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メテオストライク-断罪の一撃-【シナリオ】  作者: 永山あゆむ
序章:希望となるために
1/7

第1話:進みだす心

登場人物


エイジ・ハセガワ(18)主人公。フリーター。


エミリー・ミチヅキ(18)ヒロイン。エイジの幼なじみ・アイドル歌手。通称エミー。


ブリーゼ・オイサキ(28)国際特秘遂行警備組織“影星エクリプス”所属の女性隊員。


友達A

友達B

黒服の女A

黒服の女B


〇真っ黒な画面

   黒一色の画面に文字が浮き出る。

ナレーション(以下N)「断罪の一撃(メテオストライク)


〇戦争

   赤い鎧を纏った兵士たちと青い鎧を纏った兵士たちが、武器を手にして戦場で火花を散らしている。

   放たれた大砲で、地表が引き裂かれ、両軍の兵士たちが吹き飛ばされている。

   戦火で荒廃した土地から、どす黒い紫色の粒子――闇子サタンが地表から湧き上がる。

N「世界の光子マナを蝕むとき、この地に災いの種が満ち」

   兵士たちが上空を見上げている。

N「冥の者より、裁きを受けるだろう」

   上空から扉が現れる。

   扉から赤く染まった目がでてくる。

N「それがこの異世界――ソルスワールに与えられた『呪い』である」


〇ミザール国・首都ヴァイトインゼル 街の中

N「異世界ソルスワール ミザール国。首都ヴァイトインゼル」

エイジ「ふあーあ」

   あくびしながら街を歩くエイジ・ハセガワ(18)。

   襟足の長い黒髪で、上はパーカー、下はサスペンダー付きのカーゴパンツを履いている。

   眠たそうな顔で、花に囲まれた華やかな街の中を歩いている。

エイジ「……ったく、あの依頼人、自分勝手すぎるだろ。これだから大人は」

   エイジ、溜息をついて、トボトボと歩く。

エイジ(N)「故郷を飛び出して一年。理想と現実は違うと、この街に来てつくづく思う」

   街の中にいる人々は、笑顔で溢れている。

   噴水の中心には人型の像が立っている。

エイジ(N)「平和な世の中で、なんで虚無感に苛まれないといけないのか、それは俺にもわからない。ただ一つ分かるのは、俺だけが『止まっている』ということ」

   エイジ、立ち止まり、見上げる。

   エイジの目線の先には花模様が描かれたドームがある。

エイジ(N)「俺は、この世で何ができるのだろうか」

   エイジがフラワードームに向かうその背に、サングラスにスーツを着た、赤い長髪の女性、ブリーゼ・オイサキ(28)がドームを見つめている。

ブリーゼ「……」

   左手に着けているグローブを見つめるブリーゼ。

   グローブの手の甲の部分にあるひし形の物体が、黒く光っている。


〇同国・同首都 フラワードーム 入口

   フラワードームの入口に警備員がおり、人々が長蛇の列を作っている。

   その中に並んでいるエイジ。

   入口には、『Emily :The Scarlet Roses of Passion Concert』と書かれた看板と、ブラウン色のミディアムボブの髪型で、バラのように紅いフリルドレスを着た、エイジの幼なじみのエミリー・ミチヅキ(18)の等身大パネルが立てられている。


〇同国・同首都 フラワードーム 楽屋

   楽屋では、等身大パネルと同じ衣装を着たエミリーが椅子に座って、鏡を見つめている。

   女性のスタイリストが彼女の髪を整えている。

スタイリスト(女)「はいっ、できたよ」

エミリー「ありがとうございます」

   エミリー、立ち上がり、鏡に向かってポーズを決める。

エミリー「よし!」

   コンコン、と扉から音が聞こえる。

エミリー「あ、はい」

   ガチャ、と開ける音。

エミリー「エイジ!」

エイジ「よ、よお……」

   疲れた表情で楽屋に入っていくエイジ。

エミリー「ど、どうしたの?」

エイジ「お前、人気ありすぎ」

エミリー「えっ?」

エイジ「開場すると同時に押されたり、中に入れば男どもがわんさかとむさくるしいし……ここに来んのだって、おまえにもらった特別許可証を警備員見せただけで、背後から鬼のような視線が……」

