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第一章:第五節 生還

今回戦闘は一切有りません。


あと、誰か感想下さい。お願いします。

「――これが報酬のファセリナ銀貨十枚となります。ご苦労様でした。またのご利用をお待ちしております」


 依頼の報酬を受け取った統利は、ギルドを後にする。


『さて、宿に戻るか』

『あ奴らも宿に居るのか』

『そう言ってたな。――ところでメフィスト。このファセリナ銀貨、どのくらいの価値があるんだ?』


 正直、依頼の報酬として金銭をもらっても、その価値が分からないことには下手に使うことも出来ない。


『ふむ……そうだな、ファセリナ銀貨一枚で、ゴルディン銅貨百枚程度の値打ちがあるな』

『あの宿が一拍銅貨十二枚だったな……結構な大金じゃないか』


 平均的な値段の宿に一泊すると、三食付きでゴルディン銅貨十枚程掛かる。庶民の買い物にも銅貨が使われるため、 最も目にすることの多いのがゴルディン銅貨だ。

 そして、庶民が目にすることは稀だが、それでも、庶民が目にするのは一生に一度あるかないかのフォロン金貨と比べれば、比較的流通しているのがファセリナ銀貨。


 さて、統利が報酬で得たファセリナ銀貨十枚だが、これだけあれば、度合いにもよるが一月は遊んで暮らす事が出来る。下級の魔物の討伐依頼としては些か多いが、この場合依頼そのものの報酬に加えて、統利が倒したゴブリンの数に応じて加算されているため、本来の報酬より高くなっている。


『ふう、取り敢えずはそこそこの大金も手に入れたし、暫くは低ランクの依頼をこなしていくか』

『高ランクの依頼はせぬのか?』

『確かにあの力であれば問題は無いが……せめて、もう少し魔術に慣れておきたい』


 そもそも、今まで使った魔術は、その膨大な魔力に任せて無理やり発動していたところがある。如何に魔力保有量が多くとも、こうも非効率的な運用をしていれば、遠からず限界が来るだろう。魔力を効率的に扱う為の知識はあるのだ。後は慣れ問題ともいえる。

 加えて、この世界に来て創った鞭剣にもなれる必要がある。何れにせよ、経験は積んでおいたほうが後々のためにもなるだろう。


 統利は、幻魔の森からガラドヘイムに戻る間に考えていたことを、メフィストに話した。

 統利のその考えにメフィストも納得したのか、それ以上口をはさむことは無かった。


『っと、宿についたぞ』

『後はゆっくり休むが良かろう。……まあ、未だ昼過ぎではあるが』

『そんなことどうでもいいって。早く飯食って休みたい』


 統利は宿の扉を開け、そこで自分を待って居るはずのフィエナ達を探した。


「あ、トーリさん! こっちです!」


 彼女等の姿を探してあたりを見回していると、先にこちらの姿を見つけたフィエナが統利の名を呼んだ。

 統利はそれに応えながら、彼女たちが座っている席に向かった。


「あら、もう終わったの? 流石ね、トーリ君」

「まったくだぜ。あいつら弱いくせに数だけは多いからな。もう少し時間がかかると思ってたんだが、どんな手を使ったんだ?」


 統利がフィエナ達と同じテーブルにつくと、サーシャとジーンが話し掛けてきた。

 飲み物と昼食を店員に頼むと、統利は二人に返事を返した。


「流石って程でもないよ、サーシャ。あとジーン、どんな手って言われても、普通に魔術で一掃しただけだよ」


 こともなげに答えた統利に、四人--特に、サーシャとレイルが驚いた顔を向けた。


 この世界において、威力の高い魔術を使おうとするほど、一定以上の長さの詠唱と極度の集中が必要となってくる。これは、どれだけ高位の魔術師になろうとも変わらない、絶対的な法則であり、魔術師ではないもの、それこそ子供ですらも知っていることだ。

 そのため、この世界の魔術師は、いかにして詠唱速度を速めるか、いかにして周囲に注意を向けたまま精神を集中させるかに最も多くの時間をかける。この二つが出来なければ、魔力保有量や魔術の威力で圧倒的に劣る魔術師に敗北を喫することもありえるのだ。


