表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

第一章:第三節 戦闘

漸く更新致しました。

第二節の二倍ほどあります。

「な……!!」


 統利は、驚きながらも慌てて足を止める。危うく、あれの目の前に飛び出してしまうところだった。

 統利がいる場所は、ちょうど巨人の死角になっているため、まだ見つかってはいないようだ。


「どういうことだ。あんなのが居るなんて、聞いてないぞ……!」


 小声でメフィストに抗議するが、全く動じた様子もなくメフィストは答えた。


『巨人とて、人型の魔物であろうが。我はどんな魔物が居るかなど、聞かれてはおらぬぞ』


 確かに、統利もそこまでは聞いてはいない。だが、まさか巨人が出てくるとは……精々が、ゴブリンかオークぐらいだろうと思っていた。


「次からは、魔物の種類まで報告しろ」

『よかろう……それで、あやつはどうするのだ?』


 出来れば逃げ出したいところだが、距離が微妙だ。もし逃げようとして音をたてれば、確実に気付かれるだろう。

 なら、音をたてずに逃げれば良いのだが、統利の周囲には無数の枝や枯れ葉が落ちている。むしろ、ここに来たときに気づかれなかったことが奇跡だ。


「逃げるのは難しいとなると、戦うしかないか……メフィスト、勝てると思うか?」

『其れは主次第だが、実力的には問題ない。後は、主が気圧されずに済むかどうかだ』


 そればかりは自信がない。統利とてメフィスト契約するまでは、只の十七の高校生だったのだ。いかに武術を修めようと、実際に命をかけた死闘は経験がない。


「なのに、初めての死闘の相手があれか……」


 巨人に気づかれないように、小さく嘆息する。


(仕方ない、今さら逃げるのも無理だ。なら……せめて、やられる前に)


 剣を脇に構え、意識を巨人に集中させる。

 周りの雑多な景色を意識から閉め出し、


「殺るか」


一息に樹の影から飛び出した。


 二歩目でトップスピードに乗り、一気に間合いを詰める。最早巨人に気付かれようにとも構わない。


 統利から溢れる殺気に気付いたのか、巨人が緩慢な動きで振り返ろうとする。 だが、


(遅い!)


 巨人が防御や迎撃の体勢をとる前に、統利の剣の間合いに入る。


「はっ!」


 短く息を吐き呼吸を整え、すれ違いざまに巨人の胴を斬り上げる。


 ガキィィン!


「ぐっ!?」


 必殺の思いと共に、巨人の胴に吸い込まれていった斬撃は、しかし統利の思いに反して、音を立てて弾かれた。


「くそっ!」


 斬りつけた勢いのまま、統利が前方に身を投げると、寸前まで体のあった場所に、巨人の大木の様な腕が振り降ろされた。

 避けるのが半秒でも遅れていれば、今頃統利の体は粉々になっていただろう。


(剣が通じない? どういう事だ)

『一つ、言い忘れていたが、巨人の皮膚は大量の魔力が染み込んでいるせいで、鋼よりも硬い。気を付けよ』


「遅いよ!」


 メフィストに抗議しながらも、統利は巨人から目が離せない。

 巨人の動きに注意しているから、ではない。それもあるが、統利が巨人から目を離せないのは、その威圧感に圧倒されていたから。


 体がすくむ。森に隠れて様子を窺っていたときとは、とても比べ物になら無い程のそれに、統利は既に呑まれかけていた。


『主、避けよ!』


 メフィストの声に、はっとして我を取り戻す統利。その目の前には、巨人の石斧が迫っていた。

 最早回避は間に合わない。


 ガガッ!


 巨人の石斧が、統利の剣を音を立てながら滑っていく。


(ぐっ、完全に受け流したのに、腕が……!)


