序章
おれはヒトに造られたヒト。ついでに言うと、名前はまだない。
あ? なんでかって?
だいぶ昔に、おれも同じことを聞いたな。そしたらこう言われた。
『作品の製作途中で名を付けるか? 作品名は、完成してからつけるものだ』
凛とした女の声が返ってきたから、そん時はかなり驚いたぜ。ゴツいおっさんとかに怒鳴られるかと思ってた(というか、実際そういう事も何度かあった)。
――ん?
ああ、またか。またおれの頭に何か入ってきた。何も入ってなかった空っぽでまっさらな脳内に、色んなことが詰め込まれていくんだ。
例えば、さっきも言ったようにおれはヒトに造られたヒトってこととか、名前がないってこととか、男だってこととか、おれの存在理由とかいう訳の分からないこととか。
でもなんつうか、気持ちよくはない。いつの間にか頭に書き込まれてて、おれがおれじゃなくなってく感じがする。
今いるここは、なんだか暗くて狭いし、それに酷く息がし辛くてあんま好きじゃねぇ。
何にも見えないここは、まるでおれの未来みたいに思えてくる。真っ暗で先が見えなくて、ついでに言うなら何にも分からなくて。
――おれは一体どうしたいんだろう。
おれはここから動けない。じゃあどうしろってんだよ。早い話が、どうしようもない。けど、おれはここから出たい。だってこんな所にいたくないから。
きっとここから出たら、青くて綺麗な空が広がる世界に出られる。
――あれ、おれはなんで見たこともない世界を知ってんだ?
ああそっか。きっと誰かが言ってたんだろうな。ったく、知らない内に知らないこと知ってんのは本当に気味が悪い。
あ、また何か入ってきた。そういえば、最近は詰め込む頻度が高いような気がする。あんまり量が多いと頭痛がするから止めてほしいが、おれは喋れないし、何よりおれの声自体聞こえねぇだろな。
おれって一体なんなんだ。ヒトに造られたヒトってなんだ。ということは、こないだ話しかけてきた女はヒトなのか。
いまいち理解出来ないが、今ある知識を掘り漁ってみると、どうやらそういうことらしい。
――あれ。
さっきまで暗かったはずなのに。ほんの少しだけど、明るいとこがある。
――あそこがおれの望んだところなのだろうか。
そう頭の中をよぎった瞬間、今まで自由に動かなかったおれの四肢が稼働し始めた。有り難い。
おれはここを出る。あそこには、おれの望んだ世界があるはずなんだ。
自分でも考えられない速さで、おれは光に向かって突き進む。無我夢中でおれは足を動かした。そして。
「っ――――!!」
急に目の前が真っ白になった。