表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メテオストライク-断罪の一撃-【シナリオ】  作者: 永山あゆむ
序章:希望となるために
7/7

第7話(序章最終話):牙を剝く冥(プルート)

・エイジ・ハセガワ(18)男性。主人公。国際特秘遂行警備組織“影星エクリプス”団員。


・エミリー・ミチヅキ(18)女性。ヒロイン。アイドル歌手。通称エミー。


・ブリーゼ・オイサキ(28)女性。国際特秘遂行警備組織“影星”ミザール支部副支団長。


・フリッツ・エダサワ(33)男性。国際特秘遂行警備組織“影星”ミザール支部支団長。


・メルヴィン・シバサキ(32)男性。国際特秘遂行警備組織“影星”ミザール支部治療班班長



・黒フードの女A


・黒フードの女B



護星女ルーラー


〇ミザール国 国際特秘遂行警備組織“影星エクリプス” ミザール支部 入口


  ブラウンでストレートミディアムボブの髪型、胸元にはアメジストのネックレス、そして真っ赤なドレスを着ているエミリー・ミチヅキ(18)がいる。

  エミリー、洗練とされた美しさを放ちながら、左手はステルラグローブを装備し、右手には真っ白いバトンを持って前に突きだしている。

  スライムの中にいたエミリーの攻撃で、彼女の周囲に幾つもの塊となって弾ける藍色のスライム。

  エミリーの容姿に、目を見張るエイジ・ハセガワ(18)と彼の左側にいるブリーゼ・オイサキ(28)。


エイジ「エミー……」


  エミリーの姿に魅了され、立ち尽くすエイジ。

  エイジたちの前に、まがまがしい紫色のオーラを纏うクラゲ型の魔物が、エイジ、ブリーゼ、エミリーの中心にいきなり現れる。

  ブリーゼ、姿勢を戦闘態勢に切り替えて、


ブリーゼ「コイツは!」

エミリー「これがスライムの正体です! スライムの中にこの魔物がいました」

エイジ「こいつが!?」


  クラゲ型の魔物、藍色の光を放つ。


エイジ「うわっ!」


  思わず目を閉じるエイジたち。

  クラゲ型の魔物、再び藍色のスライムへと変わる。


ブリーゼ「コイツを倒すには、本体を引っ張り出すしかなさそうね」

エイジ「鎧をはがすしかないってことか」

ブリーゼ「ええ。間髪入れずに攻撃するわよ! エミリー!」

エミリー「はい!」

ブリーゼ「さっきのように攻撃しなさい。仲間を助けるにはどのような攻撃方法がいいのか思い描いてみて。そしたら、武器も応えてくれるわ」

エミリー「わ、分かりました」


  武器である真っ白いバトンを右手で強く握るエミリー。


エイジ「攻撃が来るぞ!」


  藍色のスライム、プロペラの回転しながら垂直に飛ぶ。

  スライムが地面に落下する瞬間、


ブリーゼ「飛んで!」


  垂直に飛び、着地したスライムが放つ藍色の衝撃波を回避するエイジたち。

  スライムの衝撃波により、地面に生えている草が枯れてしまう。


ブリーゼ「一斉攻撃、行くわよ! はああああっ!」


  ブリーゼ、空中から右足を振り抜き、スライムに向かって緑色の真空刃を3連続で放つ。

  緑色の真空波がスライムに当たる。変形するスライム。


ブリーゼ「エイジ!」

エイジ「ああ!」


  エイジ、空中で身体を捻り、


エイジ「くらえ、炎月えんげつ!」


  エイジ、勢いよく剣を振って、炎の真空刃をスライムに放つ。

  炎の刃が当たり、さらに変形するスライム。


エイジ「エミー!」

エミリー「う、うん!」


  地上にいるエミリー、バトンを振り上げ、目をつぶり、祈るように、


