第一章:第四節 依頼
幻魔の森の木々の影から、子供ほどの大きさの、人に似た姿の魔物が数体現れた。
その魔物――小鬼――は、キイ、キイ、と声をあげながら統利を取り囲んでいく。
統利は、右手に持った長剣を構えることもせず、ただただ静かに、そして無感情に小鬼たちの行動を眺めていた。
「クキイイイ!」
リーダーなのか、ゴブリンの中の一匹が叫ぶと、統利を取り囲んでいた他のゴブリンが統利に向かって、一斉に飛びかかってきた。
『やれやれ、身の程を知らぬ愚か者共め。……主よ、少し思い知らせてやるがよい』
「言われるまでもない。……形態弍:鞭剣」
囁くと共に、右手の長剣に魔力が注がれていく。
「秘剣・暴蛇」
統利が静かに鞭剣を振るうと、鞭状に展開した刀身がゴブリンたちの体を寸断していく。恐らく、自分の身に何が起こったかも分からず、その命を散らした事だろう。
それ程鋭く、また一切の容赦の無い剣だった。
反す二の太刀で、号令を放ったゴブリンの首が宙を舞った。
「これで――未だ出てくるのか……」
終りだ、と言いかけた統利を遮るように、再び複数の魔物が現れる。種族は先程と同じく、小鬼。
先程から同じことの繰り返しだ。これで二十体を数えただろうか。
街で請けた依頼は、最近ガラドヘイム周辺に出没する、ゴブリンの集団の討伐だった。
本来集団であっても、そこそこの実力を持った戦士ならば、なんの問題なく倒せる。それがゴブリンというものだと聞いた。だからこそこの依頼を請けたのだ。
ただ一つの誤算、それは――
『異様に数が多いこと、か』
「全く、何処から湧いて出てくるんだ」
そう、問題はその数だ。倒しても倒しても、何処からともなく現れてくる。
何処から出てくるのか分からないため、ゴブリンの住みかを魔術で吹き飛ばすことも出来ない。
(やれやれ、依頼を請けたときは、楽な仕事だと思ったんだけど……)
それは、数時間前に遡る――
§
陽光が窓から統利に降り注ぐ。もう、朝だ。
「――ん……」
統利は、眩しそうに手を翳しながら、ゆっくりと体を起こした。
『起きたか、主よ』
「メフィスト? ――ああ、そう言えば、ここは異世界だったな」
忘れてたよ、と苦笑する統利。その声には、どこか悲しげな、失望したかのような響きがあった。
生への執着が強い統利の事だ。これ迄の全ては夢だったと、違うとわかっていても、そう思わずに入られなかったのだろう。
だからこそ、その夢想が打ち破られ、失望を隠しきれなかった。
『……大丈夫か、主よ』
「問題ない、例え一度死んだとしても、今俺は生きている。なら、次は死なないよう精々足掻くさ」
『ふん、ならば良い。――ところで、あの小娘共がここに向かってきておるぞ』
「フィエナ達が?」
そう言えば、昨日別れる前に「明日の朝に部屋に伺います」と言っていた。統利がギルドに登録するのを、手伝ってくれるそうだ。
統利はベッドから降り、上着を着て来客に備えた。
『主よ、今の内に伝えておくが、今後我と会話するときはその内容を思い浮かべるだけで良い。いちいち口に出していては不便であろう』
「思い浮かべる……」
『こうか?』
『問題ない、以後はそうしろ』
分かった、と統利が返事すると同時に、部屋の扉がノックされた。
「フィエナです。トーリさん、起きていらっしゃいますか?」
「ああ、今開ける」
扉を開けると、フィエナ達四人が立っていた。
「おはようございます。トーリさん」
「おはよう、トーリ」
「よう! トーリ」
「お早う、トーリ君」
「おはよう」
挨拶を返しながら、フィエナ達を部屋に招き入れる。
全員が部屋に備え付けられている机につくと、フィエナが口を開いた。
「まず、改めて昨日のお礼を申し上げます。ありがとうございました」
「良いって、宿も取って貰ったし」
「いえ、姉をちゃんと葬ってあげることが出来たのは、トーリさんのお陰です。何度でもお礼を言わせてください」
そう言って頭を下げるフィエナ。
統利は困ったように頭をかきながら、フィエナに頭を上げるよう促す。
エレナの遺体は、統利を含む今この場にいる五人だけで簡単な葬儀を執り行ったあと、この町の教会の墓地に葬られた。
そのときのフィエナの悲しみようを見ると、宿を取ってもらった上にここまで感謝されることが心苦しくなる。