 受け流してこれだ、まともに喰らったら、文字通り押し潰されてしまうだろう。


 巨人の追撃が来る前に、急いで飛び退き、剣を構える。

 巨人も石斧を構え直し、再び睨み合うような状況になる。


(さて、どうするか)


 まず、まともに斬り合うことはできない。身体能力が上がっている今でさえ、目の前の巨人とは圧倒的な力の開きがある。まともに斬り合おうとしたところで、一方的にダメージを食らうだけだ。

 さらに悪いことにこの巨人、思いの外動きが早い。鈍重そうな見た目に反し、かなり俊敏に動く。


『気を付けよ、あやつの攻撃が掠りでもすれば、人間などひとたまりもなかろう』

「そんなこといったって、あの速度だ、いつまでも避け続けられないぞ」

『ならば、一撃で決めればよかろう。相手に攻撃の隙を与えねば、避ける必要はあるまい』


 簡単に言ってくれる。それが出来ないから、今こうして悩んでいるというのに。


「グガアアァ!」


 どう戦ったものかと悩んでいると、巨人が吼声を上げ、統利に向かって斬りかかってくる。

 真一文字に振られた石斧をしゃがんで避け、振りきられた巨人の腕を斬りつける。

 が、巨人の皮膚に傷一つ付けることなく、剣は弾き返され、統利破体勢を崩した。


「しまっ――!」 そこへ、巨人の石斧が襲い掛かってくる。

 辛うじて剣で受け止めるが、勢いを殺せずに吹き飛ばされ、背中から樹に叩きつけられた。


「がはっ!」


 衝撃と激痛で息か詰まり、一瞬視界が白に染まる。もしかしたら、骨に罅くらい入ったかもしれない。


 荒く息を吐きながら、樹に手をついて立ち上がる。


『主、魔術を使え。剣を強化すれば、あやつにもダメージを与えれよう』

「魔術か……なれない技を実戦で使いたくはなかったが……」


 ここで躊躇っていても、あの巨人にあっという間に肉塊に変えられるだろう。やらねば、あるのは死だけだ。


 統利は、敵を目前にしながらも、目を瞑った。

 本来なら、自殺行為以外のなにものでもないが、ここで焦って不完全な魔術で戦っても、返り討ちになるだけ。ならば、危険でも意識を集中して、完全な魔術を使う方が良い。


 まあ、それを言うなら、慣れないなどと言ってないで、最初から使っていればよかったのだが。


(取り敢えず、剣の切れ味を強化して……後は……)


 自分の中の魔力を探り、それを手に持つ剣に流し込む。


 そんな統利に隙を見たか、巨人が斬りかかってくるのが気配で感じ取れた。

 統利と巨人の間の距離は、凡そ八十、巨人の体躯ならば数歩で渡れるだろう。


 徐々に、だが恐るべき早さで迫ってくる死を感じながら、統利の心は不思議と落ち着いていた。

 何故か、自分がこの戦いで死ぬことはないだろうと思える。それが契約で得た力ゆえか、メフィストが統利の精神に干渉したのかは分からない。只、統利は自分の生のみを確信していた。


「グォオオォオオ!」


 目を瞑り、微動だにしない統利の頭上に、死が振りおろされる。



Side ???



 その巨人は困惑していた。訳が分からない。

 巨人は『強者』の筈だった。己以外の存在は、巨人の気まぐれで命を落とす、巨人に生を弄ばれるだけの『弱者』で、それは今目の前にいるこの人間も同じだと思っていた。

 だというのに、何故このような状況になっているのだ。



 その日巨人は、人間の雌と戦っていた。巨人が森を歩いていると、行きなり襲いかかってきたのだ。

 人間にしては強かったが、それでも巨人の敵ではなく、すぐに動かなくなった。


 それからねぐらに帰ろうと、背後の森に振り向きかけた時、今度は人間の雄が襲い掛かってきた。

 その雄は、さっき殺した雌よりもしぶとかったが、とうとう諦めたのか、なんの抵抗もしようともせずに、あろうことか目を瞑った。

 獲物がなんの抵抗もしなくなったことに、少しがっかりしたが、次の瞬間には殺戮への歓喜がわいてきた。


 巨人は一気に距離を詰め、なんの抵抗も示さなくなった獲物に、右腕の石斧を振り下ろした。

 何時ものように、獲物の無惨な死体が出来ることを疑わずに。


 何が起こったか分からない。どうして目の前の獲物は、全くの無傷なのか、いや、そんなことよりも、どうして石斧を持っていた腕が、半ばからなくなっているのか。


 困惑と混乱の中、巨人は目の前の獲物の声を聞いた。



Side 統利



 ザシュッ!