エミリー「(苦笑する表情で)なんか、ごめんね」

エイジ「いいさ。おまえが頑張っている証拠なんだし。それに、幼なじみがせっかくライブをするんだ。何が何でも見に行くさ」

エミリー「ありがとう、エイジ」

エイジ「(照れた顔で)お、おう」

   エイジ、微笑むエミリーにドキッとする。

エイジ「そ、それにしても、いいのか? 本番まで時間がいないのに」

エミリー「大丈夫だよ。リハはもう済ませているし、あとは全力を出すだけだから」

エイジ「そっか」

エミリー「うん。今日も一人でも多くの人が、わたしのライブで希望をもってくれたらいいな」

エイジ「希望を照らす光と在れ。おまえが思うアイドルとしての使命、だったか」

エミリー「そう。どんなに苦しくても、どんなにつらくても、必ず明るい方向に進んでる。だから、わたしもこの夢が叶った。水の底で溺れそうになっても、必ず見えるものがある。その経験を、伝えたい。それが、わたしがアイドルとして指し示す可能性――光なの。だからわたしは歌うの。そうすれば、お父様やお母様だって、きっと……」

   エミリー、胸のところで願う様に両手を握りしめる。

   エイジ、エミリーの頭をそっと撫でる。

エイジ「大丈夫さ。エミーの歌を聴きたい人がたくさんいるんだ。それは、たくさんの人にエミーの届いているってことだろ。だから、大丈夫さ」

エミリー「エイジ……うん、ありがとう。 わたし、頑張る!」

エイジ「その意気だ。あーあ、俺もエミーみたいになりたいなあ」

エミリー「何いってるの。エイジだって、わたしよりもきっと大きなことができるわよ」

エイジ「(自分のことが分かりきって、だめだと思っているように)いや、俺にはできねえよ……」

エミリー「(心配そうに)え……仕事、上手くいってないの? 確か、街の隅にある何でも屋で働いているんだよね? どんな依頼も対応するっていう」

エイジ「そう。まあ、やってると言えばやってるんだけど……ほんっと、大人の嫌な部分が目に見えるぜ」

エミリー「何かあったの?」

エイジ「依頼主たちがワガママでさ、掃除をやって、さらには買い物して、料理して、洗濯して……俺は家政婦じゃねぇっつーの。この前だって犬の世話で手を噛みつかれたし、子供のいたずらが原因で、なぜか俺が代わりに謝りに行く始末だし」

   エイジ、ため息をついて

エイジ「ったく、エミーみたいに輝きたくて故郷を飛び出して首都に来たっていうのに……ほんっと、大人って傲慢だぜ。そういうやつらを黙らせたいのに……何も変わりゃあしねぇ。(寂しそうに)結局俺は、そこまでの人間なんだな」

エミリー「(エイジを心配するように)エイジ……」

   エミリー、心配そうな顔でエイジを見つめる。

エイジ「ごめんな。これからライブだってのに。(エミリーの心配そうな顔を見て)そんな顔すんなよ、大丈夫さ。これからだよ、これから! ストレスがたまってナイーブになってるだけだから」

エミリー「(心配そうに)ほんとに?」

エイジ「本当さ。だから気にすんな。……それじゃあライブ、期待してっから。また後でな」

   エイジ、扉の方へと向かう。

エミリー「エイジ!」

エイジ「ん?」

   エミリーの声に、立ち止まり、振り向くエイジ。

   エミリー、両手をぎゅっと握り、

エミリー「(気持ちが届くように)わたしの歌で、少しでもいいから、希望を持ってね」

   エイジ、その場で少し黙って、再び扉の方へと歩きながら、

エイジ「ああ、いっぱいもらうわ」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール

   一万人ほどの観客を呼べる大きなホール。

   たくさんの人が集まっており、ライブを今か今かと待っている。

男A「エミーちゃーん!」

男B「愛しのエミーっ!」

   観客が彼女の名前を呼ぶ一方で、

エイジ(エミー、エミー、うるせえっての。最初にあいつをエミーと呼んだのは、俺だっていうのに……)

   エイジ、観客のエミーコールに不機嫌になる。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール 屋根裏

   ホールの天井の屋根裏で、黒服を着た謎の女二人が隙間から様子を伺っている。

黒服の女A「あららー、ずいぶん人が多いねー」

黒服の女B「良い実験になりそうだな」

   黒服の女B、赤紫色が渦を巻いている不気味な玉を取り出す。

黒服の女B「しかし、これだけの人数を犠牲にするのは、いささか忍びないな」

黒服の女A「何いってんのよー、これも世界せいぎのためだよー」

黒服の女B「そうだな……」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール 出入り口

   人がホールの出入り口を行きかう中、その付近で、サングラスをかけたスーツの女性――ブリーゼが、ステージをじっと見つめている。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール

 ホール内の照明が消える。

エイジ「おっ……」

   座席に座っている観客たちが立ち上がる。

   ステージに張っている幕に、証明が灯る。

エミリー(声のみ)「こんにちはーっ! みんな、元気――っ?」

   盛り上がる観客たちの声。

エミリー(声のみ)「今日はみんなの未来に光を灯すために歌うから、ついてきてね――――っ!」

   観客たちの声が増していく。その中で、黙ってステージを見つめるエイジ。

エミリー「それじゃあ、行くよーっ! ワン、ツー、スリーっ!」

   ステージの幕が落下し、エミリーが現れる。

   観客に向かって、ドレスの裾をつまみ、おしとやかに挨拶をする。

   そして華麗なステップでステージを舞う。パフォーマンスに観客たちが興奮する。

   エミリーのパフォーマンスに、目が離せないエイジ。

エイジ(希望、それがアイドルの姿と言ってたけど……体現しているじゃねーか。差がデカすぎるぜ)

エイジ「……くそ」

   観客に聞こえない声音で呟くエイジ。

エミリー「それじゃあみんな、準備はいいわね? 最初にジャンプよ!」

   エミリーの指示に、声を上げる観客たちの声。

エミリー「いくわよー! スリー、ツー……」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール 屋根裏

黒服の女B「時は満ちた。希望は、絶望で満たされるのだ!」

   黒服の女B、屋根裏の隙間から、赤紫色の波が渦を巻いている不気味な玉を投げる。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