彼女の姉を、助けることが出来無かったことが。
そんな統利の心情に気づいてか、レイルがフィエナに話しかけた。
「フィエナ、トーリも困っている。それに、今日ここに来たのはトーリをギルドに登録するためだろう」
「そ、そうでした。すみませんトーリさん。それでは本題に入らせていただきます」
すっかり忘れていたのか、レイルの言葉に慌てて頭を上げるフィエナ。
端から見ていれば微笑ましい限りだが、本題に入ると言うことは、統利のギルド登録について話し合うということ。正直、あまり和んでもいられない。
何せ、今の統利は無職の上に完全な一文無し。
如何に腕が立とうと、仕事にありつけなければ金を得ることは出来ない。金がなければ、生きていくのは不可能、とは言わないが、困難だ。
ならば、統利にとってそれは、何よりも優先して解決しなければならない事案に他ならない。
『ギルドの依頼も相応に危険だが……』
『お前の魔術があれば、たいして危険でも無いだろう。ヤバそうなのは避ければいいし』
『……まあ、良いが』
「――あの、トーリさん?」
「ん? ああ、ごめん。それで、ギルドの登録だったな。どうすればいいんだ?」
メフィストとの念話に向けていた注意を、再びフィエナ達に戻す。
「ここで説明してもいいんですけど、実際にギルドに行った方が早いと思うので……」
「分かった、案内してくれ」
統利にしても、ここで長々と説明を聞いているよりは、ギルドに行ってから説明を聞いた方が分かりやすいだろうと思う。
「よーし。んじゃあ、早速行こうぜ!」
統利がフィエナに同意すると、ジーンが大声をあげて立ち上がった。
統利は思わず耳を塞ぐ。
「朝っぱらから五月蝿いわね。静かにしてくれる?」
「す、すまん……」
サーシャに怒鳴られるジーン。それを呆れたように眺めるレイルと、「あはは……」と苦笑いするフィエナ。
このパーティーのヒエラルキーが分かったような気がする。
「……騒いでないで行くぞ。トーリ、フィエナ。時間の無駄だ」
「はい。行きましょう、トーリさん」
「ああ」
騒いでいるジーンとサーシャをよそに、部屋を出る統利達三人。
「ちょっ、置いてくなって!」
「あんたは黙ってなさい!」
部屋のなかで、二人が騒いでいるのが聞こえる。
『やれやれ……賑やかな連中よ』
§
ガラドヘイムの市街地は、冒険者達のお陰で、辺境にあるとは思えないほどに賑わっている。
そして、その市街地の一番街に、冒険者ギルドは存在した。
「へぇ……ここが冒険者ギルド?」
統利の目の前には、辺境にはふさわしくない、大きな酒場がそびえ立っていた。
高さは地球の現代建築物と比べれば、さほど大したことはない――それでも、中世相当のこの時代では、十分驚嘆に値する――が、その酒場の建っている敷地がまた広い。少なくとも、辺境の街にたてようと思う大きさではない。
出入りしているのも、一般人とは違う、明らかに冒険者や傭兵の類いと分かる姿をしている者達だ。
「すげえだろ? これくらいの規模のギルドは、大都市にもそうそう無いぜ」
「幻魔の森に隣接しているお陰で、冒険者や傭兵が腕試しや金稼ぎに来るのが理由ね」
確かに、街中にもそういった人種が多く見受けられる。
「さあ、行きましょう。先ずはトーリさんの登録です」
フィエナの言葉と共に、一行は酒場を兼業する冒険者ギルドへと入っていった。
「あの……すみません、ギルドへの登録をしたいのですが――」
フィエナが、酒場のカウンターに居る店員に話しかけている間「しばらく待っていて」と言われた統利は、手持ち無沙汰に酒場を見渡していた。
広い室内に無数に置かれたテーブルでは、今しがた戦闘してきました、といった雰囲気の戦士達が酒をのみ交わしている。
今が朝といっても差し支えない時間帯であることを考えると、彼らは夜中に稼ぎに出ていたことになる。
『単に朝から酒が飲みたかっただけではないのか?』
『これから同業者になるのが、そんな連中ばかりだとは思いたく無いな』
正直な話、ギルド登録を止めようかとまで思ってしまう。
統利がどうしようかと半ば本気で考えていると、その様子を見たレイルが話しかけてきた。
「どうした? トーリ」