エミリー(モノローグ)「お願い、さっきのように……!」


  エミリー、目を開け、勢いよくバトンを振って、その先端をスライムの方へと向け、


エミリー「当たって! 光波ライトウェーブ!」


  バトンの先端から、白い光の塊が現れ、巨大な光線となってスライムに直撃する。

  スライム、エミリーの放つ光線に押し流され、後方にある木にぶつかる。爆発し、白い煙に包まれる。


エミリー「ふぅ……」


  一息つくエミリー。


エイジ「エミー!」


  エミリーの所へ駆け寄るエイジとブリーゼ。


エイジ「大丈夫か?」

エミリー「うん。なんとか」

ブリーゼ「これで殻が破ればいいけど」


  白い煙に包まれているスライムを見やるブリーゼ。エイジとエミリーも見つめる。

  白い煙が徐々に消えていく。

  2体の藍色のスライムが現れる。


エイジ・ブリーゼ・エミリー「!?」


  驚くエイジたち。


エイジ「今度は、分裂かよ……!」


  2体のスライム、エイジたちに向かって飛び跳ね、襲い掛かる。


ブリーゼ「エミリー、アンタはここで待機していて」

エミリー「な、何でですか!?」


  不満な表情をブリーゼに向けるエミリー。

  ブリーゼ、冷たい表情でエミリーを見やり、


ブリーゼ「今のアンタでは、これ以上は足手まといだからよ」

エミリー「え……」


  ブリーゼの冷たい表情と発言に、凍りつくエミリー。


ブリーゼ「エイジ! 二人で攻めるわよ!」


  エイジ、エミリーを見やり、スライムの方へと顔を向け、


エイジ「わかった」


  エイジ、ブリーゼの指示に頷き、彼女と共に2体のスライムに向かって走りだす。


エミリー「あ……」


  エミリー、その場で立ち尽くす。


ブリーゼ「しつこい!」


  ブリーゼ、右足に光子(マナ)の力を貯めて緑色に輝かせる。そして勢いよくスライムを蹴り、真っ二つにする。

  するとスライムは2つに分裂したままブリーゼを襲う。


ブリーゼ「なっ!?」


  二体のスライム、ブリーゼの両腕にくっつき、光子(マナ)を吸い取ろうとする。


ブリーゼ「くっ!」


  ブリーゼ、素早く手を左右に振ってスライムを振り払う。

  エイジ、襲い掛かってくるスライムに、


エイジ「はあああっ!」


  必殺技、衝火しょうかによる朱い剣戟けんげきで、スライムを吹き飛ばすエイジ。

  スライム、上下に真っ二つになり、分裂する。

  2体に分裂したスライム、エイジを襲う。

  エイジ、なんとか2体のスライムをステップで回避する。


エイジ「くっ! どこに本体が……!」


  剣を構え、相手にしている2体のスライムと対峙するエイジ。

  後ろで戦っているエイジとブリーゼを見つめるエミリー。


エミリー(モノローグ)「戦えるようになったけど、あの二人のように、私には戦闘経験はない。迷惑をかけるのは当然。だけど」


  エミリーの脳裏に、エイジとブリーゼがスライムにやられて、自分だけが生きている姿が浮かぶ。


エミリー「それだけは……嫌」


  脳裏に浮かんだその(おぞ)ましさに、身体が震えるエミリー。


エミリー「私も役に立つんだから……」


  エミリー、歯を食いしばり、ぎゅっとバトンを掴み、


エミリー「戦わなきゃ!」


  エミリー、勢いよく走るが、


エミリー「きゃあ!」


  赤いヒールの先が石に引っ掛かり、たたらを踏む。


エミリー「いててて……。そっか、私、ヒールを履いてたんだっけ……」


  すると、ブリーゼの頭上を越えて、1体のスライムがエミリーに向かって飛び跳ねる。


エミリー「わぁぁっ!」


