僕は過去を作る仕事をしていた
「今日で仕事納めか」
僕はそう呟いた。
紙とペンを使う仕事を長年続けていたせいか僕の指はもうペンダコだらけだ。
こんな不格好な指が僕の……僕らの誇りだった。
「お疲れ様でした」
「王様」
現れた王様に僕は丁寧にお辞儀をする。
何せ、この仕事は王族がお得意様だから。
「あなたには本当に長く仕えていただきましたね」
「そうですねぇ。本当に。千年くらいかな?」
「お戯れを」
王族と思えないほど物腰の低い王様は僕のくだらない冗談に笑う。
確かに真実を知っていればこんなに馬鹿馬鹿しい発言なんてないだろう。
僕も王様もまだ二十代の半ば程度なのに『千年も仕えた』なんて。
「けれど。それが出来たんですよね」
王様は感慨深げに呟き、僕もまた頷いた。
「そうですね。僕らにはそれが出来ました」
「素晴らしく……そして恐ろしい話です」
王様の言葉に僕は再び頷いた。
そう。
僕の仕事は『過去を残す』という仕事。
とはいえ、ただ記録をするというわけではない。
本質的に言えば『過去を作る』のが仕事なのだ。
過去を気にする者が少なかった時代。
僕の仕事をしていた者たちは過去を大袈裟に残した。
ある将軍が兵を率いて100人を殺したと聞けば、僕らは『たった一人で10000人を討ち滅ぼした』と記す。
ある賢者が画期的な発明をしたと聞けば、僕らは『神の啓示を受けた賢者が知識を王に授けた』と記す。
真実なんて当時を生きた人ならば誰もが分かることだ。
しかし、人々が過去なんて見向きもしない時代であったが故に僕らはほそぼそと、それでいて後に大きな影響を残すこの仕事を続けてこられた。
だけど、それももうおしまい。
「『過去に学ぶ』」
王様は呟いた。
自らが先日に大衆の前で口にした言葉。
未来の『壁』を知ったからこそ出てきた言葉。
そしてその『壁』を誰もが察したからこそ受け入れられた言葉。
「過去に学べることなんてあると思いますか?」
王様の問いに僕は答える。
「嘘っぱちだらけですからね。過去は。何も学べはしないと思います。ですが……」
躊躇う僕に王様は先を促したので、素直な気持ちを告げる。
「荒唐無稽な話を聞けば停滞は解消されるかもしれません」
「そうであることを願います」
人々が未来ばかりを見て過去を一顧だにしなかった時代は終わる。
前ばかり向いて歩くことが良いことなのか。
あるいは悪いことなのか。
答えはきっとこれからの人間が出していくだろう。