 生々しい音が響き、巨人の腕が宙を舞う。

 ギリギリで魔術の発動が完了した。あと少しで、物言わぬ肉塊に変えられるところだった。


(流石に少し焦った。目を開けたら、目の前に石斧だもんな)


 だが、これで巨人に攻撃が通用する。先程までは、傷一つ与えられなかったのに、今は軽く剣を振るっただけで腕を斬り飛ばせた。


「さあ、殺し合いを始めようじゃないか、バケモノ」


 そう宣言し、混乱しているのか動こうとしない巨人の、がら空きの胴体に蹴撃を食らわせる。


「ガグェッ!」


 魔術で強化された一撃をまともに食らい、先程の統利のように呆気なく吹き飛んだ。


「凄いな、魔術で強化しただけで、ここまで身体能力が上がるのか」

『最初から使っておれば、苦戦することもなかったであろうに』


 それについては反省しているが、そもそもメフィストが魔物の種類まで教えていれば、こんなことに首を突っ込まずに済んだのだ。


『余計なことを考えている場合か? あやつはまだ生きておるぞ』


 その言葉に巨人の方を見やると、ゆっくりと起き上がっているところだった。


「折角だ、色々試してみるか」


 巨人に手を翳し、魔力を集中させる。

 想像するは熱、万物を燃やし尽くす灼熱の業火。


「詠唱略……術式:獄焔」


 巨大な炎弾が、火の粉を撒き散らしながら、高速で巨人に衝突し、盛大に爆発した。


「殺ったか?」


 爆煙が晴れると、炎弾が直撃したところは炭化しているものの、それ以外は目立つ外傷のない巨人が立っていた。


『火力が足りなかったな、あれでは怒らせただけだ』

「魔術耐性が高いのか。剣で直接殺るしかないな」


 痛みで我を忘れたのか、雄叫びをあげながらがむしゃらに突っ込んでくる。

 それに対し、統利は剣を片手で構え応戦する。


「ガァアア!」


 統利を押し潰さんと迫ってくるこぶしを避け、その左腕も切り落とした。


「グギャッ!」


 痛みで暴れる巨人から距離を取り、構えを解く。


「攻撃さえ通用すれば、大したことはないな……。さて……折角だ、俺の秘剣を見て逝くが良い」


 そう言うや否や、統利は剣に魔力を流し込んだ。強化のためではない。この剣を創る際、剣という形状以外に、唯一設定した機能を起動するためだ。


 剣に込められた魔力量が一定に達し、剣が赤黒く淡い輝きを放った。

 その光が刀身全てを包むと、その刀身が縦に幾つかの欠片に解れ、鞭状になる。


 鞭剣。それが、この種類の剣の名前だ。


(我流……秘剣・くちなわ


 統利が鞭剣を振るうと、魔力によって操られた刀身が、さながら、生きた蛇のように巨人の体に巻き付いた。

 腕の切り落とされた巨人に、その魔剣から逃れる術はない。


「……無慚と散れや――」


 統利が鞭剣の柄を引き寄せると、それに連動して刃が巨人を切り裂いた。

 否、切り裂いたなどという生易しいものではない、切り分けられた。

 それこそ、六十センチ以上の塊がないほどに。


 呆気ない、余りにも呆気ない程に、幾多の命を奪ってきた魔物は、その生を終えた。


「ふう……さて」


 雨のように降り注ぐ血を被りながら、統利は巨人にやられた少女の元に駆け寄った。


 見目麗しい少女だ。未だ成熟しきってはいないながらも、後二~三年もすれば、稀代の美女と呼ばれていたかもしれないと、そう思わせる美貌をしている。


 その、血にまみれてなお美しい容貌も既に青白く、生気を宿してはいない。


『駄目だな、完全に息絶えておる』

「そうか……」



 出来れば助けたかったが、戦闘が長引いた上に、そもそも統利が来たときには虫の息だった。結局助けることはできなかっただろう。

 それでも、もしもと思ってしまうのは、統利が甘い証拠だろうか。


「――よし!」


 少女の遺体に手を伸ばし、そのまま抱き上げる。


『主? 何をする気だ』

「何って……彼女を運ぶんだよ、近くの街まで。こんなところに放置していたら、魔物に食い荒らされるだろ」

 それを聞いたメフィストは絶句した。何を言っているのだ、こいつは。生きるために悪魔へも魂を売ったのではないのか? なのに、何故この森で余計な荷物を背負い込む。まして、その雌姓体は既に死んでおるのだぞ!