  裏返った声を出すエミリー。


エイジ「!」

ブリーゼ「しまった!」


  エミリーの方へと一瞥する、エイジとブリーゼ。

  尻餅をついているエミリー。

  そんな彼女の頭上から、襲い掛かるスライム。

  思わず目を瞑るエミリー。


エイジ「うおおおおっ! 炎月えんげつぅ―――っ!!!」


  エイジ、勢いよく剣を振り払い、炎の真空刃を放つ。

  炎の真空刃がスライムを吹き飛ばし、施設の壁にぶつける。

  エミリー、ゆっくりと目を開ける。エイジの方へと顔を向ける。

  エイジ、憤怒の表情のまま、ひと息つき、


エイジ「ウチの姫君に、手を出すんじゃねぇ……!」

エミリー「エイジ」


  少し離れた場所にいるエイジを、ずっと見つめるエミリー。


ブリーゼ「エミリー、立ちなさい。ボケッとしてる暇はないわ!」

エミリー「!」


  いつの間にか左隣にいるブリーゼが声をかける。

  前方には4体、後方には2体と、計6体に分裂したスライムが一列に並んでいる。


ブリーゼ「囲まれてしまったわね」

エイジ「本物はどいつなんだよ。このままじゃあ……」


  エイジ、左手に装備しているステルラグローブを見やる。

  ステルラグローブの手の甲の部分にある鉱石の色は、黒ずんだ朱色となっている。

  ブリーゼの左手に装備しているステルラグローブの鉱石も、黒ずんだ緑色となっている。


ブリーゼ「まずいわね」


  汗をぬぐうブリーゼ。

  6体のスライムは、一斉にエイジたちに向かって飛び跳ねる。


フリッツ(声のみ)「おー、おー、こっちは大変なコトになってんなぁ」

メルヴィン(声のみ)「手ぇ貸してやるぜぇ」

エイジ・エミリー「!」

ブリーゼ「この声は!」


  後方にいる2体のスライムの、さらに後方から赤い閃光が迸り、爆発とともに2体のスライムが4体のスライムたちがいる場所まで吹き飛ばされる。

  目にも見えないスピードでエイジたちの前に、フリッツ・エダサワ(33)が現れる。

  フリッツ、右手に剣を持ち、左腕を横に伸ばし、親指を突き立て、エイジたちの方へ顔を向け、


フリッツ「待たせたな!」

エイジ「フリッツさん!」

エミリー「エイジ!」


  エイジたちの周囲に、聡明な3本の青い矢が突き立てられている。

  3本の青い矢から青い曲線が描かれ、矢と矢が結ばれ、エイジたちを包む一つの大きな円となる。

  円から現れた青い光が、空へと向かって走る。

  エイジたちがスライムから受けた傷が癒される。

  エイジとブリーゼのステルラグローブの鉱石が輝きを取り戻す。


エイジ「な、なんだ、これ、力がみなぎる」

ブリーゼ「この技は」

メルヴィン「ふあーあ。かったるいなぁー、ほんと」


  後ろへと振り向くブリーゼ。すると、あくびをしながら左肩を回す、白衣を着ている男――メルヴィン・シバサキ(32)がゆっくりとエイジたちの方へと歩いてくる。

  メルヴィン、右手に弓を持っている。


ブリーゼ「メルヴィン!」


  エイジとエミリーもメルヴィンの方へと振り向く。


メルヴィン「大海のカーム・オーシャン。どうだ。少しは癒されただろ?」


  ふてぶてしい態度で、笑みをこぼすメルヴィン。

  ブリーゼ、少しだけ笑みを浮かべ、


ブリーゼ「余計な真似を」

メルヴィン「へっ、軽口を叩けるなら上等だ」

フリッツ「いざというときの準備をしていたもんだからよ、ちょっと時間をかけちまった。それはそうとこの状況は……」


  フリッツ、6体のスライムを見つめる。

  エイジ、フリッツの左隣に立ち、


エイジ「はい。こいつらは、人魔(アロー)化したスライムたちです。中に本体がいるのは分かったんですが」