「いや……冒険者や傭兵にとって、朝っぱらから酒を飲むのは当たり前なのか、と疑問に思って」
「ああ、彼等は今朝ガラドヘイムに着いたばかりなんだろう」
「……此れだけの人数がか?」
ガラドヘイム中の冒険者・傭兵が集まっているかのような数がここに居る。其れが、今朝ガラドヘイムに着いたばかりだとは……。
「さすがに全員ではないが、少なくともここに居る殆どはそうだ」
「つっても、昨日まで居た奴等の半数は、もうガラドヘイムを出ただろうがな。結構そういった職業の人間の移り変わりが激しいんだよ、ここは」
レイルの説明に補足を入れるジーン。
どちらにしろ、驚くべきことには変わり無いが。
「トーリさん! ギルド登録できるそうです!」
「あら、お姫様が呼んでるわよ。行きましょ、トーリ君」
「ん? ああ」
フィエナに呼ばれてカウンターに行くと、何か文字の書かれた用紙を手渡された。
「これに名前を記入して下さい。詳しくはこれに書いてありますので」
と言われ、用紙を覗き込むと、其処には見慣れない文字が書かれていた。
『……まあ、当然か。異世界なんだし。寧ろ、何で言葉が通じていたんだ?』
『今更それを聞くのか? ……言葉が通じていたのは、我がそのようにしたからだが――暫し待て、文字も分かるようにしてやろう』
徐々に、用紙に書かれている文字が理解できるようになっていく。
『――良いぞ。此れで、如何なる文字も理解し使いこなせよう』
『有難い』
今度ははっきりと理解できるようになった文字を、統利は読み進めていく。
用紙に書いてあるのは、ギルド使用時の注意事項。そして、ギルド登録に必要な名前の記入欄。
意外に思ったのが、名前以外の個人情報は嫌ならば特に記入しなくても良いらしい。自分の事を詮索されたくない者が多いのだろうか。
「っと、此れで良いか?」
用紙に名前を書き、カウンターの店員もといギルド員に手渡す。
「はい……トーリ・シジョウ様ですね。ギルド証を発行しますので、少々お待ちください」
ギルド員がカウンターの奥に引っ込む。
少しの時間の後戻ってきたギルド員は、お待たせしました、と言いながら統利に銀で出来たカードを渡す。
「これがギルド証です。貴方はトロールを既に倒されているので、Bランクからとなります。依頼はギルドのカウンターにて請けることが出来ます。他に何かご質問はおありですか?」
「いや、無い」
「では、依頼を請けられますか? 現在トーリ様が請けることの可能な依頼は、Aランクまでとなっています」
「どんなのがあるんだ?」
統利の前に、Aランクまでの依頼書が置かれた。
フィエナ達が統利の横から、それを覗き込む。
依頼書の数はDランクが4、Cランクが3、Bランクが2、Aランクが1の計十枚。
「やっぱり、Dランクは素材集めね」
「せっかくギルドランクがBなんですから、この二つのどちらかにしてはどうですか?」
そう言ってフィエナは、依頼書の中からBランクの二枚を取り出した。
一つは近隣の街までの護衛任務。
もう一つは、幻魔の森に出没するゴブリンの討伐だ。
統利は、その二枚の依頼書の内、ゴブリン討伐の方を手に取った。
「お、それにするのか?」
「ああ……来たばかりで、他の街への護衛任務もないだろ。大体金もないしな」
報酬の支払いは、基本的に後払いらしい。なら、文無しの今は、少しでも早く終わりそうな方を選んだほうがいい。
「成る程な。で、俺たちはどうする、フィエナ?」
「えと……どうしよう?」
可愛らしく小首を傾げるフィエナ。
パーティーのリーダーだったエレナが死んだ今、次のリーダーは彼女になるらしいが――正直大丈夫なのだろうか。まあ、実際にはレイルが補佐という形で代行するのだろうが。
そんなフィエナに、サーシャが呆れながら答えた。
「もう! 「どうしよう?」じゃないでしょう。仮にもリーダーならしっかりしなさい!」
「落ち着けサーシャ。取り敢えず――」
これからの方針を相談し始めたフィエナ達をよそに、統利は依頼を請ける手続きを進める。
「取り敢えず此れを」
「はい。……ランクB『ゴブリン討伐』ですね。それでは、ギルド証をお貸し下さい」
言われた通りギルド証を渡すと、受け取ったギルド員は手元の小さな台にギルド証をのせ、台に付いている水晶に魔力を注いだ。