「俺の目的が生きることだからだよ。必死に生きるために戦った者を、こんな所に置いては行けない」

『……魔物に襲われたらどうする』

「その時は自分の命を優先するさ。俺だって、そこまでする程お人好しじゃないさ」

『今でも十分すぎるわ、愚か者!』


「自覚してるよ。メフィスト、案内を頼む」

『やれやれ、とんだ変わり者と契約したものだ』


 メフィストの嫌味に苦笑しながら、統利は森に入っていった。



§



「ここか」


 目の前にあるのは、石造りの頑丈そうな城壁。

 メフィストによれば、この街ガラドヘイムは地方都市らしいが、ここまで堅牢そうな城壁を持つのは、幻魔の森に接しているためだろう。


『それで、これからどうするのだ?』

「街に入る」

『死体を抱えてか?』

「何のために運んできたと思ってるんだ」

『……まあ良い、精々警備兵に捕まらぬことだ』


 何処か諦めたようなメフィストの、忠告とも皮肉とも取れるそれを無視して、統利は城門へ近付いて行った。


「おい、止まれ」


 素知らぬ顔で城門を潜ろうとした統利を、全身鎧を着込んだ屈強そうな門番が遮った。

 幻魔の森のある方角からやって来た帯剣した少年が、少女の死体を抱えたまま、城門を通ろうとしたのだから当然だが。


「君、その遺体はどうしたんだ?」

「幻魔の森で戦闘音が聞こえたので、その現場に駆けつけたら、彼女が魔物にやられてたんです」


 取り敢えず、大まかな流れのみ説明する。


「君が彼女を見つけた経緯は分かったが、何故その遺体をわざわざ街に「お姉ちゃん!」何だ?」

 門番が次の質問をしようとするのを遮って、誰かの叫ぶような声が聞こえた。


 辺りを見渡すと、街の中から一人の少女が駆け寄ってきた。


「姉?」

『主の抱えているそれの事ではないか?』

「いや、それは何となく分かるが」


 統利とメフィストがそう話している間に、少女は目の前にまでやって来ていた。


「お姉ちゃ――!?」


 統利の抱いている姉に話しかけようとして、少女は絶句して立ち尽くす。もしかすると、遠目では、既に死んでいることが分からなかったのかもしれない。

 だが、巨人の石斧によって腹部を大きく抉られたその姿は、誰が見ても死んでいることが明らかだった。


「嘘……お姉ちゃん? お姉ちゃん!」


 呆然として、我を忘れたように、少女は姉を呼び続ける。


「フィエナ!」


 街から三人の男女が、走ってくる。


「フィエナ、急に走り出して、一体どうしたんだ?」


 彼らは、フィエナと呼ばれた少女に駆け寄りながら、怪訝そうな表情でたずねた。


「本当にどうしたんだ? エレナを探しに――!?」

「おい、どうし――んなっ!?」

「え……!?」


 統利の抱えている少女を見て、三人が息を飲む。


「お、おい……まさか、死んで……?」

「い、嫌ぁあああああああああ!」


 後から来た三人の内、赤い髪の大剣を背負った男がそう呟くと、フィエナと呼ばれた少女が、泣き叫びながら崩れ落ちた。


「……君は何者だ、何故彼女の遺体を抱えている」


 もう一人の、怜悧そうな鋭い眼をした端整な顔の男が、詰問するような口調で話しかけてくる。


「それは――」


「待て、こちらも状況を把握したい、詰所で話そう」


 統利が説明しようとすると、それを門番が遮った。


「俺は構いませんが――」

「……良いだろう、ここは人目にもつく」


 それを聞いた門番は、彼らを詰所へと案内した。