  フリッツの右隣にはブリーゼがいる。


ブリーゼ「その本体がどこにいるかが」

フリッツ「なるほどな。闇雲に当たっても無駄ってことか。メル、おまえならどう考える?」


  メルヴィン、フリッツの後ろに立ち、


メルヴィン「んー……」


  スライムたちをしばらくじっと見つめるメルヴィン。


メルヴィン「なるほど、な」

ブリーゼ「何か分かったの?」

メルヴィン「ああ。エイジ、ブリーゼ、今いる敵が目の前にいるヤツだけだと思っていたんじゃあ、まだまだ青いぜぇ」

フリッツ「さっすが《透しガンマ・グルイス》だな」

メルヴィン「うっ、だからその肩書きで呼ぶなって」


  メルヴィン、照れくさそうに咳払いをして、


メルヴィン「考えてみろ。俺たちが生きている世界はぁ、一体何次元なんだ?」

ブリーゼ「それは愚問だわ。三次元でしょ」

メルヴィン「だから?」


  エイジ、左手をおとがいに当て、


エイジ「だから? だから、えーと、えーと……ああっ!」


  エイジ、目を大きく見開き、メルヴィンの方へと顔を向け、


エイジ「まさか、地面……?」


  左手の人差し指を地面に向けるエイジ。


メルヴィン「それだ。あいつら、何かを守るように並んでいるみてぇじゃねぇか?」

エイジ「そういえば、今までの行動も、俺たちを何かから遠ざけるように」

メルヴィン「まっ、そりゃあ確かめれば分かるってもんさ」


  メルヴィン、弓を構える。青い矢が現れ、空に狙いを定め、


メルヴィン「滝針フォールスピア!」


  青い矢が弧を描き、それが滝のような水流へと変化し、6体のスライムの後方に向かっていく。

  6体のスライムたちが合体する。


エイジ「あっ!」


  スライム、矢を受け止め、軟体の身体を駆使して水流をはじく。

  メルヴィン、呆れたように、


メルヴィン「ほらな。これで作戦は決まったもんだろ、支部長」

フリッツ「サンキュー。エイジ、ブリーゼ。オレと一緒にスライムの動きを引き付けてくれ」

エイジ「了解です」

ブリーゼ「フッ」


  ブリーゼ、右の人差し指でサングラスのブリッジを上げる。


フリッツ「メルヴィン、頼むぞ」

メルヴィン「あいよ」


  左手を左右に振るメルヴィン。

  エイジ、ブリーゼ、フリッツ、一斉にスライムの方へと向かう。

  それぞれ2体ずつ相手にし、各々が持てる技を駆使して、スライムたちを自分たちに引き付ける。


エミリー「……」


  メルヴィンの後姿を見つめるエミリー。


メルヴィン「気にすんな」

エミリー「えっ?」

メルヴィン「言われたんだろ、ブリーゼに。足でまといって」

エミリー「あ……」


  メルヴィン、後ろにいるエミリーの方へ顔を向け、苦笑を浮かべ。


メルヴィン「ブリーゼはな、言葉は辛辣しんらつだが、その中には隠れた優しさがあんだ。辛口すぎてなかなか理解できねぇけどな。へへっ、まったく不器用すぎんぜ」


  戦っているブリーゼを見つめるメルヴィンとエミリー。


メルヴィン「とはいえ、嬢ちゃんもここで引き下がるわけにはいかねぇだろ? 手前の立ち位置を証明したいんだろ?」


  エミリー、少し間を置いて、真剣な双眸で、


エミリー「はい」

メルヴィン「フ……なら、手伝ってやるぜ。よいしょっと」


  突然しゃがむメルヴィン。


エミリー「え?」

メルヴィン「俺がアイツらの戦況を読んでスキを伺うから、嬢ちゃんは俺の合図で俺を踏み台にして跳べ。そこから影が見えるはずだから、そこにありったけの光子(マナ)を込めた攻撃をするんだ。できるだろ?」