台から淡い光が発せられ、その光がギルド証に移っていく。
『魔力を使い、情報を刻印しておるのか……』
『凄いのか? それ』
『其奴が使っておる魔導具、其れが非常に珍しいのだ。本来なら、魔力を此のようには使わぬ』
魔導具――魔を導くという名の通り、特定、或いは不特定の魔術の発動を助長する。中には、存在そのものが魔術となっている魔導具や、魔術には存在しない現象を起こす魔導具もある。
ギルドで使っている魔導具も、後者の物なのだろう。
刻印が終わったのか、ギルド証と魔導具から光が消えていく。
「これで、トーリ様の請けられた依頼の情報が、ギルド証に刻まれました。これは依頼完了、もしくはトーリ様が依頼を放棄なさるまで消えることはありません」
ギルド員は、そこで一度言葉を切り、ですが、と続けた。
「あまりにも長期に渡り依頼遂行に進展が見られなかったり、幾度も依頼放棄を繰り返した場合は、一部の依頼の受領不可や、ギルドが提供するサービスが受けれなくなるなどのペナルティが課せられますので、ご了承下さい」
それはギルドの信用にも関わる事。
だからこそ、貴重な魔導具を使ってでも、依頼遂行状況を把握しているのか。
統利は、ギルド証を受け取りながらギルド員に頷き、了解の意を示した。
「それでは、御健闘をお祈りします」
「有難う。――さて、向こうも話が纏まったか」
フィエナ達も話し合いが終わったようで、トーリの方へ歩いてきた。
「それで? あんた達はどうするんだ」
「ああ、我々も暫くここに滞在する事にした。ここに来た目的も、未だ達成出来てはいないからな」
「お前はこれから幻魔の森に行くんだろ? 戻ってきたら、宿で一杯やろうぜ」
コップを傾ける仕草をするジーンに苦笑を返し、ギルド登録を手伝ってくれた事への感謝を述べる。
畏縮するフィエナをからかうサーシャ達を後に、統利はギルドを出た。
「さて、さっさと終わらせて宿に戻るか」
§
あの後、幻魔の森に入った統利は、集団のゴブリンを発見し、攻撃を仕掛けた。
そして、その場にいたゴブリンを全滅させ、ガラドヘイムへ戻ろうとその場に背を向けた途端、再びゴブリンが現れ、今に至る。
統利は思考を現在に戻す。
(フッ、現実から目を逸らしていても仕方ないな。――しかしこいつら、数の多さも異様だが、それ以上に何故手も足も出ない相手に挑む? 丁度良い練習台だと思っていたが、こいつは――)
『主よ!』
背後から殺気。油断していたのか、思考に没頭していて気づくのが遅れた。
「ちっ!」
咄嗟に左前に身を倒しつつ、剣を振るう。同時、首筋に鋭い痛み。
――斬られた。
首筋に手を当てると、ドロリとした感触。避けるのが刹那遅れていたら、間違いなく首を切り落とされていただろう。
『主よ、如何に相手が雑魚と云えど、あれほどに油断していては――』
「煩い」
『主?』
説教を始めたメフィストを遮り、統利はユラリと立ち上がる。
「慣れない武器の練習台にと遊んでやれば、そうか……そんなに俺の命を奪いたいか。なら――」
統利が顔を上げる。その目に浮かぶは、憤怒。
「奪えるものなら、奪って見せろ――!」
絶大な魔力が、統利から噴出される。
その魔力に呼ばれ、頭上の晴天に雷雲が立ち込める。
『主! 少し待て――』
「堕ちろ! 【鳴神いぃぃ】!」
瞬間、天が轟き、目を焼かんばかりの光が、地上に降り注ぐ。
実際は数秒ほどだっただろうか、その何十倍にも感じられる時が過ぎ、森は再び元の静寂さを取り戻した。
辺りを覆っていた煙を、風が吹き散らす。
中から現れたのは、統利ただ一人。並みいたゴブリン達は、一匹残らず森ごと豪雷に薙ぎ払われ、その身を砕かれている。
『……主の特定の行動に対する沸点は、些か低すぎはせぬか?』
それには答えず、統利は荒く息を吐く。
かなり無理に魔術を展開したせいか、魔力残量に比べて、不自然なほどに疲労している。
『主よ、魔物共も一掃したのだ。此処は一先ず――む?』
粉塵が晴れ、先程までは木々が生い茂っていた場所に、魔力を放つ扉のようなものが建っていた。
否、それは初めから存在していたのだろう。木々に遮られていたというだけで。
言葉を切り、沈黙したメフィストからは、それを観察するような気配が感じられる。