「――成る程、つまり君が駆けつけたときには、既にエレナは息絶えていた。その後、君はエレナの命を奪った巨人を倒した、と」

「ええ、その通りです」


 簡単な自己紹介のあと――赤い髪の男がジーン、もう一人の男がレイル、女性はサーシャ――、一通りの説明が終わり、レイルがそのときの状況を確認する。


「マジかよ、エレナと戦っていた巨人って、あのトロールの事だろ? それを一人で殺ったってのかよ……」

「間違いないわ、彼の服に付いている血は、紛れもなくあのトロールのものよ。凄い……」


 あの巨人――トロールと言う種類らしいが、それを単独で倒したことにジーンとサーシャが驚いている。

 確かに、普通の剣であの皮膚を貫くことは無理だ。それを考えれば、この反応も理解できる。


「だが、何故君はエレナの遺体を? あの森をエレナを抱えながら突破するのは、楽ではなかった筈だ」

「理由と言われても……放って行くのが可哀想だったから、では駄目ですか」

「可哀想等と言う理由で――いや、そのお陰で私達は死体とはいえ、エレナと再会できたのだ、それは聞かないでおこう」


 重い空気が部屋を覆う。ジーンとサーシャの二人も押し黙り、フィエナは俯いて言葉を発さない。

「あ~、ちょっと良いか? トーリ・シジョウだったか、君は何処から来たんだ? 俺は昨日と今日は、一日中この北門に立っていたが、君は見ていない」


 その空気に耐えられなかったのか、門番の男が話題を変えるように質問してきた。

 まさか、本当のことを話すわけにもいかない。


「東の国から来たんですが、路中思いの外時間がかかって、旅費が底をついたんです。それで、少しでも旅費を稼ごうと。幻魔の森には、魔術や錬金術に使う、珍しい素材も多いですから」

「成る程、それなら納得できる。一度街に寄らなかったってことは、ギルドには登録してないのか?」

「ええ、元々冒険者という訳ではないので」


 メフィストが考えた台詞を、そのまま答える。門番も特に疑問に思わなかったのか、追求はしてこなかった。


「しかし、遺体一つ運んできたんだ、素材を運ぶ余裕はなかっただろう。旅費も無いということだし、これからどうするんだ?」

「どうしますかね、これからまた森に入っていくのは、正直御免被りたいですし」


 確かにそれは問題だ。そもそも、なにか計画を練ってあの森に居たわけではない。文字通り行き当たりばったりだったのだから、これからどうするかなど、考えてある筈がない。


 話が長引いたせいで、もう日も沈みかけている。今から再び幻魔の森に行くのは、ただの自殺行為だ。


「あ、あの――」


 どうしたものかと悩んでいると、今まで塞ぎ込んでいたフィエナが、遠慮がちに話しかけてきた。


「何?」

「えっと……もし宜しければ、今夜の宿をお貸ししましょうか?」

「お貸ししましょうかって……」

「厳密には、貴方の代わりに宿代をお支払するということですが」

「それは――」


 願ってもないことだ。宿代から何まで出して貰うというのは心苦しいが、一文無しの今、そんなことに拘ってもいられない。「……良いんですか?」


 統利は、レイルたち三人に向かって尋ねた。


「問題ない、私たちも君には感謝している」

「当たり前だぜ。わざわざエレナの遺体を運んできてくれたんだ、これくらいの事はしねえとな」


 サーシャもそれに頷き、同意を示す。

 反対するものが居ないのであれば、統利がその厚意に甘えるのに、委細の問題はない。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」