 フィエナ達が驚いたのも、この事実に起因する。

 範囲系の魔術自体はそう珍しいことではないが、下位とはいえ魔物を一掃するほどのものであれば、大抵は上級あるいはそれに近い中級に位置する。が、別にそれ自体に驚く要素があったわけではない。


 ここで問題となるもの。それは、相手が多数のゴブリンだということに他ならない。

 何故なら、集団で一気に襲い来る魔物に包囲されている状況で、長ったらしい詠唱を唱え、極度に精神を集中させることは、困難であり自殺行為だ。事実、魔術を使わずに戦っていた統利とて、幻魔の森の空気と多数のゴブリンの気配に惑わされて、背後から近づく敵に気付くのが遅れたのだ。

 そんな状況において、自分の行動に激しく制限を掛ける事がどれほど愚かな事か、想像に易いだろう。


 無論、統利が使っている魔術は非常に特殊なため、必ずしもこれに当てはまりはしない。とはいえ、フィエナ達がそれを知るはずも無いため、ここまで驚くのも無理からぬことだ。

 統利もこの世界の魔術についてもっと詳しければ、このような不用意な発言はしなかった。だが、メフィストに魔術に関する知識を与えられていても、その時に必要な情報のみを参照していたため、この世界の魔術と自らの使う魔術との決定的な差に気づくことはなかった。


「--それが本当なら、最上位魔人と同等の実力だぞ……」


 レイルが呆然として呟く。


『……なあメフィスト。俺、何か変な事言ったか?』

『……やれやれ、事前に教えておかなかった我にも非はあるが……。諦めよ、主。既に手遅れだ』

『いや、手遅れって。お前、何を言って--』


 メフィストの言動について問いただそうとした統利に、意を決したようにフィエナが言葉を発した。


「トーリさん。少し、お話を聞いていただけますか」



§



「ランクAの討伐依頼?」


 フィエナの言った事を復唱する統利。それに対して、フィエナは頷くと話を続けた。


「はい。明朝四時、私たち四人も含めた、現在ガラドヘイムに滞在しているほぼ全ての冒険者や傭兵が参加する、幻魔の森に集結した魔物の大規模な討伐作戦が行われます」

「……」


 統利は、それに対して何も返さない。その沈黙をどうとったか、レイルが話を継いだ。


「そこでトーリ。君にも、この作戦に参加してもらいたい。危険ではあるが、その分報酬も桁が「断る」何?」


 まさかいきなり断られるとは思っていなかったのか、レイルが素っ頓狂な声を上げた。

 見れば、他の三人も統利の返答に驚いている。


「その依頼、ランクAとは言うが、限りなくランクSに近いだろ? 俺はギルドに登録したばかりだし、そこまで高ランクの依頼を請ける気はない」

「何故だ? 強制するわけではないが、君ほどの実力があれば、考えてみてもいいと思うが……」


 考えるにも値しないとでも言うように切り捨てる統利に、納得のいかないレイルは、統利を説得しようと言葉を紡ぐ。

 だが、統利はそれに耳をかそうとしない。


 平行線をたどる二人に苛立ったか、ジーン達が口をはさむ。


「ちょっと待てよ統利。確かに、ギルド登録を済ませたばかりの奴に言うべきことじゃねえけどよ……今回の敵は、マジにやべぇ。だからこそ、お前の力を貸して貰いてえんだよ」

「……」

「せめて、どうしてそこまで強く拒むのか、教えてくれない?」

「……」


 沈黙。ジーンの言葉にも、サーシャの疑問にも答えず、統利は口を閉ざす。

 統利がそれを拒む理由。統利と出会って間もないフィエナ達では、それを悟ることも、想像することも出来ない。


「トーリさん……」


 フィエナが呟く。四人の視線が統利に集まっている。

 統利は内心でため息をついた。彼女達は、理由を教えてもらえない限りは諦めようとはしないだろう。だが、統利としては、ここで諦めてもらわなければ困るのだ。


 統利は小さく息を吐き、この依頼を請けたくない理由を言葉にした。


「死にたくないんだよ」

「え?」

「だから、俺は、死にたくない」


 フィエナは僅かな時間、呆けたように動きを止め、はっとしたように言葉を発した。


「で、でも、それは誰だって同じで」

「いや、違う。本能のみで死を避けるお前達と俺とでは、根本的に異なっている」

「根本的に?」

「そうだ。俺は、動物が持つ本能のみで死を避けているわけじゃない。俺の感情が、俺の意思が、俺の細胞の一片に至るまでの全てが、俺に死ぬことを、死ぬような状況に陥ることを、許さない」


