森を走り抜けている。
そう、全速力、なのだ。今や拳を軽く木に放つだけで木っ端微塵にできる俺の「全速力」は、辺りの木々をなぎ倒しながら、オオカミを軽く振り切った。
案外あっけなく終わってしまったが、初の異世界動物との接触は、こうして俺が情けなくも逃げ回る形で終了したのだった。
で、だが・・・
「くそ、どういうことなんだ・・・!」
(いやただのダッシュで木々をなぎ倒すとかおかしいだろおおぉぉお!!
なんだよ今の!どう考えても絶対今のはおかしかった!!いやだってべつに攻撃もしてないのにただのダッシュで木々がなぎ倒されるとか・・・ありえん!)
俺は心の中でパニックになっていた。しかし、どれだけパニックになろうが表情筋は動かない。さすがだ。もう悲しくなってきた。
しばらく俺は真顔でパニクっていた。
ただ、もちろん警戒を怠っていた訳ではない。さすがにそこまでアホではないのだ、俺は。さっきまでも何となく気配が感じれてたのに、気がついていなかったとしても、俺はアホではないのだ。断じて。
(物音・・・。まさか、またオオカミか?いやしかし、そうそうオオカミが居るわけないだろう。とりあえず見てみるか )
普通に考えるとここでは逃げるだろう。なんせ、千尋が今いるのは異世界だ。
しかし、彼は天然だった。 実はこの天然のせいで、今までも幾度となく死にかけたりしているのだが、それでも自分が天然だと気がついていない。
なぜだろう。 答えは簡単、彼は本物の天然なのだ。
そんなこんなで、またもや草陰を覗き込んだ千尋。
そこに居たのは、オオカミでも、第一村人でもなかった。
今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気。日に当たり美しく輝く真っ白のワンピース。今にも涙がこぼれ落ちそうな、潤み透き通ったブルーのその目。 そして何より、向こう側の透けて見える肌。
近寄ることもためらわれる臭い。所々が破れた汚い布。瞳孔の開いた真っ赤な目。 そして何より、くすんだ緑色の肌。
そう、そこに居たのは・・・
ーー妖精+ゴブリンだった。