始まりの予感
とあるラノベ募集で一次選考落ちと、玉砕をした作品のリメイクです。
まだまだ勉強中の身なので、感想、批評、意見など何でも頂けると幸いです。
春も半分が過ぎた。桜は葉桜へ、黄金なんて大層な名前の一週間は思い出を作る前に終わった。
特番の見て、ダラダラと寝そべって、おかげさまで体がだるいだるい。
そんな五月の中旬。俺は妙に息苦しい教室の真ん中にいる。
前の黒板にはでかでかと『伏線=物語!』という文字が躍っている。
勢いがあって、でも止めはねが丸く可愛らしい、謎の公式。
それを書いたであろう、ブチョウと呼ばれていた女子のことを思い出し、憂鬱な気持ちが更に鬱になった。
原因はもう一つ……
「――というように、ノベルゲームやギャルゲーといったジャンルの浸透によって、安易に『フラグが立った』ということが言われるようになったが、伏線というものは、ミステリーにおける動機付け、あるいはきな臭い心の動きをして……」
こんな淡々とした説明が、神経質そうな男の声で延々と続いているからでもある。
見れば、黒板の端、中庭側の窓のそばで陰に隠れるように佇んでいる眼鏡がいる。んな、大層な教鞭をとっているなら真ん中に来いよ。さっきから窓の方に目を向けるたび、ちらちら映るんだっつの。
卑屈で暗くて、こっちの気がなえる。
「はあ、何でこうなったんだ」
俺はがっくり項垂れた。おかしいな、日直の仕事だからって職員室に課題のノートを持っていって、そこで無粋な担任に名前を呼ばれて、うんざりとしたが、ノートを机に置いたらさっさと帰るつもりだった。
特に予定があったわけでもないが、かといって学校に居場所があるわけでもない。
入学して一ヵ月。俺は特にクラスになじんだというわけでもなかった。
新入生企画として、勉強合宿や球技大会や先輩とのレクレーションなど、さまざまなイベントで交流があったが、それに積極的になる気はなかった。気の早い奴は入学式当日から運動部に仮入部して、暑苦しく青春をフルスロットルしてるが、俺はそんな熱血キャラじゃないし。
それに何より、そういったイベント事といえば、決まって自己紹介しなければならず、俺はその瞬間が一番嫌だったのだ。入学式の後の自己紹介だって、どうやったら印象が薄くなるか考えて、結局男子どもにバカ受けされた。
もういやなんだ。からかわれるのも、同情の目で見られるのも。
「おいおい、そんな寂しそうな顔で俯いてんなって、短い高校生活なんだから、笑ってた方が得だって」
頬杖付いて、ぼんやりと雲の流れを目で追っていたら、目の前にさわやか笑顔が現れた。
びく、と椅子から後ろ向きに転げ落ちそうになった。
「あ、……え、と」「気楽にタケでいい」「……タケ先輩、いきなりなんですか?」
すると、タケ先輩、……確かやけにタケタケ並んだ名前だったはずだが、ああそうだ、畑丈盛だ。とにかく、畑先輩は親しみやすい快活とした笑みを浮かべ、隣の机に腰掛けた。
「あんたがあんまくらい顔になってるから捨て置けなくてな。一応来客だし? ほら、貴志のやつのだだっっ長い講釈聞いてるのも悪くねえぜ? よく聞いてみりゃ、するめみたいに味がでてっくっから」
あまりにもさわやかに目を細めて言い切るものだから、少し耳を傾けてみた。
……。……。………………、うん、なるほど。
よくもまあ、一つのテーマでそんな長々と、脱線も支離滅裂にもならず語れるものだ。
「な。面白いだろ。伏線ってのは、いろんな解釈ができる。妄想に妄想を膨らませた結果、一つの答えに収縮して、やられたと思えたり、逆に物足りないと思えてくるけど、膨らませた想像の分だけ物語の本質が見えてくるもんだ。個人によって完成する、それが多様な視線から眺めた物語の深さだ」
「へ、へえ……」翻訳したらそうなるのか……
そう言われて初めて、黒板に書かれた謎の公式が、ど真ん中ストレートのようなものに思えた。
『伏線=物語!』
「なら、ここって、そういった小説の中の伏線について語り合う――」
そう言いかけた時、遠くからひび割れたチャイムの音が聞こえた。
お……と、今のチャイムってもしかして終業のチャイム? 慌てて時計を見上げたら、二時三十二分を刺していた。……どう考えてもおかしい。よく見れば秒針動いてねえじゃん!
やば、だったら見回りの先生に見つかったら、入学一ヶ月目にして反省文じゃないか……? あぁでも、この人らは一応部員らしいから、その仲間って感じに解釈してくれるかも。
教師にばれて解放されたいような、このまま仲間扱いされて反省文を免れたいような、複雑な心境で廊下の方を見た。
――瞬間だった。
「皆、集まってるわねっ!!」
前側の戸が乱暴に開かれて、小さな女子が、どこかあせった表情で入ってきた。
未熟な作品にお付き合い頂きありがとうございました。