一番目の愛を頂戴。
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未来の子供達のお話です。
第三弾、ヴェル皇女のお話。
この世界には半身って言われる自分の魂や魔力の半分を持っているものが居るんだって。
私は双子で生まれたから、生まれたときから自分の半身と一緒に居るの。
半身の番。
私のお父様とお母様も半身同士で、番なの。
半身で番になれるのはなかなか居ないんだっていうのは、先生達が教えてくれた。
私は第一皇女だから、いつか双子で番の第二皇子のヴァルキスと結婚するんだと思ってた。
でも、ヴァルキスは私以外の女の子ばっかり見てる。
私の番なのに。
「ヴェル。お父様の魔力を受け止められるのが半身である私しか居なかったから結婚をしただけよ。それに世の中、番でも結婚しないものも居るのよ?」
そう言って私を優しく撫でてくれるお母様。
バルコニーでお茶をしていたお母様にしがみ付きながらヴェルはぐずぐずと泣きながら言った。
「でも、お父様はお母様を愛してるわ!半身は人の姿同士なら愛し合うって先生が言ってた!」
そう言うと、お母様は困ったように眉根を寄せてそれでも頭を撫でながら言った。
「愛し合う確立が高いだけよ。・・・学院で何かあったの?」
「ヴァルキスが、伯爵令嬢とチューしてた!!」
「あらら・・・意外にやるわね」
びっくりしながらお母様は言うけど、後半はなに?!
「ママ!!!」
「ママじゃなくて、お母様よ。ねぇ、ヴェル。ヴェルとヴァルキスは許婚ではないし、恋人同士でもないのよ?だからあまり縛り付けるのはよくないわ。それに学院には色んな男の子達が居るのよ?誰か気になる子とかいないの?」
「・・・いないもん。」
「それは困ったな。」
そう言って、お母様をうしろから抱きしめたのはお父様だった。
「お父様・・・・」
お父様が来るといつもお母様を取られちゃう、むすっとした顔で見上げればお父様が頭を優しく撫でてくれた。
「学院も一つの社交場だ、いい相手を皆見つけるためのな。」
「ヴェルはヴァルキスがいればいいもん。」
ぎゅっとお母様にしがみ付くと、お父様はお母様ごと抱きかかえて歩き始めてしまった。
目線が高くなって、お母様と一緒にお父様にしがみ付くとほっぺにチューしてくれた、お母様には唇にだけど。
「ヴァルキスはそう思っているのか?」
「・・・私たち双子の半身だもん。」
「ヴェル・・・ヴァルキスよりいい男はいっぱい居るとおもうぞ?顔は俺に似ているが、喧嘩は弱くてすぐ泣く、成績もそこそこだ。もう少し他の男も見たほうがいい。」
お父様はため息一つつくとそう言った。
「だから!ヴァルキスは私がいないと駄目なの!」
「「・・・」」
お母様とお父様は困ったように二人とも見詰め合ってしまった。
そうこうしているうちに、休憩用のお部屋に着いてしまった。侍女達が扉を開けるとお父様はそのまま入って部屋においてあるベットにお母様と私を降ろして、私と視線を合わせるようにお父様が屈んだ。
「ヴェル。もう少し世間をしらないと駄目だ。ヴァルキス以外の男もみなさい。おためしにでもいい、公爵家の次男がお前と年が近いだろ、付き合いなさい。」
「嫌!!」
「何でだ?」
「私よりも喧嘩が強いんだもん!!」
その言葉にお父様は大きなため息をついた。
「ヴェル・・・お前は女の子なんだぞ?喧嘩なんかするな!」
ぷくうっと膨らんだ私のほっぺたをお母様がフニフニ押される。
やめてください!お母様!!私今怒ってるのに!!お父様が噴出してるじゃない!!