エミリー「ワン!」

   エミリー、人差し指を出す。その瞬間、

エイジ・エミリー・ブリーゼ・観客「!」

   会場内で爆発音が響き、ホールが赤紫の煙で充満する。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール

エイジ「ゴホッ……ゴホッ、な、なんだ!?」

   エイジ、煙を吸い込まないように手で口を押える。

   視界は煙で充満しており、周りがよく見えない。

女A「きゃああああっ!」

男C「うわあああっ!」

エイジ「な、何が起こって」

   エイジの目の前に紫色の鋭い針が襲ってくる。

エイジ「おわあっ!」

   エイジ、瞬間的に上体を逸らしてかわすが、そのまま地面につく。

   濃い煙がだんだん薄くなり、襲ってた影が見えてくる。

エイジ「!?」

   眼前には、地面を這いずる、全身紫色で、人のような形をした奇妙な魔物――奪心シェルがいた。

エイジ「な、なんだよ、コイツ」

   エイジ、左の腰のあたりに手を伸ばす。

エイジ「げ、剣を持ってきてなかったんだ」

男D「ぐはあっ!」

エイジ「!」

   同じ形をした奪心シェルが、別の席にいる男の心臓を貫き、壁に勢いよく放り投げる。

   悲鳴をあげる観客たち。すぐさまホールから逃げ出す。

男E「な、なんなんだこいつらは!?」

女B「護星女ルーラーが浄化したんじゃなかったの!?」

エイジ「ルーラー?」

   ホールの出入り口の前で、地面から次々と奪心シェルが出てきて、観客たちの逃げ道を塞ぐ。

   奪心シェルの手が、針のように変形する。

   それが伸びていき、次々と人を突き刺し、客席を破壊する。

エイジ「! うそ、だろ」

   悲惨な現場を目の当たりにしたエイジは、立ち上がることができない。

   目の前にいる魔物の手が鋭い針のような形に変形する。

   エイジの心臓付近向かってに伸びていく。

エイジ「うわああああっ!」

   目をつぶるエイジ。

   しかし、

エイジ「……え」

   見上げるエイジ。

エイジ「!」

   奪心シェルが横真っ二つに引き裂かれている。

奪心シェル「ギィアアアアアア!」

   奪心シェル、悲鳴とともに砂のような紫の粒子となり、爆散する。

   エイジ、目が丸くなり、言葉が出ない。

ブリーゼ「無事か?」

エイジ「!」

   後ろを振り向くエイジ。そこにはブリーゼがいる。

エイジ「あんたは……」

   また次々と地面から魔物がわき、囲まれる。

エイジ「うわあああ!」

   尻餅をつくエイジ。

ブリーゼ「奪心シェルふぜいが」

エイジ「シェル……?」

   ブリーゼ、エイジをちらっと見て、

ブリーゼ「……仕方ないわね」

   ブリーゼ、前に出る。

エイジ「あっ、おい! 危ないぞ!」

ブリーゼ「心配無用だ」

   ブリーゼ、左手につけている黒いひし形の宝石のようなものが埋め込まれたグローブを敵に見せ、そこを右手で押さえる。

ブリーゼ「光子解放マナ・グリッター!」

   ブリーゼのグローブが緑色に煌めき、その輝きが彼女のブーツに宿る。

ブリーゼ「断ち斬れ! 裂砕刃れっさいじん!」

   ブリーゼが蹴り上げた瞬間、緑色の真空刃が魔物を斬り裂き、消えていく。

エイジ「……」

   エイジ、口が開いたままになる。

ブリーゼ「このままじっとしてなさい。こいつらはあたしが、裂く!」

   ブリーゼ、勢いよくジャンプ。ブーツが緑色に発光して、普通の人間の跳躍以上の高さまで達する。

エイジ「!」

ブリーゼ「はあああああっ!」

   空中で、真空刃を連続で繰り出すブリーゼ。瞬く間に魔物が消滅する。

   ブリーゼ、ブーツに宿された力でゆっくりと降下する。

ブリーゼ「ルート完了アウト

   ふう、と長い赤髪をバサッとするブリーゼに、目を丸くするエイジ。

エイジ「あんた、何者なんだ? それに、その力は……」

ブリーゼ「……」

   ブリーゼ、黙ってホールの出口へと出ようとする。

エミリー「きゃあああああっ!」

   エミリーの悲鳴に、ステージの方へと見やるエイジとブリーゼ。

エイジ「!……エミー!」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

   奪心シェル、エミリーをぎゅっと握り、エミリーの全身が紫色を纏う。

エミリー「あああああああああああああっ!」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール

エイジ「!」

   エイジの瞳孔が開く。

ブリーゼ「待て!」

   エイジはブリーゼの静止を無視して、ものすごい速さでステージに向かう。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

エイジ「やめろおおおおおおっ!」

   ジャンプして魔物の手ごと引きちぎってエミリーを解放する。彼女を握っていた手が消滅する。

ブリーゼ「!」

   そのエイジの行動に、目を見張るブリーゼ。

エイジ「エミー、エミー!」

   エミリーを介抱するエイジ。

   エミリー、苦しそうに、

エミリー「……エイジ、にげ、て……」

エイジ「え?」

   エミリーの胸に黒いあながでてくる。

   そこに、奪心シェルが入ってくる。

エミリー「ああああああああああっ!」

エイジ「!」

   エミリー、紫色に光り出し、異形な姿――紫色のロバのような形をした、どす黒い堕天使の羽を持った魔物――オスジオーネ化した。

エイジ「……っ!」

   エイジ、エミリーの変わり果てた姿に絶句する。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール 屋根裏

   黒服の女A、嬉しそうに、

黒服の女A「うわあー、すごーい! あの子、変態しちゃったよー!」

黒服の女B「……」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

エイジ「あ、悪夢……だよな……これ。そう、だよな……エミー、エミー……」

   あまりにも信じがたい状況に朦朧もうろうとするエイジ。

   魔物化したエミリーに突進する。

エイジ「エミ――――――――っ!」

   オスジオーネ化したエミリー、エイジに向かって、青い炎を吐く。炎を受ける直前、ブリーゼが横っ飛びしてエイジを庇う。

ブリーゼ「大丈夫か」

エイジ「あ、ああ」

   ブリーゼ、立ち上がり、サングラスの位置を直す。

   エイジも立ち上がる。

ブリーゼ「あれは生身で戦う相手じゃない。体内の光子マナが穢れて暴走した成れの果て――闇魔人オスジオーネ化した人間には」

エイジ「オス、ジオーネ?」

ブリーゼ「光子マナのことは知っているわね?」

エイジ「人間には視えない、世界を構成する光の粒子のことだろ? 俺たちの体も光子マナで創られているんだっけ」

ブリーゼ「そう。だけどこの地には、それとは相反する粒子――闇子サタンという大地の穢れから生まれる粒子があるのよ。それは人間や魔物、この地に生きる者たちに害を与えるの。そんな粒子が、人間や魔物の中に入ったらどうなると思う?」

