3年5組は何次元?
数々の作品の中から本作品を選んでくださりありがとうございます。楽しんでご覧いただけたら幸いです。
ー中学生。それは誰かに恋をする始まりの季節ー
とは離れているだろう。俺の中学校生活は今日も安泰だ。
早朝、一番に昇降口に入り込み、誰もいない教室で日向ぼっこを楽しむ。これがいいのだ。しかも登校するときに人に会わなくていいから一石二鳥だ。
リュックをロッカーに片して、机の引き出しから一冊の本を取り出す。タイトルは「へいぼんに生きたいのに僕を巻き込む塚田さん」。人気のライトノベルだ。主人公、井上くんのド天然っぷりには俺も一目置いている。いい恋愛小説だ。
今まではそんなに小説というものが好きではなかった。文字を羅列しただけの本がどうして面白いというのだろうか。
だが、くまざわ書店に立ち寄ったとき、偶然表紙に描かれているヒロイン、塚田さんと目が合った。イラストが好みだったし、気の向くままに購入したら小説への価値観が一変。どハマりだ。塚田さんめ。書店で可愛い顔しやがって。早く井上と結ばれて幸せになりやがれください。
そんなこんなで考えているうちに、一人教室に誰か入ってきた。百田さんだ。何でこの人こんなに来るのが早いんだ。まあいいか。
「おはよー」
「ああ百田さんおはよう」
ははーん、今日はあの順番か。誰にも言ってはいないが、俺は毎日朝の教室に誰がどの順番で来るのかを予想するゲームをしている。ちなみに楽しくはない。
おそらくこのあと、村下さん、高梨さん、大井さんの順で来るな。我ながら完璧な推理(勘)だ。
ゆっくり本を読んで待つとしよう。
♦︎
「へいぼんに生きたいのに僕を巻き込む塚田さん」
「え、なに。僕ひとりで弁当食べようと…」
「なに言ってんの井上っ、それなら私と食べよ。ほ ら」
ええっと思わず声を出す井上。それを可愛いと思ってしまう塚田さん。
学校の屋上に向かいながら会話をはさむ。
「そんなに私と食べるのいやだった?」
「いや別に。好きな塚田さんと食べられるの嬉しい し…」
「えっ」
塚田さん、急にほおを赤らめてそっぽを向いた。
あれ、僕、いま変なこと言ったかな…?
考え込んでいると、塚田さんがこちらを振り向く。
「い、井上っ!私、井上のこと好きなの!」
…え?クラスでも可愛い塚田が、僕のことを…好き?
「だからっその…私と付き合ってくださいっ!」
その瞬間、さっき口にした言葉がよみがえる。ああ、もうだめだ。心に秘めていた気持ちがあふれ出す。うん、僕も塚田さんが好きだ。暗闇から引き抜いてくれる、笑顔の塚田さんが好きだ。
「ぼ、僕でよければお願いします!」
ーこうして、僕の青春が始まったー
♦︎
ああ、最高だった。俺もこんな人生送りたい。
「ゴトッ」
不意に音がしたので後ろを振り返る。やっぱり村下さんか。後ろを向いたままにするのは変だし、声をかけるか。
「おはよう」
「かっしーおはよー」
いうまでもないが、この「かっしー」というニックネームは柏木からきている。全国のみなさんにぜひ伝えたい。お近くの仲がいい柏木さんには「かっしー」と呼びましょう。きっとあなたへの好感度が上がります。
続いてやってきたのは大井さんと高梨さんだ。二人ともモコモコのマフラーをしている。今日来るとき外寒かったしな。
「あ、かっしーおはよー!」
「あ、かっしー、ぱ、ぱむもごっそよー」
高梨さんよ、なぜ韓国語で話す。俺は純日本人だ。あとなぜ二人とも語頭にあをつける。俺そんなに存在感ないのか。
「お、おはよー、今日寒いなー」
ほら、なんか変な感じに返答しちゃったじゃないか。
「ねー!わかる〜」
ナイス大井さん。感謝だ。
……というかこのクラス俺を除いて女子しかいないな。気まづ…。まあ別に演劇部に入ってたときこんな感じだったし。気にしない。気にしない。そんなことより男子たちめ。なぜお前らは遅刻ギリギリになって教室に入ってくるんだ。少しはぼっちの気持ちも考えてほしい。
そこに喜花、通称きーちゃんが入ってきた。彼とは小学校からの仲良しだ。本を閉じ、きーちゃんのところへ向かう。助かった。
「きーちゃん、おはよー」
「あ、かっしーか。おはよう」
…まさかお前も俺が見えていないのか。まあいいや。ちょうど話したいことあったし。
「あのさ、きーちゃん。俺らの班、技術でエアコン作ってるじゃん。AIモード追加する?」
「あー、いいんじゃん?ついかで」
どうやら追加でいいらしい。めんどい。家に帰ってからやろう。
途端に、聞き慣れた今川先生の声が教室に響き渡る。
「はい時間過ぎてますよー。座ってくださーい」
まずい、いつの間にか朝読書の時間だ。それに今川先生の気配をまったく感知することができなかった。
クラス内が人と荷物でごった返す。波をかきわけ、やっとの思いで椅子に座る。
…朝の会終了。
「一時間目は国語か」
軽くため息をつく。担当はクラス担任の今川先生。確かに声のトーンは生徒を眠りに誘い込む天使の声だが、授業は分かりやすいし優しい。いい先生だと思う。
「わっ!かっしー、おはよう!」
「うわっ、ああおはよう。なに」
「あぶねえ、遅刻ギリだったわー」
俺の所見では遅刻判定だが。鎌滝とは今年初めて同じクラスになった。なんといっても鎌滝は距離の縮め方が異常に早い。きっと初対面の人をすでに友達だと思っているに違いない。まあ、その分話しやすかったけど。すると急に鎌滝が問いかけてくる。
「なぁ、かっしーはティッシュに何つけて食う?俺ケ チャップ派」
澄まし顔でなに言ってんだこいつ。ティッシュに調味料もなにもないだろ。
「…どういうこと?」
「保湿ティッシュってさあ、舐めるとほんのり甘いだ ろ?」
まあ、言われてみれば。よし、なんとか話に食いつけたぞ。
「あれに何つけて食うかを聞いているんだ」
…?話してる次元が違うな。さっさと話題を変えよう。まずは適当に誤魔化して…
「えっと、ま、マヨネーズかな」
「はあ⁉︎いやいやケチャップか砂糖だろー」
否定してくんなら俺に聞くな。
「そんなことよりさ、学習委員の仕事お願いしてもい い?」
「ああ、授業で先生が書いた黒板の撮影でしょー。い いぞ」
よし、回避。
忙しい朝に少しうんざり、でも今日の「教室に誰がどの順番で来るかゲーム」は予想的中だった。楽しい一日が始まりそうだ。
ご覧いただきありがとうございます。自分で小説を書くことが初めてだったので、至らぬ点も多々あると思いますがご容赦ください笑。