  エミリー、黙ったまましゃがんでいるメルヴィン、そして、2体ずつ相手をしているエイジを見つめる。

  そして、メルヴィンに向かって、


エミリー「任せて下さい」

メルヴィン「りょーかい」


  メルヴィン、スライムたちと戦っているエイジ、ブリーゼ、フリッツの戦況を見つめる。

  フリッツ、襲ってくる2体のスライムに向かって、紅く煌めく剣を両手で持ち、


フリッツ「燃え盛れ! 壁炎衝へきえんしょう!」


  フリッツ、剣を地面に叩きつけて地を這う炎の壁を2体のスライムたちにぶつける。

  2体のスライム、炎の壁をぶつかり吹き飛ばされるも、フリッツに向かってくる。


フリッツ「これ以上は分裂はしないが、本体を攻撃しないと不死身ってわけか……エイジ、ブリーゼ、スライムを引きつけつつ、少しずつ後方へ下がるぞ!」


  フリッツ、スライムに攻撃しながら、後方に下がっていく。


ブリーゼ「しょうがないわね。嵐転らんてん!」


  ブリーゼ、左足を軸に勢いよく回し蹴りをする。そこから小さな竜巻が現れ、2体のスライムを巻き込み、それが後方に下がるブリーゼの方へとひきつける。


エイジ「くっ!」


  エイジ、スライムの攻撃をバックステップで回避しながらじわりじわりと下がっていく。

  エイジたちの動きをしゃがんだ姿勢でずっと見つめるメルヴィン。

  メルヴィンの合図を、彼の後ろで固唾かたずを呑んで待つエミリー。

  エミリー、冷や汗を垂らしながら目を瞑り、小声で、


エミリー「できる……私はできる……ちゃんと役に立って見せる。信じる道に先はある」

メルヴィン「嬢ちゃん、行くぞ!」

エミリー「は、はい!」


  勢いよく走るエミリー。


エミリー(モノローグ)「できる、私はできる!」


  エミリー、メルヴィンの背中を踏み切り替わりにし、勢いよく垂直に飛ぶ。

  地面に巨大なクラゲ型の影があるのを確認する。

  空中で一回転して、バトンを持っている右手を引くエミリー。


エミリー「はああああっ! ライト、」


  スライムを相手しながら空中にいるエミリーを見やり、驚くエイジたち。

  エミリーのバトンに白い輝きが宿る。


エミリー「ウェー―――ブ!!!」


  エミリー、空中でバトンを突きだし、地面にあるクラゲ型の影に向かって巨大な白い光線が発射する。

  白い光線の影響でエイジたちやスライムも白色に包まれる。

  白い光線は、地面に描かれたクラゲ型の影に命中する。その影響で、エイジ、ブリーゼ、フリッツたちが引きつけていた6体のスライムが闇子(サタン)の粒子となって四散する。


