後日譚
予言奇譚本編から少し後の話。
立ち直れない喜一といつも通りの藤次郎との会話。
「クダンってやつはなかなか面白い。まず予言をする」
「でもなにも起こりませんでしたね」
「そりゃそうさ。クダンは珍しい妖怪で予言を回避できる特徴を持つ」
自分のことでもないのに藤次郎は胸を張り、自慢げな口調で言った。数日前あきが死んで以来全く変わらない藤次郎が憎たらしくも、うらやましくもある。
「ただばあさんの言ってた通りクダンは予言の回避には自分の命を捧げなくちゃならない。そのうえ死後、長きにわたる苦痛が待っているとも言われる」
「ええ、そう言ってましたね。でも彼女なら耐えきれるでしょう。そう約束しましたし」
「そうだな。俺もそう思う。……ああ、そうそう。ばあさんは旅に出るらしい。すこし村の外に出て頭を冷やしたいだと」
強引に藤次郎が話題を変える。喜一への気遣いか、それともお得意の気まぐれかは分からない。
「大丈夫なんですか、それ」
「まあ以前は放浪のまじない師として名の知れた人物だったらしいから大丈夫だと思うぜ」
「へえ。……あ! そう言えば」
あわてたように喜一は衣服を探る。少しして特徴的な赤の装丁の手帳が出てきた。
「ああ、返してもらってなかったな」
「すっかり忘れてたもので。すみません」
「構わん。あと証明書で思いついた」
「何ですか?」
「お前は帰る家がない。そうだな?」
「ええ、その通りですよ。今更どうしました?」
藤次郎が何かを思いついたような顔をしている。喜一もあまり良い予感はしないが素直に返答しておく。
「お前、役人になってみないか? これ以上歯がゆい思いをしなくても良いようにこの国を少しずつ変えていくんだ。飯と宿くらいならしばらく面倒見てやる」
「……考えておきますよ」
少しあきれたように喜一が笑う。あきが死んで初めての笑みだった。
「それと愛しい人を失った先輩として一つ助言しておいてやろう」
「ぜひとも」
「別に気に病んでも構わない。ただし二回目が無いようにしろよ」
「胸に刻んでおきます」
「久しぶりに役に立ったかな、はっは」
「ええ、そうですね」
「手厳しい奴だな。本当に」
しょぼくれる藤次郎を尻目に、もう一度村の方を振り返った。あの日と同じような分厚い霧が見えるばかりだった。
長ったらしい文章でしたが読んでいただきありがとうございました。