エイジ「(今の状況に信じられないように)……暴走、する……?」

ブリーゼ「それが闇魔人オスジオーネ化。普段は人間の構造によって色々な魔物に変わるけど……」

   オスジオーネ化したエミリーを見つめるブリーゼ。

ブリーゼ「こんな魔人になった人間は初めてだわ。まるで、神天槍大戦グングニルで冥王タルタロイの配下、堕天使アスタロトじゃない。奪心シェルと融合したからか……?」

エイジ「え? 神天槍大戦グングニルって、この世界――ソルスワールを創った女神アストラとそれを防ごうとした冥王タルタロイの戦いを描いた、ただのおとぎ話じゃあ……」

ブリーゼ「事実よ。この世界に光子マナ闇子サタンが混在していること自体が、何よりの証拠だから。他にもいくつかあるけど」

   オスジオーネ化したエミリー、エイジとブリーゼに向かって突進する。

エイジ「おわあっ!」

   なんとか避けるエイジ。ブリーゼは軽やかにかわす。

エイジ「なあ! どうすればエミーは元に戻るんだ? 何かあんだろ!?」

ブリーゼ「……ああ。せいっ!」

エイジ「(攻撃したことにびっくりして)!?」

   ブリーゼ、オスジオーネ化したエミリーに向かって真空刃を放つ。

   それを避けるオスジオーネ化したエミリー。

   エイジ、ブリーゼの肩を掴む。

エイジ「何やってんだよ!」

ブリーゼ「何って、弱らせるだけよ」

エイジ「分かってる! だけど、あいつは人間エミーなんだぞ!」

   ブリーゼ、冷たい表情で、

ブリーゼ「それが? 傷一つつけずに助ける方法が、あんたにはあるっていうの?」

エイジ「ない! けどな、仮に傷つけてもとに戻ったとしても、生きている保障はどこにもないんだろ!」

ブリーゼ「……そうね」

エイジ「だったら!」

   エイジ、ブリーゼの胸倉を強引に掴む。

エイジ「諦めんなよ! 傷つけずに救える方法を考えろよ! そうやって犠牲を前提に考えるから、俺は大人が大嫌いなんだよ!」

   エイジ、眉間にしわを寄せて歯軋りする。

ブリーゼ「(静かな怒りを向き出して)……若僧が、知った口でほざくなよ」

エイジ「……!」

   エイジ、ブリーゼの鋭利な目にびびり、胸倉をつかんだ手が手が放れる。

ブリーゼ「(悲痛な叫びで)諦めないからそれを選んだのよ! 可能性をかけて! そんなちゃらんぽらんな考えで、すぐに事が進まなかったらどうするのよ!? 周りの事も考えろよ、このアホンダラ!」

   ブリーゼ、エイジの胸倉を強く掴む。

ブリーゼ「アタシはね、あんたのような口だけの人間が大嫌いなのよ! 時々の感情で言うだけ言って、人に身を委ねて何も変えようとしない『風任せ』が! どれだけの人に迷惑をかけたかもわからないでしょ!? そんな抜けがらの意志じゃ、永遠に変わらないわ! 過去も未来も、現在いまもね!」

エイジ「……」

   ブリーゼの言葉に、固まってしまうエイジ。

   すると、オスジオーネ化したエミリーが咆哮する。

   顔を向ける二人。

ブリーゼ「長すぎたわね」

   ブリーゼ、エイジの胸倉から手が放れる。

   そして、オスジオーネ化したエミリーに向かって歩きだす。

   それをただ呆然と見つめるエイジ。

エイジ(俺のやってたことって……)


〇回想 同国・同首都 フラワードーム 楽屋

エイジ「……結局俺は、そこまでの人間なんだな」

エミリー「エイジ……」

   エミリー、悲しそうな顔でエイジを見つめる。

   (※画面が光り、場面が切り替わる)