『……ふむ、成る程……あれが原因か』
「どういうことだ。見たところ扉に見えるが、あれから小鬼共が出てきたということか?」
『その様だ。でかしたぞ、主が怒りに我を忘れて周囲を焦土としたため、あれが出てきたのだ。さもなくば、見つけられなかったやも知れん。中々巧妙に隠されておったようだからな』
魔術で隠蔽でもしてあったのだろう扉はしかし、傷一つ無く、魔力を放ち続けている。
ゴブリンが出てこないのは、あの攻撃で不具合が生じたからか、それとも出てくるべきゴブリンが居ないからか。
「兎に角、あの――魔導具か? あれを何とかすれば、依頼も達成できるんだろ?」
『転送門と言う。だが、あれは開けた術者にしか閉じられぬ』
「俺でもか?」
『然り。今の主では難しかろう』
「そうか……」
再び、統利から魔力が溢れ出す。唯一つ先程と違うのは、その魔力が完全に制御され、綿密に練り込まれているということ。
「なら、壊してしまえば良い」
底冷えしそうな声。
『主よ、未だ怒っておるのか』
「俺を殺そうとしたんだ。あれくらいで済ませられる筈無いだろ?」
『半分は自業自得だと思うが……』
統利は聞く耳持たず、魔力を右手の先に集めていく。
やがて、右手に集められた魔力が、混沌とした色合いの光球を形作る。
「さっきの攻撃には耐えられたかもしれないが、此れを受けても、同じように耐える事が出来るかな?」
その光球を更に圧縮し、馬鹿げたほどの魔力を集めた魔術が完成する。
それは静かに、だが圧倒的な威力を秘めたまま、攻撃の時を待つ。
「さあ、万物に滅びをもたらせ。【破滅の恒星】!」
打ち出された光球は、高速で直進し、転送門に直撃する。
半秒ほどの均衡の後、光球が数十倍にも膨れ上がり、周囲の物を飲み込みながら再び縮小。そしてその一瞬後、内に秘めた膨大な魔力を、破壊に変えて解き放つ。
音よりも早く、衝撃が訪れた。
破壊は、焼け焦げ砕かれた木々も、元の面影無く粉砕されたゴブリンの死体も、あらゆる物を飲み込んでいく。
魔力で壁を作っておかなければ、統利冴えも例外ではなかっただろう。
『先程といい、今といい、無茶をする男だ。だが、此れで原因は取り除かれたか』
転送門があった場所から円形に、統利を除くあらゆる全てが消滅し、地面も一センチの高低差も無い程、平らに均されている。
『さて、気はすんだか?』
「ああ、スッキリしたよ」
『次からは油断はせぬことだな。死にたくなくば』
「そうするよ。――ふう、流石に疲れた。早く宿に戻って休もう」
今度は、何者にも邪魔されること無く、統利はガラドヘイムへ足を向けた。
Side unknown
ガラドヘイムから遠く離れた街、エルバンド。その高級住宅街にある一軒の屋敷の中庭で、フードを被った一人の人影が、噴水を覗き込んでいた。
フードで顔の部分が影になり、口元のみが覗いている。性別はわからない。
そのまま暫く時間がたち、噴水の中に何を見つけたか、ふと笑みを浮かべる人影。
「へえ、あの門を破壊するのか。凄いな」
紡ぎ出された中性的な声は、誰の耳にも届くこと無く、虚空へと消えていった。
「これは、近い内に此方から挨拶をしなくてはいけないな」
そして、人影は暫く愉しそうに笑った後、再び噴水に目を落とす。
陽光を照らし返し、フードの人影のみが映る水面に、上空を横切った白い鳥が、一つの羽根を落としていった。
TO be continued
後書きの前に、前話後書きにて予告していた2週間を、大きく過ぎてしまったこと、この場をお借りして謝罪いたします。
申し訳ありませんでした。
一応理由はあるのですが、何を言っても言い訳にしかならないかと思いますので、割愛させていただきます。
ここからが後書きです。
え~、予定を大幅に過ぎてしまったこともあり、展開が強引ですが見逃してください。
さて、最後の方に怪しげな人物が登場しましたが、暫く出てこないかもしれません。
まあ、私の予告何ざあてにはならないわけですが。
最後に、次回更新ですが――いつになるかはわかりません。予定は未定です。
と、言いますか、また遅くなるのが嫌なので、そういうことにしておきます。
それでは、また次話にてお会いできますことを。
追記・感想お待ちしております。