「ママ!!やめてよ!!ヴェルは怒ってるの!!」
「ヴェル。ヴァルキスばかりに固執しちゃだめよ。お父様の言うとおりにしなさい。それとも皇帝陛下として命令されたい?」
「・・・」
お母様も味方してくれない状況じゃ、いくら文句言っても勝てるわけがない、お父様とお母様の顔を見ないように俯いたまま私は部屋を飛び出した。
ヴェルが飛び出した部屋では、ヴェルの父親が妻の服を脱がしながら娘の言動に頭を悩ませていた。
「やれやれ、あの子達には困ったな。ナーブルがあまり問題を起こさない分目だってしまうな・・・」
「そうね・・・、ナーブルはローズちゃんにだけですしね。はぁ、あの子達の性格が逆だったらいいのだけれど・・・。」
そう言いながら、夫の服に手をかけて同じように脱がし始めた。
「それはそれで、大変な事になっていたと思うぞ。ヴァルキスは今から女好きだしな・・・また違う少女と複数付き合って、揉めたらしい。しかも自分より魔力のある年上の少女だ」
「まぁ!今から年上好きなの?!しかも魔力が自分より上の子になんて・・・ヘタしたら殺されてしまうわ。あんなにおどおどしてるのに、なぜかモテルのよね・・・将来が不安だわ。痴情の縺れで死亡、だなんて」
「ありえないことも無い。頭は悪くないはずなんだがな・・・女に言い寄られるとそのまま流される。ヴェルと結婚させる事は可能だがあれだと言い寄られる女全てに手をだすからな・・・ヴェルが泣いて暮らす事になる。」
「そうよねぇ。ん・・・ヴァルキスはヴェルに興味がないんですものね。半身同士なのに・・・」
「ヴァルキスは、ヴェルとの半身の契約も拒んだしな。」
「ヴェルが違う子を好きになってくれればいいのだけれど。」
「まったくだ。」
そんな会話を両親がしているとは思っていないヴェルは中庭を歩いていた。
「お父様のばーか。お母様といちゃつく時間は作るくせに、ヴェルのお願いは全然きいてくれない。」
ずんずんと庭を進んでいくと、反対側に立っている建物にまでたどり着いてしまった。
だが、その建物の廊下で見えたのは自分の兄と兄の許婚である公爵令嬢のローズがいた。
「ぁ!!またあの女がきてる!!」
「ヴェル様、殿下がむりやり連れてこられたそうです。」
ずっと後ろに控えていた侍女がヴェルの発言に訂正をいれた。
「・・・断ればいいじゃない!ナーブル兄様の事すきでもないのに、許婚なのよ!」
大好きな兄にいい顔をしないばかりか、脅えた顔をするローズなんかだいっきらいだ。
「それは・・・」
殿下が意地悪するからですわ。とは言えない侍女だった。
「あの女が居るとナーブル兄様が相手してくれないじゃない!」
あの女が居るときに行くとお兄様は笑顔で追い出すんだもん!しつこくすると二人でどこかに消えちゃうし!!お母様にも二人の邪魔しちゃだめって怒られるし!私はますます不機嫌になって建物に入ってお兄様達が去った逆方向に歩き出した。
行く先は宰相の執務室。
「ルーカス宰相!!抱っこして!!」
ルーカス宰相の執務室に突入をして、両手を広げて抱っこしてポーズを決めた。
「はぁ・・・ヴェル皇女。もう貴方は幼子では無いんですから」
「抱っこ!!」
「周りの目も気にして「抱っこして!!」」
ルーカス宰相は大きなため息をして抱っこしてくれた。
「今回だけですからね」
いつもそういうけど、いつも抱っこしてくれるのを私は知ってる。でもやっぱり拒否されると悲しくなるから少し涙が出ちゃう。
「こんなに涙をためて、どうしたんです」
そう言って優しく涙を拭ってくれる。
「うぅううう、皆相手してくれない!ママもナーブルお兄様もパパもヴァルキスも私のこと好きじゃないんだもん」
私の発言にびっくりした顔をしながらルーカスは私の頭を撫でながらいった。
「何をおっしゃられてるのです?皆大好きですよ。」
「だってヴェルが一番じゃないもん!」
「そう言う意味ですか・・・」
「ママはパパが一番でしょ!パパもママが一番!!ナーブルお兄様はローズだし・・・ヴァルキスは・・・」
「ヴェル皇女。別に一番じゃなくてもいいじゃないですか。皆大好きで」
「やだ。ルーカスにだって一番がいるくせに」
「何をおっしゃられる。ヴェル皇女のおっしゃる一番は私には居ませんよ。」
「うそ、ロゼリアが居るじゃない!」
「あれは、同士であって、違います」
苦笑しながらルーカスは返してきた。
「同士?だって二人は結婚してローズができたんでしょ?」
「あれは、政略結婚ですよ。ナーブル皇太子殿下の為に子を作ったのです」
「ぇ?」
ヴェルはルーカスの言った意味が分からず混乱していた。
その様子にルーカスは苦笑しながら頭を撫でた。
「皇女。人生まだ長いです、ゆっくり貴方の中の一番を探された方がいい。陛下も貴方には幸せになって欲しいからこそ、許婚を作らずに学院に通わせて、好きな人と結ばれるようにしているのですよ?今自分が一番だと思っているものも、年とともに変わるものです。」
ルーカスの言葉に、ヴェルはしょんぼりとした。
「言ってることは分かりますか?」
そういわれて小さく頷いた。
「・・・もしも、見つからなかったら?ルーカスが一番にしてくれる?」
その言葉にルーカスの手が一瞬止まったけど、また撫でながら言った。
「その時に皇女がまだ老いぼれの私を望まれていたら。」
「じゃー若いままで居てね。」
数百年後、この日に約束した言葉を後悔したのは、どっちだろう。
「美しいですよ、ヴェル」
そう囁いたのは。