   エミリー、両手をぎゅっと握り、

エミリー「わたしの歌で、少しでもいいから、希望を持ってね」


〇同国・同首都 フラワードーム ホール ステージ

   エイジ、悔しそうに、

エイジ「くそったれ!」

   震えるほど両手を強く握るエイジ。

エイジ「(叫ぶように)ちょっと待てよ!」

   ブリーゼ、後ろにいるエイジを横目で睨みつける。

エイジ「俺がいつ口だけだと言ったんだよ。俺だって、俺にだって、意志はあるんだよ! 理

不尽な大人たちの世の中を、この手で変えてやりたいんだよ!」

ブリーゼ「……」

エイジ「なあ、本当に倒すしか方法はないんだよな」

ブリーゼ「二言目は言わないわ」

エイジ「なら!」

   エイジ、勢いよく足を踏み込み、一瞬でブリーゼの前へと立つ。

ブリーゼ「!?」

   ブリーゼ、前に立つエイジに驚く。

   エイジ、ブリーゼを横目で睨みつけ、

エイジ「俺が引導を渡してやるまでだ!」

ブリーゼ「(叫ぶように)待て!」

   エイジ、オスジオーネ化したエミリーに向かって走る。エイジ、黒翼から繰り出される弾を避け、顔を殴る。

エイジ「え?」

   殴った感触がないことに目を丸くするエイジ。

   オスジオーネ化したエミリー、エイジに向けて口を大きく開き、紫の光線を放つ。

   その瞬間、ブリーゼがエイジを庇う。床に転がる二人。

   光線を受け、サングラスが吹き飛び、全身が焼き焦げた痕でいっぱいのブリーゼ。

エイジ「……お、おい……」

   震える声で、ブリーゼに話しかけるエイジ。

ブリーゼ「このバカ。とんだキズを……くっ」

   青ざめた顔で、倒れているブリーゼを見下ろすエイジ。

エイジ「俺のせいだ。ごめん」

   ブリーゼ、エイジの頬を手に当てる。

ブリーゼ「闇魔人オスジオーネした人間は、闇子サタンの塊そのもの。だから、生身の人間の攻撃は効かないの。人間は、普段、光子マナを見ることも触ることもできないしね」

エイジ「じゃあ、どうすれば、どうすればいいんだよ!? 俺に、あんたみたいな力は……!」

ブリーゼ「落ち着け。まだ方法がないわけではないわ……」

   ブリーゼ、自分を心配する表情で見つめるエイジを見つめる。

ブリーゼ「一縷の望み、ね」

エイジ「え?」

   ブリーゼ、左手に装着しているステルラグローブを外す。

   手の甲が埋め込まれてある青く光るひし形模様が黒くなる。

ブリーゼ「これを」

   ブリーゼ、ステルラグローブをエイジに渡す。

エイジ「(不思議そうに)これは?」

ブリーゼ「闇子サタンで変貌したならば、こちらも光子マナの力をぶつけるしかない」

エイジ「だけど、人間には光子マナの力は」

ブリーゼ「そう。だからこのグローブよ。これをつけて黒いところを押して。資格があるなら、体内の光子マナから創られた武器がでてくるわ。アタシがこのザマである以上、アンタに頼むしかない……口だけじゃないって証明できる?」

   真剣な目つきで見つめるブリーゼに、同じ目つきで見つめ返すエイジ。

   二人の間で少し沈黙があったあと、

エイジ「当然だ」

   エイジ、意を決して、左手にステルラグローブを装着する。

   そして立ち上がり、オスジオーネ化したエミリーを見つめる。

エイジ「俺しかいないなら、やるしかないだろ! それに、今ここで逃げたら、俺は永遠に『風任せ』だ! はああああっ!」

   手の甲の部分にある黒いひし形模様のところを押す。

   そこが朱く輝き、エイジは剣を引き抜くように右手を振り払う。

   エイジの右手には、朱色に輝く剣が握られている。

エイジ「これは……」

   朱色に輝く剣を見つめるエイジ。

ブリーゼ「やっぱり、《選星者シュッツァー》だったのね」

エイジ「え?」

   後ろで倒れているブリーゼに顔を向けるエイジ。

ブリーゼ「いや、こっちの話。今は、あの子を助けることに集中しなさい。気が引けるけど、あの子を屈服させない限り、元には戻せないんだから」

エイジ「わかった。やるっきゃないん……だよな……」

   オスジオーネ化したエミリーと対峙するエイジ。エイジ、目を瞑り、精神統一し、

エイジ「エミー、今、助けてやる!」

   エイジ、朱色の剣を握ったまま、オスジオーネ化したエミリーに向かって走っていく。

ブリーゼ「おい! 無闇に突っ込むな……!」

   オスジオーネ化したエミリー、黒翼から無数の黒い弾を放つ。

ブリーゼ「避けろ!」

エイジ「うおおおおおおっ!」

   エイジ、走りながら剣を振って防ぎ、勢いよくジャンプして、オスジオーネ化したエミリーに向かって斬りつける。

   オスジオーネ化したエミリー、エイジの攻撃を避け、翼をはためかせて空中に移動する。

エイジ「くそ……何とか地上に降ろさないと……え?」

   エイジが握っている朱色の剣が、突然、炎みたいに煌めく。

エイジ「一か八かだ。はあああああっ!」

   エイジ、勢いよく剣を床に振りおろす。すると剣から赤い光線が放たれ、空中にいるオスジオーネ化したエミリーの身体を貫く。オスジオーネ化したエミリーは、そのままステージ上に落ちていく。