 そう宣言する統利の気迫に、フィエナ達は気圧されて何も言えない。ただその圧力の前に息を呑み、統利の次の言葉を待ちつづけるだけ。

 

 この時の統利の眼には、狂気などとは比べ物にならないほどの『意志』が宿っていた。


「あの時俺は誓ったんだ。例え世界全てを敵に回しても、例え自分以外のあらゆるを滅ぼしても、その寿命尽き果てるまで生き続けると」


 静かに語る統利。だが、その躯の内では膨大な魔力が統利の感情と共に荒れ狂い、たまに漏れ出るそれは、フィエナ達の心に統利のさがを刻み付ける。


 確かに、今の統利であれば大した危険も無いだろう。魔術の使用にも多少は慣れたし、メフィストのサポートもあるのだ、早々簡単にやられはし無い。

 だが、全く危険が無いわけではない。そもそも、雑魚でしかないゴブリンにすら、油断のため危うく命を奪われるところだった。同じ徹を踏む気は無いが、それでもゴブリン討伐依頼などとはかけ離れて危険であることには変わりない。だからこそ、統利は次は低ランクの依頼を請けようと思っていたのだ。


 統利は、これ以上言うことは無いと席を立ち、部屋へと戻っていった。



Side フィエナ



 トーリさんが部屋に行ってしまった。まさか、こんなことになるなんて。


「今の魔力、『万色』並みじゃねえか--! 今まで魔力をかけらも漏らさなかったトーリが、制御を手放すたぁな」

「すごい威圧感ね、トーリ君。過去に何があったのかしら?」

「あの様子では教えてもらえそうにないな。まあ、確かにギルドに登録したばかりでこの依頼に参加しろというのも、非常識ではあるか」


 レオンの言葉に、トーリさんを誘おうと提案したジーンがうな垂れる。とはいえ、それに賛成したのはわたしたちな訳だし、ジーンを責めることも出来ないのだけど。

 それに、今更後悔したってトーリさんが怒ったのをなかったことには出来ない。お姉ちゃんの事で恩もある人を無理に巻き込もうとは思わないし、別にトーリさんに断られたのはどうでも良いんだけど、怒らせてしまったのはやっぱり気になる。