エイジ・ブリーゼ・フリッツ「!」


  地面から弱々しくなったクラゲ型の魔物が現れる。全身薄紫色に光っている。


フリッツ「よし! エイジ、仕上げだ!」

エイジ「は、はい!」


  右側で、少し離れた所にいるフリッツの掛け声に反応し、クラゲ型の魔物に向かって左手に装備しているステルラグローブの手の甲の部分にある鉱石を向けるエイジ。


エイジ「はああああっ! 鎮めぇ―――――っ!!」


  エイジのステルラグローブの手の甲にある鉱石から青白い光が照らされる。

  クラゲ型の魔物、青白い光を浴びて、粒子となって消えていく。


エイジ「ふう……」


  エイジ、ほっとしてその場に座り込む。

  右手に持っていた剣が朱い粒子となって消える。


フリッツ「やったな」

ブリーゼ「ルート完了アウトね」


  エイジのところにフリッツ(右側)、ブリーゼ(左側)が立っている。

  フリッツは笑っており、ブリーゼは無表情。

  見上げて微笑むエイジ。


エミリー「エイジ!」


  後ろから歩いてくるエミリーに顔を向けるエイジ、ブリーゼ、フリッツ。


エイジ「エミー」


  エミリー、不安そうに、


エミリー「わたし、役に立った?」


  エイジ、一瞬固まるが、笑顔で、


エイジ「ああ、サンキュー」


  エイジ、エミリーに向かって右手を突きだす。

  エミリー、意味が分からず首を傾げるが、満面の笑みで、


エミリー「うん!」


  エミリー、左手を突きだし、エイジの右手に軽く当てる。


メルヴィン「いててて……」


  後ろから腰を擦りながら、メルヴィンがエイジたちの下へ来る。


フリッツ「お! どうしたメル?」

メルヴィン「嬢ちゃん……あんたの靴、もしかしてヒールか?」

エミリー「あ……」


  口を大きく開けたまま固まるエミリー。履いている靴――赤いヒールを確認する。

  エミリー、顔を赤らめて、恥ずかしそうに、


エミリー「ご、ごめんなさい」

エイジ・フリッツ「あははははは」


  声をあげて笑うエイジとフリッツ。


黒フードの女A(声のみ)「少しはやるようだな」


  どこからともなく聞こえる声に、エイジたち5人の顔がこわばる。

  エイジ、立ち上がる。


黒フードの女B(声のみ)「キャハハハハッ! そうこなくっちゃ面白くないよー」

黒フードの女A(声のみ)「ぎりぎり及第点きゅうだいてんだがな。ふふふ」


  エイジ、辺りを見回しながら、


エイジ「なんなんだよおまえら! 隠れてないでとっとと出てきやがれ!」

黒フードの女A(声のみ)「沸点の低いヤツだな。言われなくてもそのつもりだ」


  エイジたちの目の前に、黒い靄が現れる。そこから背の高い黒フードの女A、左側に身長の低い黒フードの女Bが現れる。


黒フードの女B「キャハハハッ! 参上ってね!」

黒フードの女A「ふふふ」


  エイジ、黒フードの女A・Bを睨みつける。


エイジ「やっとお出ましか。なんでこんなことしやがった」

黒フードの女A「そうカッカとくるな。パーティーが興ざめしてしまうではないか。今日はご挨拶に来ただけ、さ」

ブリーゼ「その割にはずいぶんと悪趣味ね」

フリッツ「俺たちを試しているみてぇじゃねぇか」

黒フードの女A「ふっ、我らにとってはただの実験さ。この道具のな」


  黒フードの女A、右手を少し挙げる。すると、黒フードの手の上に、禍々しい黒い水晶玉が現れる。

  エイジ、慄きながら、


エイジ「なんだよ、それ」

黒フードの女A「世界を闇に染める、魔導星書グリモアのようなものさ」

エイジ「はあ?」


  意味が分からず、ぽかんとした顔になるエイジ。

  ブリーゼ、呆れつつ、挑戦的な態度で、


ブリーゼ「魔導星書グリモアねぇ……何? アンタたちは預言者なの? 古い人間だこと」

黒フードの女A「ふふふ。些か死語と化しているのは否めんな。だが、これから始まるのだ」

黒フードの女B「そうだ、そうだ! 始まるんだよ―――――っ!」

黒フードの女A「2つの実験により、機は熟した!」


  黒フードの女Aの右手にある黒い水晶玉が赤紫へと変色する。


黒フードの女A「世界の均衡は再び光から闇へと傾斜し、めいへと向かうのだ!」


  水晶玉から一筋の赤紫の閃光が天に向かって放たれる。


エイジ「くっ!」


  水晶玉から放たれる爆風に、両眼を閉じ、両腕を前にだして防御するエイジ。

  爆風がおさまり、目を開くエイジ。


エイジ「なっ……!」


  驚愕し、双眸を大きく見開くエイジ。

  森や土、空、影星(エクリプス)の施設までも赤紫色へと変色している。


黒フードの女B「いえーい! 大成功だよー!」


  黒フードの女Aの隣で嬉しそうにピースサインを出す黒フードの女B。


メルヴィン「おいおい、冗談じゃねーぞ」


  変色した周囲を見回すメルヴィン。


フリッツ「お、おい! エミリー!」