§



「ふう……」

 統利は、ベッドに倒れ込みながら息を吐いた。


 長い一日だった。


 通り魔に殺されたことから始まり、虚界にてメフィストと契約し、新たなる命を得て異世界に来た。

 果てには巨人との殺し合いだ。

 とても、一日に起こった出来事とは思えない。否、或いはかの虚界にて、実際に遥かな刻に身を委ねていたのかもしれない。


(ならば、元の世界に戻れなかった理由にもなる)


 何れにせよ、今さら考えたとて詮なきことだ。

 今はそんなことよりも、これからの未来に目を向けるべき時だ。


(さしあたっては――)

「メフィスト、一つ聞きたいことがある」

『よかろう、我も主に聞きたき事がある』


 その言に、統利は眼を瞑り沈黙する。


 何を考えているのだろうか。

 彼と契約したメフィストでさえ、その心中を推し量ることはできない。


 暫しの後、統利は再び眼を開けた。


「そっちから聞こう。大体予想はできるが、何が聞きたいんだ?」

『恐らく、その予想と違わぬであろう。我が聞きたいのは、主があの雌姓体をこの街まで運んだ理由だ』


 矢張それか、と統利は内心苦笑する。

 流石に、あの時メフィストに語った理由では納得してはもらえなかったか。


 そもそも、統利がメフィストであったとしても、あの様な理由、信じようともしなかったであろうから。

 だが、


「改めて聞かれても困るな。あのとき語った理由に、一片の嘘も混じってはいない」

『あの様な理由で、数多の魔物が跳梁跋扈する幻魔の森を、死体一つ抱えて踏破したというのか』


 馬鹿な、と思う。その様な理由で、自らの命を危険にさらしかねない真似を、この契約者が行うとは、到底信じられない。


「理解できないだろう? お前だけじゃない、恐らく、三千大千世界に住むあらゆる存在の中で、この行動を本当に理解できるのはほんの一握りだろう」

『……』


 例えそうだとするのならば、メフィストには何があろうとも、到底理解し得ないだろう。 恐らく、統利を理解できる者とは、彼と同じ執着を持つものだけだろうから。


「次は俺の番だ。メフィスト、契約の時お前は言ったな? 俺の命を貰うのは、俺が特定の言葉を口にしたときだと。特定の言葉とは何だ?」

『ふむ……もう少し主がこの世界に慣れてから考えようと思っていたが、よかろう』


 メフィストは、少し考えるように間を空けた。


『主は我をメフィスト名付けた。ならば、これが最も相応しかろう。我が主の魂を奪う為の言葉、其れは――』


 一拍の後、悪魔はその言葉を口にした。


『"Verweile doch! Du bist so schon."《瞬間よ止まれ、汝はいかにも美しい!》』


To be continued 

 長い…………


 というわけで、鬼柳堂で御座います。

 色々詰め込んだ結果、第二節の二倍ほどの長さになってしまいました。

 しかし、疲れた……。


 では、中身の解説を少々……。


 まず、主人公の使っていたあの剣ですが、ただ単に作者が変わった武器を出したかっただけです。いやほんとそれだけ。

 多分途中で武器変わります。


 さて、これが一番肝心なことなのですが、最後の方の統利とメフィストの会話で、契約に関することが出てきました。

 それに関して第一節を改訂しましたので、この場を通じてお知らせ致します。

 まあ、正直数文字変わっただけなので、改めて見直す必要はないかと。 要は、契約終了の条件が、統利の死から特定の言葉を口にしたら、に変わっただけなので。



 最後に今後の予定を。


 取り敢えず、次話はまた短くなるかと思います。更新は二週間ぐらい後になるかと。

 次話更新前に、簡単な用語集の様なものを入れようかと思っています。



 それでは、第四節にて皆様と又お会いできますことを――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