ブリーゼ「今よ! グローブを、青いところをあいつに向けなさい!」

エイジ「わかった!」

   エイジ、グローブについている青いひし形模様の部分をオスジオーネ化したエミリーに向ける。

   そこから青白い光が放たれ、闇子サタンが弾けていく。

   エミリー、倒れた状態で元の姿に戻る。

エイジ「や、やった……」

   その場でへたり込むエイジ。

   朱色の剣は光に包まれ、グローブにある青いひし形模様の中に入っていく。

ブリーゼ「なんとかなったわね」

   ブリーゼ、へたり込むエイジのところに来る。

   エイジ、立っているブリーゼの顔を見上げる。

エイジ「もう歩けるのか?」

ブリーゼ「当然。戦いが終わってへたり込むようなヤワな身体ではないわ」

エイジ「べ、別にそんな身体じゃ……」

エイジ「あ、ああ……」

   エイジ、ステルラグローブをつけた左手を立っているブリーゼに向ける。ブリーゼ、エイジが身につけているステルラグローブを外し、自分の左手に身につける。

ブリーゼ「さて、と」

   ブリーゼ、しゃがんで眠っているエミリーの状態を確認する。

ブリーゼ「安心なさい。息はあるわ。あとは施設で治療すれば、なんとかなるわね」

エイジ「そっか。よかった」

   エイジ、ホッとする。

ブリーゼ「じゃあ、この子を抱えて」

エイジ「へ?」

ブリーゼ「立場上、すぐに立ち去るべきだけど、アンタという『予定』ができたからね」

エイジ「お、俺?」

   思わず自分に指を差すエイジ。

ブリーゼ「アタシがいる組織へ来ない? アンタには、その資格がある。未熟だけど、コレが使えたしね」

   ステルラグローブを見せるブリーゼ。

ブリーゼ「それに、アンタが望んでいるものも」

エイジ「俺が望んでいるもの?」

ブリーゼ「そう、アイツらのような悪い大人から救う力が欲しいなら、悪くない話でしょ。このチャンス、生かすも殺すもアンタ次第よ」

エイジ「俺、次第……」

   エイジ、しばらく黙り、目を閉じる。彼の頭に浮かぶのは、口を大きく開けて笑ているエミリーの姿。

   エイジ、目を開け、決意を固めた目つきで、

エイジ「行く。この先に俺が求める道があるのなら、俺の信念を貫いてやるまでだ! 歪んだ大人たちの世界を変えるために、とことんあんたについて行ってやる!」

   ブリーゼ、フッ、とほくそ笑み、

ブリーゼ「わかったわ。なら、ついてきなさい……ああ、自己紹介がまだだったわね。ブリーゼ・オイサキよ。よろしく」

   ブリーゼ、ホールの屋根裏を見上げる。

ブリーゼ「……」

   そして、黙ってホールの出入り口の方へと歩くブリーゼ。

エイジ「あ、おい」

ブリーゼ「言ったでしょ。初任務をこなしなさい」

   ブリーゼ、歩きながら右手を挙げ、先にステージから降りる。

エイジ「あ……」

   エイジ、少しの時間眠っているエミリーを見つめた後、立ち上がる。そして彼女をお姫様だっこする。

エイジ「エミー……俺、今度こそやってやるから」

   エミリーを抱え、ブリーゼの後をついていくエイジ。


〇同国・同首都 フラワードーム ホール 屋根裏

黒服の女A「あららー、あの子すごいねー、ただの人間なのに光子マナを使えるなんてー」

黒服の女B「新たな“影星かげぼし”のご登場か。面白くなりそうだ」

黒服の女A「でもぉー、とりあえずー、これは成功ってとこですかー?」

黒服の女B「ああ。では、これにて我らの計画、『断罪の一撃メテオ・ストライク』の始動だ! 歪んだこの地を、正すために!」


〈第1話:進みだす心 終〉


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