メルヴィン「!」


  フリッツの声で、エミリーの方へと見やるメルヴィン。

  エミリー、しゃがんで身体をぶるぶると震わせる。

  ブリーゼ、しゃがんで心配そうに背中を擦る。

  エイジ、しゃがんでエミリーの両肩に手を当て、


エイジ「どうしたんだよ、エミー。顔が青ざめてるぞ」

エミリー「この感覚……この恐怖……わたし、覚えてる」


  エミリー、恐怖に怯えている顔で、


エミリー「これ……あのとき……フラワードームであったときと同じ……みんなを絶望の渦に……」

エイジ「!?」


  エイジの脳裏に、フラワードームで闇魔(オスジオーネ)化したエミリーの姿が浮かぶ。

  エミリー、両目から涙が溢れ、天を仰いだあと、


エミリー「このままだと……また……うわあああっ!」


  絶叫した後、目を閉じ、気絶するエミリー。


ブリーゼ「エミリー!?」

エイジ「エミー!」


  うつ伏せになって倒れようとするエミリーを抱えるブリーゼ

  エイジ、立ち上がり、黒フードの女の方へと振り向く。


黒フードの女A「ふふふふ……」


  エイジ、眉間にしわを寄せ険しい表情で、


エイジ「まさか、あの時もおまえらが……」


  黒フードの女A、口元を緩ませ、不敵な口調で、


黒フードの女A「ふふふふ……さあて、何のことかな?」


  エイジ、歯を強く噛んだあと、


エイジ「ふざっけんなあああああああっ!!」

フリッツ「エイジ、よせ!」


  エイジ、走りながら左手に装備しているステルラグローブの手の甲の部分にある鉱石を押し、右手に剣――フランベルジュを握り、黒フードの女A・Bの下へと走る。


エイジ「うおおおおおおおっ!!」


  エイジ、ジャンプしてフードの女Aに斬りかかる。

  フードの女A、空間から身の丈ほどある槍を取り出し、


黒フードの女A「フン!」


  エイジの剣と黒フードの女Aの槍がぶつかり、赤紫の火花を散らす。


エイジ「くっ!」

黒フードの女A「ふっ、小者だな」

エイジ「何!?」

黒フードの女A「はああああっ!」


  黒フードの女A、力任せに槍を振り抜き、エイジを吹き飛ばす。


エイジ「うわあああっ!!」


  吹き飛ばされフリッツたちの方へと転がり、仰向けになって倒れる。

  地面に刺さったエイジの剣が粒子となって消える。


エイジ「ううっ……」

フリッツ「エイジ!」


  フリッツが弱々しくゆっくりと起き上がろうとするエイジを支え、黒フードの女AとBを見やる。

  エイジも片目だけ開けて黒フードの女AとBを見やる。

  黒フードの女B、明るい口調で、


黒フードの女B「あらあらぁー? たった一撃でやられるなんてザコすぎぃー。キャハハハハッ!」


  哄笑こうしょうする黒フードの女B。

  黒フードの女A、槍を振り、


黒フードの女A「天呪槍ヒンメルシュラークを使うほどでもなかったな。さて」


  黒フードの女Aの右手に持っている槍が消える。

  黒フードの女A、エイジたちに背を向け、右手を突きだす。

  黒フードの女たちの前に、黒い渦を巻いたゲートが現れる。


フリッツ「待て!」


  黒フードの女A、フリッツの方へと振り向き、


黒フードの女A「言っただろう、今日は挨拶をしにきただけだ。もっとも、今のおまえたちが束になって私に刃向っても、返り討ちにされるだけだがな」

フリッツ「くっ……」


  悔しそうに見つめるフリッツ。


黒フードの女A「では、生きていればまた会おう。我らが組織“闇の信徒ミノス”が創りだした、冥へと落ちたこの世界で」

黒フードの女B「あっはっはっは。まったねー」

  

  黒フードの女B、両手を広げて左右に振る。

  黒フードの女A・B、黒い渦を巻いたゲートの中に消えていく。

  その場で佇む、メルヴィン、ブリーゼ、フリッツ。

  エイジ、薄れていく意識の中、低い声で、


エイジ「ミノ、ス……」


  静かに目を閉じ、気を失うエイジ。


〇ミザール国 全域


  突然、街や自然が赤紫色に染まり、困惑する住民たち。


〇ミザール国 首都ヴァイトインゼル オルディネール島 紅天宮こうてんきゅう


  ミザール国本土から少し離れた場所に自然に溢れる島がある。


ナレーション「首都ヴァイトインゼル。オルディーネ島」


  山の麓には紅葉色に輝く宮殿――紅天宮がある。


〇ミザール国 首都ヴァイトインゼル オルディネール島 紅天宮こうてんきゅう2F 護星女ルーラーの部屋 バルコニー


  バルコニーから護星女ルーラーが心配そうに赤紫色に染まっていく本土を見つめている。


護星女ルーラー「ミザールが、闇子(サタン)に汚染されていく……」


  護星女ルーラー、祈るように両手を握り、目を閉じる。


〈第7話(序章最終話):牙を剝くプルート 終〉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