 嫌われちゃったかな。せっかく仲良く慣れたと思ったのに……どうしよう……。


「ん? どうしたの、フィエナ」


 サーシャが話し掛けてくる。どうやら、落ち込んでいたのが顔に出てしまったみたい。


「……トーリさんに嫌われちゃったのかな」

「何だ、そんなこと? 大丈夫よ、きっと。トーリ君だってつい感情的になっちゃったけど、きっとまた元通り接してくれるわよ」


 サーシャはそう慰めてくれるけど、その顔を見れば本心からそう思っているわけではないことが分かる。

 大体、あそこまで感情的になったのだから、生きるっていうのはそれだけトーリさんにとって大事なことなんだと思う。なら、そう簡単に心が落ち着くとも思えない。


 サーシャもわたしがそう思っていることを察したのか、一度ため息をついてわたしを慰めるのを諦める。


「ところでジーン。あなた、ガラドヘイムに来てから新しい技の練習をしてたみたいだけど、上手くいったの?」

「あ、ああ。何とか実戦で使えるようにはなったぜ。まだまだ改良点はあるがな」

「そう。なら、明日の戦いで見るのが楽しみね。そういえば--」


 あからさまに話題を変えたサーシャだけど、この件に関して何か出来るわけでもないので、仕方がないといえば仕方がない。

 レイルも、そんな二人を一瞥して、さっきのトーリさんの魔力を感じて集まってきた人たちの対応に行った。

 わたしも、トーリさんの事を意識の片隅におきながら、サーシャとジーンの会話に加わった。


 明日が終わった後に、再びトーリさんと話せる事を願いながら。



Side メフィスト



 統利が無言で部屋に入っていく。一階の食堂から此処まで、我が幾ら話し掛けようとも、一言もそれに返そうとはしない。


 あの四人に怒っている、のとは違うのだろう。寧ろ、怒っているとすれば自分にではないだろうか。

 この男、生への執着は強いが、どこか気に入った者には甘い部分がある。なまじ生への執着が強いせいだろう、死地においても生きようとする者には近親感を抱くのか。

 あ奴らとて、死にに行く訳ではないのだからな。


 ただ、今のこやつから感じるのは、怒りと言うよりも嫌悪の方が強い。別段あ奴らに対して負の感情を抱いている様子もない。恐らく、自己嫌悪の類であろうな。

 もう少し、魔術に慣れていればよかったのかも知れぬが……。仕方あるまい、何時までも不機嫌でいられても困る。ここは我が一肌脱ぐとするか。


『良かったのか? 主よ』

『……何がだ?』

『あの話を断った事だ。あ奴ら、死ぬぞ』


 エレナとか言ったか、あのトロールと戦って死んだ小娘とそう実力差があるとは思えん。流石にあれほどの魔物ばかりではないだろうが、それでも生き残るのは困難であろう。


『あ奴らが何故あの依頼を請けたかは知らぬが、少なくとも死ぬためではあるまい』

『…………』

『主は、生きるために戦う者を見殺しにするのか? 昨夜主が言っていたこととは間逆ではないか』


 心が揺らいだか。もう一押しだな。


『主があの依頼を請けるならば、我も少しは手伝ってやろうぞ。ならば、死にはすまい』

『…………』

『主よ』

『……依頼は請けない。既に決めたことだ』


 駄目か、強情な奴よ。そこまで強く、生に縛り付けられておるのか。

 僅かな不安ですら避けようとするのは、先の戦いが原因であろうな。


 この世界に来た時のトロール戦では、苦戦はしたものの死に瀕することはなかった。だが、ゴブリン戦では油断して危うく首を落とされるところであったからな、殺し合いに対する怯えが出たか。

 しかし、依頼をこなして生きていこうとするのであれば、殺し合いは避けられぬ。我が楽しむためにも、ここはやる気になってもらわねばならぬが--これ以上何を言っても無駄か。こやつの気が変わることを祈るしかあるまい。



Side 統利



 メフィストが言っている事。確かに図星だが、俺には明日の討伐に参加する気はない。いや、さっきのゴブリン討伐依頼を請ける前であれば、恐らく参加していただろう。

 だが、死んだ事と異世界へ跳んだ事で一時的に麻痺していた、あの時感じた死の恐怖が、ゴブリンとの戦いでフラッシュバックしてしまった。


 トロールとの戦いでは、強敵だったものの結局傷1つなく倒す事が出来たが、ゴブリンとの戦いでは、トロールを倒したという自信と相手が雑魚だという油断のために、刹那遅れれば首を落とされるという事態を招いてしまった。

 その時感じた恐怖が、俺が生に執着するようになった原因を再び呼び覚ました。

 だから、少なくとも今は死の危険の高い依頼を請けるつもりはない。例え、この世界に来て始めて知り合ったあの四人を見殺しにする事になったとしても。


 ああ、嫌だ。自分に嫌悪感を抱いてしまう。

 彼女たちだって、死ぬために戦う訳じゃない。そんな事は分かっている。でも、それでも、彼女たちを助けるよりも、自分の死の危険を回避しようとしてしまう。……彼女たちを助けるに足る力があるというのに。


 だけど、どうしようもないじゃないか。今の俺では、その危険をゼロにする事は出来ない。そして、死ぬ危険があるのに、俺はそこに飛び込んでいくことは出来ないんだから。

 そうだ、仕方ない。彼女たちは運が悪かったんだ。だから、俺が危険を冒す必要は何処にもないんだ。そうに違いない--



Side Out



 かくして時は夜となり、彼らはそれぞれの想いを抱えたまま、一時の安らぎに身を委ねる。


 次なる覚醒が、彼らにとっての人生の岐路となる事にも気付かず--。




To be continued

 更新が遅いのは悪ではない!


 更新しないことこそが悪なのだ!



 皆さんご無沙汰しております。鬼柳堂です。


 しかし、主人公がへたれましたね。と言うか、部屋に戻ってから性格がかわってるような気がします。

 まあ、人間なんてこんなものですよ。


 ああ、何か段々更新速度が落ちてる……。

 次回も遅くなると思いますが、見捨てないで下さい。お願いします。



 では、また次話にてお会いしましょう。

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